エルフ子育て記録 ~勇者と魔王の親権争いに巻き込まれたフリーター~   作:龍翠

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 風呂から出て少し待つと、アイリスとケイオスが訪ねてきた。二人揃って、手にはコンビニのレジ袋が握られている。何を買ってきたのかと聞いてみると、ケイオスは酒、アイリスはつまみ含む菓子類とのことだった。

 

「花火とやらは酒を飲みながら見るものだと、テレビで見たのでな」

「否定はしないが極端すぎるよ。あとメルの前で飲み過ぎるなよ」

「む……。そうだな……」

 

 ケイオスは残念そうにしていたが、メルに見られていることに気が付くと小さくため息をついてレジ袋をテーブルの上に置いた。酒は出さずに、一緒に買ってきたのだろうジュースを取り出す。それを見たメルが顔を輝かせた。

 

「ジュース!」

「うむ。オレンジとりんご、さらにはグレープを用意した。花火を見ながら飲むといい」

「わあ! ありがとうケイオスさん!」

「うむ」

 

 鷹揚に頷くケイオス。威厳を出そうとしているのかもしれないが、緩みきった頬が全てを台無しにしている。修司はアイリスと目を合わせると、お互いに頷き合った。触れないでおいてやろう。

 

「私からは、お菓子。メルも食べられるもの」

「お菓子! あ、でも……」

 

 メルの顔が輝くが、それも一瞬のことですぐに曇ってしまった。おそるおそると修司を見る。

 この視線の意味は分かる。修司も朝にプリンなどを買い与えているが、夕食前後のお菓子は許していない。これはあの施設でのルールでもあるためだ。菓子を食べるならご飯を食べろ、ということである。

 ただ、せっかくの花火だ。そこまで厳しいことを言うつもりは修司にもない。

 

「今日だけだぞ?」

 

 修司がそう言うと、今度こそメルは顔を輝かせて何度も頷いた。

 

 

 

 このホテルにはそれぞれの部屋にベランダがある。ベランダといっても広いものではなく、一般的なマンションにあるようなこぢんまりとしたものだ。ただやはりベランダで飲食をしたいという人は多いのか、ベランダ用に小さい折りたたみのテーブルと椅子を持ってきてもらうことができるようになっている。もちろん有料だが、かといってそれほど高いというわけでもない。

 備え付けの電話で依頼したところ、十分程度で持ってきてもらうことができた。テーブル一つと椅子四つだ。

 

「花火が終わったら回収をお願いします」

「畏まりました」

 

 丁寧に頭を下げて帰っていくホテルの従業員を見送ってから、四人はベランダに出た。まだまだ暑いが、夜風は心地良い。

 アイリスが早速ジュースの封を開ける。紙コップを三つ取り出して修司とメル、自分の前へ。ケイオスはと言えば、ワンカップの日本酒を開けていた。

 

「おとうさんはお酒飲まないの?」

「あー……。ジュースでいいさ」

 

 そっかー、とほんわか笑うメルを撫でる。本音を言えば、お酒を飲んだ後に、メルから酒臭いと拒絶されたくないだけだ。立ち直れない自信がある。

 飲み物の次は菓子とつまみだ。ポテトチップスやチョコレート、するめなどが広げられた。

 

「メル、どうぞ」

「いいの? 本当に食べていいの?」

「ん。……いいよね?」

 

 アイリスが確認してきたので、修司は頷いておく。ここまでしておいて駄目だとは言えない。

 修司が頷いたのを確認すると、メルは顔を輝かせてチョコレートに手を伸ばした。あとでしっかり歯磨きをさせなければ。

 

「ふむ。やはりこの日本酒というのは美味いな。是非とも作り方を知りたいのだが……」

「自分で調べてくれ。最低限の作り方ならすぐに分かる。美味しいものってなると、難しいだろうけど」

「ふむ……。要研究、だな。戻ってからの仕事が増えたぞ」

 

 魔族の国家事業にでもするつもりなのか。少し呆れそうになるが、修司が口を出すべきことではないだろう。それにもしかすると、将来的に魔族の国の特産品になるかもしれない。

 そうしている間に、唐突に夜空が明るくなった。

 

「お、始まったか」

「わあ!」

 

 修司が言って、メルが歓声を上げる。次々に花火が打ち上がり、夜空を彩っていく。

 

「すごい。火であんなものを作るなんて」

「うむ。これはなかなか、素晴らしいな。……火薬の無駄だと思ってしまうが」

「人を傷つける武器とかに使うよりはましだと思うけどな」

 

 魔王の呟きに修司がそう言うと、魔王は目を瞬かせ、やがて薄く笑った。それはそうだ、と。

 

「ん……。私はこれの作り方を知りたい。あっちでもやってみたい。子供が喜びそう」

「火薬を使わせてくれるかが分からないがな」

「魔王、うるさい。使えないなら魔法で代用する」

「花火の魔法か……。それはそれで、おもしろそうだな」

 

 メルたちの世界の魔法がどんなものか、修司は未だに知らない。ただ、知っている魔法が城を吹き飛ばす攻撃魔法だったり読心の魔法だったりと、あまり穏やかではない。だから危険なものばかりだという先入観があったのだが、花火の魔法なんてものが作れるなら、魔法は意外と夢のあるものなのかもしれない。

 

「んー……」

 

 ふとメルを見ると、メルはじっと花火を見つめていた。じっと、真剣な面持ちで。

 

「メル? どうした?」

 

 修司がそう聞いても、メルから反応がない。アイリスとケイオスも怪訝そうにし始めたところで、

 

「できた!」

 

 メルが嬉しそうな声を上げた。そして手を空に突き出して、

 

「はなび!」

 

 ぽん、と軽い音と共に小さな光の玉がメルの手から飛び出した。光の玉はぐんぐん空へと飛んでいき、そして爆発、綺麗な光が飛び散った。見た目は花火だ。

 

「え……。あー………。アイリス。花火の魔法が作られたぞ」

「ん……。下が、ちょっと騒ぎになってる」

「あ、やっぱり?」

 

 ここからは見えないが、想像できる光景だ。見物客はそうでもないだろうが、主催者側は予定のない花火に驚いていることだろう。どこからのものか調べようとするかもしれない。不意打ちの一発なので、ここだと発覚することはないとは思うが。

 

「メル。勝手に花火の魔法は使ったらだめだぞ」

「あ……。だめ、だった……?」

 

 叱られたと思ったのか、メルが悲しげに言う。しょんぼりとしているメルは、これかこれでかわいいと思ってしまうのだが、とりあえず誤解は解いておいた方がいいだろう。

 

「いや、不意打ちで驚いただけだよ。頑張って作ったから見せてくれたんだよな」

「うん……」

「じゃあ怒るようなことはしないさ。うん。すごいぞ、メル」

 

 人に向けて打ったのなら怒らないといけないが、メルはちゃんと空に向けていた。あとは、勝手に使わせなければ問題ないはずだ。怒るとすれば、その時だ。

 

「今日はこれ以上目立つのはまずいからだめだけど、また今度見せてくれ」

「うん!」

 

 メルはほっと安堵の吐息を漏らして、笑顔で頷いた。やはり笑顔が一番だ。

 

「メル。さっきの魔法、あとで教えて?」

「俺も頼む」

 

 あと異世界組に花火の魔法が人気だ。ケイオスまで食いついている。メルは不思議そうにしていたが、快く承諾していた。ちょっとだけ自慢気なのは気のせいではないだろう。

 修司は楽しそうに教え始めるメルを見守りながら、薄く笑ってジュースを飲んだ。

 

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