エルフ子育て記録 ~勇者と魔王の親権争いに巻き込まれたフリーター~   作:龍翠

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56 いじめ?

 

   ・・・・・

 

 一学期が終わって、夏休みも終わって、二学期になりました。一年生の子供たちも、そろそろ学校に慣れてくる頃です。

 慣れてきて何が起こるのか。それは学校やクラスによって様々でしょう。大きな仲良しグループができるかもしれません。学校になじめなくて来なくなる子が出てくるかもしれません。

 そして、いじめが起きることもあるかもしれません。

 

「あのさ」

 

 朝の朝礼前にメルに話しかけてきたのは、わんぱくそうな男の子でした。クラスメイトの男の子です。話すのは初めてだなあ、と思いながら、笑顔で男の子に言います。

 

「なあに?」

「なんでおまえ、髪の毛そめてるの?」

 

 最初、意味が分かりませんでした。当然ながらメルは髪を染めたりなんてしていません。ただ、確かにクラスメイト全員が黒髪なのに、メルだけが金色です。それで勘違いしたのでしょう。

 

「そめてないよ? 私のこれは、もともとだよ」

「うそだ。おれのお母さんが言ってたぞ。きんぱつは不良なんだって」

 

 不良。確か、みんなに意地悪をする良くない人たちのことです。つまりこの子は、メルのことを不良だと言いたいのでしょう。

 

「違うよ。私、悪いことなんてしてない」

「でもきんぱつじゃんか! それに、なんか耳が変だし!」

「う……。わ、私だってみんなと同じ耳が良かったよ……」

 

 尖った耳はエルフ特有のものです。この世界にはエルフはいないようなのでメルの特徴と見られていますが、異世界の人ならメルがエルフだとすぐに分かります。

 メルとしても、この耳は嫌いです。メルにとってエルフはそれだけで嫌悪の対象になり得るものなのです。

 

「変な耳! きんぱつ! やっぱり不良だ!」

「むう……」

 

 どう言えばいいのでしょう。メルは不良なんかじゃないのに。

 周りの子はみんなが固唾を呑んで見守っています。見守るだけです。でも、薄情だなんて思いません。やっぱりちょっと怖いと思うでしょうから。

 

「不良!」

「違うよ」

 

 そんな不毛な言い争いは、先生が来るまで続きました。

 

   ・・・・・

 

「そんなことがあったの」

「よし分かったそのガキぶっ飛ばすどこのガキだ」

「落ち着け」

 

 夜。夕食後にメルからそんな話を聞かされて、修司は勢いよく立ち上がった。その直後に院長に押さえつけられてしまったが。

 

「メル。それで、どうしてほしいんだ?」

 

 明らかに不機嫌になった修司に代わり、院長が聞く。メルは首を傾げて、

 

「別に何もないよ。こんなことがあったよって、それだけだよ」

「ふむ。修司、メルの方がお前よりよっぽど大人だぞ」

「さすが俺の娘。すごい。撫でてあげよう」

「わーい」

 

 とことこ走り寄ってきたメルを抱き寄せて撫でまくる。嫌がりそうなものなのに、メルはご満悦だ。この様子を見ると、本当に学校での出来事は特に何か思うようなことではないらしい。辛くないのかと聞けば、

 

「悪口だよ? 無理矢理何かやらされたとかでもないし、平気だよ」

 

 エルフの方がよっぽどひどいから、というメルの言葉に、なるほどと修司は頷いた。

 

「やっぱりエルフは滅ぶべきだな」

「うむ。それには同意しよう」

 

 ただエルフが真っ当ならメルはこの世界には来ていない。メルの不幸を願うわけではないが、メルと出会えたことだけは感謝してやってもいい。ほんの少し、毛先の先程度には。

 

「話を戻そう。それじゃあメルは、俺に何かしてほしいってわけではないんだね?」

「うん。がんばっておはなしする!」

「そっか。うん。がんばれ、メル」

「がんばる!」

 

 ふんす、と鼻息荒く宣言するメルに、修司の頬が緩む。もう一度撫でると、へにゃりとまたメルの頬が緩む。

 

「でもメル、何かあったら遠慮なく言うんだぞ? 我慢しなくていいからな?」

「うん! 分かった!」

 

 元気よく返事をするメル。親としては少々心配ではあるが、一先ずメルを信じて任せてみよう。

 丸く収まればいいのに、と心の中で思いながら、にこにこ機嫌良く笑うメルを撫で続けた。

 

 

 

 いじめに近しいことが起きている。ならばそんな簡単に解決なんてしないだろう。長い付き合いになるかもしれない。そう思っていたのだが、その予想は良い意味で裏切られた。

 メルから話を聞いた翌日の晩。施設に一組の親子が訪ねてきた。強面の中年の男と、恰幅の良い女だ。一緒にいる男の子はとても居心地悪そうにしている。

 

「夜分遅くすみません、斉藤という者ですが、メルちゃんの保護者の方はいらっしゃいますか?」

「俺がそうですけど……。どちら様で?」

 

 修司には面識がない家族だ。もしかして、誰かを引き取りに来たのだろうか。そう思ったところで、いや、と思い直した。なんとなく、女の方には見覚えが、あるような、ないような。

 本来の家のくせで通話せずにそのまま出てきてしまったが、もともとこちらに用があるのなら問題ないだろう。ただ、直接見ても、やはり誰か分からないのだが。

 

「ああ、あなたが! このたびは本当に申し訳なく……」

「いやいや、ちょっと待ってもらえます? どちら様?」

 

 初対面でいきなり謝られるようなことをしている覚えはない。一体これはなんなのかと困惑していると、

 

「おとうさん、どうしたの? ……あ」

 

 ひょっこり顔を出したメルが一瞬だけ固まった。そのまま修司の後ろに隠れてしまう。どうしたのかと聞けば、

 

「あの子がそう」

 

 その短い答えで、誰なのか理解できた。

 

「へえ……?」

 

 なるほどなるほど。お前がそうか。

 男の子を見据えると、男の子はびくりと体を震わせた。おそらく父親だろう男の後ろに隠れようとするが、

 

「馬鹿野郎! お前も頭を下げるんだよ!」

 

 そんなことは許さずに無理矢理頭を押さえつけた。その勢いに修司の方が面食らってしまう。

 ただ、今の流れで理解はできた。どうやらこの両親は、謝罪をしに来たらしい。

 

「あー……。とりあえず、ちょっと待ってくれ」

 

 幸い夕食は終わっている。修司は食堂をかりるために、院長に話をしに行った。

 

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