エルフ子育て記録 ~勇者と魔王の親権争いに巻き込まれたフリーター~   作:龍翠

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64 運動会(お弁当)

 メルはまじまじと、外国人と書かれた紙を見つめている。ちなみにひらがなである。そして、側の教師に何かを聞き始めた。おそらく聞いているのは、外国人の基準。

 そしてメルは、叫んだ。

 

「アイリスおねえちゃん!」

 

 同時に、ひょっこりと、アイリスが保護者の席から顔を出した。

 

「ん。メル。どうしたの?」

 

 白々しい、と思ってしまった修司は悪くないと思う。メルもわずかに苦笑いしているので、同じことを思っているかもしれない。

 メルはとことことアイリスへと駆け寄ると、その手を取ってゴールへと走り始めた。

 

「目立ってる目立ってる……。目立ちすぎてる……」

 

 思わず修司は頭を抱えてしまう。周囲の視線は二人に釘付けだ。

 金髪幼女と銀髪少女の外国人。目立たないわけがない。

 二人をスマホなどで撮影する人も見かけるが、修司にはどうすることもできない。せめて、何事もなければいいのだが。

 そんな修司の心配をよそに、メルは無事に一位でゴールした。嬉しそうに飛び跳ねて手を振ってくるメルに、修司は手を振り返す。かわいいから、いいか。心配は今日のところは置いておくことにした。

 

 

 

 障害物競走の後にいくつか競技を挟み、昼食の時間になった。メルとの二人三脚は昼食後すぐになる。

 修司は学校の屋上へと下ろされ、アイリスはメルを迎えに行ってしまった。屋上には修司一人が残されている。アイリスが残していった荷物を広げて弁当の準備をしている間に、アイリスがメルを連れて戻ってきた。

 

「おとうさん!」

 

 メルが駆け寄ってくる。走ってきたメルを抱き留めて、その頭を撫でてやる。

 

「一位おめでとう。がんばったな」

「うん!」

 

 ぐりぐりと頭をこすりつけてくる。よしよしと撫で続けて、落ち着いたところで敷いておいたシートに座る。あぐらをかいて座った修司の足の上に、メルも座った。

 

「え? そこ?」

「うん! ……あ、だめ、だった?」

 

 最初は元気よく、けれど最後はしょんぼりと眉尻を下げたメルに、修司は慌てたように言う。

 

「まさか! いいに決まってるじゃないか」

「わーい!」

 

 再び花が咲いたような笑顔になり、抱きついてくる。よしよし、と撫でてやる。撫でてばかりだが、メルが喜ぶからそれでいい。

 メルは気持ち良さそうに目を細めていたが、やがて満足したのか修司の足の上で座り直した。

 

「ん。いい?」

「ああ。待たせた」

 

 アイリスは一度も口を開かずに親子のスキンシップを待っていてくれた。少しだけ申し訳なく思いつつ、アイリスが広げていく弁当を見る。

 アイリスが持ってきた弁当は、三段重だ。それぞれに用意するのではなく、全員で食べられるようにしたらしい。そっちの方が楽しいよ、と誠が言っていたとのことだ。

 一つの段にはおにぎりが詰まっていた。綺麗な三角おにぎりだ。中具は鮭と梅という定番のもの。そして何も入れていない、海苔すら巻いていないものもある。ただの塩おにぎりだそうだ。

 

「シュウはこっちの方が好きだと聞いたから」

「ああ。合ってるよ」

 

 修司は単純な塩おにぎりが一番好きだったりする。あのシンプルさが良い。コンビニで買っても、そうそう外れがない。もっとも、コンビニの塩おにぎりは塩が少ないことも多いのだが、食べられないほどではない。

 もう一つの段は、おかずがたっぷりと入っていた。ハンバーグや海老フライ、焼きそば、グラタンなど、これでもかというほど入れられている。そして、全てがメルの好物だ。

 

「わあ! わあ!」

 

 メルのテンションがうなぎ登り。目をきらきら輝かせてお弁当に見入っている。かわいい。

 最後の一つはデザートだ。様々な果物で満たされている。みかんなどまだ季節ではない果物もあるのは、わざわざ高めのそれを買ってきたのだろうか。

 

「これはすごいな……。うん。すごい」

 

 心の底から称賛を口にする。初めての弁当作りでこれとは恐れ入る。誠が手伝ったというのももちろんあるだろうが、それでもすごいものもはすごい。

 

「ん……。誠が手伝ってくれたから」

「それでも、だよ。本当に美味しそうだ」

「ん……」

 

 アイリスが照れているのか目を逸らした。よくよく見ると、ほんの少しだけ顔が赤くなっているような気がする。

 

「もう食べていい?」

 

 メルの声で修司は我に返った。慌てて箸を持たせてやる。いいぞ、と許可を出せば、メルは早速とばかりにハンバーグを食べ始めた。

 

「美味しい!」

「ん……。良かった。あ、小皿、使う?」

「使う!」

 

 アイリスが差し出した紙の小皿を受け取り、メルはさらに食べ進める。本当に美味しそうに食べるものだから、見ている修司もお腹が減ってきた。

 

「アイリス。俺も小皿をもらえるか?」

「ん。どうぞ」

 

 差し出された小皿を受け取り、修司は塩おにぎりを取る。一口食べて、

 

「うん。いい塩加減だ。美味しい」

 

 修司がそう言うと、アイリスはほんのりと顔を染めて、小さく頷いていた。

 

 後から聞いた話だが、塩おにぎりは全てアイリスが握ったものだったらしい。それを聞いた修司も、少しだけ恥ずかしくなってしまった。

 

 

 

 お弁当の後に少し休憩して。そうしてから運動場へと向かう。すでに次の競技のために人が集まっているらしかった。

 多くの子供たちはもちろん、それぞれの保護者の姿もある。皆、二人三脚に出るのだろう。笑顔の親子もいれば、子供の緊張を解きほぐそうとしている親もいる。

 メルはと言えば、修司の手を握って、見て分かるほどにわくわくしている。修司に見られていることに気付いたのか、メルがこちらへと顔を向けて、

 

「がんばろうね!」

 

 満面の笑顔で言った。

 この学校ではどの競技も、基本的には一年生から始めることになる。なので修司とメルの出番はすぐだ。教師から渡された手ぬぐいをしっかりと足に結びつける。

 

「痛くないか?」

「だいじょうぶ!」

「よし……。いいぞ。ところで、アイリスは今もあそこか?」

 

 後半を小声で聞くと、メルが苦笑いを浮かべる。どうやら彼女は今も、この上空で見ているらしい。少し気恥ずかしいものがある。メルはよくこの状態でやっていたものだ。

 

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