エルフ子育て記録 ~勇者と魔王の親権争いに巻き込まれたフリーター~   作:龍翠

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66 メル(職場見学)

 

   ・・・・・

 

 運動会から一週間ほど後の水曜日。メルは早起きをしました。朝の四時に目を開けて、もぞもぞとベッドから抜け出します。昨日は早起きするためにいつもより早い時間に寝たのですが、それでもなんだか少し眠たく感じます。

 小さく欠伸をして、着替えます。学校の準備が終わっていることを確認して、そっと部屋を出ました。まだ寝ている子がほとんどなので、静かに移動します。

 一階に下りると、食堂には明かりがついていました。誰がいるかは、知っています。そちらへと向かうと、アイリスおねえちゃんが缶コーヒーを飲んでいました。すぐにメルに気が付いて、こちらへと顔を向けてくれます。

 

「おはよう、メル」

「おはよう、おねえちゃん」

 

 おねえちゃんの反対側に座ると、おねえちゃんが隣の席に置いていたコンビニのレジ袋からおにぎりを取り出しました。鮭と梅です。

 

「朝ご飯」

「うん。ありがとう」

 

 受け取って、包装をはがして口に入れます。職員さんが作るものと比べると、正直に言うとちょっと微妙だと思ってしまいますが、それでも美味しいです。ぱりぱりとした海苔の食感を楽しみます。

 もぐもぐと食べながらおねえちゃんが飲んでいるものを見て、メルは聞きました。

 

「おねえちゃん、それ、美味しいの?」

 

 おねえちゃんが飲んでいるのは黒い缶コーヒーです。おとうさん曰く、ブラックコーヒーというもので、おとうさんからはまだ早いと飲ませてもらえませんでした。ちょっとだけ興味があります。

 

「ん。苦い」

「え? 苦いの?」

「ん……。一口だけ、飲む?」

 

 そう言って、差し出してくれます。好奇心に負けて、メルはそれを受け取って一口飲みました。

 

「…………。なにこれ」

 

 思わず顔をしかめたメルに、おねえちゃんは肩をすくめます。コーヒーを返すと、おねえちゃんはまたそれを飲みました。

 

「どうだった?」

「すごく苦い……。美味しくないよ」

「ん。まあ、苦手な人は多い。でもこれはこれで、悪くない」

「そうなの……? 大人になれば分かるかなあ?」

「どうだろう? 分かるかもしれない」

 

 それなら、大人になる楽しみが増えたと思っておきましょう。

 ちなみに、おねえちゃんはこのブラックコーヒーをよく飲みますが、ケイオスさんはカフェオレをよく飲みます。それを見ているおとうさんはいつも言います。お前ら逆だろう、と。メルにはよく分かりません。ただ、メルもカフェオレなら好きです。甘くて美味しいですから。

 

「五時になったら起こすから、もう少し寝る?」

 

 メルがおにぎりを食べ終わったのを見計らって、おねえちゃんがそう言いました。メルは小さく首を振ります。

 

「だいじょうぶ」

「ん。分かった」

 

 おにぎりを食べ終えてから、手を洗って歯を磨きます。その後はまた食堂に戻って、のんびりします。五時になったら出かける予定なのです。

 五時前、朝食を作ってくれる職員さんが起床してきます。メルとおねえちゃんを見て少し驚いていましたが、すぐに二人の予定を思い出したのか笑って挨拶をしてくれます。その後に、気をつけてね、と。メルが元気よく頷くと、職員さんは優しい笑顔で撫でてくれました。

 五時になったところで、出発です。おねえちゃんと一緒に施設を出て、歩き始めます。

 目的地は、おとうさんが働くコンビニです。

 

 

 

 昨日のお昼過ぎ。メルはいつものように喫茶店で、誠さんが働く姿を眺めていました。それを見ていると、ふと、思ったことを言いました。

 おとうさんのお仕事を見てみたい、と。

 そんなメルの、ちょっとしたお願いは、あっという間に叶えられることになりました。

 

 誠さんがそれはいい、と頷いて、どこかに電話をかけ始めました。アイリスおねえちゃんも賛成してくれて、是非見に行こうと言ってくれて。その後すぐに誠さんに施設に帰るように言われて、不思議に思いながらも帰ったところ、院長先生が待っていました。

 

 院長先生はプリントをメルへと渡してきました。受け取ったそのプリントには、明日の学校までの予定が書き込まれています。よくよく見ると、就寝時間や起床時間がいつもより早いものになっていました。どうやら院長先生も賛成してくれるようです。

 その場での会話で、アイリスおねえちゃんが早朝の送迎もしてくれることになって。そうして、まだ薄暗い町の中を歩くことになっています。

 

 

 

 のんびりと歩いていましたが、おとうさんが働くコンビニには五時半にたどり着きました。駐車場を男の人が掃除していますが、おとうさんではありません。

 掃除をしている男の人が、メルたちに気が付きました。メルとおねえちゃんを見て、口をあんぐりと開けています。なんだか不思議な反応です。とりあえず側を通るので、挨拶をすることにしました。

 

「おはようございます!」

 

 元気よく、笑顔で挨拶をします。男の人はしばらく唖然としていましたが、メルが首を傾げると我に返ったようにはっとして、

 

「いらっしゃいませ、おはようございます!」

 

 そう返事をしてくれました。

 

「メル。行くよ」

「あ、うん」

 

 おねえちゃんに促されて、お店へと向かいます。男の人に手を振ると、あちらも振り返してくれました。いい人です。

 お店に入ると、

 

「いらっしゃいませ!」

 

 おとうさんの声が聞こえてきました。お店を見回して、レジを見て。すぐにおとうさんが見つかりました。

 

「おとうさーん!」

「へ? ……メル!?」

 

 あんぐりとおとうさんが口を半開きにしています。びっくりさせることには成功したようです。

 

「な、なんで?」

「ん。メルが、見に行きたいって。だから来た」

 

 おねえちゃんが簡単に説明してくれます。おとうさんは何度か目を瞬かせて、小さく苦笑しました。

 

「なるほど……。昨日は早くに寝たから、どうしてかなとは思ってたんだけど……。まさか来るとは思わなかった」

「えへへー。びっくりした?」

「ああ。びっくりした」

 

 おとうさんがメルを撫でてくれます。嬉しくなってメルが笑っていると、外を掃除していた男の人が戻ってきたようでした。おとうさんを見て、メルを見て、そして怪訝そうに眉をひそめました。

 

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