エルフ子育て記録 ~勇者と魔王の親権争いに巻き込まれたフリーター~   作:龍翠

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「父上殿。何をした?」

 

 数日後。魔王と会って最初に言われた言葉だ。

 再びの日曜日。今日は出かける予定もないので、メルと一緒に公園に来ている。メルは膝の上で、肉まんを頬張っていた。そんな時に、魔王がやってきて話しかけてきたのだ。

 メルは魔王を一瞥しただけで、肉まんに戻ってしまった。もふもふ美味しそうに食べているのを見ているだけで、こちらも笑顔になってしまう。

 

「父上殿」

 

 魔王の声に、修司は小さくため息をついた。

 

「何をしたも何も、何があったのかすら俺には分からないよ」

「む……。本当に何も知らないのか?」

「知らないな」

 

 ケイオスはしばらくこちらを見つめていたが、次にメルへと視線を移した。メルも見られていることは分かっているだろうが、顔を上げることすらしない。その態度に、ケイオスはわずかに眉をひそめた。

 

「ふむ……」

 

 ケイオスは何かを考えているようだったが、やがて小さくかぶりを振った。どうやら諦めたらしい。修司の隣に座ると、疲れたようなため息をついた。

 

「解決したのか?」

 

 修司が聞くと、ケイオスは目を彷徨わせ、

 

「解決した、と言えるかどうか……」

「ん?」

「まあ、何だ。問題になっていた者たちが忽然と姿を消した。それが分かった直後に、全世界に誰も知らない声が聞こえてきた。曰く、愛し子については信頼できる人が保護しているから余計なことをするな、という内容だ」

「けふっ」

 

 メルがむせた。ケイオスと共に視線を下げてメルを見る。メルはこちらと視線を合わせない。間違い無く何かを知っているようだが、この様子だと何を聞いても答えてくれないだろう。

 

「まったく……。心配しなくても、何も聞かないよ」

 

 修司がそう言いながら撫でてやると、メルは顔を上げて申し訳なさそうな笑みを浮かべた。

 

「ふむ……。礼は言っておこう」

「何もしてないよー」

「それでも、だ。ありがとう、メル。感謝する」

 

 メルが驚いたように目を瞠る。どうしたのかと思ったが、そう言えばケイオスがメルを名前で呼ぶのは初めてかもしれない。それで驚いたのだろう。驚いていたメルもすぐに笑顔になり、何も答えない代わりにしっかりと頷いた。

 

「それじゃあ、元通りか?」

 

 修司が聞いて、ケイオスはしかし首を振った。

 

「いや。俺も勇者も、説明を求められるはずだ。しばらくはこの世界を離れることになるだろう」

「あー……。まあ、そうなるか。この世界にいるのは二人だけだからな……」

 

 突然聞こえてきた声、というのが誰の声なのか、誰もが察しがついているだろう。それでも、事実を確認しなければならないというのは理解できる。

 

「そのまま戻ってこない可能性は?」

 

 神の声が直接余計なことをするなと言ったのなら、異世界の人間は本当に何もしてこなくなるのではないか。そうなると、アイリスもケイオスも、この世界に滞在する必要はない。今でこそ忘れそうになるが、元々この二人はメルを自分の国で保護するのが目的だ。

 しかしその修司の懸念を、魔王は苦笑しながら否定した。

 

「いや。それはないだろう。余計なこと、というのがあまりにも抽象的だからな。勇者がこの世界にいる限り俺も来ることになる。そしてそれは、やつも同じだろう」

 

 つまりは、お互いがお互いを牽制するためにこの世界に来ることになる、ということだろうか。何とも妙な関係性になっているものだ。もしかすると神様とやらはそれを知った上で、曖昧な表現にしたのかもしれない。

 

「さて、そろそろ俺は行く。また近いうちに挨拶に来よう」

「ああ」

 

 ケイオスは軽く手を上げて、踵を返した。そんなケイオスへと、メルが言った。

 

「またね、ケイオスさん」

「む……。ああ、また」

 

 ケイオスは一瞬戸惑いながらも、振り返ってメルへと頷いていた。

 

 

 

 公園で遊んだ後は、昼食のためにある場所に向かった。たまにはいいかな、と訪れた店は、いわゆるメイド喫茶だ。勇者がメイドをするという一風変わったお店である。もっとも、それを知るのは極わずかだが。

 扉を開けて、中に入る。すると、

 

「いらっしゃいませ、ごしゅじ……」

 

 最も近くにいたアイリスが、修司の顔を見て固まった。その視線が、メルを、そしてその背後を見る。おそらくはケイオスの姿を探しているのだろう。それら一連の流れを一秒にも満たない間で済ませて、改めて修司へと言った。

 

「いらっしゃいませ、ご主人様」

「ああ、うん……。ケイオスはいないから安心してくれ」

「ん」

 

 アイリスは頷くと、修司たちを店の一番奥のテーブル席に案内した。

 

「注文は、待った方がいい?」

「いや、今言うよ。まあいつものだけど」

「ん……。オムライス、だね。分かった。メルは?」

「おなじ!」

「ん」

 

 アイリスは頷くと、すぐにその場から離れていった。こうして見ていると、随分と手慣れたものだと思ってしまう。客からの挨拶にもしっかり応じている。ただし表情はやはりない。それが逆にこの店での個性として受け入れられているようだが。

 

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