エルフ子育て記録 ~勇者と魔王の親権争いに巻き込まれたフリーター~   作:龍翠

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75 メル(帰還)

 

   ・・・・・

 

 もぞもぞもぞり。ベッドから起き上がって、メルは小さく欠伸をしました。すぐに体を震わせます。なんだか寒くなってきました。常に温暖な気候のエルフの里にいたメルにとっては、寒いのは少し苦手です。まだまだもっと寒くなると聞いた時は初めてこの世界が嫌いになるかと思いました。

 

 あったかい服に着替えるまでの間、メルは魔法を使います。ぬくぬくになる魔法です。この世界の生活に馴染むためにも魔法を使うのは避けていたのですが、そんなこと言っていると風邪をひきます。おとうさんも、それぐらいの魔法ならいいと言ってくれました。

 ぽかぽかしてきたので、ふうとため息をつきます。手早く着替えてしまいましょう。

 そう思っていたのですが。

 

「もうちょっと……」

 

 メルは隣に置いているイルカのぬいぐるみに抱きつきました。ふわふわなイルカは抱き心地も抜群です。最近はいつもこの子を抱いて寝ています。

 微睡みに襲われそうになったところで、メルは勢いよく体を起こしました。だめだめ、おとうさんに怒られる、と。

 ベッドから出て、着替えていきます。最近はセーターを着るようになりました。もう少し寒くなったら、奏さんがジャンパーを買ってくれるそうです。

 

 ちなみにメルの服は奏さんが選んで買ってくれています。おとうさんはさすがに悪いからと断ろうとしていたようですが、奏さんの方から、むしろ買わせてくださいお願いしますと言ってきたようです。交換条件は、時折その服を着て喫茶店に行くこと。よく意味が分かりません。

 そのためメルは服には困りません。エルフの里では同じ服をずっと着ていたのでとても新鮮です。

 着替えてからイルカに抱きついていると、おとうさんが帰ってきました。

 

「おとうさーん!」

「おう。ただいま」

 

 おとうさんがぎゅっと抱きしめてくれます。メルの顔も自然と笑顔になるというものです。

 おとうさんが買ってくれたみかんのゼリーを食べ終えてから、いつもの一日が始まりました。

 

 

 

 学校が終わって帰ってきて。玄関で待っていると、お迎えが来ました。アイリスおねえちゃんは異世界での用事のためにいないので、その間は。

 

「たっだいまー!」

 

 奏おねえちゃんです。奏おねえちゃんはこの施設で育ったということで、入ってくる時はただいまと言っています。

 

「おかえり、奏。それじゃあ頼むぞ」

 

 そう言ったのは、メルと一緒に待っていてくれた院長先生です。

 

「ちゃんと送り迎えするから安心してね! メルちゃんはやっぱりかわいいとりあえずぎゅー!」

「むぎゅう」

 

 奏おねえちゃんはいつもメルを抱きしめます。嫌ではないのですが、いつも突然なのでびっくりするのです。

 院長先生がため息をつきながら言いました。

 

「そんなに子供が好きなら早く結婚しろよ」

「そのうちに、ね」

 

 屈託なく笑う奏おねえちゃんに手を引かれて、メルは喫茶店へと出発しました。

 

 

 

「アイリスたちはまだ戻ってこないの?」

 

 喫茶店へと向かいながら、奏おねえちゃんが言いました。メルは頷いて、

 

「うん。でももう帰ってくると思うよ。神様が、今儀式中って言ってたから」

「そうなんだ。便利ね……」

 

 少しだけ羨ましそうな奏おねえちゃんに、メルはちょっとだけ返答に困ります。

 便利と言えば便利ですが、これのせいで色々大変だったと考えると、内心では複雑です。その気持ちを察してくれたのか、奏おねえちゃんは少しだけ眉尻を下げました。

 

「ごめんね、無遠慮だったね。忘れて」

「だいじょうぶ!」

 

 そう。大丈夫です。だってメルは、今はとても幸せなのですから。良い子だね、と撫でてくれたので、メルはにっこり笑いました。

 

 

 

 そうして喫茶店にたどり着いたメルを待っていたのは、

 

「ん。おかえり、メル」

「おねえちゃん!」

 

 アイリスおねえちゃんとケイオスさんでした。二人ともハンバーガーを食べています。特に、ケイオスさんの目の前にはハンバーガーが十個以上も積まれていて、そちらがとても気になってしまいます。

 ケイオスさんは一心不乱にハンバーガーを食べているので、メルはおねえちゃんに駆け寄りました。おねえちゃんも温かく迎えてくれます。

 

「もうあっちは落ち着いたの?」

「ん。一応、それなりに。でもエルフたちが見つかってないから、そこは不安」

「そっかー」

 

 暗躍しているらしいエルフはまだ見つかっていないようですが、それでもこうして戻ってこられる程度には落ち着いたということでしょう。それなら一先ずは大丈夫、だと思います。

 

「あ、ごはん中? ごめんね、おねえちゃん」

「ん……。大丈夫」

 

 改めて、メルは自分の指定席に座ります。誠さんがすっとケーキを出してくれました。今日はチーズケーキです。

 

「誠。あたしには?」

「あるから座りなよ」

 

 さすが、と言いながら、奏おねえちゃんがメルの隣に座ります。二人でいただきますをして、早速食べ始めます。チーズケーキは他のケーキよりも独特な味わいですが、嫌いではありません。

 でも、なんとなく、今は。

 ちらりとおねえちゃんとケイオスさんを見ます。ケイオスさんはハンバーガーを食べながら、一言。

 

「美味い……」

「ん」

 

 おねえちゃんも静かに頷いています。二人とも、手が止まりません。ひたすらに食べ続けています。

 

「よく食べるわねえ……。いつから食べてるの?」

「一時間ぐらい前だね。急に来たかと思ったら、ありったけのハンバーガーを、だから驚いたよ。ここは喫茶店なのに。食材足りるかな……」

「それはまた……すごいわね……。異世界のご飯ってそんなに不味いの?」

 

 後半はメルに問われたものです。メルは首を振って知らない、と答えます。メルがあちらで食べたのは、料理とは呼べないものでした。比較はできません。

 

「改めて聞くとエルフに殺意がわくんだけど」

「同じく」

 

 苦笑する誠さんと奏おねえちゃんに、メルは曖昧な笑顔を浮かべました。

 

「儀式で使った魔力を取り戻すっていうのもあると思うよ。食べてすぐに魔力にしてるんだと思う」

「つまり太らない!?」

「食いつくのはそこなんだ」

 

 呆れる誠さん。メルも不思議です。そして奏おねえちゃんに答えたのは、アイリスおねえちゃんでした。

 

「ん。魔力にしたものは栄養になっているわけじゃない。太らない」

「なにそれずるい! いいなあいいなあ!」

 

 奏おねえちゃんは羨ましがっていますが、実はそんなにいいことでもありません。

 

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