エルフ子育て記録 ~勇者と魔王の親権争いに巻き込まれたフリーター~   作:龍翠

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 魔力というのは、使わなければ周囲の魔力を少しずつ取り込んで勝手に回復するものなのです。それなのに食べて魔力に変換するというのは、それだけ緊急、本当に魔力が足りない時にすることです。おそらく二人とも、大急ぎで儀式を執り行い、この世界に来てくれたのでしょう。

 

「だいじょうぶ?」

 

 少し心配になってメルが聞くと、ケイオスさんが答えました。

 

「問題ないとも。それより遅くなった。久しぶりだな、メル。元気そうで何よりだ」

「うん。ケイオスさんも。……ハンバーガー、おいしい?」

「食べるか?」

「たべる!」

 

 ケイオスさんが渡してくれたハンバーガーを早速食べます。二人が食べているのを見ていると、メルも食べたくなってしまったのです。ただ、晩ご飯が食べられなくなると施設の人に怒られてしまうので、メルも魔力に変換してしまいます。そうして変換した魔力は、アイリスおねえちゃんとケイオスさんに魔法で譲渡しました。

 

「む……」

「ん……? メル、何かした?」

「うん。私の魔力を二人にあげたの」

「知らない魔法だぞ……。メル、ありがたいが、一言先に言ってほしい。少し焦る」

「はーい」

 

 もぐもぐ食べて魔力に変えて、二人に譲渡。それを続けます。二人とも、なんだか微妙な顔でそれを受け入れていました。

 

 

 

 施設への帰り道は、アイリスおねえちゃんが送ってくれることになりました。のんびりまったり、施設への道を歩きます。おねえちゃんの手はおとうさんと同じで、あったかです。

 

「おねえちゃん、あっちはどうだったの?」

 

 ゆっくり歩きながら聞いてみると、おねえちゃんは少しだけ頬を緩めたようでした。

 

「ん……。まあ、こっちの世界のことを聞かれて、説明しただけ。あとは、家族と会ってきた」

「おねえちゃんの?」

「ん。みんな元気。良かった」

「どんな人?」

「ん……? ん……」

 

 おねえちゃんが言葉に詰まりました。ただそれは言いにくいとか、そういった理由からではなく、なんだかどう説明していいのか分からないといった様子です。たっぷり三分も考えて、ようやくおねえちゃんが口を開きました。

 

「お父さんは、いつも優しい。少し無口なところもあるけど、怒るところはあまり見ない。お母さんは、優しいけど、厳しい。私や妹が悪いことをすると、すごく怒る」

「妹?」

「ん。妹。私が甘やかしたせいで、いつも私にべったり。……べったり、だった」

 

 おねえちゃんが、少し遠くを見るような目をしました。とても悲しそうです。メルが黙って続きを待っていると、おねえちゃんが続けます。

 

「最近は、避けられてるってほどではないけど、ちょっと距離を感じる。勇者になって、あまり会えなくなったから、かな……」

「そうなんだ……」

「ん……。最初は、魔王を早く倒せばすぐに帰れる、と思ってたんだけど、ね……」

 

 そこでおねえちゃんは自嘲気味に笑いました。首を振って、肩をすくめました。、

 

「変な話をした。まあ、でも、みんな優しくて、自慢の家族。メルのことも受け入れてくれる。間違い無い」

「うん。……あれ? かんゆう?」

「勧誘」

「えー」

 

 しれっと勧誘がまざりました。メルが頬を膨らませると、おねえちゃんは微かに笑います。あまり見ることのできない、珍しい表情。それだけに、メルにとってはとても好きな顔です。

 

「私も魔王も、無理強いは絶対にしない。けど、たまにでいいから、少し考えてほしい、とも思う」

「うん……。分かってる」

「ん。ごめんね」

 

 おねえちゃんが、メルのことを撫でてきました。それは本当に申し訳なさそうで。メルはその場で、ただ首を振りました。

 

   ・・・・・

 

 いつの間にかアイリスとケイオスが帰ってきて、すっかり慣れてしまった異世界含めた日常が戻ってきた。平和かと聞かれると首を傾げる日常ではあるが、概ね平和だ。

 

「はっ! 国自慢もいいがな、貴様のそのアピールにはデメリットについて含まれていない! そんなもの、メルの心に響くと思っているのか!?」

「黙れ魔王。それを言うなら、そっちのデメリットはもっとすごい。魔族に囲まれてエルフと人間が二人きり。何が起こるか分かったものじゃない」

「なんだと……?」

「なに……?」

 

 公園の一角で、勇者と魔王が火花を散らしている。二人が戻ってきて、度々見られるようになった口論だ。

 何があったのかは分からないが、二人は以前よりもメルへの勧誘の頻度が高くなった。当然ながらお互いがいる時にでも国自慢をするので、度々こうしてぶつかっている。少々、どころかかなりくだらないと心の底から思っている。

 こういった時の修司の対応は、いつも決まっている。

 

「メル。そろそろ何が欲しいか、決めたか?」

 

 完全無視。これに尽きる。メルも同じように口論など目に入らない聞こえないといったように振る舞うので、しばらくすると勇者も魔王もどこか寂しそうな目になるのが少し面白い。

 修司がメルに聞いたのは、クリスマスのプレゼントのことだ。今は十二月、世間はクリスマスシーズンに入っている。修司が働くコンビニでも、以前からクリスマスケーキの予約を受付中だ。

 

 メルにはクリスマスの説明をしてある。ただし、キリスト教関係のことは適当に流しておいた。異世界出身のメルにこの世界の宗教について話しても、理解しにくいだろうと考えたためだ。ただ、この世界で、この日本で生きていくなら、最低でも仏教とキリスト教は教えなければならないとは思う。だがそれは、いずれ学校で教わる時でいいだろう。

 故におそらくメルの今の認識は、クリスマスは皆でパーティをして、親からプレゼントをもらって、というものになっているはずだ。よくよく考えてみると、なかなか不思議な行事になっているものである。

 

「んー……」

 

 メルは少しだけ考えるように視線を上向かせたが、しかしすぐに首を振った。困ったような笑顔で、修司へと言う。

 

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