エルフ子育て記録 ~勇者と魔王の親権争いに巻き込まれたフリーター~   作:龍翠

88 / 104
84 話し合い(メル)

 

   ・・・・・

 

 メルは自分の部屋に入って扉を閉めて、鍵をかけました。ついでに遮音の魔法も使っておきます。これで神様との会話が漏れることはありません。

 メルは神様を机の上に下ろすと、自身は椅子に座りました。

 

「はい。これでいい?」

「うん。悪いね。大好きなお父さんと別々にして」

「うん。ちょっとおこってる」

「あ、はい。すみません。いやほんと、ごめんね?」

 

 申し訳なさそうな神様に、メルは苦笑いします。エルフの里から出た時にも、今の姿とは違う、銀髪の女の子の姿で会いましたが、その時もとても腰が低い対応でした。メルの方が困惑したものです。その時に二、三日ですが一緒に過ごしましたが、本来はとても明るくて無邪気な性格のようでした。

 

「そう言えば、どうして犬なの? あっちだとアイリスおねえちゃんみたいな姿だったのに」

「うん。そろそろこっちでの私の力が尽きちゃうからね」

 

 え、とメルが凍り付き、それに気付いているのかいないのか、神様が続けます。

 

「こっちの神様と交渉して、特例としてお邪魔してるだけだからね。力が尽きたら、私はあっちに帰るよ。いや、帰るも何も、この私はただの分体なんだけど」

「えっと……。分体?」

「うん。本来の私の力をちぎって、だいたい一パーセントぐらい、かな? それをこの世界に派遣してるんだよ。本来の私はちゃんとあっちの世界の管理をしています」

「そうなんだ」

 

 それは初めて知りました。こちらの世界に来てからも、メルはずっと神様の力を感じています。神様が見守ってくれていることを知っています。だからこそ、神様はどこの世界も同じ神様だと思っていました。ですがどうやら、世界ごとに違うようです。

 なるほどー、とメルが納得しそうになったところで、神様が少し慌てて言います。

 

「あ、ちょっと待って。勘違いされそう。どの神も、一つの世界だけ管理してるわけじゃないからね。私も三つほど管理してるよ。古い神様だと、十とか管理してたはず。もちろん精霊たちに色々任せてるんだけど」

「へえ……。あれ? それは私に話してもいいの?」

「だめだね! 忘れて!」

 

 メルの顔が引きつりました。続いて、小さくため息をつきます。この神様は性格なのか、時々話しちゃだめなことを漏らしているような気がします。

 

「話を戻すけど、力が尽きそうだからこの体が限界なんだよ。あと一週間ぐらいなら大丈夫だけど、それを過ぎたら私はもうこの世界には干渉できなくなる。今までみたいにすごく運が良い、とかはなくなるからね」

「うん……。普通になるだけだよね」

「そうともいう」

 

 メルにとってはいいことかな、と神様は笑います。メルは頷くと、神様はちょっとだけ寂しそうに見えました。

 

「あとは、この間みたいに頼み事をされても、もう応えられないよ」

「うん……。あれが特別だから。私も、しないよ」

「うん。なら良し!」

 

 朗らかに神様は笑います。けれどやっぱり、少しだけ寂しそうです。

 神様はずっとメルのことを見守ってくれていました。助けてくれていました。メルのことを好きになってくれた理由は分かりません。以前聞いた時も、笑って誤魔化されただけでした。それでも、神様はずっとメルのことを守ってくれていたのです。

 

「神様。今までありがとうございました」

 

 ぺこりとメルが頭を下げます。神様は一瞬面食らったようでしたが、すぐに破顔して言いました。

 

「いや、まだもう少しいるからね。それともメルは、私に早く消えてほしい?」

「そんなことないよ。まだ神様と遊んでないし」

 

 大事なお話は、きっとこれで終わりです。メルが神様を抱えると、冗談だったんだけどなあ、と神様が苦笑したのが分かりました。ということは、一緒に遊ばなくてもいい、ということでしょうか。メルは、今までお世話になりましたし、一緒に遊びたいのです。

 神様は顔を上げると、言いました。

 

「それじゃあ、遊ぼっか。お父さんにさっきの話をするかは任せるよー」

「じゃあしてくる!」

「あ、うん。……あれ? 気を遣った意味なかった……?」

 

 神様は首を傾げていますが、どうしてかは分かりません。とりあえず、おとうさんにお話をすることにしました。

 

   ・・・・・

 

「つまり纏めると、もうすぐ異世界の神様は地球からいなくなって、メルへの加護もなくなる、てことか?」

「そういうことだねー」

 

 院長室に戻ってきたメルの話をざっくりと纏めてみると、犬が頷いた。修司の解釈で問題ないらしい。

 それにしても、と思う。これはメルの、愛し子に関わる重要なことだ。この先、メルは愛し子ではなくなる、ということなのだから。それを考慮して、神様はメルに気を遣って、最初にこの子にだけ話をしたのだろうと思う。

 その気遣いを一切無視していきなり話してしまったメルを、褒めればいいのか呆れればいいのか、もしくは怒ればいいのか分からない。修司が何とも言えない表情を浮かべていると、神様はふっと遠い目をして、

 

「それだけお父さんを信頼してるってことだよ。誇れ」

「ああ、うん。ありがとう。……その、ごめんな、神様。うちのメルが……」

「いいさ。空回りなんてよくあることだから」

 

 犬の体で器用に肩をすくめる神様。最初から思っていたことだが、随分と人間くさい神様だなと思ってしまう。それが意味するところは、もちろん修司には分からない。

 

「それに、別にメルが愛し子でなくなるわけじゃないよ。この子が私の世界に来たら、また守ってあげる。もちろん、君もね。もしもの時は逃げてきたらいいよ」

「ああ、うん……。考えておくよ」

 

 実際には、おそらく異世界に行くことはないとは思うが、それでもこの先何があるかは分からない。最後の手段としてなら……。

 そこまで考えて、ふと、気になった。

 

「なあ、神様。随分とメルに惚れ込んでるみたいだけど、どうしてだ?」

 

 メルは、修司から見ると外見的な特徴の違いはあっても、他の子供たちと大差ない。かつての生活環境から来るのであろう妙な考え方や、端々から感じる闇は確かにあるが、それでも今はもうほとんどただの子供だ。一体どこを気に入ったのだろう。

 メルも気になっていたのか、抱いている神様に視線を落としている。神様は少し考えて、ああ、と納得したように頷いた。

 

「うん。誤解があるね。愛し子って呼んでるのは、あくまで人間や魔族、エルフたちだよ。私は気に掛けてはいるけど、好きかと聞かれると好きと答えもするけど、別にメルだけが特別好きってわけでもないかな」

「はあ……。つまり?」

「うん。まあ、ぶっちゃけると、ただの同情。それが私たち神様の加護だよ」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。