エルフ子育て記録 ~勇者と魔王の親権争いに巻き込まれたフリーター~   作:龍翠

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   ・・・・・

 

「あ、おねえちゃん!」

 

 神との面会を終えて、考えを纏めるために散歩を続けていると、メルの声が聞こえてきました。顔を上げると、メルが嬉しそうにこちらへと駆けてきます。その笑顔に、色々な考えが瞬時に吹き飛びました。

 ぱたぱた走ってきて、そのままの勢いで抱きついてくるメルを優しく抱き留めます。メルの頭を撫でてあげると、気持ち良さそうに頬を緩めました。その笑顔を見ていると、神について悩んでいた自分が馬鹿らしくなります。

 

「おかえり、メル。今日は早いね」

「え? いつも通りだよ?」

「え……?」

 

 公園の時計を確認してみると、なるほどお昼の二時でした。考え事に集中していて気付きませんでした。少しだけ反省しつつ、視線をメルの向こう側へ。メルのクラスメイトたちが歩いてくるところです。

 

「ん……。今日も喫茶店に行く?」

「あ、今週はいいの。神様と遊ぶの」

 

 メルのクラスメイトたちを待ってから、歩き始めます。そうして聞いたメルの言葉に、アイリスは表情には出せずに内心で驚きました。

 

「神様と?」

「うん。神様、ここにいられるのはあと一週間だけだから」

「え……?」

 

 それは、初耳です。そう言えば神の気配のする犬に驚きすぎて、何故いるのか聞くのを忘れていました。頭の片隅で我慢できずに会いに来たのだろう程度で考えていたのですが、どうやら違う理由のようです。

 

「詳しく教えてもらっていい?」

 

 アイリスが聞くと、メルはさっと視線を後方、クラスメイトたちへ。そして小さく指を動かします。その後に続いて聞こえてきた声は小声のようでしたが、アイリスの耳にはしっかりと届きました。空気を動かして相手に直接言葉を届ける魔法です。

 そうしてメルから聞いた話に、アイリスは目眩を覚えました。

 

 アイリスは神様は唯一の存在だと思っていました。それは世界を隔てても変わることなく、全ての世界を唯一の神が管理している、と。ですがどうやらその認識は誤りのようで、複数の世界は受け持っていても、神というのは何柱もいるようです。

 ですがそれよりも何よりも。もうすぐアイリスたちの世界の神がこの世界から立ち去ってしまうということに、衝撃を受けました。当然のように、ずっといるものだと思っていたのです。

 

「それ、シュウは?」

「ちゃんとお話ししたよー」

「ん……。そっか。メルは、何かあるとか、聞いてない?」

 

 神がいなくなるということは、愛し子でなくなると同義です。何かメルに不都合なことがあっても、不思議ではありません。愛し子にとって、それだけ神は大きなもの、のはずです。

 ですがメルは、ゆるゆると首を振って答えます。

 

「特に何もないよ」

「ん……。それなら、いいんだけど……」

 

 メルに問題がないのなら、アイリスとしても文句はありません。不安には思いますが、何かしらの対策ぐらいは神様もきっと考えているでしょう。

 

「それじゃあ、私もそろそろ帰還、かな」

 

 何気なくアイリスが呟くと、メルが大きく目を見開きました。どうしたのかと首を傾げていると、メルがアイリスの服の袖を引っ張ります。

 

「メル?」

「おねえちゃん、帰っちゃうの?」

 

 その声は、顔を見なくても分かります、とても悲しげな声でした。きっとメルは、アイリスもずっとこの世界にいるものと思っていたのでしょう。ですがアイリスは、この世界の住人ではありません。いずれは、帰らなければならないのです。

 

「ん……。帰るよ。メルも愛し子でなくなるのなら、ここにいる理由もなくなる」

「私、愛し子のままだよ?」

「ん……?」

 

 認識に差があることに気が付きました。それも、小さくない差です。

 

「えっと……。神様が元の世界に帰る。間違い無い?」

「うん」

「神様がいなくなるから、メルの加護も自然となくなる。愛し子でなくなる。……違うの?」

 

 メルは首を振っています。歩きながらメルに続きを促すと、メルは頷いて、

 

「あのね。この先もずっと気に掛けてはくれるんだって。この世界にいると私には何もできないらしいけど、元の世界に帰ったらまた助けてくれるって」

「ん……。つまり、愛し子であることに変わりはない?」

「うん」

 

 それはまた、何とも厄介なことです。メルが愛し子でなくなるのならアイリスたちも干渉をやめて帰れますが、そうでないのなら帰るわけにはいきません。なぜなら、未だエルフたちが何かをしてくる可能性は十分にあるためです。

 むしろ、神様がいなくなってからが問題でしょう。あのエルフたちが何もしてこないなど、そんな楽観的なことはさすがに考えられません。

 

「おねえちゃん?」

 

 きゅっと、メルがアイリスの手を握ります。それは、姉と離れ離れになりたくないと我が儘を言う妹のようで。少しだけ、異世界にいる妹のことを思い出してしまいました。

 

「ん……。まだ帰らない。大丈夫」

 

 そう言ってメルを撫でると、メルは嬉しそうに笑いました。

 

   ・・・・・

 

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