エルフ子育て記録 ~勇者と魔王の親権争いに巻き込まれたフリーター~   作:龍翠

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 スキーの後はお昼ご飯だ。アイリスは火とお餅を用意すると、外のケイオスへと声をかけに言った。二人が戻ってくるのを待ちながら、お餅を焼く。ぷくっと膨れてくると、分かっているだろうにメルは目を輝かせる。

 

「面白いか?」

「うん!」

 

 まじまじと、膨らんでいくお餅を見つめている。犬はやはり飽きたのか、メルの足下で丸くなっていた。やはり犬だ。

 お餅が焼けたので小皿に入れて醤油をかけてやる。受け取ったメルはお礼を言って、早速食べ始めた。

 

「ん……。戻った」

「遅くなった」

 

 追加のお餅を焼き始めたところで、アイリスとケイオスが戻ってきた。彼らの手には、釣りの道具ではなく大きめの皿がある。その皿の上には、こんがりと揚げられた小魚たち。

 

「とりあえず揚げてみた。塩胡椒とかレモンもあるから、お好みで」

「ああ、ありがとう」

 

 出された小魚はテレビか何かで見覚えがあるような気もするが、けれどやはり違うもののような気がする。ここが日本なら間違い無いと言えるのだが、日本かどうかすら分からないので何とも言えない。とりあえず、メルが食べる前に先に修司が食べておく。もちろん、毒味のためだ。

 しっかりと噛んで、呑み込む。とりあえず劇的な変化はないが、遅効性の可能性もある。このままメルに食べさせていいか悩んでいると、犬がため息まじりに言った。

 

「あのね。これでも一応、私は神様だよ。メルが食べて大丈夫かどうかぐらい、分かるよ」

「いや、だって結構うっかりしそうな雰囲気あるし」

「ひどくないかな!?」

 

 きゃんきゃん吠えて文句を伝えてくる犬を片手で押さえつけながら、修司は肩をすくめてメルに頷く。食べていい、ということが伝わったのだろう、メルは早速とばかりに小魚を食べ始めた。さくさくと軽快な音が聞こえてくる。その音だけで、腹が減ってくるというものだ。

 未だ吠える犬にも魚を突っ込みつつ、修司も再び食べ始めた。

 

「シュウは怖い物知らずだね……」

 

 呆れたようなアイリスの視線。アイリスたちにとっては、この犬は紛れもない神様だ。やはり畏れがあるのかもしれない。

 

「いや、だって気軽な態度がいいって言ってたからさ。な?」

「うむー。お魚ぷりーず!」

「ははは。うぜえ」

 

 笑いながら、犬の口に再び魚を突っ込む。もごもごと犬は苦しそうにしているが、気にするほどではないだろう。

 

「おとうさん! 私もー!」

「ん? ああ、ほら」

 

 シュウが魚をいくつか取って手のひらに載せると、メルは修司の手のひらから直接食べた。行儀が悪いとは思うが、外での遊びの一環だ、固いことは言わなくてもいいだろう。もちろん家の中なら注意する。多分。

 

「うん。ケイオス。ありがとな。うまいよ、これ」

「俺は釣っただけだ。礼なら勇者に言え」

 

 いつの間に取り出したのか、こっそり日本酒を飲んでいるケイオスが片手を振る。つまみに丁度良いとは思うが、真っ昼間から飲むなよと言いたい。酔いつぶれた姿を見たことがないので大丈夫だとは思うが。

 

「そっか。じゃあ、アイリス」

「私は適当に揚げただけ。魔王にでも言うといい」

「なんで礼をたらい回しにするんだ、お前ら素直に受け取れよ……」

 

 呆れつつも、修司は笑いながら小魚をメルの口に入れた。

 

「うまー!」

「うまー!」

 

 娘が楽しそうで何よりだ。これが一番である。

 

 

 

 雪遊びの数日後、早朝。犬がそろそろ帰るとのことなので、修司は見送りのためにメルを連れて、近くの公園に来ていた。もちろん犬も一緒であり、アイリスとケイオスも間もなく到着するだろう。予め人よけの結界を張っているとのことで、公園に人影はない。

 

「いやあ、楽しかったよ」

 

 メルの腕の中、朗らかな声で犬が言う。この一週間、一番楽しんでいたのは間違い無くこの犬だろう。施設の子供たちとも仲良くなっていたほどだ。犬が帰ったことを知ると子供たちが悲しむだろうが、こればかりは仕方がない。

 ちなみに子供たちには院長と相談して、飼い主が見つかったと報告することになっている。泣く子はいるだろうが、きっと受け入れられるはずだ。

 

「あ、おとうさん、おねえちゃんたちが来たよ」

 

 メルが指し示す方を見ると、アイリスとケイオスがこちらへと来るところだった。なんだかんだとあの二人は仲が良いのではなかろうか。

 

「いや、それはないよ。険悪なわけではないけど、単純にお互いで警戒してるだけだから」

「あ、そうなのか……」

 

 ある程度仲が良くなったと思っていたのだが、心を読める犬が言うなら間違いないのだろう。少しだけ残念には思うが、険悪でなくなっただけましなのかもしれない。

 アイリスたちが側まで来てから、犬が口を開いた。

 

「さて、お世話になりました。すごく楽しかったよ」

「まあこっちもそれなりに楽しかったよ」

 

 メルに抱かれたままの犬を撫でてやる。犬はどこか楽しそうな様子で、

 

「ははは。もっと本音を言ってくれたらいいのに!」

「心を読める相手は面倒くさいな」

「ひどい」

 

 その後も犬と何度か言葉を交わしたが、やがて唐突に犬がメルへと言った。少し離れてほしい、と。メルは不思議そうにしながらも、大人しく少し離れた場所へと向かう。

 犬がそれを確認してから、修司たちへと言った。

 

「さて、ここからは少し真面目な話だよ」

 

 その威厳のある声に、アイリスとケイオスが姿勢を正す。修司も少しだけ反応してしまうが、今更取り繕っても仕方がないと思うので、そのまま犬を見返した。

 

「今から私は自分の世界に戻るけど、元の私が私を取り込んで馴染ませるまで、少し時間があるの。二日か、三日ぐらい」

「それはつまり?」

「うん。しばらくは私は世界に干渉できない。もし誰かがこっちの世界に来ようとしても、私が止めることはできなくなる。素通りしちゃうってことだね」

 

 それを聞いたアイリスとケイオスが揃って険しい顔つきになった。修司も、犬が何を言いたいのか理解できた。

 聞いた話になるが、未だエルフとの問題は解決していなかったはずだ。つまりは、エルフがこの世界に来ても、分からないということだ。何かがあっても、不思議ではない。

 

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