嵐珠のために鐘は鳴る 作:瑠和
年開けてから色々あって大変です。学マスにハマるのは予定外。
ガンダムジークアクス面白い
「天王寺瑠和です。よろしく」
高校生になり、クラス分けで高咲侑とおなじクラスになれなれず、やや不服だった歩夢の前に現れたのは少し不機嫌そうな、男子生徒。
たまたま隣の席になったと言うだけだが、歩夢はその男子生徒、天王寺瑠和が妙に気になった。
「……」
(どうして…)
自然と瑠和を目で追ってしまうほどに、歩夢は気にしていた。
(彼の目はこんなに曇っているんだろう)
それは、歩夢にとって見たことがないものだった。この世の全てに絶望したような、暗い瞳。
「…」
「なに見てんだ?」
「わぁ!」
それは特別な日でもなんでもない、ただの平日。あまり話さない瑠和が急に話しかけてきたのだ。
「そんな驚くか?」
「だって普段からあんまり話してないから…」
「いや…スマホ見ながらなにをニヤニヤしてんのかなぁって思ってさ」
「え?ああ…」
前日、歩夢は侑と一緒に遊びに出かけ、その時の写真を見ていたのだ。
「これ、別のクラスの…」
「侑ちゃんだよ。高咲侑。幼馴染なの」
「へー…これは?」
瑠和はスマホに写っている写真を指差す。
「へ?」
歩夢がスマホに目を写すと、いつの間にスワイプしたのか、フリフリのドレスを着た歩夢の写真が表示されていた。歩夢は顔を真っ赤にする。
「~~~~~っ!いやっ!これはっ!ちがくて!えぇ~っっっと、ん゛~~~~あっ!そうっ!侑ちゃんがふざけて着てみてって…」
「そうなのか?」
歩夢は素早く顔を縦に振りまくる。無論嘘だ。これは歩夢の隠れた趣味のようなものだった。ずっと好きだったが、高校生だし卒業しなきゃいけないと思っていたこと。
だが、このドレスだけは見かけたときから、どうしても着たかった。
初めて見た日から諦めきれず、先日試着だけして写真を撮ってきたのだ。
「………まぁ、可愛いからいいんじゃないのか?」
「え?」
「いや、似合ってるって言ったんだ………あ、違ったか?」
「……ううん…へ、変じゃない?高校生なのに…」
「なにが好きかなんてそれぞれだろ?」
上原歩夢にとって、それは、人生で初めての経験だった。自分の好きなもの。ピンクや、可愛いもの。それを肯定する言葉。
「あ、ありがとう………」
「おう…」
その日からだろうか、よく歩夢と瑠和は話すようになった。いや、どちらかというと歩夢から瑠和に話かけるようになったのだ。歩夢自身、侑以外にこんなに自分から話かけるようになったのは初めてだった。
そんな瑠和がある日たまたま目の前で倒れ、保健室まで運んだ。
そんなときに涙を流した瑠和を歩夢はとっさに抱き締めた。
そのとき、歩夢はどこか気づいてしまったのだ。
瑠和に対する、友達とは少し違う感覚に。
「もし、また…寝たくなったら………呼んで?そばにいるよ…」
だからか、あんなことを口走ってしまった。
その日、歩夢はそのことを布団の中で思いだしていた。
「う~~~~~~~やっぱり変な子って思われたかなぁぁぁぁ」
思いだしていた、というより後悔していた。自分のとっさの言葉や、行動を。そしてそれで瑠和にどう思われたかを考え、枕に顔を突っ込んでじたばたしていた。
そこまで瑠和に対する言動を思い悩むということはもはや明白だった。なににと問われればもちろん、瑠和に対する歩夢の想いだ。
上原歩夢は
天王寺瑠和に
恋をしている。
「……………」
顔を赤くしながら、少しだけ冷静になった歩夢は自分の心と向き合う。
(…………ただの友達………だったんだけどな)
―数日後―
しばらくはいつも通りの日常だった。しばらくは歩夢が瑠和を意識していたが、少しずついつも通りの歩夢に戻っていった。
(この間は…………お互いちょっと変だったし……ちょっとずつ、また友達の関係を深めて………………いいのかな?)
恋に悩める少女はため息をついて窓の外を眺めることしかできなかった。
だが、つかの間の日常は簡単に崩れた。
「瑠和君…………?」
「上原………」
ある休日の朝、瑠和は歩夢の前に現れた。息は絶え絶え、何かに怯えるような眼で。瑠和も休日に歩夢に会えるとは思っていなかったのか、驚いた顔をしていた。
「……………上原、前にまた呼んでって言ってたよな」
唐突に、以前の話を持ち出してきた瑠和に歩夢は少し不安を覚えた。
「う、うん………」
「…………また、一緒にいてくれないか?」
「………」
―上原家―
この日、歩夢の家族はたまたま出かけていた。そんな都合の良さもあってか、歩夢は自身の家に瑠和を上げた。
「大丈夫?なにかあったの?」
部屋に通されたが、瑠和は何も言わない。何かに怯えた様子で歩夢の部屋のベッドを指さす。
「ごめん…………少しだけ、ベッドを借りていいか。もし気にするなら別にいい」
「え?う、うん。いいけど………」
「………………落ち着いたら、話すから」
瑠和はそう言ってベッドに入ると、ものの数分で寝息を立て始めた。
だが、眠っている瑠和の表情はさっきとは打って変わって、安らかなものだった。歩夢は少し笑みを零し、そっと瑠和の頬を撫でる。
「…………」
改めて、自分の部屋というパーソナルスペースで瑠和を見て自分の気持ちを感じる。幼馴染の侑を幾度となく通してきたこの部屋の中で、歩夢は瑠和を上げた今回との違いをかみしめる。
「やっぱり、私は………」
―一時間後―
「………う……」
「あ、起きた?」
一時間ほどしてから瑠和は目を覚ました。最初は寝ぼけている様子だったが、少ししてから状況を呑み込んだ。そして、頭を押さえる。
「…………悪い上原、ちょっとどうかしていたみたいだ………迷惑かけた」
何があったのかはわからないが、ひと眠りした瑠和は落ち着き、自分の行動を謝罪した。
「え、いや、私は全然!」
「いくら友達とは言え、いきなり女子のベッド借りるなんて、礼儀知らずもいいところだ………すまねぇ。すぐに」
瑠和は部屋を出ようとした。しかし、歩夢はとっさに瑠和の手を掴む。
「ま、待って!」
「…………上原」
「…………何があったか……聞かせて?私、君のことが心配だよ」
「…………………」
瑠和はそっとベッドに座る。歩夢はその隣に座る。
「言葉にすりゃ、単純で、くだらなくはあるんだ」
「…?」
「妹がいること、お前に話したことあったっけ」
「あ、うん。聞いたことはあるよ」
瑠和は自身と家族の関係を歩夢に打ち明けた。
「そっか、妹さんとそんなことがあったんだ」
「…………全部俺が悪いんだ。そんで今日、夢を見た。璃奈から責められる夢だ……………はたから見りゃ下らねぇって思うかもしれないけど………」
瑠和の言葉が止まる。歩夢が瑠和の方を見ると、手が震えているのが分かった。
「……………怖いんだ………璃奈に嫌われるのが」
「瑠和君…」
瑠和は両手を逆の肩に置き、震えを止めようと自分を抱く。
「俺が悪いのはわかってる。それは承知の上だ…謝りたい、璃奈の役に立ちたいって思ってるのに………でも、正直にそれを伝えて、璃奈に嫌われるのが…本心を伝えられるのが怖いんだ…たった一人の大事な妹だから…………」
「…」
歩夢は震える瑠和をそっと抱きしめた。
「怖いよね…………自分の思いを伝えるのって」
「上原…」
「伝えなきゃいけないことでも…伝えることで、関係が変わったりすること………怖いよね。よくわかるよ」
「……ああ…怖い」
「…そうだよね。ゆっくり…伝えようよ焦らずに。一歩一歩………だから、瑠和君が勇気が出るまで、いつでもここに来ていいから」
歩夢は優しく囁いた。
それから、瑠和と歩夢の奇妙な関係が始まった。学校では変わらず過ごし、寝不足になれば時々歩夢の家に行き、歩夢のベッドを借りる。
歩夢のベッドで寝ると不思議と歩夢に抱き締められているような感覚で安心して眠れたのだ。
◆◆◆◆◆
瑠和は申し訳なくなったいた。歩夢になにか返せるわけでもなく、ただ甘えるだけのような毎日。だから、これ以上迷惑をかけたくなかった。
そして今、歩夢は再び瑠和の心配をしてくれている。
これ以上甘えていいのか、瑠和は悩んでいた。
「……これ以上、お前に迷惑をかけられねぇよ」
「…え?」
「ただでさえ世話になってるんだ。これ以上…」
「そんなことないよ!私は……瑠和君の力になりたい…」
「………………………………………璃奈が」
しばらく悩んだ末に瑠和は口を開いた。迷惑をかけたくないという想いと、ほかに相談できる人間がいないという二律背反。その末に瑠和は話すことを選んだ。歩夢のこともあるが、今は璃奈のことだ。
「俺に嫌われてるんじゃないかって………不安に思ってるらしい。璃奈の友達から聞いた」
瑠和は愛から聞いた話を詳しく話した。璃奈と仲良くなった愛は、璃奈から兄との接し方について相談したらしい。そこで、瑠和のそっけない態度というか、どこか心を開き切っていない態度から、嫌われているかもしれないと思っていたらしい。
「え?………だとしても、いいコトじゃないのかな?嫌われてるかもって思ってるってことは瑠和君のことを嫌いって思ってるわけじゃないんだよね?」
「………そうかもしれないが……そうじゃないかもしれない」
「どういうこと?」
「確かに、璃奈はいまも俺のことをいいお兄ちゃんだと思ってるかもしれない。だけど、俺が璃奈にそっけない態度をとってるのは、璃奈に罪悪感を感じているからだ。俺がこういう態度をとってる理由を離したら…………璃奈は……きっと…俺の罪に………気付く」
璃奈をあんな性格にし、孤独にさせたのはすべてとは言わずとも瑠和が原因の一部であることは明白だ。
「………」
「それが怖い。璃奈が俺を恨んでないってわかったのはいいけど、だからって元の関係に修復できるわけじゃない…………もし、本気で嫌われたら、それこそ……」
(そんなこと恐れていたら、始まらないよ。璃奈ちゃんにちゃんと思いを伝えに行こう!)
歩夢がそんな言葉を伝えるのは簡単だ。だが、何も言えなかった。思いを伝えることの難しさ、辛さ、それを歩夢は知っていたから。
歩夢は瑠和の手を両手で包む。
「無理はしないでいいと思うよ。私は。少しずつ、前に進めればいいよ。私も協力するから………」
「上原………」
歩夢はそれを伝えるので精いっぱいだった。無理に向き合えとも、目を逸らせとも言えない。
◆◆◆◆◆
―翌日―
翌日、瑠和は歩夢と侑と一緒に登校した。侑がいる関係上、瑠和もあまり暗い表所はできなかったが、はやり会話の節々で暗い面持ちが出てきてしまっていた。そんなこんなで学校に着くと、廊下の先から元気な声が聞こえてきた。
「瑠和!!!」
「嵐珠………」
声の主は嵐珠だった。
「嵐珠ちゃん、おは」
歩夢が瑠和の前にでて挨拶することで遮ろうとしたが、嵐珠はお構いなしに瑠和の前に来て瑠和の手を取る。
「瑠和!ヤるわよ!!」
「何を…?」
「スクールアイドルを!よ!!」
「えっ!?」
「は?」
歩夢は目を丸くし、瑠和は困惑し、嵐珠は満面の笑みでいる。何ともカオスな状況が出来上がっていた。
―放課後―
嵐珠は細かい話はあとですると伝え、放課後に瑠和を西棟屋上まで連れてきてた。
「で、何がどうなってんだ?」
「説明はするけれど………どうしてあなたがいるのかしら?」
嵐珠は横目で、一緒に屋上まで来た歩夢を見た。瑠和が連れていかれるのを見て慌てて追いかけてきたのだ。
「だ、だって、嵐珠ちゃん、同好会はもう……」
「生憎、あたしは消えてしまった同好会を復活させる気はないわ。あたしはアタシのやりたいステージのためにスクールアイドルを始める。別に同好会がなくたって問題はないでしょう?噂によればあのせつ菜って娘も長らくソロだったみたいだし」
「それで、それをなんで俺に言う?」
「あなたに手伝ってほしいの」
最もな疑問を伝えた。だが、嵐珠はすべて一人でやりきるつもりはないらしい。瑠和に手伝いを申し出たが、当然瑠和もそんなことやれる気力はいま持ち合わせていない。
「…………俺は、そんなことやる気にはならねぇよ。そもそも、手伝えることなんてなんもねぇ」
「そ、そうだよ!急にそんなこと言ったって……」
瑠和の心情をしっている歩夢が庇うように前に出た。
「歩夢、あなたに聞いてないわ」
しかし、嵐珠のキッパリとした物言いに一蹴されてしまう。歩夢はなにも言い返せずに引き下がるしかできなかった。
「………」
「あなたのことは周りに聞いてある程度は知っているつもり。衣装づくり、曲作り、両方ともできるんじゃない?」
嵐珠は人伝に瑠和のことを調べていたらしい。それが個人的になのか、スクールアイドルをやるためなのかはわからないが、大した情報収集能力だ。
確かに瑠和はギターを弾くことができ、璃奈の面倒を見ているうちに裁縫だのなんだのも得意になっていった。
「…………本当にそれでいいのか?確かに裁縫はできる方だし、曲作りなんてしたことないが楽器くらいならできる。だが、それで本当にお前の望みは叶うのか?」
瑠和の言葉に、嵐珠は小さく微笑み、胸に手を置いた。
「…………やっぱり、あなたはアタシのことをちゃんと理解してくれるのね………なら、その辺は別の人に任せましょうか」
「だったら俺は……」
「でも、まだ大事な役割はある」
「あ?」
「アタシの隣にいて頂戴。天王寺瑠和」
「………」
二人の間に、春にしては少し冷たい風が吹いた。
「………けるな」
「え?」
「ふざけるな!!!それじゃ…俺は………」
「…」
「ただの…」
嵐珠に言いかけた言葉を、瑠和は続けることができなかった。嵐珠がなぜ瑠和を求めるのか、その理由を瑠和はしっていた。
知っていたからこそ、その続きを言えなかった。
「くそっ!」
瑠和は机を叩いてその場から逃げ出した。
「瑠和君!」
歩夢はすぐに瑠和を追いかけた。その場に一人残された嵐珠はただただ驚いた表情で立ち尽くしていた。
「……なんで…」
ー校舎裏ー
瑠和は校舎裏まで走ってきていた。
「…」
嵐珠が瑠和を求めた理由は明確だ。それは、瑠和の感性が関係している。
嵐珠は昔から、人の立場になって考えることが苦手な人間だった。そして、なんでもできた。出来ない人間の気持ちがわからず、真剣じゃない人間を嫌った。
そんな嵐珠の性格は彼女の回りから人を遠ざけた。
だが、何事にも真剣なだけで、回りに人がいなくて寂しがっている感情を瑠和ともう一人、瑠和と同じ感性を持った女の子だけは理解できていた。
だから嵐珠の友達となれた。
そんな嵐珠がなにもしなくていいから自分のとなりにいてほしいなんて言った。
それはつまり、瑠和の感性以外、瑠和という人間に価値はない。
そう言われている気がした。
「オレが大層な人間じゃないなんてことは知っている……だけど、それじゃあんまりにも…」
瑠和の瞳には涙が浮かんだ。
「なに泣いてるの~?」
「!」
誰もいないと思った校舎裏で、声をかけられた。驚きそちらを見ると、そこには茶髪でふわふわの髪をした少女がいた。
「…あなた…は?」
「ん~?あれぇ?君、こないだ校舎前で倒れてた子だねぇ。ひょっとしてまた調子がわるいのかな?」
「…」
ふわりと香る「他人の香り」。だが、どこか嗅いだことのある匂い。無意識に呼び起こされる記憶。なにか、瑠和の中で繋がった気がした。
「ひょっとして、倒れかけた俺を支えてくれたのって」
「…ん~?ああ。そうだよぉ。彼方ちゃんが支えてあげたのです」
一人称を彼方と名乗る少女は胸を叩く。
瑠和の中で繋がったように感じたものが確証へと変わる。あの日、瑠和は歩夢に受け止められたと思っていた。
確かに歩夢は自分が瑠和を支えたとは言っていない。想像するに、瑠和が倒れ、彼方に支えられる瞬間を目撃できる距離にいたのだろう。
そして、彼方から託され保健室まで運んだのだろうと瑠和は考えた。
歩夢ではなく、この彼方に支えられていた。瑠和が眠りに落ちる直前に感じていた安心感、それは彼方から感じていたものだった。
刷り込みのように、目が覚めたときに目の前にいた歩夢を、安心感を感じる相手だと勘違いをしていたのだ。
「?」
全てが繋がると同時に、瑠和の目から涙が溢れてきた。
続く