量産型アンドロイドちゃんは、蔓延る女ラスボス達を攻略したい!   作:霧夢龍人

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アンドロイドの独白

吾輩(ワタシ)は人である。名前はまだ無い。

 

ワタシが産まれたのは、小さな培養カプセルの中だ。そこから徐々に身体が成長していき、今度は大きい培養カプセルに移され、一般人と同じ大きさになるまで待つ。

 

ワタシには産まれた瞬間から自意識が存在していた。

それ故に、周りの培養カプセルにふよふよと漂う同じ仲間達(・・・)が皆ワタシと同じ顔をしていて、何故か己だけいち早く自意識が目覚めたことに疑問を感じるのは、おかしな話ではなかった。

 

人型戦力疑似体(アンドロイド)-OmN.A4

それがワタシの名前?であるらしい。だがワタシはこれを名前と認めたくは無い。どちらかと言うと識別番号に近しいからな。

 

三年の月日が経つ頃には、ワタシの体は立派な大人と遜色なかった。周りのアンドロイド達もそうだ。

それ故に、この頃から任務という名目で外に駆り出されることが多くなった。種類は多種多様で、とある市街地に行って荷物を受け取るおつかいのようなものから、人攫いに人殺しなども何度かあった。

 

そして今日も、ワタシは人殺しの任務を受けている。

 

「A4、何をしているのです。即刻任務に戻り、対象の排除に動きなさい」

 

「はいはい、わーったよ」

 

首元に取り付けられたチョーカータイプのマイクから、司令役のアンドロイドの声が響く。

 

どうやらサボって煙草を吸っていたのがバレたようだ。

 

これ以上ガミガミと言われるのも面倒なので、年寄り臭く立ち上がって噛み煙草を踏み締める。じゅっと子気味良い音を立てて消えた煙草から視線を逸らし、腰に提げた粒子形成刀(パーティクルソード)の柄を掴んだ。

 

最初の言葉を訂正しよう。

ワタシは人ではない。

 

だから───

 

「さっ、仕事を始めようかね」

 

───人殺しを厭わない、ただの殺戮兵器(アンドロイド)だ。

 

☆☆☆

 

第5次産業革命から150年。

クローン技術や半永久的に使用可能なエネルギー資源の確立により、人々は楽園を築き上げていた。

 

大富豪たちはクローンを作り上げ、身体の寿命が来ればクローンに人格を移して若い肉体を得る。どんな病気にも効く薬が格安で手に入る上に、宇宙に進出して居住可能な星をテラフォーミングした事で、膨大な人口を無理なく繁栄させることが出来た。

 

景気が豊かになった証だ。

 

───だが、そんな楽園も長くは続かない。

 

“ユニバース25”という社会実験をご存知だろうか?

オスとメスが4匹ずつ計8匹のネズミが食料が無制限、病気もなく、広大なスペースでどのような社会環境を築くのかという実験だ。

 

簡単に説明すれば、最初の方はネズミは順調に数を増やすが、ある地点にまで差し掛かると富裕層と貧困層での差が広がり数を増やさなくなり、最終的に絶滅するというものだ。

 

コレ(・・)と同じようなことが、人間達に起こった。

あまりに発展しすぎた科学力により人々は不自由を感じなくなり、子供を増やさなくなる。そして貧困層と富裕層の差が広がる。

貧困層は子供を産むが、その代わりとして虐待が増え、やがて子供を増やさなくなった。

 

その結果が現状である。

 

「荒廃してんなぁ・・・」

 

かつては繁栄していたであろう都市部は、見るも無惨に退廃としていた。

人の影はおろか動物すら見当たらず、管理する人間も居ないため手付かずのままだ。

 

崩れ落ちた建物の上から、周囲を睥睨する。

 

ワタシ達アンドロイドに命じられた任務は、一人の少女を殺すこと。とある研究機関から逃げおおせた実験台らしく、殺処分しろとのご命令だ。

 

些か嫌になる。

 

別に好きで人を殺したいわけじゃない。上官に命令されているから、仕方なく従っているだけだ。

 

ワタシのようなアンドロイドは、人型戦力提供事業によって貸し出された機械に過ぎない。

反抗しない、命令に忠実、替えがきく。この3つが揃ったアンドロイドを他会社に製造・提供することで提供事業者は収入を得て、借りる側は替えがきく人材をどのように使っても構わないwin-winの関係。

 

唯一問題なのは、アンドロイド側に人権がないことか。

 

「命令に絶対遵守。守れなければ・・・廃棄(スクラップ)か。ほんとに嫌になるな」

 

熱源感知で対象を探しながら、粒子形成刀(パーティクルソード)を振り回して邪魔な建物を破壊していく。

 

瓦礫やワタシの攻撃から逃げようとした動きによって熱が発生すれば、しっかりと熱源感知に映る。なんならそのまま死んでくれたっていい。

 

「おーい出てこーい。悪いようにはしねぇ、サクッと楽にしてやるからよぉ」

 

散々刀を振り回して倒壊させたが、出てくる様子はない。

まっ、そりゃそうだ。逆に出てこられたら困っていた。

 

どこの研究機関から逃げ出したかは知らないが、逃げ出すことに関してはきっと中々の実力を誇っているのだろう。

そうして何十分か建物を潰し回っていると・・・。

 

「きゃっ!?」

 

「おっ、いたいた。お前かお嬢ちゃん」

 

微細な音も聞き逃さない超密度イヤホンマイクが、微かな悲鳴を拾う。熱源感知が作動してない事から、相手はジャミングを使っているのだろう。

 

対象は顔を半透明のヴェールで隠していた。

 

「っ!!!」

 

気付かれたのを悟ったのか、少女は一目散にワタシから逃げ出す・・・が、逃がさない。人造筋肉によって常人の85倍という筋肉密度を誇るアンドロイドの身体は、あらゆる身体的不可も可能にする。

 

つまり、人間が逃げ出せる術は無い。

 

「おいおい、逃げないでくれよ〜。ワタシは楽にしてやろうってんだ、苦しめたい訳じゃない」

 

「うっ、嘘つき!そうやって私のお姉ちゃんも!妹も殺したくせに!」

 

「はぁ〜?それはワタシじゃねぇ、他のアンドロイドだ。人違い・・・いや、アンドロイド違いか?」

 

必死に逃げる少女の後ろを追い掛けながら、柄を握った刀を床に叩き付けた。一瞬で細かな粒子に分解された刀だった物。

 

「まぁんなこたぁいいさ。お前が嫌でもワタシが一瞬で楽にしてやるよ」

 

───機構変化(モードチェンジ).type_AR(アサルト)

 

光の粒子がワタシの手に集い、突撃銃の形となって具現化する。

これが第5次産業革命による半永久エネルギーの賜物である、物質具現化装置だ。

 

細かい説明等は省くが、使用者の願った通りの形状やエネルギーに変化するこの装置は、戦闘にも重宝されている。

 

「あばよ」

 

逃げる少女の後頭部めがけて背後から照準を合わせる。自動追尾にしても良いが、何分威力が高すぎるからな。

やはり威力が低めの弾で確実に仕留めるに限る。

 

照準と後頭部の弾道を予測し、引き金に指を構えた。

 

その時だった。

 

「っ!なんで!!!」

 

「んぁ?」

 

「なんで私を、殺すの?」

 

いきなり立ち止まった少女がワタシの方を振り返りながら呟いた。無駄に性能が良いイヤホンのせいで、その呟きも拾ってしまう。

 

愚問だな。

 

「知らねぇな。ワタシの上が殺せと言っていたから殺す、それだけだ」

 

それ以上でも以下でもない。

殺したくないが殺す。ワタシが生きるために、生きる意味を見い出せないこの日々に生きる意味を見つけ出すために。

 

アンドロイドの自分が抱くには不釣り合いな意味(エゴ)のために、ワタシは殺す。

 

「イミ、わかんない・・・私は!生きたいだけなのに!」

 

「ははっ、奇遇だな。ワタシもだよ」

 

どんなに生きたかろうと知ったこっちゃない。

提供事業者と借主は信用関係で成り立っている。アンドロイドにとある命令を命じたとて、それをアンドロイドが完遂出来なければ当然信頼は落ちるだろう。

 

だから変わり種のワタシにも命令を完遂させるように、チョーカー型のマイクが仕込まれている。これの本質は、ワタシが逃げ出すことがないようにGPSと自爆装置が内蔵されている、いわば火薬庫。

 

ワタシが命令を無視し、独断行動を何度か取れば即───ドカン、だ。

 

だから、だからだから。

 

ワタシには引き金を引くことしか出来ない。

 

その筈なのに。

 

「私は生きたかっただけなのに・・・自由になりたかった。それだけなのに」

 

「っ、」

 

躊躇してしまった。

 

「お父さんとお母さんに売られてから、私一度も自由になったことなくて。いっつも身体を改造されて、いっつも痛くて」

 

引き金を持つ指を離してしまった。

 

「でも、でも!そんな私を皆は受け入れてくれた!お姉ちゃんや妹だって出来たし、いつか皆で生きて此処を出ようって約束してた!」

 

思わず視線を下に向けてしまった。

 

「それなのにっ!!!・・・皆、死んじゃった。だから私、もう皆の代わりに外に出るしかないの!皆の代わりに長生きして、必死に生きないといけないの!」

 

「だから、だからっ!」

 

「・・・もういい、わかった」

 

ワタシは、銃を持つ手を下ろした。

思わずじゃない、自分の意思で銃を投げ捨てた。

 

「・・・行け」

 

「えっ?」

 

「さっさと行け。もうじきここに応援がやってくる。じたばたしてっと、ワタシ以外の誰かに殺されるぞ」

 

少女から体を背け、胸元に忍ばせていた箱から煙草を取り出して火をつける。ちょうどいい瓦礫に腰掛けて、灰色の煙を燻らせた。

 

既に銃は光の粒子に戻り、ワタシの腰のベルトへ戻っている。

 

「い、いいの?貴方は命令違反で殺されるんじゃ」

 

「いいから───早く行けよ、お嬢ちゃん」

 

「っ、うん!ありがとう、貴方のことは忘れないから!」

 

戸惑いつつもお礼を言って、一目散に駆け出していく少女。

最初はワタシから逃げ出すための嘘かと思っていたが、ヴェールから零れる涙を見て気が変わった。

 

あんなでも5歳のワタシよりかは年上だが、見た目はワタシも大人だ。

別に哀れんだ訳でも、助けてあげたいと思った訳でもない。

 

生きる意味を見い出せないワタシとは違う。そう思ったから・・・それだけだ。

 

「ふっ、何してるんだろうなぁワタシは。殺害対象のガキンチョに絆されやがって・・・きっとこのまま帰れば廃棄処分確定だ。

なんなら今すぐに爆破されてもおかしくねぇ。あ〜あ、今まで見逃す事なんてしなかったのになぁ」

 

馬鹿なことをした、と煙草の煙を肺に取り込みながら曇り空を見上げる。

口から吐く息が雲の色と同化して消え、命令違反をしたワタシを処分するために来たであろう、何体かのアンドロイドの足音がワタシの耳を刺激した。

 

「さて、仕事を始めようかね」

 

砕いた粒子を手元に集め、一振の刀を形成する。

吸い終わらないまま放り投げた煙草は集うアンドロイド達によって踏み躙られ、その火を消した。




A4ちゃんの身体的特徴
身長170センチ
体重〇〇〇kg
何がとは言わないが、アルファベットは上から五番目。
常人の85倍の筋肉密度のため、体重は重め。だが関節は柔らかく、人間には無理な動きを容易く行うことが出来る。
頭には記憶デバイスが埋め込まれており、あらゆる情報を記憶・保存することが可能。
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