量産型アンドロイドちゃんは、蔓延る女ラスボス達を攻略したい!   作:霧夢龍人

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アンドロイドの餞別

青く澄み渡る空。焼けた臭いと、植物が支配する荒廃した都市。何十年と前は栄えていたんだろうが、現在は見る影もない。

ワタシ達が住んでいる都市“ラグナ”から数十kmと離れたこの場所は、今は後ろ暗い連中達が住処にする日陰の都市だ。

 

そんな中を、ワタシ達は二人でゆっくりと歩いていた。

 

「ねぇナナシさん、アレってなんの植物?」

 

「・・・アレは食獣植物の“ルーミル”だ。近寄って来た動物を食べてタンパク質を吸収するタイプで、ここら辺じゃあんまり珍しくはない。ワタシはタンパク質にする物がないから襲われねぇが。ステラ、お前は気をつけろ」

 

「ひ、人も食べちゃうの!?」

 

「そりゃそうだろ。ま、昔は居なかったらしいがな」

 

くだらない豆知識を披露しながら、目的の都市に向かって歩く。

良く任務で訪れるワタシと違ってステラは物珍しいのか、事ある事にワタシに質問してきた。

 

外に出た事がなかった弊害だろうな。

幸いにもワタシはアンドロイドだから、脳内にあらゆるデータが保存されている。答えられる範囲ではあるが、今のところ全ての疑問に答えてやることが出来た。

 

暫くそうやって歩くこと数十分。

 

「はぁ・・・っ!はぁ・・・っ!ちょ、ちょっと待ってぇ!」

 

「どうした、もう疲れたか?」

 

「もっ、もう無理ぃ!」

 

早くもステラがバテた。地面にどさりと倒れ込み、浅く呼吸を何度か繰り返している。

 

ふむ、なるほど。

どうやら人の体はそう何時間も歩くことを想定されていないらしい。

 

アンドロイドなら丸一日動いていても数分の休憩で全回復するんだがな・・・ここらが限界か。休んであげたいのはやまやまだが、まだ追加の追っ手が来る可能性を考えるともう少し進んでおきたい。

 

やむを得ないか。

 

「ステラ。ワタシの背中にしがみつけ」

 

地面で伸びているステラに手を差し出しながら、ワタシはかがんで背中を見せた。

 

「せ、背中?」

 

「───いいから早く」

 

「わ、わかった!」

 

初めは戸惑っていたがせがむように言えば、ゆっくりとワタシの背中にしがみついてくれた。

追っ手の気配を確認しながら、振り落とされないようにしっかりとステラを掴み、立ち上がる。

 

可動域と重量は特に問題なし・・・と言うより。

 

「軽いな」

 

「っ、悪いかしら!?」

 

「別にそうは言ってねぇだろ?」

 

「〜〜〜ッ!!!」

 

ガンガンと背中を叩かれる感触を感じる。

ワタシはアンドロイドの中でも女型だが、人の女というモノの怒りの琴線が分からない。

 

でもまぁ、こういう事(・・・・・)も理解出来るようになるのが人としての第一歩なんだろうな。

 

「さ、出発するぞ。振り落とされないように、しっかり捕まってろ───よっ!」

 

「え?えぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?」

 

ステラを背中に抱え、全速力で駆け出した。時速にすれば200には届いていないくらいか。

逃げるのに効率もいいし、本当は最初からこうしたかったんだが、如何せん爆弾のことがネックだった。

 

向こう(事業所)の性格の悪さは重々承知している。

だからこそ、爆弾が発動しなかったのは何か狙いがあるのか、もしくは他の原因があるのか知りたいがために数十分ほど時間を置いていた。

 

まぁ、まさかここまで体力が続かないとは思ってもみなかったが・・・これなら追っ手からも逃げれるし、ステラは体力の温存も出来る。爆弾の事だけが未だに気になるが、もうここまで来たら気にするだけ無駄だろう。

 

今は逃げること、それを優先的に考える必要があるからな。

 

「ははっ!風が心地いいなぁ!ステラもそう思うだろ?」

 

「〜〜〜っ!」

 

どうやら走る速度が速すぎて、舌を噛まないようにするのに必死らしい。可愛らしい顔で『喋れないの!』と訴えるステラに、思わず笑ってしまった。

 

にしてもこいつ、まだ幼いくせしてこんなに可愛いなら大人になっちまったらどうなるんだろうか。傾国の美女になることは間違いないが、今はそれが末恐ろしい。

 

おっと、考えが逸れていたようだ。

 

ともかくとして、ワタシ達は追っ手から逃げ延びて身を隠せる場所を探さないといけない。そして都合よく、お尋ね者が隠れ蓑として活用出来る都市をワタシは知っている。

 

───放蕩都市“リリス”。

 

酒と金、そして性欲。あらゆる欲望が渦巻く快楽の坩堝。

繁栄しすぎた弊害によって子を作ることがなくなった人類の、最後に取り残された唯一の楽園だ。

 

それゆえに他の都市からの監視も甘く、快楽や欲望に取り憑かれた者達が歳を闊歩しているため、カモフラージュにもなるだろう。

 

まだ幼気な少女に足を踏み入れさせるのは憚られるが、生きるためには仕方ない。

 

「リリスまであともう少しだ。それまで振り落とされるなよ?」

 

「っ!っ!」

 

「ははっ、何言ってっかわかんねぇな」

 

「〜〜〜ッッッ!!!」

 

まだ数時間はかかるため、暇潰しでステラをからかってみた。

ボコボコとそれなりに強めの打撃で背中を叩かれるが、あんまり痛くは無い。

 

決してさっきの触診の意趣返しではないからな?

だいたいアレは敏感肌なのを申告しなかったワタシが───ッ!

 

「あっぶね!?」

 

頬を掠めた衝撃。速度と大きさから参照して、恐らくスナイパー弾。

もしあと一歩でも気付くのに遅れていれば、そのままドパンと撃ち抜かれていた。

 

立ち止まって下手人の方角を確認する。

 

「っぷは!大丈夫ナナシさん!?」

 

「あぁ、ただのかすり傷だ。とはいえ、直撃したら即お陀仏だな」

 

辺りは砂に埋没したビルやマンション群がある。

身を隠しながら攻撃するのはうってつけだが・・・ふむ、そこか。

 

「バレバレだよ、アホが」

 

無駄に大きな胸の中に収納していた手榴弾のピンを引き抜き、目的の場所へ投げ込んだ。

 

「っしゃ、一人撃破ぁ!」

 

「・・・おっぱいでか」

 

ただの人間ならいざ知らず、ワタシはアンドロイド。

熱源感知を備えている視界には、爆発に巻き込まれて完全に沈黙した対象が写っている。

 

しかしその影が、徐々に大勢に分裂した事でワタシは口角をヒクつかせた。

 

「目的は足止めってとこかね。はてさて、お前達の顔はいい加減見飽きたぞ。同胞(シスター)共よぉ」

 

数は十人。皆ワタシと同じ顔をしているが、その瞳には光が宿っていない。

 

「ひぇっ、ナナシと同じ顔がいっぱい・・・ちょっと気持ち悪い」

 

「どういう事だコラ」

 

ったく、ステラは緊張感がなさすぎる。だがまぁ、これからショッキングなものを見るんだ。多少は楽観視してくれる方がありがたいかもな。

 

依然として背中にステラを抱えたまま、ワタシはスラリと粒子形成刀(パーティクルソード)を構えた。

 

「なんの用か知らねぇが、生憎とワタシ達は愛の逃避行(ランデヴー)中でな。お前たちに用はねぇんだよ」

 

周囲を睥睨をしながら突っぱねると、一人のアンドロイドが前に進んで口を開いた。

 

『いいえ、ワタシ達は貴女に用があるのです─── “OmN.A4”。貴方は重大な規律違反を犯しました。しかし、今回だけその規約違反を許す条件があると言えば、貴女は呑みますか?』

 

「へぇ、随分お優しいこった。それで条件は?」

 

『簡単です。貴女の後ろにいるその魔女を殺しなさい。もしくは、ワタシ達に引き渡すか。どちらかをして頂けるなら、普段の貴女の働きに免じて今回の件は不問にします』

 

「なるほどな・・・」

 

「えっ!?嘘でしょナナシ!?」

 

案外悪くないな、と考え込むワタシに驚いたのか、翡翠の瞳を極限まで見開いていた。

周りのアンドロイド共もワタシの様子を見て条件を呑むと思ったのだろう、全員の銃口が逸らされる。

 

───その瞬間にワタシは動いた。

 

感情の起伏を感じさせない顔へ、粒子形成刀(パーティクルソード)をぶん投げでやった。常人の85倍からなる筋肉から放たれる刀の威力は、パンッという乾いた音ともに頭を消し飛ばした。

 

“アンドロイドは頭を吹き飛ばされると死ぬ”、常識だ。

 

「くはっ、ストライクつってなぁっ!」

 

吹き飛んだ脳漿と共に戻ってくる刀を、統制の取れていないアンドロイド達目掛けて振り下ろす。

 

『っ!やはり貴女は危険分子です。即刻排除「木偶の坊共がうるせぇなぁ!」』

 

ライフル銃を顕現させそうとした木偶の坊の首を切り落とし、背後から放たれた弾丸を全て刀で斬り捨てる。

ステラに当たらない程度に、避け切れないものは他のアンドロイド達目掛けて逸らして無効化した。

 

『なっ、出鱈目な!?』

 

「それが遺言か」

 

球を撃ちまくった奴は戸惑った顔でワタシを見つめる。まるでバケモノとでも言いたげだなぁ?

 

だが、ワタシを殺戮兵器(バケモノ)にしたのは上の連中だ。提供事業所の大本である、人型兵器製造施設“エヌマ”。ワタシの産みの親であり、全てのアンドロイド達の製造を行う施設。

 

なぁ、分かるだろ?姉妹達(シスターども)

バケモノであるワタシを産み出し、殺戮兵器にしたのは更なるバケモノ共なんだよ。

 

別に復讐しようとも報復しようとも思わねぇが、ワタシの───いやワタシ達の邪魔をするってなら。

 

「あばよ」

 

───機構変化(モードチェンジ).type_AR(アサルト)

 

殺戮兵器らしく殺してやろうじゃねぇか。

 

☆☆☆

 

「くそっ!クソクソクソッ!!!」

 

薄暗い部屋。その中心では白衣を着た男が頭を掻き毟りながら、充血した眼差しで画面に映るアンドロイドを見ていた。

 

くすんだ灰色の髪と、金色の瞳。見た目はなんら普通のアンドロイドと変わりないが、黄金を蓄えた瞳は確かな強い意志を感じさせた。

 

異常個体、突然変異、イレギュラー等など、白衣の男が所属する組織である“エヌマ”の面々ですら想定のつかない現象。すなわち意志の獲得。

これまでのアンドロイドならば持ちえないモノに、当時の科学者たちは大変頭を悩ませた。

 

意志を持たないアンドロイドはただのアンドロイドだ。

では、意志を持つアンドロイドは?

 

「制御装置は付けたはず、時限爆弾も解除はされない。そのはずなのに・・・何故、何故生きているんだッ!!!」

 

分からない。何もかもが分からない。

今彼の脳を支配しているのは、当初から危惧されていたA4の離反、そして生存という大きな問題だ。

 

死したアンドロイドの瞳から遠隔的にA4を見れば、彼女はどこからか取り出した煙草を吹かして死体の上に座り込んでいる。隣には困惑しつつも彼女を労わるように優しく微笑む魔女がいた。

 

なんて事態だろうか。

 

一介の研究者でしかない彼には、もはやこの先どうなるかすら想像出来なかった。

 

「へぇ、やっぱりあの子生き残ってたんだぁ」

 

刹那、科学者の部屋に女性の声が響く。

彼はその声に聞き覚えがあった。

 

なぜならその声の主こそ───。

 

「流石、私の娘だわぁ。あんなに逞しくなっちゃって」

 

───件のアンドロイドの、 生みの親であるからだ。




ナナシの苦手な物は虫と幽霊。
特に幽霊は銃火器が効かないので、普段の草臥れた様子からは想像出来ないほど狼狽えてしまう。
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