量産型アンドロイドちゃんは、蔓延る女ラスボス達を攻略したい!   作:霧夢龍人

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アンドロイドの揶揄い

周りに広がる砂漠地帯。砂塵と砂丘に埋もれたビル群からは、冷たい風が競うように走る。

 

焚き火の炎が唯一の生命線だ。

 

血なまぐさい場所から少し移動して、ビルとビルの間の僅かな空間で寛いで焚き火の煙を隠しながら、ワタシ達は少し休憩をとることになった。

煙草が恋しくなっていた頃合で、誰かから押収したであろう噛み煙草が姉妹達の内蔵型収納機器(ストレージ)から出て来たのも都合がいい。

 

ワタシはニコチン中毒なんだ。好みのヤツではないが、しっかりと味あわせて貰っておこう。

 

「ふぅ・・・」

 

白煙を燻らせながら、すっかり暗くなった空を見上げる。

息を吸って吐く度に濁った煙が肺を通っていくのが分かった。やっぱり戦闘した後に吸う煙草ほどうまいものはねぇな。

 

「あ、あのさ」

 

焚き火を囲んでいたステラが、煙草を嗜むワタシを見つめる。

そして少々躊躇したように目尻を下げながら、話を切り出した。

 

「今日は私散々ナナシ、さんに助けて貰ったじゃない?」

 

「ん?まぁ助けたことになる、のか?」

 

「た、助けて貰ったから!・・・でもその、私ってまだ子供だし。恩のある貴女に返せる事ってあるのかなって考えてて。それで、さ」

 

「それで?」

 

「───か、かかからだっ、とかどう、かなっ!?」

 

「・・・は?からだ?」

 

ワタシが疑問符を浮かべながら確認すれば、顔を俯かせて頷くステラ。

 

おーけい、一先ず落ち着こう。

 

子供の癖に一丁前に“恩”だとか抜かす生意気さと、思いの外悩んでそうな真剣そうな顔付きとかは置いといて。

 

無い胸を気持ち張りながら恥ずかしそうに身体と宣う少女の姿は、ワタシからすれば少し・・・やばい、少し笑いが込み上げてきた。

 

「むぅ、なんで笑うのーっ!」

 

「あははっ、悪い悪い!いやぁ、ずいぶんと大人っぽいことを言うもんだと思ってな。大体ワタシみたいな身体なら兎も角、ステラみたいな子供体型の奴に身体とか言われても、正直笑いしか起きねぇよ」

 

そう言ってあーおかしい、と肩を震わせて笑うワタシにステラは不機嫌そうに顔を膨らませた。

 

煙草を持つ手から灰がヒラヒラと落ちる。ジワジワと白い部分が焼かれて吸殻になっていくのも気にせずに、一頻り笑っていた。

 

「ふんっ、子供体型で悪かったわねっ!」

 

頬っぺをフグのように膨らませてぷいっとそっぽを向くステラ。怒った顔も可愛いとか反則だな、とワタシは思いつつも笑いすぎたと少しはんせいした。

 

だがまぁ、見た目完全にロリっ子でしかない少女がそんな事言っても正直困るだけだ。

 

「待て待て、ワタシも悪かった。勇気を出したのに揶揄ったのは悪かったって」

 

「むぅ、魔女って全員見た目こんなのだからしょうがないじゃない・・・あーあ、私も本格化出来ればなぁ」

 

と、ボヤくステラを眺めながら心地よい夜風に身を当てる。いや、なんならちょっと寒いな。

 

アンドロイドの身体は便利だが、体温調節機能が存在しない。その癖寒さは感じるのだから、今の肌寒さにおいては少し不便だ。その代わりとして寒さや暑さにはある程度の耐性はあるが・・・砂漠の夜は寒過ぎる。

 

焚き火があるから今はまだ大丈夫だが、これ以上冷え込むとワタシは兎も角ステラは命の危機に瀕するだろう。

 

現にそっぽ向いて距離を置くステラの身体は少し震えていた。

 

───子供の癖に身体捧げるのか、なんて笑うだけでステラの事を気遣えてなかったワタシの方が、よっぽど子供じゃねぇか。

 

分かってた筈だ。人とアンドロイドが違うことは。

それが例え魔女と言え、アンドロイドと比べたら間違いなく人に近いだろう。

 

なのにワタシは・・・。

 

「なぁ、ステラ」

 

「っな、なに!?」

 

「いやその、なんだ。確かにワタシは今のステラの体型はそこまで興奮しない・・・というか、一切興奮しねぇ」

 

ステラの反応を伺う。

病的なまでに白い肌がみるみるうちに林檎のように赤くなり、目元にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 

ワタシはそんなステラにゆっくりと近付いて、涙を拭う。

 

「へっ?」

 

「でも将来、ワタシ好みの美女に成長するかもしれねぇ。なら今のうちに粉をかけとかないと、な?」

 

そう言ってステラを立ち上がらせた後、ワタシは腰に提げた粒子形成刀(パーティクルソード)を人一人が収まる程度の毛布に変化させ、その毛布をステラに被せた。

 

そして、少しでも寝心地が良さそうな場所で横になる。

 

「どうだ、これで少しは温かいだろ?」

 

「・・・うん」

 

「まだ寒いか。ほら、もっと近くに寄れよ。ワタシが直々に温めてやる」

 

「あ、ありがと・・・でも私、そういう事初めてだから優しく痛っ!?」

 

「バカヤロウが。何不埒なこと考えてんだ。てかそもそも、お前にそんな事吹き込んだ阿呆は誰だよおい」

 

ワタシはため息を吐きながら、ほんの少しだけ力を込めてデコピンしてやったステラの額を擦る。

すると少し恥ずかしそうに、ステラの所属していた研究室の魔女達の間で、“そういう事”が流行っていたらしい。

 

まぁ、他に娯楽も何もないから三大欲求に正直になるのは分かるが・・・こんな小さな子供にそんなこと教えるかね?

 

「む、何を考えてるか知らないけど、私今年で18歳だよ?」

 

「なっ、じゅうはちぃ!?」

 

と思ったら、とんでもないカミングアウトをされてしまった。ワタシの4倍以上あるじゃねぇか!?

 

「ふふん、分からなかったでしょ?魔女は普通の人より成長が遅いの。その分寿命は長いし、“本格化”すれば大人の見た目になれるから不便ではないけどね」

 

「ま、まじか・・・なら、成長が楽しみだな」

 

「うん!きっとナナシさんもメロメロになっちゃうくらいの大人になるよ?」

 

「ふふっ、そうだといいなぁ?」

 

そこまでワタシが生きていたらいいんだが。

酷な話になるが、アンドロイドの寿命は非常に短い。ワタシは4年は生きてるから、残りは後2から3年と言ったところかね。

 

でもそれを伝えるつもりはねぇ。

 

「ほれ、早く寝るぞ。明日も早いんだ」

 

「分かった!・・・あ、あとね?」

 

「ん?なんだ」

 

「もっと───近づいてもいい?」

 

そう言って、上目遣いでワタシを覗く瞳。

翡翠に縁取られた濃淡のある綺麗な瞳は、星々と篝火の緋色に彩られてキラキラと輝く。

 

ただ断られるかと不安げに揺れる視線が、ワタシの心を刺激した。

 

「おいおい、そうやって甘えてるうちはワタシをメロメロに出来るような大人にはなれねぇぞ?」

 

綺麗な瞳を見ると吸い込まれそうで、思わず目を逸らしながらからかってしまう。

 

お、おいおい落ち着けよ自分!

相手はガキだぞ?なんで大人であるワタシがちょっと照れてるんだ。

 

なんて自分に言い聞かせるが。

 

「い、いいじゃん!・・・駄目なの?」

 

「うっ」

 

吸い込まれそうな翡翠の瞳に、我ながら情けなくも陥落してしまった。

 

「分かった分かった、降参だ。好きなだけ抱き着いて来い」

 

「ふふっ、やったぁ!」

 

肩を竦めてヒラヒラと降参のポーズを取るや否や、ギュッと抱き着いてくるステラ。女特有の柔らかい身体の感触が押し付けられ、少々面食らう。

 

落ち着け、落ち着くんだワタシ!何度も言うが相手は子供も子供だ。

大人で経験豊富である筈の自分がこんなに狼狽えてどうす───いや待て。そういえばワタシ、今まで性的行為に及んだ事はなくないか?

 

アンドロイドとして備えている知識で記憶として蓄えているだけで、四年ほど生きてきた中で一度も実践した事がない筈だ。

 

つまり経験豊富(仮)のようなものだ。

 

・・・なんだこれクソの役にも立たないじゃねぇか!

 

と、頭の中で悶々としていると、隙間なくギュッとワタシを抱き締めたステラが胸元でそっと呟いた。

 

「ナナシさんって、温かいのね」

 

「あ、あぁ。そうか?ワタシはアンドロイドだから寒さには強いが、自分自身が温かいと思ったことはねぇけどな」

 

「んーん違うの。体温もそうだけど、態度というか性格というか・・・心が温かい。そう思う」

 

「なんだよそりゃ」

 

「お姉ちゃんとか妹みたいな家族以外で、こんなに温かいと思った人。私は初めてだよ?」

 

なんだ、それ。

ワタシからすればよっぽど、ステラの方が人間味に溢れていて温かい。

 

それにステラは一度殺しかけたワタシを許し、そのまま一緒に旅に連れて行くような子だ。天真爛漫と言うべきか、穢れをあまり知らないと言うべきか。

 

少なくとも、この少女の可憐な表情を汚すようなことをしたくない、とワタシは思う。それにどうせ残り少ない寿命なんだ。一人の少女と過ごすのに使うのだっていいだろ?

 

だからワタシは───。

 

「そうか。なら、ワタシが一生傍に居て温めてやるよ」

 

「っ、ほんと?」

 

「あぁ、どの道規約違反して追われてる身だ。ガキ一人一生かけて守るくらい大差ねぇさ」

 

「───嬉しい、ありがとう」

 

文字通り、ワタシの短い一生で。

自分の名前とか存在意義とか欲しいものは沢山あるが、第一に守るべきものはこの子だ。

 

もしステラが居なければ、ワタシは今頃事務所に帰って培養液の中で休んでいるか、もしくは煙草を吸って黄昏ている頃だろう。たった一人で。

 

だからワタシが守らなければならない。大人であるワタシが、子供であるこの子を。

 

何もおかしい事じゃない。それが子供を預かる大人の責任ってもんだ。

 

「やっぱり、ナナシさんはあったかい」

 

「ナナシでいい」

 

「ふふっ、ナナシはあったかいね」

 

「・・・さてな。良い子は寝る時間だぞ?」

 

とっくに焚き火は消えていた。





「ナナシさんって、おっぱい大きいよね」

「なんだよ、揉みたいのか?」

「べっ別にそうは言ってないじゃない!?」

「なんだ、揉みたいなら揉んでいいって言おうと思ったのに」

「え、いいの!?」

「ふっ、ばぁーか。お前にはまだはえーよ」

コツン、とまたデコピンの音が響いた。

───
──


的なやり取りがあったとかなかったとか。
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