英雄伝説 天の軌跡 (完結済)   作:十三

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話が上手い具合に進まない事に昨今悩み始めた十三です。
先日この作品の評価を見た時にエラい事になっていてビックリしたので、皆様方の期待を裏切らないように頑張っている最中です。


私の「閃の軌跡Ⅱ」におけるレギュラーメンバーはリィン、フィー、ラウラ、エマです。控えとして、サラとエリオット(あとたまにアリサ)ですかね。後半における委員長のアーツの強さがマジで神がかっております。足を向けて寝られません。

ケルディック編では後方支援をエリオットとアリサが担っておりますね。
頑張れ! 二人とも!


実習任務、始動

 

 

「レイ、チェンジして。あの二人の相手とか、ホントに無理」

 

 

 

 4月24日、”特別実習”当日の朝。

 リィン、レイ、アリサ、エリオット、ラウラの組み合わせとなった実習A班は、第三学生寮の玄関前で集合してから各々の体調などを確認し、そのままトリスタ駅のホームへと向かった。その際に、先に到着していた実習B班に振り分けられていたフィーが、レイに駆け寄ると共に耳打ちをしてきたのが、そんな言葉であった。

その視線の先にいるのは、本日も本日で通常駆動の仲の悪さをこれでもかと見せつけている金と緑の二人組。わざわざ互いが確認できる距離に立って不機嫌な顔で背中を見せているところを見ていると、毎回レイの中で「お前らホントは気が合うんじゃねぇの?」という疑問が浮かんで来てしまう。

 しかし、これからこの二人という名の一触即発の時限爆弾を抱えて実習地に向かわなくてはならない面々にとっては死活問題らしく、フィーは元より、エマもガイウスも、どことなく元気がないように思えた。これでは、先のフィーの懇願も、ある意味仕方のない事だと思えてしまいそうになった。

 だが、これは学院長も公認してしまった正式な課外授業である。今更その内容を変更する事などできないだろうし、よしんば班の振り分けが決まったあの場で抗議をしたところで、サラに上手い事躱されていたのは目に見えている。

確かに不幸だとは思い、同情の念も湧いてくるが、だからといって目の前の嫌な事から目を背け続けたままではきっと成長など望めないだろう。そういう意味合いも含めて、レイはフィーを軽々と持ち上げると、エマの前まで持っていった。

 

「委員長、フィーを頼むぜ。厳しい実習になるだろうが、頑張ってくれ。あぁ、勿論ガイウスもな」

 

「あはは……はい、フィーちゃんの事は任されました」

 

「承知した。俺にどこまで務まるか分からないが、ともかくできるだけやってみよう」

 

 二人に激励を送っていると、フィーがジト目のままじっとレイを睨んで来た。

 

「……レイの薄情者」

 

 その一言だけで抗議の意を示してきたフィーの頭を軽く撫でる。

 

「無理だ、なんて思わないでやるだけやってみろ。帰ったらウマいモン食わせてやるから、な」

 

「……ホント?」

 

「ホントだ。ま、そんなわけだから頑張って来いや」

 

 そう言ってレイが手を離すと、フィーは少し俯いたまま、「……ん。頑張ってみる」と呟いた。

それを見ていた一同(ユーシス&マキアスを除く)が、張り詰めていた雰囲気も忘れて微笑ましい笑顔で二人を眺める中、リィンとアリサが小声で会話を交わしていた。

 

「なぁアリサ、やっぱりあの二人って……」

 

「えぇ、そうよね。どうみても……」

 

「「親子だな(ね)」」

 

 

 

「聞こえてんぞ、そこの黒金コンビ」

 

 

 

 めでたく今朝方仲直りしたばかりの二人の方を見て睨み付けるレイ。兄妹と言われるのは慣れているものの、親子と言われるのは流石に許容できなかった。

それほど親しいように見える、という意味で言われるのなら百歩譲って許すとしても、行動が老けて見える、という意味での発言だったのならとりあえずリィンはボコボコにする、という旨をドスの利いた声で告げると、二人は揃って高速で首を横に振った。

 

「そ、そう言えばお二人は仲直りをしたんですね。良かったです」

 

 話題を変えるようにエマがそう言うと、フィーやガイウスもはた、と気付く。昨日までは幾分距離が開いていたはずの二人が、今は普通に会話を交わしているのだ。

しかし、一瞬不思議には思っても、疑問には思わない。Ⅶ組メンバーの誰も彼もが、この二人の不和は長くは続かないと、そう確信していたからだ。

 実際、レイが今朝方起きて、集合場所である寮の一階エントランスに赴いた時は既に関係は修復していた。アリサが自分のやりすぎた行動を認めて謝罪し、加えて助けてくれた事に礼を言う。それに対してリィンは自分も無意識とは言え女性に対して失礼な事をしてしまったと、至極真面目に言葉を交わしあったのだと言う。レイが「遅い」と茶化すと、二人は揃って苦笑したのである。

 

 どんな経緯であったかなどはさておき、これから学院を離れて共に行動をするという時に不和を解消できたというのはとても大きな事だった。

レイの言う通り、多少遅くなった感じは否めないが、それでもまだ充分マシな方だろう。あの(・・)二人に比べれば。

 

「…………」

 

「…………」

 

 もはやそこに突っ立っているだけのただの彫像なのではないかと思ってしまうほどに微動だにしないマキアス、ユーシスの両名。

しかし、始発列車到着予定のアナウンスが流れると共に、ようやく動き始める。それでも頑なに、顔を合わせようとはしなかったが。

 

「……もはや筋金入りだな。アレは」

 

 ラウラがポツリと放ったその一言に、全員が頷く。

その後、いくらか気分が晴れた様子のエマ、ガイウス、フィーも二人の後を追ってホームへと向かっていった。

 B班が向かう実習先の紡績町パルムは、帝国領土の中でも最南端に位置する場所であり、道中も一度帝都を経由して乗り継ぎをしなくてはならず、始発の列車に乗っても到着するのは恐らく夕方頃だろうとエマは言っていた。それを考えれば、A班の実習地であるケルディックはトリスタと同じ帝国東部。クロスベル行きの旅客列車に揺られて1時間と言ったところである。距離的には充分に恵まれているとも言えた。

 

「よし、それじゃあ俺たちも行くか」

 

 リィンのその言葉に従って、A班の面々もホームへと向かい、到着した列車に乗り込んでケルディックへと向かう事となった。

 徒歩で向かえば半日はかかる距離も、文明の利器である列車に乗れば瞬く間に着いてしまう。この時代に生まれた事に改めて感謝しながらレイたちは、リィンが先日手に入れたという『ブレード』と呼ばれるカードゲームで遊びながら和気藹々と時間を過ごしていた。

 

「よし、”ミラー”だ。これで逆転したぞ、レイ」

 

「アホめ、”ミラー”返しだ。甘いぜ、リィン」

 

「うっ……な、なら”ボルト”でその”7”のカードを―――」

 

「はいよ、”1”だ。少しはポーカーフェイスを嗜んでるようだが、まだまだ未熟だな」

 

 ”1”のカードの特殊効果で”ボルト”で封じられた”7”のカードが復活すると、リィンは苦笑いを残して手札のカードを全てバラす。逆転するに足りるカードは、残されていなかった。

席に座れる人数の関係上、リィンらの座る四人掛けの座席ではなく、通路を挟んだ隣の座席に一人で座ったレイは、靴を脱いで二人分の座席にうつ伏せで横たわりながら悪戯っぽい笑みを浮かべて自分の手札を返す。

 

「つ、強いね。レイ」

 

「うむ。まるでこちらの手札がすべて見透かされているかのような試合運びだ」

 

 同じくレイとの勝負に敗北したラウラとエリオットがそう言うと、当の本人は座席の肘掛けに顎を乗せながら、「当たり前だ」と言い放つ。

 

 

「前にいた所だと、潜入任務なんか日常茶飯事だったからなぁ。マフィアの幹部の動向探るためにカジノに潜り込んでディーラーの真似事とかよくやったし」

 

「え?」

 

「あー、でもイカサマ摘発した時に数十人のマフィアの構成員に囲まれた時はちと焦ったな。あん時は刀持ってなかったからメンド臭かった」

 

「えっと……」

 

「あいつら全員プロだからよぉ、一瞬でも目を離すとすぐイカサマしやがるんだよ。カードゲームは特にそれが顕著で―――」

 

 

 

「よし次行こう次! アリサ、勝負だ!」

 

「え、えぇ! 負けないわよ、リィン!」

 

 

 

 思い出を話すたびに段々と右目から光が無くなっていくレイの暴走を止めるために、無理矢理テンションを上げて勝負を続けるリィンとアリサ。エリオットは嘘ではないと分かる口調で語られたその過去話に青い顔を見せ、ラウラに至っては「武器を持たぬ者を複数人で襲うとは……卑怯な」と、一人だけ視点の違う場所で憤っていた。

 始発で貸し切り状態とは言え、発車間もなくやや不可思議な空気に侵されてしまった車両。少しばかりその雰囲気が停滞した後、そこに静かな靴音が響いた。

 

「あらあら、何よこの空気。レイ、アンタまた何か言ったでしょ」

 

 その声に驚く事もなく、レイは寝転がったまま首だけを怠そうに動かして答えた。

 

 

「失敬な。俺はただクロスベル時代の仄暗い思い出を語っただけだぞ。流れで」

 

一般人(カタギ)にそういう事教えるんじゃないわよ。アンタのは特に心臓に悪いのが多いんだから」

 

「んだと? クロスベル支部の新年パーティーのカオスさに比べればマシだ。ガチで死屍累々だったんだぞ、あの時」

 

「アタシだって聞きたくないわよそんな事。いいから、いい加減にしなさいっての」

 

 コツンと、頭に軽い拳骨が入れられる。それを受けて渋々と座りなおしたレイだったが、他の面々は、その闖入者に対して疑問を抱かないほど達観した感情を持ってはいなかった。

 

 

「サ、サラ教官!?」

 

「ど、どうしてここにいるんですか!?」

 

 

 前日に相も変わらず酔っぱらいながら「アタシは同行しないからね。頑張って~」などと言っていた飄々とした担当教官が今ここにいる事に驚くリィンたち。

 だが、その理由を問う前に、欠伸を一つ漏らしながらレイが口を開いた。

 

「大方最初の実習の説明役ってトコだろ? ケルディックは何回か行ったって言ってたしな」

 

「ま、そんなトコよ。宿にチェックインするまでは君たちの面倒を見てあげるわ」

 

 それは初めての体験をしようとしている彼らにとっては願ってもない事ではあった。そもそも”特別実習”という課外授業で具体的にどのような事を為せばいいのかなどの事柄を聞けるのは大きい。

しかしそれ以上に懸念している事を、全員を代表してリィンが言った。

 

「あの、俺たちよりもB班の方に行った方がいいんじゃ……」

 

 未だ”友情”と呼ぶには至っていないとは言え、A班の結束力はとりあえずマシと言える高さである。たとえ初見の地へ赴こうとも、どうにか対処できる程度の技量は兼ね備えていると言っても過言ではないだろう。

だが、B班は違う。あのメンバーはもはや苦行と言い換えてもいい組み合わせで成り立っており、ここにいるメンバーですら黙っていたら心配をしてしまいかねないほど危うい旅路を辿っているはずなのだ。順当に考えればサラはB班の方へと赴くのが道理と言うものだろう。だが彼女は、一切悪びれていないような表情で言葉を返す。

 

「えー、だってメンド臭そうだし。まぁ、どうにもならないくらい険悪になったらフォローしに行くつもり―――痛っ!?」

 

 限りなく確信犯に近いセリフを言い終わろうとした直前、サラの体が若干くの字に折れ曲がった。なんとか踏ん張った後、背中の中心をさすりながら振り向いてレイをキッと睨み付ける。

 

「ちょっとアンタ! 今秘孔押さなかった!? 一瞬息できなかったわよ!?」

 

「うん、とりあえず少しは悔い改めた方が良いと思うんだわ、俺は。主に委員長やガイウスに対して」

 

 その言葉に四人が思わず心の中で頷いてしまう。フィーはまだしも、あの二人の今回の心労を考えただけでも少し陰鬱(いんうつ)な感情が沸き起こってしまい、いたたまれなくなった。

レイはそれを代弁するだけすると、サラの訴えも何のそので背もたれに体を預けて一息をつく。

 

「……何よ。アタシが来たのが不満?」

 

「いや。だけど早くパルムの方にも行ってやれよ? あのままだとアイツら、取り返しのつかない事になりかねないしな」

 

 割と本気で心配している様子のレイを見て、溜め息交じりに「分かってるわよ」と了承するサラ。そしてそのまま、レイの隣の席に腰かけた。

 

「え? 何で俺の向かいじゃなくて隣に座ったん?」

 

「良いじゃないのよ。アタシ徹夜続きで今凄い眠いんだから。ちょっと肩貸しなさい、肩」

 

「いやお前基本的にどこでも寝られ……ってもう寝てる!! 幾らなんでも早すぎんだろ!」

 

 肩を貸した(半強制的に)直後には既に寝息を立てていたサラの異常なまでの寝つきの良さに律儀にツッコミを入れたレイだったが、その後は特に押しのけて寝かすという事もなく、そのままサラの為すがままにされながら座っていた。

その様子を見て女子勢は身長差もあって肩どころか側頭部まで貸して寄りかかられているレイを見て同情の視線を向け、逆に男子勢はサラの方に視線を向けて少しばかり心を乱していた。

 まぁそれも仕方ないか、とレイは思う。

サラは普段こそ万事適当に自由奔放に振る舞っているせいで気付かない人間は意外と多いのだが、容貌、容姿はかなりレベルが高いと言って差し支えはない。若く、スタイルも良いためか、黙っていれば世の異性の大半の視線を集める事はできるだろう。

そのチャンスをこの酒豪家は、その残念な性格のせいで悉くふいにしているのである。今のように淑やかにしていれば、好みの異性くらい幾らでも魅了する事ができるだろうに。

 

 

「(絶対損してるよなぁ、コイツ)」

 

 

 年下とは言え”異性に寄りかかって寝る”という行動を起こしたサラの思惑など知らぬまま、レイはケルディックに到着するまで黙って肩を貸し続けていた。

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 交易地ケルディック。

 

 帝国東部クロイツェン州に属するその町は、その名の通り、古くから交易が盛んな地として栄えてきた。

近郊に広がる肥沃な大地と温暖な気候が農作物の実りを豊かにし、それらが直接卸される事で商売が盛んになったという歴史もあるが、最も重要なのはこの地が各大都市との中継地点となっている事だろう。

 帝都ヘイムダルと東部の大都市バリアハート、更には貿易都市クロスベルへの直行便も用意されている事からも、この地の産業的価値の高さが窺える。

そんな土地だからこそ、東部近郊は元より、国外からの輸入品も集まりやすくなる。そしてそれらが売品として一堂に会するのが、ケルディックで一年を通して開催される『大市』だ。その一年間の総売上高は帝都の高級デパートのそれを上回るとされている事からも、その繁盛っぷりが窺い知ることができる。

近年は益々ここでの商いを求めてやってくる商人や、大市狙いの観光客なども増え、賑わいも増しているという。故に、観光を名目として訪れるのならば特に問題もなく楽しむ事もできたのだ。

 

 ―――そう、あくまでも”観光”が目的ならば。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、次は手配魔獣の討伐か」

 

 手に持った紙に書かれていた内容に目を通しながら、先頭を歩いていたリィンがそう呟く。改めて確認するようなその言葉に、後ろを歩く四人がそれぞれ返事を返す。

町の東側のゲートを潜った先に広がる、通称『東ケルディック街道』と呼ばれる場所をぞろぞろと歩いていく一同の手には、それぞれの武器が握られていた。

その最後尾を歩くレイは左手で愛刀の鞘を持ちながら、周囲に広がる広大な穀倉地帯へと視線を向ける。

季節は春であるためについ数日中に種が蒔かれたと思われるここいらの畑の色は一面土色であったが、それでも雄大な自然の息吹は感じられる。その心地よい風を一身に受けながらも、レイはここに至るまでの経緯を思い出して、思わず苦笑してしまった。

 

 

 つい数時間前、ケルディックに到着してサラに案内された一夜を過ごす宿、『風見亭』へと辿り着いた一行を待っていたのは、五つ(・・)のベッドが並んだ宿場の一室と、そこの女将から譲り受けた”特別実習”の詳細が書かれた紙の入った一枚の封筒だった。

 

 男女共に同じ部屋(ベッドは男女別で一応離れて設置されていた)で一夜を過ごす事に当初強い抵抗感を示したのはアリサだった。

しかしそれも当然の事。普通に考えれば年頃の男女が部屋を同じくして寝るなど有り得ない事である。少なくとも、彼女が今まで培ってきた倫理観の中ではそれは確たるものだったのだろう。

だがその訴えに苦言を呈したのは、意外にも同性のラウラだった。

 「”軍”とは昔から、男女を問わず寝食を共にする環境」。彼女が真剣な表情と共に言ったその言葉に、アリサは口を噤んだ。

アリサは元より卒業後に軍人の道を進む気はないものの、しかし士官学院に籍を置いている以上、自分の訴えが罷り通る事はないと理解し、”何かあった場合”として男子一同を軽く脅した後、話は本題へと移り変わった。

 

 ”特別実習”の内容―――そう称して女将であるマゴットがリィンに渡した封筒の中の紙に記されていたのは、『ケルディック周辺200セルジュ以内で執り行う事』という注意書きと共に連なっていた、三つの実習内容だった。

 『薬の材料調達』 『壊れた街灯の交換』『東ケルディック街道の手配魔獣』―――お使いじみたものから雑用、果ては魔獣討伐まで、良く言えば広範囲に用意された依頼、悪く言えば何でも屋と言った風なその内容にエリオットやアリサなどは落胆したような感情を漏らしたが、リィンやラウラはそれを真摯に受け止めていた。

 即ち、「こうした実習内容からどのようなものを得るのか、それを考えるのも含めての”実習”」。その考え方は実際間違っておらず、サラも意味ありげな微笑を浮かべたまま何も言わなかった。

レイも早々にその考えに至ったリィンの洞察力の高さに感嘆の息を零し、宿に到着して早々に酒場のカウンターで地ビールを昼間から呷っていたサラの脳天に少々強めのチョップを叩き込んだ後に、彼らに着いて宿屋を後にした。

 その後はアリサらも実習内容に際して文句を言う事もなく、気合を入れて依頼の遂行に臨んでいた。そのお陰か、礼拝堂の教区長からの依頼であった薬の調達や、武器工房からの街灯の交換依頼も早々に片づける事ができ、『風見亭』で昼食を摂った後に最後の依頼に向かう事になったのである。

 

 

「(しっかしなぁ……)」

 

 

 一人につき一枚ずつ配布された実習内容が書かれた紙をもう一度ポケットから取り出して確認するレイ。今になって改めて眺めてみると、そこに書かれていた依頼の内容は、彼にとって馴染みの深いものであった。

任務地を歩いて行動しろという所も、また似ている。

しかしそれを、敢えてサラの前では指摘しなかった。ただ単純に、「指摘しなさいよ」と言わんばかりのドヤ顔をした彼女にイラッと来たという理由もあったが。

 

「(余りにもあからさま過ぎる(・・・・・・・・)っつーか、コレ気付く奴は気付くだろ)」

 

 勿論、レイには経験者としてリィンたちにこういう手合いの依頼のこなし方をアドバイスする選択肢もあった。というより、そうした方がもっと効率よく依頼をこなす事もできただろう。

依頼主への対応や近隣住民への聞き込み。街道に出て任務をこなす際の注意事項や魔獣に囲まれた際の集団行動の仕方など、それこそ挙げてしまえばキリがない。リィンたちは初めての試みにしては随分と上手くこなしていたように見受けられたが、未だ要所要所に無駄な行動が垣間見える。そこを指摘し、よりよい行動が取れるように誘導する事は、彼にとってそれ程難しい事ではない。

 だがレイは、リィンたちの行動に口を挟む事はなかった。決して意地悪をしたとかそう言う事ではなく、その姿に、自分が初めて依頼を受けた時の初々しい行動を重ねていたのである。

最初の内は、上手くいかないのが当たり前。それでも試行錯誤を繰り返し、どうにか依頼主が望む結末へと繋げていく。その過程は、誰かに茶化されて邪魔されるべきものではない。

 無論、最悪の状況に陥りかねない事になったら口も手も出すつもりではあったが、今のところは順調であった。その過程を見て改めて、Ⅶ組に集った面々、少なくともこのA班のメンバーが優秀であることを実感したのである。

 

 

「――――ねぇレイ。レイってば」

 

「んぁ?」

 

 周囲を見渡しながら思考に耽っていると、右斜め前を歩いていたアリサが声を掛けてきた。

 

 

「今朝の事も含めて少し気になったんだけど……あなたとサラ教官って、一体どういう関係なの?」

 

 

 アリサの言い放ったその何気ない疑問に、他の三人もピタリと足を止める。

どうやらそれについてはレイを除いたA班全員が気になっていたらしく、休憩の意も含めて街道脇の大樹の木の下へと移動した。そこでそれぞれが備え付けてあった木製のベンチに腰掛けると、レイの方へと興味深々な目を向ける。どうにも話さなくては収まらないようなその雰囲気に、軽く諸手を挙げて降参の意を示すと、大前提として何を聞きたいのかを問うた。

 

「で? 何が聞きたいんだ? なるべく答えてやるから手早く済ませろ」

 

「……険があるね、レイ」

 

「いやまぁ、答えたくなければ答えずとも良いのだがな……」

 

「ここで答えなかったらどうせⅦ組の教室で公開処刑だろ? んな目に遭うくらいだったらここでバラす」

 

 諦めたようにそう言うレイからは怒りの感情は感じられなかったため、まずは言い出しっぺのアリサが挙手の後に発言した。

 

 

「それじゃあ……端的に言ってサラ教官とはどう言う関係なの?」

 

「今は教師と生徒以外の何でもないんじゃね? 昔は同業者として一緒に任務地に行ったりもしてたけどな」

 

「同業……というのは、レイがトールズに入学する前に就いていた職業、という事か?」

 

 ラウラのその疑問にレイは頷く。が、詳しい事までは明言せずにこの質問を打ち切った。

次に挙手をしたのは、リィンだった。

 

「そう言えばレイは結構昔からサラ教官と知り合ってたみたいだけど、どこで知り合ったんだ? その”同業”って奴で知り合ったんなら納得なんだけど……」

 

「おぉう。男女の馴れ初めを聞くとか勇気あんなお前。流石はリィンだわ」

 

「え?」

 

「り、リィン! それは流石にどうかと思って私も聞かなかったのに、何で敢えてそこに踏み込むのよ!!」

 

「えぇ!?」

 

「むっ、私には良く分からないが……それは褒められた言動ではないのではないか? リィン」

 

「えぇぇ……」

 

 女子勢から辛辣な言葉を返されて自信喪失するリィン。がっくりと項垂れる姿を見て、レイは笑いを堪えきれずに数秒後に吹き出してしまった。

 

「あははははははっ!! いやー、やっぱお前最高だわ。超弩級のリアクションをどうもありがとう」

 

「うぅ……何となくそうだろうなとは思っていたが、実際に食らうとキツいぞ、コレは」

 

 嵌められたという事を何となく理解していたようなリィンだったが思っていたよりもダメージは大きかったらしく、ゆっくりと顔を上げた。

因みにアリサやラウラとは示し合せてはいない。その証拠にアリサはこの光景を見て「え? えっ?」と、顔を赤らめたまま動揺している。

 

「……ま、そんなワケで色恋沙汰云々(うんぬん)な出会い方はしてねぇよ。ちっとばかし殺伐な出会い方ではあったけどな」

 

「さ、殺伐?」

 

「「…………」」

 

 エリオットはレイの口から出てきたその単語に驚いてしまったようだが、流石と言うべきか、実践形式の剣術を学んでいるリィン、ラウラの両名はその重みが加わった言葉に”何か”を感じ取ったのか、それ以上は追及してこなかった。アリサの方もそんな空気を読んだのか、黙り込む。

 停滞してしまったその雰囲気を払拭するためか、レイは一人、ベンチから立ち上がった。

 

「オイオイ、何しょぼくれてんだ。俺とサラの関係を聞くよりも、まず先にやるべき事があんだろうがよ。――――エリオット」

 

「え? な、何?」

 

 いきなり声を掛けられたことに動揺するエリオットに向かって笑みを見せると、彼の武器である魔導杖(オーバルロッド)の先端をコツンと指先で突いた。

 

「今回の手配魔獣の”スケイリーダイナ”は破壊力がデカくて、水属性のアーツに弱い魔獣だ。お前はメンバーの回復に重点を置きながら、隙を見て攻撃アーツを叩き込め」

 

「う、うん。頑張るよ」

 

「次にアリサは、標的と距離を保ちながら弓で牽制を続けろ。なるべく魔獣の注意をお前が引きつける形だ。体力は十全にして臨めよ」

 

「えぇ。分かったわ」

 

「リィンとラウラは前衛だ。ヤツは範囲攻撃を仕掛ける時もあるから、一ヶ所には固まるな。なるべくお互い対角線上に陣取りながら、アリサの方に行かないよう、攻撃を続けろ。サポートはエリオットに任せて、思いっきりやって来い」

 

「あぁ」

 

「うむ。任された」

 

 レイの提案する作戦に頷いていく一同。下がりかけた士気が、具体的な作戦行動を明確にする事で再び上昇していく。

そこで、リィンがレイへと視線を向けた。

 

「レイはどうする?」

 

「俺は遊撃に回らせてもらう。最初はお前らと同じ前衛だが、お前かラウラのどっちかが標的の背後に回った時点でアリサと前衛の間に入らせてもらうさ。幸い、行動阻害系の”術”は得意だしな」

 

 そう言ってレイは、懐から取り出したカスタム『ARCUS(アークス)』をこれ見よがしに軽く振る。それを見て、ようやくリィンの表情にも笑みが戻ってきた。

 

「その”術”の秘密も聞いてみたいな。見たところ、東方に由来のあるように見えたからさ」

 

「ほぅ」

 

 察しが良い。賞賛の意味を込めた視線を送ると同時に、他のメンバーもベンチから立ち上がった。

 

 

 

「そんじゃ、万事上手く回すとしようぜ、リーダー」

 

「あぁ。頼りにさせてもらうよ、レイ」

 

 中心人物である男子二人がそう言って軽く拳をぶつけ合うと、良い感じの緊張感を纏ったメンバーがその歩みについていく。

 

 

 

 その後の作戦では、初めてのチームでの大型魔獣の討伐であったのにも関わらず、怪我をした者は出ずに大成功に終わったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




依頼を受け取った時に出て来る「ケルディック周辺200セルジュ以内」という注意事項。
1セルジュが100メートルで換算されるため、200セルジュは20キロという事になりますね。
運動音痴の自分がそんな距離を一日に歩き回ったら……確実に筋肉痛と言う名の地獄を味わう事となるでしょう。いやー、元気だね。レイくんたち。

次回、少しばかりレイ君が怒ります。何に対しては……まぁ、見てからということで。

それでは皆さん、次回の投稿でまたお会いしましょう。
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