英雄伝説 天の軌跡 (完結済)   作:十三

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※前回までのあらすじ

①みんな大好き悪戯好きの仔猫襲来
②正妹戦争勃発
③お兄様の胃がヤバい
④大体みんな掌の上で踊らされる
⑤仔猫ちゃんの活躍はまだ続くんじゃよ






小悪魔仔猫の悪戯事情 Ⅲ

 

 

 

 

 

 

「えー、今日のお日柄は……あんまり良くないわねコレ。ひと雨降ると仕事終わりに一杯やりに行くのが面倒くさくなるから困るわぁ」

 

 

「雨だろうと何だろうと仕事終わったら普通に飲みに行くに一票」

 

「仕事終わりに雨が降ってたらどうしたもんかと校門近くで数分悩んだ挙句にやっぱり大人しく寮に戻ってくるに一票」

 

「そもそも今日飲みに行くつもりなんか毛頭ないに一票」

 

「そんなこと考えてる暇があったらさっさと授業進めろと3秒後にレイに怒られるに一票」

 

 

「おう、正解だリィン。とっとと授業進めろやこの不良教師。因みに今日の夕飯は豪勢に行くつもりだからとっとと帰って来い。シャロンがご機嫌な様子でアノール産の上物ワインを仕入れてたぞ」

 

「あらホント? それじゃあさっさと仕事終わらせて帰ろうかしら」

 

 

 実技教練前のこうしたやり取りも既に見慣れたものであり、今では緊張を解すための一環として行われている節すらある。しかし普段ならサラの言葉に同調するかのような従者の神獣は、今はいない。

 

 入院中のクレアに”要らん事”を吹き込んだシオンに対しては、罰としての禁酒を取りやめる代わりに所用でリベールに向かわせているため、今この場にはいない。―――そしてこれからも、彼女には国外に”お使い”に行ってもらう事が多くなるだろう。

 意志を持った式神。―――つまるところ”一等級式神”を複数体操るには、レイの保有呪力が足りないのだ。しかしそれも仕方がない事。どれ程有能な呪術師とて、神獣を従える事など原理上不可能なのだから。

 そういう意味では、三等級から一等級まで、あらゆる種類の式神を縦横無尽に操ってみせる知己の式神使い―――《マーナガルム》諜報部隊《月影》隊長、ツバキの方が余程術者としては優秀だ。

 

 

 そんなこんなで、今日も今日とて表面上は何も変わらない実技教練が始まろうとしていた。

 いつも通り、今日は何をするのかという興味半分、疑惑半分の視線がサラとレイに向けられる。シオンが留守にしている事そのものは既に周知である為、少なくとも『固定砲台攻略戦 ~いや、マジで油断してたら死ぬよ? Ver.~』はない。 これは色々な意味でⅦ組一同にトラウマを植え付けた恐怖の教練だが、別バージョンの『レイ・クレイドル プレゼンツ:格上との対人戦の常識 ~相手によっては”数の暴力”なんてしっぺよりも軽い(上級者編)~』も充分に彼らにトラウマを刻み込んでいる。練度に応じてバージョンが巧みに上がっていくのだから性質が悪い。

 

 ―――さぁ、今日は何だ?

 

 ―――夜ご飯は美味しく食べたいからなるべく内臓系に衝撃が来る教練は勘弁してほしいわね……。

 

 そんな心の声が透けて見えるようだ。

 

 

「今日は全員が教練をするわけじゃないわ。メンバーは……そうね。ミリアム、フィー、ユーシス、クロウ、マキアス、エリオット。この6人で行くわよ」

 

 そのメンバーが何を示すのか、それは全員が瞬時に理解していた。

 前回の特別実習。その実習でジュライ特区に赴いたメンバー……もう少し掻い摘んで簡潔に説明しようとするならば、()()()()()()()()()()()()()()()である。

 

「お前らもガレリア要塞の一件で気付いただろう? レグラムに行ったメンバーが、自分達よりも一回り以上強くなって強くなっていた事を」

 

 リィン、ガイウス、ラウラ、エマ、アリサ。この5人がレグラムで何を体験したか、その一部始終は既に知れ渡っている。

 ローエングリン城での《鉄機隊》の面々との死闘。―――これを聞いた時、レイですら、否、レイだからこそ耳を疑った。そして思わず恨み辛み事を虚空に吐き出したくなる感覚に襲われたものだった。

 

 百歩譲って、《剛毅》アイネス、《魔弓》エンネア、《神速》デュバリィと相対した4人は良いとしよう。あの3人はあれで手加減はできる。元は弱者から這い上がった経験を今でも覚えているのだから、最悪の事態を招かない程度の力加減はお手の物の筈だ。

 しかし《鋼の聖女》アリアンロードはそうはいかない。あの人は完全に”手加減”という意味の言葉を既に忘却の彼方に放ってしまっている節がある。

 いや、語弊がないように言えば言葉自体は忘れていないだろう。だがあの人が思う”手加減”と常人が思う”手加減”はあまりにも乖離しすぎていて成立しないのだ。それはレイの師、カグヤにも言える事ではあるのだが。

 思い出すのも恐ろしい。レイが《鉄機隊予備役》として編入した際に、幾度かアリアンロードと戯れ程度の手合わせをした事があったが、()()()()()()()()()()()()()。これは、現在《鉄機隊》に所属している全ての隊員が一度は通る通過儀礼のようなものである。

 

 そんな”儀礼”を経て、見た目には浅い外傷だけで潜り抜けたというリィンの火事場根性の強さを、レイは珍しく手放しで褒めた。恐らくは相対した時点で戦意の大半は根こそぎ持って行かれただろうに、その状況でよく立ち向かえたものだ、と。

 

 

「どいつもこいつも強いよ、鉄機隊(アイツら)は。特にラウラ、ガイウス、アリサ、委員長、お前らが関わった幹部クラスの”戦乙女(ヴァルキュリア)”と呼ばれている連中は、全員が”達人級”の武人だ。《執行者》と比べても遜色がない」

 

 本来ならこういった情報は《魔女の誓約(ヘクセ・ゲッシュ)》の対象内なのだろうが、既にその辺りの情報は彼らは知ってしまている。故に、レイの右首筋に嫌な熱が奔る事もない。

 

「レグラムに行ったメンバーは理不尽だったとは思うが知っただろう? あれが本当の”戦闘者”だよ。例えば250年前の《獅子戦役》の時なんかは、帝国中にああいう連中が多く居た筈だ。資本主義や合理主義が蔓延る現代で、そういう奴らと出会えた事は奇跡みたいなもんだ」

 

 その言葉に、異を唱えるメンバーはいなかった。

 リィン達は、あの時、あの城で起こった出来事を生涯通じて忘れる事はないだろう。あの戦いは、あの敗北は、彼らの価値観を大いに成長させたのだから。

 そして恐らく、あちらの狙いも”それ”だったに違いない。飛び入りの家庭教師にしては、些か以上に荒っぽい手段だとは思うが。

 

「皮肉な事だがな、俺はあの夜それを確認したよ。ガイウスが発動させた技、ありゃあアイネスの得意技の『剄鎧』だな? アリサの弓術、委員長のアーツの練度も目に見えるくらい上がってたし、ラウラの剣は”俺に当たった”。リィンは言わずもがな、その目、掃いて捨てるほどいるそんじょそこらの武人がして良い目じゃなかったぜ」

 

 無論、褒めている。心の底から。

 

 だからこそ、レグラムに赴いていなかったメンバーにも、同じ場所に至って欲しいと思う。勿論、本人たちが望まない場合は強制などするつもりは毛頭ないが、先程呼ばれた6名は、いずれもが良い表情を浮かべていた。察する事など、実に容易い。

 とはいえ、実力ではなく精神力の方を引き上げるのはそう容易い事ではない。今まで出会った事もない新たな価値観、概念―――そういったモノに出会い、打ちのめされるか、打ち破らなくてはならないのだから。

 

 だから―――()()()()()

 

 

「はい、じゃあ今呼ばれた6人は前へ出なさい。その状態で少し待―――」

 

「ううん、その必要はないわ。サラ」

 

 ひょっこりと、それこそまるでじゃれつく仔猫のようにサラのすぐ真後ろ、影になっている場所から出て来たのは悪戯好きの紫髪の少女。

 こんな見通しの良い場所で、それも昼間だというのに彼女の存在にレイを除いたⅦ組全員が気付けなかった。レンはいつものようにクスクスと笑みを漏らしながら、まるで舞踏会の主役のように前に躍り出た。

 

「お兄様に頼まれるなんて珍しい事だもの。今のレンはとってもとっても気分が良いわ♪ だから―――ごめんなさい、先に謝っておくわね」

 

 すると、彼女は何もないはずの虚空に手を伸ばす。ピシリという何かに罅が入るような音がした後に、その小さい手には身の丈以上もある豪壮な鎌の柄が握られていた。

 風を切る音と共に軽く振り回される鎌。それだけで理解しうるには充分だった。―――この少女は、強い。

 

 

「手加減、できないかもしれないから」

 

 

 油断をしていたわけではなかった。ただし、一瞬だけ思考にラグができてしまったのもまた事実。

 この少女を6()()()()()()()()()()()()()という、至極まっとうな忌避感と逡巡。しかしそれこそが、この場においては死への黄泉路の第一歩だった。

 

 

「『ブラッドサークル』」

 

 

 気付けば、駆け抜けられていた。

 その速さを目で追えたのは果たしてどれくらいいただろうか。死の香りを纏った一陣の円風が、6人を巻き込むようにして吹き荒れる。

 

「う……ぐ……」

 

「そ、そんな……」

 

「ちょっと、油断しちゃったかなぁ……」

 

「おいおい……マジかよ」

 

 膝をついたのはマキアス、エリオット、ミリアム、クロウの4人。

 『ブラッドサークル』―――命の力を奪い去る技から辛うじて逃れ出でたのは、最初から油断など欠片もしていなかったユーシスとフィーの二人だけ。

 

 その二人―――とりわけユーシスは、いつも以上の渋面が崩れない。

 

「(ッ……何たるザマだ)」

 

 それは早々に膝をついた仲間たちに対してではなく、他ならない自分に対しての怒りだった。

 いつもの実技教練であれば、それぞれ違ってはいたが教練開始の合図があった。全員が覚悟と足並みを揃え、一斉に行動するのが常だった。

 だからこそ、忘れかけていた。合図で始まる実戦など、そちらの方が珍しい事を。纏め役の一人を担うユーシスは、レンが姿を現した時点で警戒を促すべきだったのだ。

 

 無様だった。これが教練でなければ仲間の半数以上を行動不能にしてしまった時点で即座に撤退を考えるべきだろう。回復と補助アーツに秀でたエリオットが動けないこの状況では、体勢を立て直すのは本当ならば難しい。

 しかし、今は違う。この程度の窮地程度を何とかできなければ、今後理不尽なまでの強敵と出会ってしまった場合、対処できなくなってしまう。

 そう。これは、予行演習だ。

 

「フィー‼」

 

 短い言葉を発するのと同時にユーシスが後ろに下がると、応じるようにフィーが前衛に躍り出た。

 交錯する鎌の刃と双銃剣の刃。火花を散らして一瞬戦況が膠着した隙に、ユーシスは回復アーツ『アセラス』の詠唱を始める。

 

「あら、させてあげないわよ?」

 

「邪魔はさせない」

 

 互いに弾いて距離を取り、フィーは二丁の中から導力弾の弾幕を撒き散らす。

 しかし、高速で放たれたはずのそれは巧みな鎌の制動によって悉くが弾き返され、再装填(リロード)を行っている僅かな隙を狙われて鎌を投擲される。

 それはさながらブーメランの如き軌道で―――しかし残像が映るほどの高速でユーシスの詠唱を阻止しにかかる。

 まさに、意識の隙を縫われたという表現が正しいだろう。そのまま何も遮るものがなければ、数秒も経たないうちにユーシスを直撃する―――筈だった。

 

「させっ、かよっ‼」

 

 突如として放たれた横合いからの銃撃。それは鎌の刃の部分に見事当たり、軌道が逸れてユーシスの頬をほんの微かに掠めただけにとどまった。

 そして、その程度では彼はARCUS(アークス)の駆動を止めはしない。

 

「あら、動けたのねバンダナのお兄さん」

 

「……ま、年の功ってやつ、さ」

 

 他の3人と同じく鎌に纏われた魔力に生命力を奪われていたクロウだったが、震え続ける手で放たれた弾丸は見事な援護となってユーシスを救った。

 直後に再び襲ったフィーの猛攻を躱しながら弧円を描いて戻ってきた鎌を手に取る頃には、既にユーシスのアーツの詠唱は終わっていた。

 

「エリオット‼」

 

「ごめん‼ 後は任せて‼」

 

 生命力が回復し、立ち上がったと同時にエリオットはアーツの詠唱を始める。それを見届けたユーシスは、フィーに加勢して二人がかりでレンの行動を阻害しに回る。

 

「―――へぇ」

 

 感心したような声と共に、レンが可愛らしく舌なめずりをする。

 実際、最初の一撃でフィー以外は全て落とせると思っていた彼女にとってみれば、これは意外な結果だ。これで恐らく戦況は振りだしに戻る。彼らの力が上方修正した通りのものならば、先程の不意打ちじみた方法は使えまい。

 

「面白いわ♪ お兄様が言っていた通り♪」

 

 そうだ。この程度で全滅してしまっては面白くない。

 折角催しは始まったばかり。未だ余興も始まっていないのだから。

 

 

「それじゃあ、お茶会を始めましょう」

 

 

 どこか蠱惑さをも滲ませた声で、レンはそう宣誓した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 レイにしてみれば、それは()()()()()()の展開だった。

 

 今回彼は、教練の一切の進行をレンに任せていた。だからこそ、初手にいきなり”初見殺し”の戦技(クラフト)を使用した事についても何も思わなかったし、生き残るのがユーシスとフィーだというところまでも容易に予想がついていた。

 あれでもレンは、《執行者》の中では”武闘派”の一員とは数えられていなかった。如何に彼女が”天才”であるとはいえ、一芸をヒトの臨界近くまで極めた”達人級”の強さには一歩劣るし、精神的な面で鑑みれば尚更だ。

 

 とはいえ、彼女は強い。それこそ、今のⅦ組の面々が生半可な覚悟で挑んでも絶対に勝てないだろうと断言できるくらいには。

 

 

「……強いな。それに、速い」

 

「うむ。あれだけの細腕に大鎌を自由自在に振るう筋力があるとも思えん。―――恐らくは氣の使い方を完全に近い形で心得ているのだろうな」

 

 ガイウスの漏らした言葉に応えたラウラの見解は当たっている。とはいえ、百点満点というわけではないのだが。

 ”完全に近い形”ではない。”完全に”心得ているのだ。しかしながら彼女がそれを十二分に活用しきるには、まだまだ経験が足りないというのが事実。それすら修めてしまえば、彼女は”達人級”の武人にも比するだろう。

 

 

 『与えられた状況に対応し、自らが望む環境を作り上げる』―――それが彼女の才能である。

 

 故にこそ彼女は、望むものであればどんな術も取り込んでみせる。ヨシュアからは隠形の術を、レーヴェからは総合的な戦闘術を、アルトスクからは観察眼と戦術眼を、ルシオラからは幻術を、ヴァルターとアスラからは氣の扱い方を、その他《鉄機隊》や《侍従隊(ヴェヒタランデ)》の面々からすらもありとあらゆる術を習い取り込み、自身のモノとしていた。

 そして、そんな中で彼女と最も長く居たレイが教えた事は―――。

 

 

「な、なぁレイ」

 

「うん?」

 

「レンの、その、あの”動き”って……」

 

「あぁ、やっぱ気付いたか」

 

 やはりと言うか何と言うか、最初に”それ”に感づいたのはリィンだった。他の面々も、リィンの言葉が後押しとなったのか、続々と気付いたような表情を浮かべていく。

 

 そう。レイ・クレイドルがレンに教えたのは、”体捌き”と”攻撃の()なし方”の二点のみ。凡そ戦う上で基礎の基礎とも言える項目だった。

 無論、不満は幾度となく言われた。剣術を教えて頂戴と駄々をこねられた回数など既に覚えてすらいない。

 レイとしても最初の妹分であった彼女に対しては多分に甘い面を見せていた事が多くあったが、しかしこの件だけは頑なに意志を曲げようとはしなかった。

 

 何故ならば、《八洲》の剣は純粋なる殺人剣。戦乱に生まれ、戦乱に磨かれ、人を活かす要素など微塵もなく、ただ人の命を無慈悲に奪うだけの剣を、彼が妹分に教えるつもりなど最初から全くなかったのだ。

 

 だが、敬愛していた兄に言われたからという事もあったのだろう。いつしか戦闘時における彼女の”巧さ”は”武闘派”の面々すらも称賛する程に磨き抜かれていた。

 それこそ、一対一という状況下で障害物がないという条件下であれば、幼いながらに実力はヨシュアを上回ると称されたほどだったのだから。

 

 

「レンへの攻撃は普通ならまず当たらない。このままやってたらジリ貧になって6人全員仕留められるだけだな」

 

「あれが、元《執行者》……」

 

 更に言うならば、ここに《パテル=マテル》が加わろうものならば事態はより悪くなる。

 本人は「可愛くない」と気に入ってはいなかったようだが、《殲滅天使》の名は伊達ではない。もし今、ユーシス達6人を『本気で殺す』意志が彼女にあったとしたら、初手の『ブラッドサークル』で全てが終わっていただろう。

 彼女の”お茶会”に招待されたという事―――それがどのような事なのか、その本質を知って生き残れた人間は少ない。

 

 

 昨夜、レイがサラに頼んだのは、学院関係者ではない人間であるレンを実技教練に参加させる許可を学院側に貰ってほしいというものだった。

 現在Ⅶ組では、先日の特別実習でレグラムに赴いたメンバーとジュライ特区に赴いたメンバーとの間に僅かながら実力の隔たりができてる。明確な実力の差という訳ではなく、単純に意識の問題だ。

 

 本気で死ぬかもしれない状況で、それでもなお活路を自力で見出して死地を潜り抜ける―――それを経験した人間は、須らく己の中の本質を掴む事ができる。

 それができるかできないか。逆境の中でこそ人の真価が問われるとはよく言うが、特に成長途中の人間はそれが如実に表れる。

 

 だからこそ、多少なりともユーシス達にもそれを体感してもらおうと思い、思いついたのがレンとの対決だったという訳である。

 

 無論、《結社》を抜けた彼女に無理強いをするつもりはさらさらなかった。昨夜レンにも話をして、戦う事に対して僅かでも躊躇いが見られたらまた別の手段を考えようと思い、駄目元で提案をしてみたところ、特に無理をしている様子は見せず、それどころか食い気味に了承して来たのだ。

 

『あら、心外ね。私がお兄様の頼みを断るわけないじゃない』

 

 彼女はまずそう言ってから、すこし遠い目をしてから「それに」と続けた。

 

『レンはまだ弱くなるわけにはいかないの。少なくとも、まだ』

 

 それが何を示しているのか、それが分かってしまうのが少しばかり複雑ではあった。

 色々と因縁はあるのだろうが、それでもクロスベル(あの場所)には見捨ててはいけないものを残してしまったのだろう。

 そしてその辺りは、もはやレイが関与できる領域ではない。彼女は恐らく自分の意志で守りたいものを守ろうと思った。そしてそれを後押ししたのは自分ではなく、彼女の”家族”たちだ。

 妹離れ、などという言葉に多少耳聡く反応してしまった感じは否めないが、ともあれレンはレンなりにまだ強さを手放すわけにはいかないという事だけは理解できた。

 

 実際、彼女の言葉通りなのだろう。

 現在、ユーシスのファインプレーでエリオットが戦線復帰し、『セラフィムリング』のアーツを発動させたおかげで全滅の憂き目は免れた。

 とはいえ、依然レンの優勢は揺らいでいない。体格の勝る6人もの士官学生が相手だというのに、彼女はそれをまるで意にも介さないかの如く動き回っている。

 

 クロウやマキアスが放つ銃弾は例え死角側から撃ったとしても見事に避けるか、鎌を回転させて弾いてしまう。ヒラヒラとした服の端にさえ、その攻撃は届いていない。

 剣での攻撃とアーツによる攻撃をバランスよく行っているユーシスも、完全に攻めあぐねているようだった。彼の場合、一撃で全滅させることも可能なレンの技にも注意を払わなければならないため、疲労の具合は他のメンバーよりも大きいだろう。

 エリオットは既に仲間への補助アーツでの支援に集中している。対魔力の高いレン相手では妨害系統のアーツはほぼ意味を為さない。

 一番苦戦しているのはミリアムだろうか。攻撃力の高さこそⅦ組の中でも上位に食い込むアガートラムを使役する彼女ではあるが、いかんせんスピードが足りない。生半可な攻撃速度でレンに向かっていっても、悠々と躱されてしまうのがオチだ。

 

 そんな中で唯一拮抗しているように見えるのがフィーである。速さだけで見るならば互角、銃撃と斬撃を巧みに切り替えて織り交ぜて攻め立てているようにも見える。

 

 が、その見解は間違いだ。速さだけならば互角だが、戦いの巧さはレンに軍配が上がる。

 それに加え、レンの強さは鎌による中距離戦の技量だけではない。

 

「うふふ。そぉれ」

 

「クッ、『クレセントミラー』ッ‼」

 

 攻撃の合間に放たれたのは火属性高位アーツ『メテオフォール』。高濃度の魔力で形成された火球が6人を目掛けて落下してくる。しかしそれを、魔力無効化のアーツを放ったマキアスによって止められた。

 すぐさま対応する事ができたのはシオンとの対戦の経験によるものだろう。彼女との戦いにおいては、サポート系アーツを得意とするエリオットとマキアスはとても重要な地位に置かれる。あの地獄の焰地獄を幾度も経験した身であれば、この程度の反射神経とアーツ発動の先読みはできる。

 しかし―――。

 

「あら、防がれちゃった。なら、これはどうかしら」

 

 さほど意外にも思っていなさそうな声色のままレンが指を弾くと、直後に直線的に魔力の暴風が駆け抜ける。

 風属性高位アーツ『ゲイルランサー』。僅かな時間差で放たれたそれを防ぐ術は流石になく、6人は回避に頼らざるを得なかった。

 それでも、全員がさしたるダメージも受けずに切り抜ける事ができたのは、鍛え上げられた反射神経の良さと躊躇いなく動く事のできる行動力の賜物だろう。

 

 しかし、問題はそこではない。レイのすぐ近くで、エマが息を呑む。

 

「高位アーツの『多重詠唱』に数秒ラグの『遅延詠唱(デイレイ・スペル)』……それに高速機動中の『思考分割』⁉」

 

「委員長もアリサも良く見ておけ。最終的に辿り着くべきはアレだ」

 

 異なるアーツの詠唱を同時に行う『多重詠唱』。詠唱と発動のタイミングをずらす『遅延詠唱(デイレイ・スペル)』。そして他の行動中にアーツの詠唱を行う『思考分割』。

 これらのスキルはそれぞれ難易度こそ高いものの、それぞれを習得するのは決して不可能な事ではない。それこそ、エマは既にこの全てのスキルを扱う事ができる。

 しかしながら、6人を相手取る高速機動戦闘中に前者の二つのスキルを併用して、ただでさえ発動までの駆動時間が長い高位アーツを事もなげに二つ連続に発動してみせた。

 それがどれほど高度な技術なのか、少なくとも此処に集まった人間の中でそれが理解できない者はいない。

 

 恐らく、保有魔力量だけで言うのならばエマの方が上だろう。

 しかしエマが二つのアーツを同時併用する『二重詠唱(デュアル・スペル)』までが限界なのに対し、レンは三つのアーツを同時併用する『三重詠唱(トリプル・スペル)』までの並列詠唱が可能な術者でもある。

 近接戦闘要員としても、後方支援要員としても、総合的にリィン達の先に居るのが、レンという存在なのだ。

 

「じゃあ、この戦いって……」

 

「いや、そうとは限らないわよ」

 

 アリサが思わず悲観的な言葉を漏らしそうになったところで、今まで傍観に徹していたサラが口を挟んだ。

 

「総合的に力で劣っているからって、それが敗因になるとは限らないわ。要は戦い方の問題よ。

 弱音を吐く前に頭を巡らせて打開策を考える。―――アンタたちもレグラムでそれをやったから生きて帰れたんでしょう?」

 

 そう言われ、一同がハッとなる。

 レグラムでは全員が絶対に一矢報いる事を念頭に入れて行動していた。だからこそ”達人級”や”絶人級”を相手にして五体満足で帰れたのだし、精神的にも成長できた。

 

 単純な精神論ではない。一人一人が逆境を潜り抜けて光明を見つけ出すという強い意志がなければ、勝利を掴み取る事などできやしないのだから。

 

「格上相手に出来レースなんて存在しない。お前らが俺やサラやシオンを相手にしてる時みたいに、自分たちの利点を最大限に生かしながら数パーセント以下ほどの勝率を手繰り寄せるのが本当の戦い方ってヤツだよ」

 

 とはいえ、本来であればそれは緊急時に陥った時に発揮される心構えだ。

 従来であれば格上を相手に勝率の低い戦闘を無駄に仕掛ける事自体が愚策と言える。勝ち目のない戦いは可能な限り避けるのが賢い戦い方といえるだろう。

 

 だがレイやサラは、基本”最悪の状況”を模した状態で実技教練を行っている。これは下手をすると負け癖がついてしまうというデメリットが存在するのだが、Ⅶ組のメンバーは揃いも揃って容赦なく叩きのめされた敗因を逐一話し合って、改善点を補うための努力を欠かさない。それだけでも、一種の才能と言えるだろう。

 

「最初から敗北を許容した戦い方はナンセンスだ。とはいえ、敗けなきゃ分からない事もある。―――勝てるようになるまで戦い続ければ、いつかは絶対()()()()()()。そうだろ? リィン」

 

「あぁ」

 

 勝つまで戦い続ける―――あの月下の大喧嘩の際にリィンは確かにそう宣言した。

 ならば、それの手助けをしてやる事こそが、今のレイに出来る唯一の恩返しであるとも言えた。

 

「その為には、今ユーシス達には勝ってもらわなきゃならんよな」

 

 極僅かな可能性を引き当てるのは運ではなく、戦い方にある。

 果たして今のユーシス達にそれだけの力量が備わっているのか。それを見極めるために、レイは再び戦いの場に視線を戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 どこか既視感にも似た感情を、レンは抱いていた。

 

 

 敬愛する兄が鍛えているというこの士官学院の学生たち。その強さを多少見誤っていた事を反省し、戦力の上方修正を行った彼女にしてみれば、特段強い者達を相手にしているという感覚はなかった。

 しかしながら、手強い。個々人の力量こそは《結社》の《執行者》クラスとは比べるまでもないが、その無謬なまでの連携は、入学してからたった5ヶ月程度の学生が行うものではない。

 

 加えて言うならば、誰もかれもがしぶといのだ。攻撃を躱し、去なし、防げるものは全て防いで戦意の喪失を狙おうかとも一瞬思ったのだが、それを行うには時間が足りないと判断した。

 どれだけ鋭い技を見せても、どれだけ攻撃を防いでも、相対する6人の目からは一向に戦意が消えようとはしない。炯々と燃え続ける意志は、レンの記憶の中のとある戦いを思い起こさせた。

 

「(そう言えば、あの時も―――)」

 

 《リベル=アーク》の中枢塔(アクシスピラー)の一角で交わされた戦い。あの時レンは激しくエステルを拒絶したというのに、彼女は戦意を萎えさせるどころか逆に奮起してレンらの前に立ちふさがった。

 自分たちが敗けるとは微塵も思っておらず、ただ勝利を目指して突き進む。その激しい意志が、あの時レンを貫き、《パテル=マテル》をも退けた。

 あの敗北は、恐らく一生忘れる事はないだろう。

 

 そうだ。あの時の彼らの目に、酷似している。

 

 

「油断、タイテキ―――だよっ‼」

 

 僅かに生まれた隙をついて、ミリアムがアガートラムの一撃をお見舞いしてくる。周囲に弾幕がばら撒かれている状態での攻撃だ。躱す事は難しい。

 だが、レンは振り下ろされるアガートラムの白腕の側面を撫でるように鎌の刃を這わせ、それを去なしてみせる。

 

「あら、ごめんなさい。考え事をしていたわ」

 

 皮肉交じりにそう言ってみせたが、しかし眼前の少女が浮かべる笑みは消えていない。それに対してレンが違和感を覚えた時には、既に”仕掛け”は発動されていた。

 

「”囲め”」

 

 ユーシスの短い一言と共に、動いたのはクロウとマキアス。

 アガートラムの攻撃を去なした直後で一瞬だけ動きが止まっているレンの足元に、クロウが『フリーズバレッド』を撃ち込んで地面そのものをレンの足と一緒に凍結させる。

 それによって生み出せる硬直時間は、ユーシスの見立てでは1秒から2秒と言ったところ。逆に言えば、それだけあれば充分だった。

 

「『ラ・クレスト』‼」

 

 本来であれば地中から高密度の土壁を召喚して攻撃を防ぐ防御アーツを、今は対象を囲い込むための罠として起動させる。

 発動速度は元より、重視すべきは防御力の高さ。ここを調整できるかどうかで、今回の作戦が成功するかどうかが決まってくる。

 

 果たしてそれは一応成功したようで、一時的にではあるが、レンの動きを封じ込める事に成功した。

 

「プランを”IF(妨害)”から”AT(攻撃)”に変更。エリオット‼」

 

「任せて‼」

 

 そしてその一連の妨害工作が終了したタイミングを見計らって、エリオットが火属性補助アーツ『フォルテ』の効果を付与させる。対象は勿論―――。

 

「メガトン―――プレース‼」

 

 アーツによる膂力の向上がミリアムを通じて付与されたアガートラムが、渾身のパワーを込めた攻撃を叩き込む。

 そして叩き込まれる直前に、ドーム状に囲んだ『ラ・クレスト』の土壁に注ぎ込んでいた魔力をマキアスが解放し、強度が一気に下がったところで衝撃波が伴うレベルの攻撃が着弾する。

 

 轟音と共に、吹き荒れる暴風。

 レイを相手にしているときは同じ方法を取ったとしても、まるで何事もなかったかのように無傷のまま煙の中から出てきて絶望をお届けするだろうが、さてどれ程だとユーシスは煙の奥を目を凝らして睨んだ。

 

 

「―――もう、お洋服が破けちゃったじゃない」

 

 

 そこから出て来たのは、鎌を握っていた右腕の部分の洋服の袖が破け、全体的に僅かに汚れた様子のレンだった。外的の損傷は、それ以外一見ないように見える。

 恐らくは自信に防御用のアーツを重ね掛けして、その上で氣力を使ってアガートラムの攻撃を防いで見せたのだろうが、如何せん衝撃までは殺しきれなかったのだろう。

 

「酷いわお兄さん。お気に入りなのに、この服」

 

「そう言いつつ疲弊を見せないのは(レイ)に似ているな」

 

「あら、それはレンには褒め言葉よ♪」

 

 そう言いつつ、レンは腰だめに鎌を構え、一層笑みを強くする。

 その様子を見ながら、ユーシスは更に言葉を続けた。

 

 

「あぁ、本当に似ている。―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()な」

 

 

 直後、土煙を引き裂いて疾駆する銀色の影がレンを眼前に捉えた。その黄緑色の双眸は、獲物を視界に収めて最速での”狩り”に取り掛かる。

 

「『シルフィードダンス』」

 

 残影を残す斬線、閃光を齎す弾丸の嵐。

 フィー・クラウゼルという戦士の全てを注ぎ込んだ攻撃が、局地的な竜巻となってレンを襲う。

 そこに加減など一切なく、慢心も有りはしない。自分より強い存在だと分かっているからこそ、それに敬意を払い、しかし胸を借りずに全力で以て相対する。

 

 しかしフィーの攻撃は、幾百もの繚乱たる火花を生み散らしたものの、鮮血は一滴たりとも散らしはしなかった。

 レンの琥珀色の瞳はめまぐるしく動き回るフィーの動きを逐一目で捉え、それに対応して鎌を振るう。

 

「速い速い。凄い凄いわ♪ でも、まだまだレンには見えているわよ♪」

 

 その速さはまるで疾風の如きなれど、未だレイの領域には至っていない。レンにしてみれば、その事実だけで充分だった。

 兄よりも遅いモノを目で捉えられないワケにはいかない。そうした彼女の矜持が、今《西風の妖精(シルフィード)》の動きを以てしても彼女にかすり傷の一つも負わせられない。

 

 それがフィーにとっては悔しくて、更に速く、もっと速くと脚に力を込めて加速をしようと試みるが、その両足が悲鳴をあげる。だが―――

 

「負けない」

 

 理由はそれだけで充分だ。目の前のこの少女に劣っている部分しかないなどと、断じて思わせるわけにはいかない。

 限界を超えに掛かる意志。それを強く掲げた瞬間、一瞬だけだが、フィーは疾風から雷光になった。

 

「―――‼」

 

 突如として跳ね上がった速さに、流石のレンも対処が遅れた。雷光に至った刃が紫色の髪の一房を刈り取り、頬に微かな赤い線を刻む。

 刹那に駆け抜けたそれに、レンは無意識に鎌の柄を強く握り直した。

 

「見直したわ。銀の仔猫さん」

 

 その声色は、平時のからかうようなそれではなかった。

 目を見れば分かる。彼女の双眸は、一瞬ではあったが命を刈り取る天使のそれに代わっていた。

 それを理解した直後、限界を超えて酷使されたフィーの足は脳からの警戒信号を受けて本人の意思とは関係なく止まってしまう。即ちそれは、レンによる”お茶会”の締めの開始だった。

 

 

「『レ・ラナンデス』」

 

 

 吹き荒れたのは、先程の『ブラッドサークル』よりも尚濃い死の気配。

 彼女の必殺戦技(Sクラフト)たるこの技は、現在出し得るレンの身体能力の全てを以て繰り出される死の宣告。初手の不甲斐なさもあり最大限の警戒心を張っていた面々の意識を、今度は完全に刈り取りにかかる。

 

 まずフィー。最も接近していた彼女は、宣告とほぼ同時に地に膝が着いた。それより数瞬後、ミリアムの視界も暗転してしまう。

 マキアスとクロウはそこそこの距離を取っていたが、フィーとミリアムに異常が感じられた直後に放たれた銃弾も、今のレンにとってはそれが着弾するまでの時間が何倍にも引き伸ばされているように見える。躱された直後に間を吹き抜けた旋風は、無慈悲に宣告の履行を叩きつけた。

 そこより大きく半円を描くようにして、1秒と経たない内にエリオットの眼前にレンが現れる。元より、近接戦に持ち込まれた時点で彼の勝利は有り得ない。無論歯を食いしばった程度では防げるような代物ではなく、全く同じ末路を辿るハメになった。

 

「嘗めるな‼」

 

 そんな状況で声を荒げたのは唯一残ったユーシスだった。騎士剣の剣鋩で魔力を使って魔法陣を描くと、レンの周囲を半透明な結界が塞いでいく。

 『クリスタルセイバー』と銘打たれたその技は、剣技とアーツの両方に優れたユーシスの必殺戦技(Sクラフト)に相応しく、対象の隙を塞いで斬り伏せる技であった。

 剣に宿るは氷の魔力。しかし大抵の魔物であれば脱出はまず不可能な魔力の檻も、今のレンを押し留めるには力不足だった。

 しかし、渾身の一振りを振るう時間程度は稼げた。その剣の軌道に折り重なるようにして、鎌の刃も猛威を振るう。そしてその二つの攻撃が重なろうとしたその直前―――

 

 

 

 

 ―――キーンコーンカーンコーン

 

 

 

 

 授業終了のチャイムが、場違い気味に食い込んできた。

 その音に張りつめていた緊張感が剥がれ落ちてしまったのか、互いに振るう得物からは氷の魔力も死の魔力も搔き消えてしまい、結果は甲高い金属音を撒き散らすだけになってしまった。

 

 その後数秒は茫然とした様子のレンであったが、状況を把握するといつも通りの小悪魔な笑みに戻った。

 

「あら残念。お兄さんが残っちゃったからレンの敗けね」

 

「……馬鹿を言うな。()()()()()()()()()んだ、これを勝利と呼べるものか」

 

 レンは自身を敗北者と銘打ったが、当然それを認められるユーシスではない。5人もの仲間を犠牲にしておいてそれを勝利と図々しく掲げられるのであれば、今彼はここまで苦々しい表情を浮かべていないだろう。

 業腹ではあるが、これで証明されてしまったのだ。自分たちはまだ《執行者》級の者達と戦うには力不足であるという事。決死以上の意志を見せなければ、引き分けに持ち込む事すら危ういという事に。

 

「―――見直したわ。お兄さんたちの事。お兄様が頑張ってあげちゃうのも、分かる気がするわ」

 

「貴様らに届かなければ、俺たちは無様な姿を晒し続けるだけだ。貴様が見直す必要もない」

 

「意地悪ね。折角レンが珍しく手放しで褒めてあげたのに」

 

 敗北感は消え去らない。悔しさの念も心の奥底にへばりついて離れない。

 だが、己の至らなさは充分過ぎる程に理解できた。戦う者としても至らなければ、指揮官としても至らない。―――これでは、気に食わない仲間相手に悪態を吐く事もできやしない。

 改めて、レイやサラが相手では気付く事のなかった新たな視点からの改善点を見つける事ができた。それは紛れもなく収穫だったのだろう。だから―――。

 

 

「だが、礼は言っておく。これで俺たちはまた、高い場所へと昇っていける」

 

「ううふ、どういたしまして」

 

 

 ただその言葉だけは言っておかなければ、彼の矜持が許しはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







皆様大変お待たせいたしました。天の軌跡の最新投稿でございます。
最近Fate/GrandOrderの小説の方に熱を挙げておりましたが、漸く投稿する事ができました。就活キチィ;つД`)

レンちゃんの開幕即死技のトラウマは軌跡ユーザーの方ならば一度は経験した事があられるのではないでしょうか。あぁ、怖い怖い。

あと一回だけレンちゃんの話は続きます。―――って次100話目じゃないですか‼ 遠いところまで来たモノですなぁ。

それではまた次回‼


PS:今季アニメの『あんハピ♪』に登場するキャラの一人である江古田蓮ちゃんが、成長したフィーにしか見えて来なくて草
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