英雄伝説 天の軌跡 (完結済)   作:十三

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※今回は説明回ともちょっと違うと申しますか、まぁタイトルの通りです。

※本作『天の軌跡』には筆者が独自に弄くりまくったアーツ理論が展開されているので、それをとりあえずまとめてみました。

※俗に言う、「後衛組強化フラグ」です。







良く分かるアーツ講座 ~基礎編~

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……」

 

 第三学生寮の1階談話スペース。そこでエリオットが一人、自らの魔導杖を片手に唸っていた。

 否、正確には談話スペースのテーブルの上にARCUS(アークス)と、幾つかの計算式のようなものを羅列した紙が置かれている。シャロンがラインフォルト社に戻ってしまっている為、自分でキッチンで淹れたアイスコーヒー(シロップとミルク有)でちょくちょく一息を吐きながら、その中性的な容貌の眉を珍しく寄せている。

 

 そして、そこに通りがかったのはエリオットと同じくキッチンに飲み物を求めてやって来たエマとアリサの二人。

 

「あら? エリオットさん」

 

「珍しいわね。エリオットが一人で難しい顔してるなんて」

 

「あぁ、委員長にアリサ。丁度良かった。ちょっと意見を聞かせてくれないかな?」

 

「「?」」

 

 揃って首を傾げる二人に対して、エリオットはアイスコーヒーを二人分作って持ってくる。氷の涼し気な音が鳴るのと共に二人がソファーに腰掛けると、早速エマがテーブルの上に投げ出された紙に目をやった。

 

「あ……エリオットさんこれ、魔法(アーツ)の駆動式ですか?」

 

「うん。『思考分割』しようとすると、どうしても魔導杖やARCUS(アークス)だけに頼りきりになるわけにはいかないから、少しでも演算知識を付けようと思って」

 

 『思考分割』は普通は立ち止まって詠唱を行わなければならないアーツを移動しながら詠唱するために必要なスキルである。

 概要は名前の通り、「体を動かす」「アーツを詠唱する」という二つのコマンドを脳内で同時並行して行うというモノである。要は、右手と左手にペンを持ち、それぞれ違う文字を書く行為の発展系だ。

 それだけを聞くとそれ程難しい事ではないように思える。事実、何もないところで歩き回りながらアーツの詠唱をするというのは、慣れれば誰でも出来る行為ではあるのだ。―――そう、()()()()()()()()()()()()()()

 

「……私たちのはアレだものね。地獄のような流星群の雨霰を潜り抜けたり、鬼みたいに早い斬撃の隙間を縫いながらやらなきゃいけないし……」

 

「もう慣れとかいう次元を超えてるんだよねぇ」

 

 生死の境を常に彷徨う状況で思考を分割するというのは、それだけでも死に直結するリスクが飛躍的に高まる。特にⅦ組の面々が置かれている立場はそれが著しい。

 

 因みにアーツの発動難易度の高さというのは、「干渉範囲」と「魔力密度」の二つに大体依存する。

 特に回復アーツに特化したエリオットに求められるのは大規模な範囲での回復アーツである為、必然的に難易度は高くなる。「時」「空」「幻」の上位三属性のアーツともなれば、発動に必要な演算式が複雑になるため、更に難易度は跳ね上がる。

 

 既存の魔導杖及び戦術オーブメントは「静止している状態」での駆動を基本としている為、使用者が激しく動いている状態での駆動は自然と負荷が掛かる。その為、駆動時間を短縮するためには使用者自身もアーツの駆動式を脳内で反芻して転写するという行為が必要となる。

 とはいえ、エリオットとエマが使用している魔導杖は未だラインフォルト家のテスト用製品であり、ARCUS(アークス)もまだまだ未知の領域が残されている機器である。以降のバージョンアップ如何によってはこの悩みは杞憂になる事もあるかもしれないが、現時点では『思考分割』を行うには使用者自身も駆動式を理解している必要があるのだ。

 

 それでも、使用者が一からアーツの駆動式を練り上げて高等演算を行うよりかは負担はかなり減っている為、かなり便利ではあるのだが。

 

「委員長は『思考分割』も『多重詠唱』もできるんだもんね。凄いなぁ」

 

「ホントよね。本来ならエマから教えてもらいたいところなんだけど……」

 

「あ、あはは……ごめんなさい。私、これに関しては他の人に教えるのは苦手で……」

 

 そんな会話をしていると、ちょうど水を飲みに一階に降りて来たサラが、3人に声を掛けた。

 

「あら、珍しいメンツ―――でもないわね」

 

「あ、サラ教官」

 

「ちょうど良かった。少し教官に訊きたい事があって……」

 

「んー?」

 

 思えば今まで、アーツの鍛錬に関してはほぼ独学でやっていたようなものではあった。

 そもそもな話レイはアーツを使う事ができず、サラも得意とは言い難いと聞いた事があった。その為エマやエリオットなどアーツを中心に戦う面々は、各々試行錯誤を繰り返したり、アーツ理論にツテがある教官に座学などを個人的に請け負ってもらいながらやって来てはいたのだが―――それにも限度があると分かってしまったのだ。

 

 きっかけとなったのは先日のレンとの模擬戦だった。

 彼女はエリオットたちよりも幼い齢ながら、高速機動の近距離・中距離戦を行いながら、高位アーツの『多重詠唱』『思考分割』、任意の『遅延詠唱(デイレイ・スペル)』等の高等技術をいとも容易げにやってみせたのだ。

 後でレイに訊いた事ではあるが、彼女は高速機動中ですら『三重詠唱(トリプル・スペル)』が可能であるという。そして恐らく、”底”がそこではないという事も理解できていた。それがどれだけ凄い事かというのは、アーツを主として戦う者であれば誰だって気付く事だ。

 

「因みに、サラ教官はどこまで使えるんですか?」

 

「アタシ? んー、静止状態での『二重詠唱(デュアル・スペル)』と『思考分割』が精々かしらね。元々アタシの場合、魔力をほとんど身体強化か放出して攻撃手段に使うかだから、普段はあんまりアーツに頼る事ないのよね」

 

 サラは、劣等感など欠片も持っていないかのような口調でそう言いながら、エリオットが用意したアイスコーヒーを啜る。

 

 実際問題、どれだけアーツの『多重詠唱』ができるかで戦う者としての格が決まるわけではない。こればかりは得手不得手も関係するし、サラのように身体能力強化の為に内包魔力の大半を割いている者も少なくない。

 しかしだからと言って、伸び悩んでいる生徒を放っておくことができない程度には彼女もまた教官としての使命を抱えており、それが目を掛けているⅦ組の生徒たちならば尚更だ。

 

 彼らには意志がある。「強くなりたい」という確固たる意志が。

 それを目覚めさせたのは阿呆な恋人(レイ)なのだろうが、まぁ切っ掛けなど正直どうでもいい。大事なのは、彼らは少しばかり年長者が後押しをするだけで後は自分達だけで歩いていける才覚があるという事だ。

 

 どこまで歩めるのかどうか見てみたいと思ってしまうのは、何も自分が教職の地位についているからという訳ではないだろうと己に言い聞かせ、サラはポケットの中の自身のARCUS(アークス)を確認した。

 自分よりも余程この方面に詳しい知人に、協力を要請するために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そもそも、導力魔法(アーツ)という存在が人々に認知され、普及され始めたのは今から50年前。

 『エプスタイン財団』の創設者であるC・エプスタイン博士が古代遺物(アーティファクト)の研究過程で導力器(オーブメント)を開発したところから始まる。

 

 それまで”魔法”という存在は、それこそヒトの手の届かないところにある高位の存在―――という表現は些か誇張が過ぎるが、それでも潜在的に魔力の高い人間が何らかの切っ掛けで自然発動させてしまうモノでしかなかった。古からの”魔法”の秘術を受け継いでいた集団も確かに存在していたが、公に認知されていなかったのは言うまでもない。

 

 しかしながら導力器(オーブメント)の発明により、七耀石(セプチウム)より抽出されたエネルギーを機構として組み込み、使用者の潜在魔力と重ね合わせて”EP”と称される力を消費する事により、『導力魔法(オーバルアーツ)』―――即ち汎用性を実現した”魔法”を普及させるに至ったのである。

 

 

 現在においては戦術オーブメントを介して、アーツは各国の軍隊や治安維持組織、そして遊撃士協会などの戦闘を旨とする組織には必要不可欠なモノとなっている。

 ―――しかしながら、次代の変遷と共に試行錯誤を繰り返されていく中で、汎用性を重視したアーツは様々な特性を得るに至った。

 

 

 基本的に、アーツの発動は演算記号化された駆動式を戦術オーブメントに代理詠唱させることで完成する。その為アーツの使用者は―――特定のクオーツを使用しての駆動時間の短縮を除けば―――駆動の速さにそれ程差異が出てこない。

 更に、アーツを駆動する際はオーブメントに代理詠唱させているとはいえ、駆動式そのものを維持させるために集中力を有する。その為、静止したまま駆動させる事を余儀なくされる。

 更に更に、一つの駆動式で発動させられるアーツは原則一種類のみ。

 

 それらを不便と感じる者達が、やはり少なからず出て来たのである。

 

 

 そういった中で、僅か50年―――半世紀という歴史の中で、アーツを同時駆動・同時発動させる『多重詠唱』、移動を行いながらアーツを駆動する『思考分割』、駆動式を術者の脳内でも同時詠唱する事で駆動時間を短縮する『短縮詠唱(クイック・スペル)』や、逆に時間差で複数のアーツを駆動する『遅延詠唱(デイレイ・スペル)』などといった独自のスキルが生み出されていった。

 

 如何に効率良く、如何に強力に、如何に戦術的に、如何に多様に、如何に予想外に―――アーツを主軸に戦闘を行う者達の行き着く先は、自然とそこに集約する。

 範囲攻撃や範囲回復を行える後衛職というのは、つまるところ知性のある存在を相手にした時は真っ先に狙われる存在だ。そんな事が分かり切っているというのに棒立ちで詠唱を続けるなどというのは、「狙ってください」と言っているようなもの。それをさせない為に前衛の人間が居るのだが、常に護ってもらえる状況にあるという訳ではない。ならば最低限、彼らも身を守る工夫というものをしなければならなかった。

 

 

 しかしながら、これらのスキルを習得するために用意されている定まった教本(マニュアル)の類は未だ製作されていないのが現状だ。

 というのも、スキルの習得如何には個々の使用者の”クセ”を鑑みなくては上手くいかないという壁が存在するためである。戦術オーブメントの種類によっても変わり、その他使用者の演算処理能力や思考能力、運動神経の優劣まで考慮に入れなくてはならない為、今の時点では独学で習得するか、または個人に合わせた修練を行わなくてはならない。

 

 これが、現在練度の統一性を重視する軍隊や治安維持組織などでスキルを習得するための全体訓練が行われていない所以である。―――そして、士官学院であるトールズにおいても、それは例外ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし。という訳で、今回お前さんたちのアーツ教練を臨時で担当する事になった遊撃士協会レグラム支部所属、トヴァル・ランドナーだ。よろしくな」

 

「正直俺は体質柄詳しく教える事は不可能だから、もう全部コイツに任せる事にする。安心しろ。腕は確かだ。因みにアラサー彼女ナシだけどそこはツッコんでやるなよな‼」

 

「お前ホント人の傷口抉るの好きな‼ 自分が彼女持ちだからって優越感感じてるんじゃねーぞチクショウ‼ どうやったらそんなにモテんだよ‼」

 

「寧ろなんでモテないんだろうなぁ? やっぱアレじゃね? 無駄に爽やかお兄さんキャラ作ってるのがウザいんじゃね?」

 

「ま、マジか……いやいやいや‼ 別に作ってるわけじゃないからな⁉ これ素だからな‼」

 

「あの、ちょ、二人が仲良いってのは分かったので先進めて下さいお願いします」

 

 貴重な特別実技教練の時間を1秒たりとも無駄にしたくないという思いが強い面々を代表してリィンがそうツッコむと、コホンと一度咳払いをしてからサラが呼んだ特別臨時講師―――トヴァルは改めて一堂に向き直った。

 

「まぁ、時間も惜しいだろうし、手短に俺の得意分野を話しておこうか。俺は元々アーツ使用の方に比率を傾けた人間でな。一応()()()()()静止状態、機動状態共に『三重詠唱(トリプル・スペル)』まで可能だ。つっても、内包魔力が飛び抜けて馬鹿デカいって訳じゃねぇから、ポンポン最上級アーツを撃てるわけじゃないけどな」

 

「あ、トヴァルさんの『起源属性』は何ですか?」

 

「俺のは『風』と『空』だな。マスタークオーツは『ウイング』―――全状態異常の無効化ができるモノを愛用させて貰ってる」

 

 

 『起源属性』というのは、アーツの使用者個々が()()()()扱うのを得意とする属性の事を指す。

 例えばリィンで言えば『火』と『時』属性、エリオットで言えば『水』と『空』属性など、得手とする属性はそれぞれ異なる。無論の事、『起源属性』に当たるアーツはその人物にとって扱いやすいという利点がある。

 逆に、手練れのアーツ使いと対峙する時は、事前にこの『起源属性』を知っておくと戦局を有利に進める事ができるなど、デメリットも存在するが。

 

 

「ま、俺の場合コッチの方にもちっと細工をさせてもらってるんだがな」

 

 そうしてトヴァルが取り出したのは、リィン達が持っているものとはカラーリングが異なるARCUS(アークス)だった。

 遊撃士の証である『支える篭手』の紋章のカバーが取り付けられているそれは、遠目から見てもすぐに分かる程にカスタマイズを施されていた。

 

「俺は一応細々とした作業や機械弄りが好きでな。趣味が高じてARCUS(アークス)に高速駆動用の改造パーツを取り付けたんだ。名付けて『クイックキャリバー』ってな」

 

「因みにこれラインフォルト社未認可な。特許出したら申請通るクオリティ」

 

「すみませんちょっとその辺り詳しく」

 

「アリサの目が心なしか輝いているように見える」

 

「成程、グエン老と同じ目だ。血は争えないな」

 

「おい貴様ら、そろそろいい加減にしろよ」

 

 修正しても再び話が脱線していく現状に、ユーシスが苛立ちの声と共に忠告を差し挟む。

 その声色と表情がなまじ本当に怒る寸前のそれだったので、身の危険を感じた一同はすぐさま気を引き締めに掛かった。

 

 

「本来アーツを中心的に使う人間にも”系統”ってモンが存在するんだ。一通りのスキルは習得していても、そこから多種のアーツを同時に使う方に傾倒するか、より一つのアーツの威力を高めにかかるか、より早く駆動詠唱を行う事に腐心する―――とかな。俺の場合は駆動詠唱の速さに重点を置いたって訳だ」

 

「やはり、それにも個々の相性のようなものがあるのでしょうか?」

 

 エマがそう訊くと、トヴァルは無言のまま首肯した。

 

「一通りスキルを習得し終えた後は、あれもこれもと手を伸ばさない方が良い。器用貧乏になっちまうって事はつまり、攻め手に欠けるって事になるからな。対峙する相手よりもどれか一つでも長じてるポイントを作っておくことがとりあえずの到達点だな。……まぁ極稀に手を伸ばした先からあっという間にモノにしちまう本物の天才もいるみたいだが」

 

 その最後の言葉を聞いて、レイは思わず心の中で苦笑した。《結社》に居た頃は、その手の”本物の天才”が珍しくもなく存在していたからである。

 あのレンでさえスタイルを『アーツ多重併用型』に当てはめているというのに、一部の例外―――それこそレイに本気の呪いを掛けた魔女などはその典型例だ。《使徒》の中に名を連ねるだけあって、その出鱈目ぶりは悔しいが認める他はない。

 

 だが、そんなものはほんの一部。まさしく魔法(アーツ)に関して天賦の才を有している者にしか辿り着けない領域だ。その為、そうした者はしばしば”達人級”の武人と同一視される。

 

 

「―――さて、概要的な話はここまでだ。レイを除いたお前さん達11人はそれぞれスタイルが違うだろう。そもそもアーツを使用するのが苦手だって奴もいるかもしれん。ちょっと手を挙げてみてくれ」

 

 すると、フィーとミリアムが悪びれることなく真っ先に手を挙げ、次いでガイウスとラウラが若干申し訳なさそうに手を挙げた。

 

「おう、正直なのは良い事だ。そんじゃあ、今のところどれか一つでもいいからスキルが使えるって奴は手を挙げてくれ」

 

 次に手を挙げたのは、エマとエリオット、そしてアリサとユーシスだった。

 エマは『思考分割』『多重詠唱』『遅延詠唱(デイレイ・スペル)』『短縮詠唱(クイック・スペル)』など、既に一通りのスキルを扱える。

 エリオットは『多重詠唱』と『短縮詠唱(クイック・スペル)』。『思考分割』は現在習得中である。

 アリサとユーシスは『多重詠唱』までは会得しており、それ以外は現在習得中という流れであった。

 

 その現状に、トヴァルは思わず呆けた顔をしそうになった。

 

 そもそもこれらのスキルは、普通にやっていれば学生の時分に習得できるようなものではない。トヴァルとて、習得したのは裏業界から足を洗って遊撃士として活動し始めた頃―――とある教会の鬼騎士に稽古をつけて貰って死にそうになりながら得たものなのである。

 それを彼らは、既に幾つか習得している。実技教練を担当する二人がアーツを不得手、または使えないという事を考えると、ほぼ独学か、互いに教えあってここまで昇華したという事になる。凄まじい事だ。

 

 とはいえ、一言にスキルの習得と言っても、そこには並大抵では済まない努力がいる。

 例えば4人全員が習得している『多重詠唱』のスキルでさえ、自在に使いこなすには幾つもの段階を踏まなくてはならない。

 まずは使用するアーツの駆動術式を完全に理解し、その上で使用者自身も並列詠唱を行わなければならない。無論、戦術オーブメントや魔導杖が演算のサポートをしてくれるが、それでも原則一つの戦術オーブメントが駆動を肩代わりしてくれるアーツは一度に一種類までな為、二種類以上のアーツを同時に発動するならば少なからず使用者にも負担がかかる事になる。

 更に厄介なのは、使用者自身が詠唱する駆動術式にも一切のミスは許されないという事。詠唱に瑕疵があったり、込める魔力量が違ったりすれば、容赦なく魔力爆散(マジック・バースト)という現象が起き、発動が失敗に終わるどころか使用者自身を傷つける事になるのである。

 

 本来であれば、『二重詠唱(デュアル・スペル)』ですらこのようなリスクを冒して初めて成功するのである。これが『三重詠唱(トリプル・スペル)』、『四重詠唱(スクエア・スペル)』と増えていくと、それこそ指数関数的に難易度は跳ね上がる。

 脳の中を複雑怪奇な駆動術式が駆け巡り、少しのミスが死に直結する場合もある。更にそれを『思考分割』『短縮詠唱(クイック・スペル)』などと併用しようものならば、常人なら発狂してもおかしくない。

 

 実際、改造ARCUS(アークス)の万全の補助を以てしても、トヴァルは自分が扱えるのは『三重詠唱(トリプル・スペル)』までであると分かってしまっていた。

 個々人の内包魔力量、演算処理能力などを顧みて考えると、自ずと”底”というものは見えてしまう。しかし彼らは別だ。まだ進化できる余地は残されている。

 

 

「よし。それじゃあ段階別に合わせて実践演習に移っていくぞー。……ってアレ? サラの奴はどこにいったんだ?」

 

「あぁ、サラならこの前他の教官たちと飲みに行ったときに酔っぱらって盛大にビール溢してな。その時にダメにした持ち帰り用の書類の再提出に手間取って今職員室にカンヅメ」

 

「……酒癖の悪さは変わってないのな」

 

「あれでもまだマシな方だという地獄。―――まぁその他にもマジメな理由はあるんだがな」

 

「?」

 

「ま、それは今は良いだろ。トヴァル、お前はさっきの4人と……あとマキアスとクロウを指導してくれ。アイツらは俺じゃあちっと手に余る」

 

「おう、了解。コツと鍛錬方法を重点的に教えればいいんだろ?」

 

「頼んだ。……お前が考えてるよりも呑み込みが早いからな。呑まれないように気を付けろよ?」

 

「あいよ。―――そんじゃあエマ、エリオット、ユーシス、アリサ、マキアス、クロウは俺と一緒に来てくれ。残りはレイの方な」

 

『『『『了解』』』』

 

 

 その声と共に、メンバーが分かれる。トヴァルが連れて行った、所謂「上級者組」は彼が指導要領を教える事でさらに飛躍的に伸びるだろう。残ったのは―――

 

「……さて、問題は俺たちだな」

 

「うむ。苦手分野は克服すべきと分かってはいるのだが……」

 

「どうにも()()()()()のが本音ではあるな」

 

「ねー、レイー。どうしてもやらなきゃダメ?」

 

「正直、無理っぽい」

 

 リィン、ラウラ、ガイウス、ミリアム、フィーの5人である。

 この中で最もマトモなのはリィンだ。彼は才能そのものは完全に前衛の方に傾いてはいるが、戦う中で最低限のアーツの使用はできる。

 ラウラとガイウスにしても、己の不得手をなんとか克服しようとしている姿は見てきている為、そう遠くない内にそれなりのレベルにはなるだろうと予測していた。単一アーツの駆動と発動ならば、要求されるのは集中力と最低限の魔力の維持だ。これは経験を積めば何とでもなる。

 となると目下の問題は、大方の予想通りこの2人なのだ。

 

「そうだな。確かにお前ら2人は輪をかけて物理攻撃特化型だ。正直アーツの応用技術を学ばせるより、戦い方そのものを教え込んだ方が良いとは思ってる」

 

「それじゃあ―――」

 

「だけどな、それじゃあ()()()()1()()()()()()()()()()()()()()

 

 突拍子もない言葉ではあったが、それを言い放ったレイの声色は真剣そのものだった。それを敏感に感じ取り、ミリアムもフィーも口を噤む。

 

「大原則として、1人が持ち運べるティアの薬やセラスの薬は限られてる。それはフィー、お前も分かってるだろ?」

 

「(コクコク)」

 

「それに、今みたいにバランスの良いパーティーで動けている内はまだ良いが、もし何かがあって近接前衛組の奴ばかりでパーティーを組まざるを得ない状況になったらどうする? 「自分がやらなくても誰かがやってくれる」と安心していると、いざという時に対処できなくなるだろ。それが1人で行動してる時であったら、尚更だ」

 

「……確かに、理に適っているな」

 

「魔物によっては、物理攻撃があまり効かない類の奴もいるからな」

 

 個々人による”戦略の幅”を広げるためには、やはりどうしても「基礎の基礎」を修得するという事は必要不可欠になってくる。土台がしっかりと作り上げられていれば、それを軸に戦略を練る事も可能になるからだ。

 

「『多重詠唱』を習得しろなんて難易度の高い事は言わねぇよ。まずしっかりと、確実にアーツを発動できるようになれ。まずフィーは風属性、ミリアムは地属性の補助アーツをマスターするように心がけろ。『思考分割』を覚えるのはその後だ」

 

「まぁ、確かに前衛組の俺たちが『思考分割』を使えるようになれば新しい戦い方ができるな」

 

「ま、そういう事だ。俺はお前らと違ってアーツそのものは使えないがな、それでも『思考分割』のスキルは使える。そこを重点的に詰めて行くぞ。―――目標は次の実技試験だ。そこまでに戦略のバリエーションを増やす」

 

「……時間足りないっぽい」

 

 フィーのその呟きに、レイは思わず心を痛めた。

 本来であればこういった機会はもっと前に設けておくべきだったのだが、如何せん「チームでの戦い方」を仕込む事に重点を置き過ぎてしまったのだ。更にそこにクロウとミリアムという加入者が現れた事で、当初考えていたのより時間を食ってしまった事は事実だった。

 

「確かに、こういった機会を設ける時間が遅れちまったのは俺とサラのミスだ。すまん」

 

 とはいえ、言い訳をするつもりはなかった。恐らくサラとて、申し訳ないと思っている事自体は同じな筈だろう。

 そう言って頭を下げたレイを見て、つい言葉を漏らしてしまったフィーが僅かに動揺する。彼女にしてみればお世辞にも適正であるとは言えないアーツ訓練に対しての愚痴を漏らしてしまっただけなのだが、それがこのような結果を齎すとは思っていなかったのだ。

 

「……大丈夫。なんとか、する。でしょ? ミリアム」

 

「うん、そーだね。まぁメンドくさいのは確かだけど、ボクもガーちゃんに頼りっきりはイヤだしね」

 

 そんな彼女らの決意を聞いて、リィン達も腹を括った。

 視線を移すと、既に本格的な指導に移っている「上級者組」の面々が目に入る。いつもならば彼らに後方支援を頼っていたのだが、レイの言う通り、このままではいけない時がいずれ来るのだろう。

 ならば、不得手だからという理由で立ち止まっているわけにはいかない。

 

「それじゃあ、早速やろう。―――レイはどうするんだ?」

 

「まぁ、俺はアーツは使えねぇけど、今までバケモンみたいなアーツ使いの連中を見て来たからな。専門的じゃないアドバイスなら任せろ」

 

 レイはそう言って、先程購買で買い込んだEPチャージ薬を、手に持っていたカバンの中から覗かせる。それを見て、一同は苦笑した。

 しかし、とリィンは考える。《帝国解放戦線》の事もあり、万が一の事に備えるのは確かに大事な事だ。それは間違いない。

 

 だが彼は―――どういったつもりで1()()()()()()()()()()()()()というものを考慮に入れたのだろうか?

 

 内心首を傾げても分からないその疑問をとりあえず心の中に仕舞いこみ、リィンはポケットの中から自身のARCUS(アークス)を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 はい、どうも。最近部屋の掃除をしていたらゲームボーイアドバンスのソフト『マリオ&ルイージRPG』を見つけてしまい、久しぶりにやってみたらドハマリしてました。やっぱり神作。

 それにしてももう夏ですね。夏アニメで一番期待しているのは『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 3rei』でしょうか。ドライから一気にFate/っぽくなるので楽しみです。
 ついでに今執筆してる『Fate/Turn ZeroOrder』を書き終えたら、今度はドライの世界観に飛ぶのもいいんじゃないかと画策している十三です。ある意味Zeroより混沌としてるしね‼ あの世界。




 さて、今回は冒頭にも書いた通り筆者が独自に展開していたアーツ理論について「基礎的」な部分だけを抽出致しました。いずれ応用編も書く事になるかと思います。
 因みに各用語を簡潔に表すとこんな感じです。

☆『多重詠唱』:アーツを一度に複数回発動できるスキル。この「複数回」の数によって『二重詠唱(デュアル・スペル)』、『三重詠唱(トリプル・スペル)』と名称が変化する。
 数が増えれば増える程戦術オーブメントだけでは駆動詠唱が追いつかなくなるため、使用者自身が詠唱を行う事が求められる。頭の良さが必要不可欠。
 元ネタは確か『ノーゲーム・ノーライフ』。エルフのお姉さんが使ってた。

☆『思考分割』:動きながらアーツを駆動・発動するスキル。ぶっちゃけ集中力と経験が大事なため、スキルの中では習得が簡単な部類に入るのだが、それでも得手不得手は存在する。案外物理攻撃主体の人間の方が早く習得する事も。
 戦いの場で立ち止まって詠唱とか攻撃の的になるだけなので、本格的に戦う際は必須。
 元ネタは『ダンまち』に登場する冒険者アビリティの1つである「並行詠唱」。

☆『遅延詠唱(デイレイ・スペル)』『短縮詠唱(クイック・スペル)』:読んで字のごとく、アーツの詠唱を「意図的に遅らせるスキル」と、「詠唱時間を短縮するスキル」。前者の方は相手の不意を突く際に使用する。ぶっちゃけアーツ使い同士の戦いでは如何に「相手の不意を突けるか」が肝になる。
 『遅延詠唱』の元ネタは、確か『ネギま』に同じ技があった。

☆『起源属性』:その人物が生まれつき得手とするアーツ属性の事。つまりARCUSの固定スロット。この属性のアーツを使う際は消費魔力量が少なかったり威力が向上したりというメリットがある。逆に相手の『起源属性』を知っておけば戦局を有利に進められるかもしれない。
 元ネタは『Fate/』の魔術属性。そこまで縛りが強いわけではないが。

☆系統:アーツ使いはそこそこのレベルに到達すると、自分が得手とする分野を伸ばす事がほとんど。全体をまんべんなく極める事は余程のへんた……天才しかできない。まぁいるんだけど。DJやってる魔女とか。
 例としては『多重併用型』『効率詠唱型』『威力特化型』などなど。因みにレンは『多重併用型』で、トヴァルは『効率詠唱型』。

☆魔力爆散(マジック・バースト):アーツの発動失敗やら、逆に特定の条件下で魔力の暴発を起こす爆発現象の総称。まぁつまりレイ君が深淵さんに仕組まれてるヤツと同じ。
 発動失敗で起きる時は、発動させようとしていたアーツのレベルによって規模が異なる。

☆駆動術式:正確に表現しようとすると色々面倒臭くなるので、「PCのプログラミングのようなもの」と思っていただければ。戦術オーブメントはこれの詠唱をほぼ完璧に行えるが、人の頭でこれを詠唱しようとすると難しい。


 まぁ、こんな感じですね。質問等がありましたら感想欄かメッセージまでお願いいたします。

 何で今この話をやったかって? ……次の実技試験(察し)。


PS:スカサハさんは貰い受けたい。というかFGO600万ダウンロードキャンペーンがしょぼい。いつもの事だけど。
 あ、でもシャーリィちゃんが可愛い事は認めよう。
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