英雄伝説 天の軌跡 (完結済)   作:十三

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※前回までのあらすじ

①カレイジャスに乗って一路ルーレへ。
②ツァイスよりかははっちゃけてない都市であることが判明。(理由:チート一家がいない所為)
③レイとリィン、案の定ドン・イリーナによって外堀埋めが完了されていた。
④レイ、イリーナにより会長秘書の職業体験へ。(という名の半強制拉致)
⑤リィン達、《マーナガルム》金狂い二強の一人、カリサと出会う。
⑥喪女
⑦リィンとアリサの進展しそうでしない状況に壁破壊者続出。

                   以 上






主観的な未来

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――クロスベル市場におけるミラ相場は現在どうなっているかしら?」

 

「うい。外資系企業を中心に揺れ幅が大きいですね。クロイス市長の独立宣言を受けて《IBC》に預けられていたミラが流れていったのが原因じゃないかと。逆に農産物及び日常品を扱う市場は高騰しています」

 

「新規企業の様子は?」

 

「新規ベンチャー企業は煽りを受けて下落している所が多いっすね。そんな中でも《エルフェンティック》は同列の推移を保っています。最近は《N資金詐欺》も下火になってきたんで、ここいらで「ふるい」に掛けられる企業は絞り込めてきたんじゃないかと」

 

「買収は”待ち”ね。旨味がないわ」

 

「寧ろ提携の形を取る方が良いんじゃないかと。しかしこれからクロスベルでは今まで以上に株価の乱高下が予想されますんで……」

 

「待って翌年ね。生き残った企業と話だけは通しておきましょう」

 

「……え? それは俺が引き継ぎ書類を作る系ですか?」

 

「まさか。専門家に作らせるわ。門外漢にやらせれば時間が多く取られてしまうもの」

 

「この適材適所の姿勢……遊撃士よりもブラックじゃねぇ‼」

 

「合理化を突き詰めるのが企業の長としての役目よ。後、協会に不満があるならラインフォルト(ウチ)にいらっしゃいな」

 

「ヤッベ、ハメられた」

 

 

 ラインフォルト会長専用の黒塗りの防弾加工車の中で涼しい顔をしながら大量の書類に目を通しているイリーナと、それと対面するように社内に取り付けられた導力端末のキーボードを叩きながら報告書類をひたすら作っていたスーツ姿のレイは、互いに視線を合わせないままにそんな会話を交わし続ける。

 

 移動中にすら容赦なく仕事を入れ込んでくるその姿勢には最初は辟易したが、よくよく考えてみれば遊撃士時代にも移動中に仕事(※突発的な魔獣退治)をしていたことを鑑みれば、必要以上に神経をすり減らさないだけこちらの方が幾分かマシではあった。

 午前中からルーレ中を車で走り回って取引を行う事数件。昼食を摂る暇もなく、移動中に資料を流し読みしながら栄養補給バーを齧っていたが、その多忙さが皮肉にもクロスベル時代の理不尽な忙しさを思い起こさせてしまったのか、逆に逆境スイッチが入っていつもより早く行動できていたのは全く以て想定外だったとしか言えない。

 

 経済・経営学の基礎知識は遊撃士時代に半強制的に叩き込まれたお陰で、株価の変動や資本の仕組みなどについては特に問題はない。流石に会社の専門的知識―――つまるところ機械工学分野について問われれば答えきれる自信はなかったが、それについては既に見抜かれていたのかイリーナから問いが飛んでくることはなかった。

 

 

 とはいえ、此方の知識や対応の限界より僅かに上のラインを掠めるように突いて来るその()()()()はまさにスパルタの最たるものだ。なまじ人を見る目が確かな以上、自身が目を付けた人物の限界がどの位置かを見極めるスピードも速い。

 これが半永久的に続くとあれば、成程生半可な人間では彼女の傍周りを務め上げる事は出来ないだろう。レイが一日だけの契約とは言え今の今まで弱音の一つも吐かず、顔色一つ変えずに秘書の仕事に従事していられるのは、ある意味凄い事であった。

 

 

「―――レイ」

 

「はいはい、何でしょ?」

 

「貴方、今すぐ学院を自主退学して勤める気はないかしら?」

 

 その言葉に、冗談めいた声色は含まれていなかった。だからこそ、レイのキーボードを叩く音もピタリと止まってしまう。

 童顔でナメられないようにとイリーナの勧めで装着していた、度が入っていない片眼鏡(モノクル)取り外し、車内で初めて視線を交わす。

 

「……それはガチの勧誘ですか?」

 

「貴方が一番良く分かっていると思うけれど? 正直、貴方のような他所で鍛えられた人材をこのまま伏せさせておくのは惜しいわ。シャロンの時のようにね」

 

青田刈り(ヘッドハンティング)にしては直球過ぎますねぇ」

 

「私が無駄を嫌う事くらい知っているでしょうに」

 

 実際、イリーナ・ラインフォルトはレイ・クレイドルという存在をかなり高く買っていた。

 

 元の経歴が経歴なだけに、裏の世界の常識も良く知り得ている。帝都の温室で育った学生に一からそれを教え込む手間を考えれば、その時点で既にアドバンテージとしては大きい。

 護衛役としては充分過ぎる程の武力もさる事ながら、常識的な基本倫理観と礼を尽くせる人としての在り方。それを叩き込んだ人物については興味はないが、そういった基本的な人としてのスキルが極められていなければ、そもそも仕事に従事する事も出来ないだろう。

 そして何と言っても、常に学ぼうという姿勢を崩さない在り方が最も琴線に触れた。

 

「シャロンの事とか、一切関係なくなってますね」

 

「考えてはいるわよ。貴方が私の専属秘書として務めてくれれば、シャロンの作業効率も上がるでしょう。今まで以上にね」

 

「まだまだ上を狙いに行くその姿勢自体は嫌いじゃねーですよ」

 

 ただ、と。レイは再びキーボードを叩く作業を行いながら、声色を1トーン落とす。

 

「足元がお留守にならないように気を付けたほうが良いですよ。……つっても釈迦に説法でしょうが」

 

「…………」

 

「上を向き続けてるだけじゃあ見逃すものってのが必ずありますしね。……俺はそれで幾つ喪ったか分かりませんし」

 

「参考にはさせてもらうわ」

 

「その同情心とか皆無な感じもやりやすいですわ」

 

 苦笑しながら、しかしレイの考えは変わらなかった。

 

「それでも、変わらないっすよ。俺は学院に残りますし、将来こちらでお世話になるかどうかも分かりません」

 

「学院では学ぶことはないのだとしても?」

 

「学ぶことはありますよ。……ま、俺自身もついこの間見つけた事ですけど」

 

 学力という点から見れば、確かに今更学院で学ぶことは少ない。帝国独自の歴史や軍事学の授業などは比較的興味深く学習しているのだが、それも極端に言えば独学でなんとかなってしまうものだ。言ってしまえば、わざわざ必要以上の時間を割いて学院の中で学ばなくても良いものであるとも言える。

 

 だが入学してこの方、レイは教科書で学ぶ事以外の大切な事を幾つも学んできた。決して平凡な半生を歩んできたわけではないのに、それでも知りえなかった事を学べたのだ。

 同世代の仲間たちと、経歴を問わない付き合い。学院に来たからこそ再び出会えた愛しい人たち。―――それが無駄であったなどとは口が裂けても言えない。

 

「アイツらと一緒にいるとまだまだ色々と学べそうですし。俺の将来は俺が自分で決めます」

 

「あら、貴方がウチに来ればシャロンは喜ぶのに?」

 

「自分の意志で人生の道を選べない男って、女性から見たら魅力に欠けるんじゃないですか?」

 

 「シャロンがいるから」という理由でラインフォルト社に就職するのも確かにある意味自分の意志ではあるが、恐らく彼女はそういった理由で共に働くことになったとしても、本当の意味では喜ばないだろう。

 もう自分は、自分の人生を自分で選べる。―――当たり前の事だと言うのに、それが無性に誇らしくもあった。

 

「……そう。ならいいわ。私も無理強いをするつもりはないもの」

 

「あれだけ外堀埋めておいて良くそんなこと言えますな」

 

「手段の一つと言って欲しいわね。貴方の能力が惜しいのも本当だもの」

 

 まぁ気が変わったらいつでもいらっしゃいな。と、イリーナは変わらずの態度でそう言う。何はどうあれ、自分の力を必要としてくれるというのはありがたい事であり、その点に関しては内心で感謝の意を示していた。

 

 そんな会話を交わしていると、いつの間にやら車はルーレ市の中心部―――RF社の本社前に到着していた。

 社会科見学という名の数時間だけの限定雇用は会長室に戻って報告書を書き終えれば終わる。クロスベル支部での仕事よりかは仕事量そのものは幾分か楽ではあったが、しかし精神的に疲労した感じは否めない。

 やっぱり慣れない仕事は疲れるなと思いながら車外へと出ると、下層の辺りからもめるような声が聞こえて振り返る。すると、上層と下層を繋ぐ巨大エスカレーターは何故か止まっており、出入り口には橙色の軍服を身に着けたノルティア州領邦軍が立ち塞がっていた。

 

 

「……イリーナ会長」

 

「詮索は無用よ」

 

 問いを投げようとしたレイの声を、イリーナはその言葉だけで制した。

 

「領邦軍、それもログナー侯爵家直轄の精鋭部隊と事を荒立てるのは得策ではないわ。……貴方だと力づくで何とかできてしまうでしょうから尚更ね」

 

「戦場慣れしてない領邦軍だったら完全武装済みでもそこそこ相手にできると思いますよ? 上位の猟兵団クラスになると部隊長に”準達人級”クラスが普通に紛れてますからね」

 

 ともあれ、と。

 

「RF社の筆頭大株主がログナー侯爵家だから、事を荒立てるわけにはいかない、ですか」

 

「えぇ。―――けれども」

 

「?」

 

「そろそろ三日前にクロスベルに商談に行かせた役員が帰ってくる頃合いね。後は―――まぁ、ルーレ空港の近くで騒がれるのは流石に鬱陶しいわ」

 

 そう言われ、レイは今自分が身に着けている服を見下ろし、そして嘆息するように息を吐いた。

 結局厄介事を押し付ける気満々だったんじゃないかと呆れながらも、さてどういった口八丁で切り抜けるべきかを冷静にシュミレートしながら、RF本社の入り口とは別方向に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 事の発端は、帝国宰相ギリアス・オズボーンの命を受け、《鉄道憲兵隊》が《帝国解放戦線》への対抗策としてルーレ市への調査・警戒活動の実施を申請した事であった。

 

 言うまでもなく、ルーレという街はエレボニア帝国の軍需産業の中核を担う都市であり、それ以外にも飛空艇や鉄道など、ありとあらゆる近代文明の発信地となっている場所である。

 テロリストの立場から鑑みれば畢竟、いつ狙われてもおかしくはない場所であり、帝都での襲撃事件の一件以来、政府側が最も警戒を強いていたと言っても過言ではない。

 

 だが、ルーレ市は北部ノルティア州、四大名門が一角、ログナー侯爵家が直轄で治める地域であり、練度の高いノルティア領邦軍が逗留している。そんな場所に不倶戴天の間柄と言ってもいい《鉄道憲兵隊》の面々が参ずれば、一触即発の状況が築かれてしまうのは想像に難くないだろう。

 

 両者、共に言い分はある。

 ノルティア領邦軍は、侯爵家の治める地を自らで守り通してきたという自負がある。余所者とも言える輩が我が物顔で入って来ようものならば、その矜持にかけても決して引こうとはしないだろう。

 対して《鉄道憲兵隊》は、宰相閣下直々の命を受けて着任したという大義名分がある。帝国全土に敷かれた巨大な鉄道網を駆使して迅速を尊ぶ自分たちの方が領邦軍よりもあらゆる意味で上手であるという自負がある以上、彼らもまた引きはしないだろう。

 

 

 ―――今回に関しては、()()()()()()()()()()()()()。騒ぎを聞きつけて駆け付けた中で、リィンは内心でそう思っていた。

 

 領邦軍の排他的な雰囲気は既に知っている。ケルディックとバリアハートの一件で嫌というほど体感した。彼らが貴族的な誇りを誇示している以上、《鉄道憲兵隊》との融和は図れるものではないだろう。

 だが、彼らが最もルーレという街を知り尽くしているのもまた事実。地の利を踏まえるのならば彼らの協力もまた欠かせないだろう。―――本当に協力する気があるのならば、だが。

 

 対して《鉄道憲兵隊》も、少しムキになっている部分があるのではないかと思ってしまう。確かに帝国全土に敷かれた鉄道網を駆使した機動力は大陸随一と言っても過言ではないだろう。その優秀さも良く知っている。

 だが、優位性を過信しすぎていると痛い目に遭うのもまた道理。本来であれば領邦軍と《鉄道憲兵隊》の両方が協力する形で行動を起こすのが一番理想的ではあるのだろう。

 

 ただまぁ、それはあくまで理想論だ。水と油、犬猿の仲とまで言われる間柄である以上、現場指揮を任されている者同士では決着は着かないだろう。

 実際、口論になった末に領邦軍が装甲車まで持ち出すという緊迫した場面にもつれ込んだが、それは闖入者二人によって収まりつつあった。

 

 

「ここで互いにいがみ合っていても仕方がない。それは其方の方も良く存じているだろう」

 

「そうですね。円滑に作戦を進めるためには、協力するのが得策でしょう」

 

 アルバレアの長兄、貴族界の貴公子ルーファス・アルバレア。片や《鉄道憲兵隊》の司令官クレア・リーヴェルト。

 落としどころを見つけ出すという点に於いて場数を踏んできたこの二人が顔を合わせた瞬間、ひとまず戦闘が開始されるという緊張感そのものは緩和した。

 

 だがそれでも、その「落としどころ」を如何にするか。その腹の探り合いは続いている。

 表面上では余裕を崩さない表情で言葉を交わしている二人ではあるが、その圧迫感に憲兵隊の兵士も領邦軍の兵士もたじろいでいる。遠巻きに見ていたリィン達にも、それは伝わった。

 

「(……戦闘で感じる気迫なんかとは、また別物だね)」

 

「(アッチはユーシスの兄貴なんだろ? 社交界やなんやらで鍛えられた手腕は伊達じゃねぇってか)」

 

「(……クレア大尉の方は現場で鍛えたって感じがするけれど)」

 

 介入、という選択肢は始めから存在していない。互いに帝国の中枢を知る者達の会話に、ただの士官学院生であるリィン達が割り込める筋合いはない。そもそもこういった状況にはとんと疎い自分たちが割り込んだところでどうなる訳でもないだろうという事くらいは分かっていた。

 しかしそれでも、自分たちよりも遥かに実績を積んだ彼ならばこの状況を第三者の視点から収める事ができたのかもしれない。―――そんな事を思っていると、どこからかトン、トンッという軽快な着地音が響いてきた。

 

「お、おい貴様‼ 何を―――」

 

 上層のエスカレーターを封鎖していた領邦軍兵士の制止の声など露ほども気に留めず、その人物は三回のステップを踏んだ後、下層フロアの中心部―――ちょうどルーファスとクレアの両名が火花を散らす場所の近くに大跳躍の後、着地した。

 

 

「―――っと。……やっぱ慣れない靴でやるもんじゃないな。ちょっと痺れた」

 

 リィン達の懊悩を他所に堂々と割り込んで見せたのは、いつもとは違う装いで、しかし雰囲気はいつものままに()()()()()()()()()()乱入したレイの姿だった。

 突然の事過ぎて呆気にとられる両軍の兵士。相対していた二人でさえも、一瞬予想外のものを見たという表情になっていた。

 

「どうも、ルーファス卿。バリアハートでお会いして以来ですね」

 

「―――あぁ、そうだね。まさかこの場に於いて私自身が意表を突かれるとは思わなかった」

 

 正気に戻ったルーファスの護衛のクロイツェン領邦軍兵士がレイに銃口を向けようとするのを手で制し、ルーファスは自分の不意を突いてみせた少年の方へと視線を移す。

 

「ふむ、その服は確かRF社の……学院を中退でもしたのかな?」

 

「まさか。特別実習に来たら社会科見学と銘打った強制的召集を食らっただけですよ。ホラ、会社バッチまで付けて、所属は数時間だけRF社に変更です。あの会長油断も隙もありません」

 

「ハハ、成程。流石は辣腕と称されるだけの事はある。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ルーファスはその時点で、何故レイがこの場所に割り込んできたのかの理由を察した。

 元々レイは、エレボニア人ですらない。『貴族派』『革新派』のいざこざに縛られない身分である。それに加えて今彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()R()F()()()()()()()()()()()()()()。両派閥にとっても敵に回すのは極力避けたい勢力の一人であり、尚且つ会長の覚えめでたい存在である以上、無下に扱うわけにはいかない一種の爆弾。―――今の自身にそういった”価値”があると分かっている上で乱入してきたレイに対し、ルーファスは一瞬言葉を詰まらせた。

 その一瞬でレイは、視線を振り向かせてクレアの方を向く。

 

()()()()()も。病み上がりなのにご苦労様です」

 

「……えぇ。私たちの職務は一分一秒たりとも待ってはくれませんからね」

 

 自分の事を敢えて「クレア大尉」と呼び、いつもの年上と接するような畏まった言葉遣いで話してきた。―――それが意味するのは、レイが今回だけは徹頭徹尾”第三者”として関わる事を選択したという事。

 胸の内にチクリとした痛みを抱えながら、しかしクレアは先ほどまでと同じように対応した。―――内心動揺していたのは、彼女の側近たちにはうっすらバレていたのだが。

 

「それで、君は何故この場に? まさか挨拶をするためだけに降りてきたわけでもないだろう?」

 

「そうですね。まぁ単刀直入に申し上げますと」

 

 レイはそのまま、街の東部にあるルーレ空港を指差し、そして次いで空港との出入り口にあたる場所を指差した。

 その場は現在、領邦軍が引っ張り出してきた装甲車によって塞がれており、他の主要施設への出入り口もまた、この騒ぎを受けて野次馬が集まり、どうにもできない状況が続いていた。

 

「通行がシャットアウトされて迷惑極まりないので早く落としどころを見定めて下さいとのお達しです。先ほどの便でRF社の役員が複数名帰ってきている筈ですし、十数分後には開発室で使う機材が輸送便で到着するスケジュールとなっています。その後も諸々到着予定のものがあるので、想定外の封鎖は早めに解除していただければと」

 

 領邦軍の面々からの無言のプレッシャーもどこ吹く風と言わんばかりにスルーし続け、それに、とレイは続ける。

 

「市民の方々が騒ぎを聞きつけて集まってきてしまっていますし、このままだと何かあった時に事件になりかねないので、続きは後にした方がいいかと思います。……あ、これ元遊撃士としてのアドバイスですが」

 

 ルーファスはこの騒ぎには直接的には関係ないとしても、それでも市民を巻き込むのは本意ではない筈だ。《鉄道憲兵隊》の方もそれは分かっている筈である。

 無論、レイにこの騒動を収める権限などありはしない。だが、第三者が介入してきたこの状況でそれでも尚騒ぎを大きくしようものならば、領邦軍も憲兵隊も市民の反感を買う羽目になってしまう。

 

「フム、そうだな。このまま封鎖を続けるのも宜しくない。―――元より私は通りがかりの身だ。クレア大尉、貴公の異名に恥じない冷静沈着な判断を期待しよう」

 

「いえ、こちらこそお手を煩わせてしまい申し訳ありませんでした。―――ではノルティア領邦軍の皆様方、お話は後々、ゆっくりと致しましょう」

 

「う……うむ」

 

 そう言って、先にクレアが部下を率いてルーレ駅の方へと戻っていく。その際に一瞬だけレイの方を向いて複雑そうに微笑んだ。それに対して同じく微笑を返すことで挨拶とし、次いでルーファスもその場を離れようとする。

 しかし、レイとすれ違う瞬間、共に付けていた領邦軍兵士にも聞こえないような小声を投げてきた。

 

「―――一つ貸し、という事で構わないかな?」

 

 つまるところルーファスは、あの状態で確実にクレアを追い込む策を見出していたという事である。

 それが、レイの乱入によって有耶無耶になった。それがなければ、《鉄道憲兵隊》は職務を果たせない可能性すら存在していたという事なのだ。

 

 レイ・クレイドルに対する「一つの貸し」。それが結構な意味を持つという事を、自惚れを排しても彼自身はよく理解していた。市内を去る前にリィン達へと話しかけているルーファスを横目で見ながら、レイはふと違和感を感じ取った。

 この自然な方法で巧みに状況を自分が有利な方向へと持って行き、尚且つ厄介な相手にいつの間にか枷を嵌めていくやり方。これは貴族の手腕というよりかは、まるで―――。

 

 

「―――レイ‼」

 

 そんな事を考えていると、ルーファスとの話が終わったリィン達がレイの下に駆け寄ってくる。

 感じた違和感は拭えないまま、しかし彼は数時間ぶりではあるが仲間たちの下に戻れたことに、一抹の安堵を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 どうも。十三です。……実はルーレ編のあらすじを書き殴った紙をどこかになくしましてね。探し出すうちにこんなに遅くなっちまいましたよ。危なかった。そしてごめんなさい。

 この前自室の机の中を掃除していたら、奥の奥の方にゲームボーイアドバンスSPと「ロックマンエグゼ5 -チーム・オブ・カーネル-」が出てきたので童心に帰ってやってました。 ダークソウル? あれチートやん。プリンセス・プライドの可愛さは異常。シャドーマンのリベレートミッションの使い勝手の良さは異常。つまり神ゲー。

 さて次回―――クレア大尉のドレス姿が見たい紳士諸君は次回もよろしくお願いします。


PS:
 今季アニメの『ブレイブウィッチーズ』を見てストパン熱が再来した自分。もう小説書こうかなとも思いましたが、あの世界に足突っ込むのは勇気がいるんですよね。
 私が502の中で一番好きなキャラはロスマン先生とニパです。
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