英雄伝説 天の軌跡 (完結済)   作:十三

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「真面目に生きていない奴のことを、オレは絶対認めねぇ」

      by 天魔・宿儺(神咒神威神楽)








真祖の美学

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――最初に感じ取れたのは、”覇気”であった。

 

 

 普段の彼であれば、絶対に噴き出させることのない超常の雰囲気を纏った”それ”。

 ”それ”を全身に纏わせたまま、リィン・シュバルツァーという存在は()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「■■■■■■―――⁉」

 

 体格差は優に二倍近くはあるであろう巨漢を殴り飛ばすなどという事は、今のリィンの技量では叶わない。

 だがそれでも現実的に岩壁に激突したヴァルカンの姿がある。そしてアリサの目の前には―――髪の色が銀に流され、双眸が深紅に染まったリィンの姿がある。

 

 

「―――アリサ」

 

 それは、絞り出したような声だった。まるで人に声を掛けるという、ただそれだけの理性すらも吹き飛びかねないような衝動を必死に抑え込んでいるかのような声で。

 

「下がっていてくれ」

 

 そんな有様で、彼は一言、アリサの身を案じる声を残した。

 しかしその声の余韻は、リィンが太刀を抜刀する音で掻き消される。

 

 同時に、エリオットの詠唱が終了し、広域に回復魔法が展開される。

 鉄の塊の直撃を受けて動けなくなっていたフィーが立ち上がり、リィンに加勢しようと双銃剣の引き金に再び手を掛けたが、彼女はその本能的な直感力で引き金を引くことを躊躇った。

 

 「加勢してはならない」―――その感覚を味わうのは初めてではない。

 《西風》に属していた頃は度々感じていたそれだ。世の中には、第三者が介入してはならない戦いというものが確かに存在する。

 卑怯卑劣、そういった感情からくるものではなく、他者が踏み込んだ瞬間に練り上げられた状況、勝利の在り方が一変してしまう禁域。

 

 だからこそ、フィーは臨戦態勢を継続するだけに務めた。

 もしもの時は仕留められるように。そして()()()()()()()()

 

「(……ま、アリサの方はそんな簡単に割り切れないだろうけど)」

 

 リィンのあの変貌は、以前レイの口から聞いていた。

 彼の内に眠る何かが活性化した状態。―――封印術に長けたレイが秘術クラスの封印を施したという事で一応は安心していたのだが、再びこうして”現れた”という事は、何かがあったのだろう。

 

 ―――そこでふと、フィーの鍛えられた動体視力がリィンの首元に何か付いている事を捉えた。

 

「(? なんだろ、アレ。刺突痕とかじゃない。……まさか)」

 

 ()()()? ―――何となくそう察した直後、リィンが動いた。

 

 

「■■■■■■■――――ァッ‼」

 

()ッ―――()アアァッ‼」

 

 相も変わらずヴァルカンの方は巨躯からは想像もつかない程の敏捷性を以て迫ってくる。だがリィンの方の速さは、その数段上を行っていた。

 一度の瞬きの間に、複数の斬線が交差する。氣と魔力を練り上げたものを足裏に溜めて放出し、レイのそれには到底及ばないものの、【瞬刻】の真似事にしては上出来とも言えるそれでまずは厄介な武装を微塵に砕く。

 

 《八葉一刀流》弐の型―――『裏疾風』。

 この武技を得手とする《風の剣聖》アリオス・マクレインであれば、その一斬で勝負はついていただろう。

 

 だがリィンはその攻撃でヴァルカンが携えていたガトリング砲を最優先で破壊した。

 つまりは、厄介な得物を先に始末するだけの理性が、まだ残っているという事だった。

 

「(っ……落ち着け。落ち着け、俺。吞まれるな、呑まれるな……っ)」

 

 実際のところ、リィンの意識は綱渡りも同然の危うさで辛うじて残っている状態であった。

 一瞬でも気を抜けば、正気は奈落の奥底に落ちて、或いは戻ってこられなくなるだろう。あの旧校舎の地下でそうなった時はレイが引き上げてくれたが、今回もそうなるとは限らない。

 

 せめて呼吸だけでも整えようとするが、今は戦闘中だ。ギリギリ意識を保ったまま戦闘を終えられるか、それとも途中で正気を失って再び狂獣のように暴れまわるようになってしまうのか。

 ……後者の無様を、二度晒すわけには行かない。そう思える程度には、リィンは己のこの状態の危険性を理解していた。

 

 

 

 

『―――存外足掻くのだな、小童』

 

 脳内に、再びその声が響いた。

 

『貴様の体内には今、牙を介して余の血を一滴巡らせた。……侮るなよ? 《真祖の吸血鬼(エルダーヴァンパイア)》の血だ。一滴であれど、常人であればそのまま内側から弾け飛んで無様な骸を晒すであろうよ』

 

「そんな―――ものを……っ」

 

『安堵せよ、《眷属》にはしておらぬ。嘗ての余であればいざ知らず、この身で今更現世(うつしよ)に未練など無い』

 

 ()()()()()()()()

 何となく分かっていた事ではあるが、このエルギュラという女性はヒト一人の事を特段何とも思っていない。……その割に此方を試すような事をしてくるのは何故だろうか。

 

 

『異な事を。余は人間を愛しているぞ』

 

 心を読まれたのか、エルギュラはリィンのその思考を嘲るように言葉を割り込ませる。

 

『余がどれ程の永い間、ヒトの世を諦観して来たと思っている。神どもが創り上げた世界など総てが陳腐に輝くのみのつまらんモノであったが、ヒトが築いたそれは酷く猥雑で、混沌で、然れども余を無聊させぬ熱があった』

 

「…………」

 

『無論、その栄枯は授けられたモノではあるまい。屍産血河の果てに築かれた、()()()()()()()()それであるからこそ、人間の”可能性”は余を魅了して止まぬ』

 

 故に、と。エルギュラはリィンの耳元で囁くように、甘く……然れども血の気の全てを凍り付かせるような声色で破滅を望む悪魔のような呟きを謳う。

 

 

 

 

『余は人間の総てを愛している。命を定められた矮小な者らが絶望を前に、呆けるも良し、膝付くも良し、自ら死を選ぶも良し。―――だが余が最も好むのは、”拒む者”である』

 

 

『我が愛し仔もそうであった。神の遺物に玩弄され、幾度も幾度も絶望に浸ったが……あの者はそれでも運命に弄ばれ続ける道を拒み続けた』

 

 

『時の世とは酷なものよな。抗う事で始めて真価を発揮する者をいとも容易く、非情なまでに生み出す。―――尤も、余の見立てでは貴様もその”異常者”だがな』

 

 

 

 ―――”誰”の事を言っているのか。

 

 それが一瞬で理解できてしまったからこそ、リィンは胸の内の怒りを抑えることに必死だった。

 体の奥底から”作り変えられる”ような気持ち悪さを堪えながら、振り払うように腕を振る。

 

「黙、れ‼」

 

『…………』

 

「アンタの価値観に興味なんかない‼ アンタが何を好んでいるのかも‼ ……俺の事をどう評価してもどうでもいいが―――でも俺の友人を侮辱するのは止めろ‼」

 

 レイ・クレイドルという少年が、抗う事で真価を発揮する者であるなどと、彼は認められなかった。

 いや、仮にこの妖女が言っている通りであるのだとしても、それが個人の幸せに直結するとは限らない。真価などは所詮他者が定める客観的な評価に過ぎないのだから。

 

 だからこそ、リィンは友人として、その評価を認めるわけには行かなかったのだ。

 自分が知っている彼の過去はただの一端にしか過ぎないが、その全てを彼が望んで享受していたとは到底思えなかったから。

 

 

 ―――直後、圧が増した。

 片膝が地面に押し付けられる。自身にかかる重力が何倍にも増したかのように思え―――しかしそれは虚構だ。

 

 王威。絶対者の威圧感が増しただけ。何の修羅場も経験していない者がそれに晒されれば、たちどころに心停止を起こして生死の境を彷徨うであろう程の圧力。

 事実、リィンも一瞬だけ意識が飛びかけたが、しかし双眸に光を宿したまま何とか堪え、睨み返した。

 

 どう足搔いたところで、この妖女と自分(人間)との価値観は食い違う。レイは他者同士の相互理解が大事であると口を酸っぱくして言っていたが、そもそも足を付けている境界が異なる存在と対話を成立させる程に今の自分は強くはない。

 ならばせめて、折れない心だけは見せつけなくてはならない。何が何でも屈服されない心の強さを見せつけなければならない。

 それが譬え、彼女を悦ばせる事になろうとも。

 

『―――は、佳い。実に佳いな』

 

「っ……」

 

『己が身が危機に瀕している時に友の侮辱に憤慨するか。王たる余に命ずるとは不敬甚だしいが、貴様の胆力に免じて赦そう』

 

 言葉とは裏腹に、エルギュラの顔は嗜虐的な笑みに彩られていた。

 

 言うなればリィンは、この時点で確実にエルギュラの眼鏡に叶っていた。こうなってしまっては彼女は、気に入った者の一挙手一投足総てを愉しみ、悦ぶ。―――その心が折れて枯れ果ててしまうまで。

 レイ・クレイドルという少年の、一度は砕け散りながらもより堅牢に、そしてそれ故に脆く鍛え上げられた鋼の心も狂おしいほど好みであった。

 だがリィン・シュバルツァー―――この青年の、これまでに積み上げてきた全てを壊し崩しかねない地と奈落の瀬戸際で留まる薄氷の如き心も、それで良し。

 出来得る限りの情で以て愛で狂わせたその先に、一体何が”残る”のか。つまるところ、エルギュラが興味を抱いたのは”それ”であっただけという話。

 

 

「あ”……ガッ、ぐ、ぅぅ……」

 

 魂が燃え上がるような鼓動を、リィンは感じた。

 生半可な熱ではない。ともすれば己そのものを焼き尽くしてしまいそうなほどに鮮烈で、しかし凶悪な”焔”。

 

 もはや太刀の柄を握る手が、どれ程の力を込めているか分からない。刀身が啼き震えても尚、それでは足りぬと言わんばかりに熱く、熱く、”灰”となって散ってしまう程に。

 

 

『熾火に水を差すは無粋ぞ。堪えるな、小童。己が延髄まで灼き尽くせ』

 

 リィンの顎に手を添え、艶やかな人外は蕩けるような声色で誘う。

 

『貴様は力を欲するのだろう? 惚れた娘子を護る為の力が―――その背に憧憬を見た剣士の隣に立つ為の力が』

 

 心を覗き、魂を識り、リィン・シュバルツァーが最も求める言葉を口にする。甘く、甘く、侵して溶かす毒のように。

 

『ならば余の血にその身を委ねよ。無様に、されど雄々しく踊り狂ってしまえ。―――”英雄”の楔に囚われし憐れな者よ、喜べ。貴様の願いは此処を以て成就する』

 

 ”力”。鍛え抜けば”達人級”に比する程の強さを手に入れられるそれに惑わされ、太古の昔から一体何人の武人が手を出し、そして破滅して行ったことだろう。

 果たしてこの小童は如何ほどの者であるかと思いながら惑わし、そして返って来たのは……

 

 

 

「ふ、ざける―――なッ‼」

 

 一閃。容赦なく斬り捨てるように放たれたそれは、しかし当たり前のように虚空を擦過する。

 

「”そんなモノ”に手を出すほど、俺は落ちぶれちゃいない……‼ 俺が求めるのは、与えられる強さじゃなく、自分で磨き上げて作り出すものだ‼」

 

『青いな、小童。その理想にどれだけの武人が焦がれ、しかし成し得ずに散り果てたと思っている』

 

「……辿り着けなかったのならば、そこが俺の終着点だ。たとえアイツの隣に並び立つことが叶わなくても、武人の端くれとして誰にも恥じない”力”を手に入れてみせる‼ それで何かを守り通すのが……俺の剣士としての意地だ。それだけは何があっても崩させはしない‼」

 

 

 

 ―――何者にもなれない未熟者であるならば

 

 ―――せめて誰にも恥じない生き方ができるような人間になるべき

 

 

 それが、リィン・シュバルツァーが掲げた矜持の一つ。

 例え護りたいと思うモノ全てを守り通し、友の隣に並び立てる程の強大な力をここで得られたのだとしても、それはリィン自身が求めていたそれではない。

 レイ・クレイドルの強さは、紆余曲折あったとはいえ彼自身が死に物狂いの鍛錬の果てに得たモノであろう。ならば、自分もその果てに武の奥地を極めるようにならねばならない。

 

 武人とはそういうものだろう。己自身で研磨した技と心以外は、きっと何の価値もない。

 

 

『―――ク』

 

 嗤った。

 否、嘲弄ではなかった。エルギュラは心の底からその青臭く、しかし清廉な矜持を湛えていた。

 それでこそ逆境を覆す力を持った”人間”だと、それでこそ何にでも成ることが出来る”人間”だと。

 

 エルギュラは、怠惰なモノを嫌悪する。

 逆境を前に、何の抗いもせずに服従する愚者を嫌悪する。抗いの果てに頽れた弱者を愛おしむ心はあれど、初めから諦観を以て冷め切った者は、彼女にとって何より”つまらないモノ”だ。

 

 だからこそ、気に入った。

 

 だからこそ―――その決意が折れた時、それでも彼はまだ己に刃向かうのか。それが愉しみで仕方がない。

 

 

『クハハッ、ハハハハハハッ‼』

 

 その笑い声が、リィンに流れる血を更に活性化させる。

 

 壊せ、滅ぼせ、全てを一切合切塵となるまで徹底的に鏖殺せよ。

 憎しみに身を委ね、力の在るがままに振る舞うが良い。その果てにヒトならざる修羅へと堕ちてしまったのだとしても―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――超常者()は、貴様を愛してやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ―――ガ、うっ…………あ、あ”あ”ア”ア”ぁあ”ガッ―――‼」

 

 人間をヒト足らしめるのは、理性が本能を繋ぐたった一本の綱だけだ。

 それを千切る程度、数万という永劫にも等しい時を生きてきたエルギュラにとっては児戯よりもなお容易い事。決してリィンの精神力が軟であったなどと言う事ではない。

 

 寧ろその予想以上の強靭さにエルギュラの方が僅かに驚愕したほどだ。

 先程の言葉が伊達でも酔狂でも虚勢でもなく、ただの本心であったのだと認めざるを得ない程度には。

 

 

『だがそんなものは、理性が吹き飛んだ(本能)の前では何の役にも立ちはしない』

 

 人間はいつだってエルギュラ(彼女)を飽きさせない。

 騎士の清廉さも、民の純朴さも、男女の睦事も―――弱者の愚かしさも、外道の悪辣さも、暗君の暴虐さも。

 

 ならば、この青年はどうだ。

 武人として未成熟なれど、高みを目指す気概は充分。それは、如何なる挫折を以てしてもなお不動のものか、否か。

 

 

 滅気を纏った斬撃が容赦なく叩き込まれる。

 その速さはもはや、狂化されたとはいえヴァルカンでは追いつけない程。その斬線に耐え切れずに、巨体が地に叩きつけられる。

 剣鋩は、しっかりとその首に添えられていた。さながら今より執行を行う断罪者の如く、一瞬の迷いなくその命を絶つために。

 

 だがその眼前に、小さい影が割り込んでくる。

 

 

「……それ以上は、ダメ」

 

 銃口は真っ直ぐ、リィンの額に向けられていた。

 フィーは小さく、しかし濁らせずにハッキリと否定の言葉を漏らすと、黄緑色の眼光を細めてリィンを正面から見据える。

 

()()()()()()()()()()()。そこから先は私たちと同じ―――死の臭いを永遠に撒き散らす”人でなし”の世界」

 

 リィンを”此方側”には来させないように。そう頼まれたのもあるが、フィー自身、リィンという青年がその世界に足を踏み入れるのを拒否したかったというものもある。

 彼が目指した活人剣は、”此方側”で使うものではない。血と憎悪と欲望に塗れた裏側の世界は、真実彼には似つかわしくないのだから。

 

 だが、フィーが全霊で引き留めようとしたのにも関わらず、リィンはその滅気を抑えようとはしなかった。

 否、抑えられなかった。もはやエルギュラという弩級の超常存在が齎した血の一滴に全てを支配されてしまっている。彼自身の意志で何かが出来るわけもなし。

 

 その詳細まではフィーは知らなかったが、もはやここまで異様な雰囲気になってしまっては、言葉で理解させるのも殺気で抑え込むのも無理だと分かっていた。

 故に此処に至ってはもはや力でねじ伏せるしかない。それが可能かどうかは、やってみなければ分からないが。

 

 フィーが苦渋の決断を下し、リィンがフィーにすら刃を向けようとしたその瞬間―――リィンの背に、誰かが抱き着いた。

 

 

 

「……帰ってきなさいよ」

 

 懇願するような、弱弱しい声色ではなかった。

 何が何でも引き戻してやろうという、強い声だった。

 

「こんなところでワケ分からない何かに()()()()()()()()()、さっさといつもの貴方に戻ってきなさいって言ってんのよ‼ リィン・シュバルツァーぁっ‼」

 

 首根っこを掴み、自分の至らなさ加減に涙目になりながら、それでもアリサはリィンにそんなストレートな言葉を吐き捨てる。

 自分が、彼と同じくらい強ければ―――そんな仕方のない渇望に目が眩みそうになりながら、彼女は惚れた男を正気に引き戻すために自分の命を差し出す覚悟で言葉を紡いだ。

 

 異形のオーラを纏った想い人に対する恐怖感は、ない。

 その程度で恐怖感を抱けるほど軟な鍛え方はされてこなかったし、何より()()()()()()()()()の想い人を見捨てて腰が引ける程、抱いた恋心は温くない。

 

 ある意味でその好意にかける強靭な精神力は、彼女の母親、イリーナ・ラインフォルトに酷似していたとも言える。―――皮肉な事に。

 

 

 そしてその言葉は、何故だか粉々に千切れた筈の理性の綱を手繰り寄せて、リィンの瞳に再び微かな光を宿らせる。

 

「ァ”ア”……ア、リサ……」

 

「大丈夫、私は此処にいる。何処にも行かない。貴方は、独りぼっちじゃないんだから」

 

「ッ―――」

 

 柄を握る手が緩む。戦意も、殺気も、滅気も、全てが急速冷凍されていくかのように冷え込んでいく。

 その豹変を見てエルギュラは、しかし憤慨するような事はなく、寧ろ興味深いものを見たかのような表情に変わった。

 

 

『……フン、あの小娘、《大地》の眷属の末裔か。ならば《焔》の臭いが濃いこの小僧を鎮めるのは、ある意味当然の帰結よな』

 

 ”面白い”と。エルギュラは素直にそう思った。

 神々の黄昏などもはや遥か昔の事。世界そのものを一度破滅させた()()()()の”揺り戻し”が、現代でこうも顕著に現れる。

 ならばこれより先の歴史は、己の無聊を慰めるに足るやもしれぬと、そう口角を吊り上げた瞬間だった。

 

 

 ―――エルギュラの胸を、背後から一振りの長刀が貫いた。

 

 

 

 

「陛下」

 

 

 嗚呼、その声を聞くのもいつ振りかと、真祖たる吸血鬼は妖しく破顔する。

 

 

「少し戯れが過ぎるでしょうが。―――俺の友人を弄るようなら、今度は本気で、俺の全てを賭けて滅殺しますよ」

 

『ハッ……吼えるようになったではないか我が愛し仔よ。貴様に余が殺せるとでも?』

 

「お望みならば。覚悟なんぞは最初(ハナ)っから、貴女を封じた時から出来てますよ」

 

 下腹から燻るような低い声でそう嘯く愛し仔に対し、エルギュラは更に口角を吊り上げる。

 久しく感じていなかったその殺気。自身を封じたあの死闘の時からなんら色褪せていない剣の鬼としての怖気が走るほどの才能。

 

 

 そんな極まった武人のみが発する闘気を湛えて、愛する女性を担いだまま―――レイ・クレイドルはそこに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 

 ……リィンが《焔》の系譜だったとして? アリサが《大地》の眷属の末裔なら? 二人の子供って……いや、よそう。ここら辺の考察は多分別の人がやってる。

 というわけでエルギュラ陛下はっちゃけ話でしたぁ。ぶっちゃけ迷惑千万にも程がある。これで人間大好きなんだから猶更タチが悪い。おいスタッフゥ‼ 誰だよこんなキチガイ連れ込んだのは‼(※僕です)

 エルギュラ陛下って一体何歳なんだぁ、という質問があったような気がしたのでお答えしますと、軽く数万年くらい生きてる軌跡シリーズ屈指の超常存在。神が普通に居た頃から地獄に根付いてたからね。仕方ないね。

 そしてリィン君は地獄の試練に耐え抜いた。耐え抜いてしまった……ッ。
 安心しろ。お前さんの精神力は既に結構なモノだ。だがウチのⅢは原作より酷くなると思うからその点油断しないようになぁ‼


 ……とまぁ、そんな感じでお送りしました。

 うん、悪ノリだね‼





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