英雄伝説 天の軌跡 (完結済)   作:十三

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 明けましておめでとうございます。
 ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。宜しければ今年2018年も拙作をご贔屓いただければこれに勝る幸せはございません。

 というわけで最終章の前の幕間一本目と参りましょう。








幕間ノ章
新たなる”最初の一歩”


 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、リィンもシャロンもその翌日には当面の危機を脱した。

 

 

 元よりリィンの方は「《祖たる一(オールド・ワン)》の《真祖の吸血鬼(エルダーヴァンパイア)》に憑かれたまま」という、根本的なド災厄ネタが残ってはいるものの、表面的な問題は未知の力を無理矢理引き出されたことによる疲弊だけであった。

 

 対してシャロンは「呪力の体への定着」「大量失血による体力の著しい低下」という二つの問題を抱えていた。

 その内、失血による問題はノルティア州最高峰の医療機関であるルーレ医科大学附属病院での輸血によって大方解決した。―――無論、イリーナが最初から手を回した上での処置であった為、シャロンの身に起きた一切の”摩訶不思議な出来事”については病院上層部の中で完全に封殺した上での結果であったが。

 

 そして呪力の体への定着についても―――これは専門家であるレイがほぼ一日中つきっきりで面倒を見ていたからという事もあるが、驚くほど順調に成功した。

 その理由について、レイはトリスタに帰る列車の中で仲間たちに対してこう説明した。

 

 

『一昨日も言ったと思うが、呪術ってのはあくまでも”呪い”がベースだ。……適性がある人間の特徴としては「”負”の側面が強く、もしくは尖って残っている」のと「執着心が強い」って事が挙げられるんだが……そう睨むな、アリサ。これは別にシャロンを悪く言ってるわけじゃなくて、そういう適性がある人間はこの世の中に必ず一定数は居るという事だ』

 

 俺みたいにな、と付け加えて、レイは苦笑した。

 

 そういった適性の問題は既にシャロンは知っており、今回自分自身が上手く適応した件についても特に何かを嘆くことも無く、寧ろ「愛の力ですわ♪」と嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

 だが、本来はここからである。呪力の「定着」は恙無く完了したとしても、それの「扱い方」は別問題。そこを間違えれば暴走状態となった呪力に身体を蝕まれ、取り返しのつかない事態にもなりかねないのだ。

 とはいえ、レイがルーレに滞在し続けて呪力の「扱い方」を教授する事は彼の”学生”という身分が許さない。というよりそもそもシャロン自身がそれを望まないだろう。

 

 正直、シャロンの呪力への適性はレイが思っていた以上に高かった為に、彼女自身が独学で研鑽を積むのも可能ではある、と思っていた。

 それでも「万が一」を考えてしまうのはレイ・クレイドルという人間の慎重深さでもあり―――愛した女に対しての当然の思いでもあった。

 

 

 だから、彼はある”人物”にシャロンの事を託した。

 

 

 自身が()()《天道流》の呪術の一部を継承させた存在に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

「……何でだろうね。凄い見慣れた光景の筈なのに、僕今涙が出そうになって来た」

 

「何だかんだで、一ヶ月はルーレに居たような気がするよな。それくらい濃かった」

 

「うん、すっごい「帰って来た」って感じする」

 

「食堂のメシが恋しい」

 

「本当、エラい目に遭ったわね……」

 

「学院長への報告は明日で良いって言われたし、今日はもうとっとと学生寮に戻るか」

 

『『『さんせーい』』』

 

 

 凡そ学生が醸し出してはならない疲れ切った表情を浮かべながら第三学生寮までの道を歩いていく一同。そんな姿をたまたま公園近くで見ていた授業終わりの知り合いの平民生徒たちが視界に止めて声を掛けようとするも―――全身から迸る「あと一日はゆっくりしたい」オーラに気圧されて引き下がった。

 

「あ”-……ヤベェ、ルーレ滞在中に少しでも詰めるつもりだった学院祭予定全然終わってねぇ……」

 

「衣装の発注自体は終わってんだろ? そこら辺は俺関与してねぇから知らんけど」

 

「あぁ、大丈夫、終わってる。後は頃合いを見て帝都の服飾店に取りに行けばいいだけだな」

 

「後は……アレか。歌う曲の選定とか練習とかか。そこは音楽の鬼、エリオット先輩が何とかしてくれるだろ。多分、きっと」

 

「幾ら忙しくてもそこを疎かにしたら音楽家の端くれとして落第モノだからね。何を犠牲にしても詰めていくよ」

 

「コイツ割とナチュラルSだと思ってたら音楽に関してはプロ顔負けのガチ勢だからホント人間って分かんねぇよな」

 

「……学院祭で奏でる曲がデスマーチになったりしたら嫌ね」

 

 割とシャレにならないレベルで疲れているのを会話で再認識したところで、漸く戻って来た第三学生寮(第二の実家)の正面玄関の扉を開ける。半年間で随分と慣れ親しんでしまった木と石の匂いと多少の薄暗さで、鋼都での騒動の疲れを少しでも癒せる―――筈だった。

 

 

 

「イヤもうホント勘弁してください何ですかこの値段法外過ぎるでしょういやでも命を救ってもらった対価としては安いのかどうなのか……考えろマキアス・レーグニッツ、考えるのをやめたら負けだ」

 

「いえ、考えても結果は変わらないと思いますよマキアス様。ウチの守銭奴の片割れ(ミランダ)は一度定めた値段を覆す事は滅多にありません。値切る時は相手が泣いて許しを請うて割と本気で死にたくなるまで値切り倒しますが」

 

「しかし放っておいても七耀教会が強引に回収する程の物であったのなら適正価格だろう。良かったなレーグニッツ、これで晴れて貴様は負債者だ」

 

「ユーシス今すっごい良い笑顔してるね‼」

 

 

「なぁ、悪かったってラウラ。アレは別にお前自体が重かったって言ってるわけじゃなくってだな。お前もちゃんと成長してたんだなって思っただけで……普通にまだ怒ってるよねお前」

 

「怒っている? 私が何に対して怒っているというのだライアス。私は至って平静だぞ?」

 

「委員長、俺の目が曇っていないのであればラウラのアレはかなり怒っているな」

 

「まぁ確かにある意味怒ってはいますね」

 

 

 二組に分かれてカオスと呼ぶにふさわしい雰囲気を玄関先で作り出しているB班+αを見て数秒考え込んだレイは、徐に背負った刀袋から愛刀を取り出して抜刀すると、柄頭をマキアスの脇腹に、刀身の峰をライアスの頭の上に振り下ろした。

 

「おぶっ⁉」

 

「あべしばッ⁉」

 

「帰って早々変なモン見せるな」

 

 納刀をしながら冷え冷えとした声色でそう言い放つレイに対して、ライアスが強打された後頭部を抱えながら異議を申し立ててくる。

 

「酷いっすよ大将‼ 今割とマジで俺の男としての株が生きるか死ぬかの瀬戸際なんスから‼」

 

「俺が見る限りその株既に大暴落してる気がするがな。まぁ惚れてた女に嫌われたくねぇって必死に弁解する気持ちは充分分かるが、今のお前結構空回ってるぞ。あと多分ラウラはこれ意地になってるだけだ」

 

「でっ、デタラメを言うな、レイ‼ 私は今この男を軽く千回くらい殴りたいと思ってるだけだ‼」

 

「デレ隠しにしては軽く致命傷な言葉が飛び出してきた」

 

「これは意地になってるな。間違いねぇ」

 

「オイ誰かこの様子を録画してヴィクター卿に送りつけろ。結構面白い事になるぞ間違いない」

 

「血の雨が降りそう」

 

「皆さん大将に鍛えられてるとはいえ弄り倒し芸(そこ)まで踏襲する必要ないんじゃないっすかねぇ⁉」

 

 土下座スタイルのまま詰られ続けるライアスを尻目に、レイは視線をマキアスに向ける。

 

 

 B班の方もそれなりに修羅場であったという事をレイは帰路途中にツバキの式神経由で聞いており、マキアスが一度致命傷の傷を負っていた事も知っている。―――それを救うために、《マーナガルム》が独自に保有する低級聖遺物(アーティファクト)の一つを消費したことも。

 

 聖遺物(アーティファクト)というものは須らく七耀教会の《封聖省》の管轄下に置くことが一応の義務となっているが、世界中に点在するそれらの中で教会が保有しているのは恐らく二割にも満たないだろうと言われている。

 多くは未だ発掘すらされておらず、また発掘されている中でも強大な力を持つ組織や裏社会に出回って行方知らずになっているものも少なくない。

 《マーナガルム》もその例に漏れず、調査以来の過程で手に入れたものや、契約の副産物として寄越されてきたものを含めて複数の聖遺物(アーティファクト)を所有している。

 

 『早すぎた女神からの贈り物』などと称されているように、現代科学では解明できないような超常能力を有するそれらは、無論一度闇市場(ブラックマーケット)に出回れば数千万ミラからの値が付くのは当然であり、相当な資産家かつ物好きでもなければ個人が購入するのは不可能である。

 

「マキアス、因みに幾ら請求されたんだ?」

 

「……5600万ミラだ。だけど正直、命を救ってもらった対価としては適正価格なんじゃないかと思って来たよ」

 

「僭越ながら補足いたしますと、ウチの《経理班》主任様は妥協に妥協を重ね、兄上の関係者という事で既得利益を完全度外視した上で、更に分割払いOK、利子無し無期限貸付という、もうこれ以上妥協しようがないところまで下げてこの金額を提示してきました。……本来なら数億ミラは搾り取れる案件だったと相当悔しがっていた様子でした」

 

「それを聞くと相当自分の心を抉り続けたんだな、ミランダの奴。……因みに俺がその金額を肩代わりするってのは?」

 

「『ここまで私に譲歩させたんだから絶対に本人からブン取ってやるんだから☆』って言ってました」

 

「これは結構精神にキテるな」

 

 とはいえ、学生の身の上であるマキアスにそんな膨大な金額が支払えるはずもない。

 彼の父親はヘイムダル知事としてその身の上にあった給料を貰ってはいるが、それでも数千万ミラもの大金をポケットマネーから一括で支払うのは難しい。それに何より―――。

 

「……いや、これは僕の至らなさが招いた問題だ。そちらの主任が言っている事も一理ある。命を救ってくれたのだから、その対価を一生掛けてでも支払うのは当然の事だよ」

 

 マキアスは、半ば諦めたような声色でそう言った。

 

 実際、自他共に守銭奴と呼ばれ、呼ぶ事に違和感と忌避感を覚えないカリサ・リアヴェールとミランダ・レイヴェルの二人はしかし、余程自分が「気に入らない」と断じた者以外への金銭のやり取りに過大も過少も含みはしない。

 それは彼女ら自身の「商人の矜持」でもある。扱うモノの相場を知らずに、或いは知った上で常識外れの儲けを許容するという事は、即ち自分自身を”三流”と認めているようなもの。

 彼女らは贔屓目を抜きにしても”一流”である。そのような不安定な手段に頼らずとも可能な限り手を広げてモノを獲得した上で確実に利益を叩き出して《マーナガルム》に益を齎す天才である。

 

 だからこそ、天才に譲歩させたのならばその譲歩には報いなければならないのも事実。

 特にミランダ・レイヴェルという女性は提示した金額を支払おうとせずに煙に巻こうとする人間に容赦しない。ありとあらゆる手を使ってでも、煉獄の果てまで取り立てるプロフェッショナルだ。

 

「……ツバキ女史、一つ提案がある」

 

 しかしそれでも、今回の責の全てをマキアスに押し付ける事を良しとしなかった男が此処にいた。

 

「この男を瀕死に追いやった原因は俺にもある。偏に俺の指揮が至らなかったのも事実だからな。―――支払いの肩代わりが許容できないというのなら、俺がそちらの主任に話を付けよう」

 

「……それは構いませんが、宜しいのですか? ウチの経理主任は先程も申し上げた通り金銭絡みで妥協をするのは非常に稀です。兄上の関係者と言えど、彼女の矜持という牙城を崩すのは容易い事ではありませんよ?」

 

「承知の上だ。それに元より俺も公爵家の人間の端くれ。一度でも責任を持った者として、その任を果たせずに背を向けるなどあってはならない事だ」

 

 貴族の義務(ノブレス・オブリージュ)、持つ者が果たすべき役割。

 ユーシス自体、アルバレアという家そのものに良い思い出があるわけではないが、尊敬する兄のような人物に少しでも近づきたいという思いはある。

 

 それは決して憐憫ではない。持つ者の持たざる者への慈悲という訳ではなく―――この場合は単に仲間が抱える負担を少しでも奪ってしまおうという、彼なりの不器用な優しさなのだが。

 

「……すまない、()()()()

 

「勘違いをするな()()()()。全てを肩代わりするわけではない。……貴様の言った通り、死者蘇生の対価としては妥当だ」

 

 いつも通りの不愛想な表情でそう言い切ったユーシスを見て、レイは少し嬉しそうに息を吐いた。

 そして少し考えた後、他の誰にも聞こえないようにしてツバキに耳打ちした。

 

「―――俺が《結社》に居た時に稼いだ金、今でも《マーナガルム》名義で預けてあるよな? 利息含めて幾らになった?」

 

「それはミランダさんに管理を一任しているので詳しくは知りませんが、恐らく数億は下らないでしょう」

 

「……言っといてなんだが、律儀に取っておいてたんだな。いざとなったら団の運営資金にしてくれって言っておいた筈なんだが」

 

「ご冗談を。恩ある兄上の資金に手を付ける程僕らも耄碌はしていません。……()()()()()()()()。ミランダ主任には少しばかり手心を加えていただくように僕から申しておきましょう」

 

「悪いな、恩に着る」

 

「何を仰いますか。マキアス様とユーシス様が仰られた通り、命と引き換えにすれば何物も大抵は軽いものですよ」

 

 そう言って穏やかに笑うツバキの姿は何も変わっていなかった。

 

 本当に、何も―――変わってなどいなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 不思議な事に人間は、気の合う者達と一緒に騒ぐと多少の疲労は搔き消えてしまうらしい。

 

 先程まで一刻も早く自室のベッドの上に沈みたいと願っていた筈のリィン達も、まぁ少しだけならと食堂で各々の班が味わった状況の酷さ具合についての愚痴りあい大会に紛れていた。

 巻き込まれていた当初は笑い話になどなろうはずもない程に実際問題死にかけたのだが、こうして愚痴り合える程度には呑み込めたのならば問題はないだろう。

 

 途中まではレイもその輪の中に居たのだが、「トイレに行く」と言い残して席を立ち、そのまま音を立てないようにして第三学生寮からも出ていく。

 出はしたものの、特に何処に行くという訳ではない。ただ人気のないところに、静かなところを目指してトリスタの街を歩いていく。

 路地から路地へ。この半年間で知った地元民も知らないような道を気配を消しながら進んで行き―――結局東トリスタ街道近くの広っ原で足を止めた。

 

「……流石にこう何度も不自然に抜け出してたら、アイツらも不自然には思うだろうな。それでも詮索はしてこない辺りありがたいが」

 

 随分と長い間一緒に居た所為か、或いは一度派手に大喧嘩をした所為か、こうやって仲間に何も告げずに何かをするという事に対して多少の罪悪感も湧くようになった。

 

 だがそれでも、レイは止まるつもりは無かった。

 否、止まれないのだ。少しでも足を止めれば、少しでも躊躇えば、今まで仕込んだこともこれから為すべき事も全てが水泡に帰してしまう。

 

 

「ま、その方が大将らしくていいんじゃないっすか? 信じてくれる仲間がいるってのはそれだけで良いモンだと思うっすよ」

 

「……まぁライアスの言う事にも一理あるでしょう。だからこそ我々が、あの方々では担えない裏側の暗躍を担当するのです」

 

 足音が二つ。振り返るとそこにはいつも通りの団員服を着込んだライアスと、和服に梵字が刻まれたストラを引っ提げたツバキが居た。

 そこに、先程までの緩んだような雰囲気はなく、目立つ服装をしているというのにここに至るまでに人に目を止められた形跡もない。

 

 ツバキは元より、ライアスも《マーナガルム》の強襲部隊である《二番隊(ツヴァイト)》の副隊長補佐、つまりは隊長格に匹敵する実力の持ち主である”準達人級”の武人である。一度”猟兵”としての顔を覗かせれば、この程度は児戯にも等しい。

 

 すると二人は徐にレイの前で片膝を付き、頭を垂れた。

 

 

「先程は正式なご挨拶もできずに失礼致しました。式越しには何度も会話させていただきましたが、ご健壮のようで何よりです、兄上」

 

「まさか大将がラウラの奴と知り合いになるとは露ほどにも思わなかったっすけど……まぁこれも縁ってヤツっすかね」

 

「堅苦しい挨拶なんかいらねぇよ。何度も言ってるけど、もう俺はお前らを率いてるわけじゃねぇんだからな。―――それよりライアス、良いのか? ラウラと話す事は積もり積もってるだろうが」

 

「はは……まぁ確かに話したい事は有り過ぎて逆に困るくらいっすけどね。―――でもそんな簡単なモンじゃないんスよ。アイツと会えなかった時間は余りにも長すぎて……その間に俺らが歩んだ道は余りにも(たが)い過ぎた」

 

「…………」

 

 ライアス・N・スワンチカは帝国貴族〈スワンチカ伯爵家〉に生を受けた青年だ。

 嘗ては先祖が《鉄騎隊》の副隊長の片割れとしてリアンヌ・サンドロットの麾下で《獅子戦役》を戦い抜いた名門であり、サンドロットの「S」をアルゼイド家に譲り、伯爵領から去っても尚、盟友であるアルゼイド家とは親交を持っていた。

 

 ―――近代史上稀に見る虐殺劇が起きたあの日までは。

 

 

 《ハーメルの悲劇》。紡績都市パルム近郊に存在していたハーメル村が一夜にして滅亡したその事件は、表向きには突発的な自然災害によるものだとして処理されたが、その実は帝国内でもトップクラスの秘匿事項として扱われるエレボニアの封殺すべき”汚点”であった。

 

 隣国リベールへの侵攻に先駆け、功を焦った貴族派将校たちが猟兵崩れの山賊紛いの者共を雇い、略奪・凌辱の限りを尽くした後に村人のほぼ全てを虐殺。貴族派将校らはこれを「リベール王国によるエレボニア国民の虐殺」とし、リベール侵略の口実とした。

 しかしその後、リベール王国軍きっての天才軍人カシウス・ブライトによって帝国軍は半壊。その後エレボニア皇帝より勅命を受けたギリアス・オズボーンによって帝国軍はリベール領内から撤退。その後停戦交渉を行い―――《ハーメルの悲劇》を引き起こした貴族派将校らは残らず極秘の軍事裁判に掛けられ、その多くが極刑となった。

 

 当時、パルム周辺を領地としていた先代スワンチカ伯爵家当主、エルバート・N・スワンチカは、武を修め、義を重んじ、清貧を善とするあるべき帝国貴族の在り方を体現したような人物であり、無論の事ハーメルでの虐殺を容認するような人物ではなく―――実際この悲劇の何もかもを、彼は知らされないまま実行に移されてしまったのだ。

 

 貴族派将校からすれば、軍に在籍しているもののただの穀潰しであるかのように自分たちを避難していたスワンチカ伯爵を陥れる策謀としての意味合いもあり、運悪く当主としての職務の為領地を離れていたスワンチカ伯爵がその非道の行いを知ったのは全てが終わってしまった後であった。

 

 彼は虐殺に加担などしていない―――彼の人柄を知る者らは口々にそう言ったが、口封じに奔走していた帝国政府にとっては「領地の監督不行き届き」というだけでも重罪を押し付けるには充分であり、そして事を隠蔽したい大貴族の手によって伯爵の嫡氏であったライアスも幽閉されてしまった。

 

 その後、スワンチカ伯爵は処刑。ライアスも誰にも知られない、誰の目にも触れられない場所でその若い命を散らすところであったが、その寸前でアリアンロードがその命を救ったのだ。

 

 

 

『戦時にて犠牲を生まぬは不可能ですが、己が虚栄心の為に無辜の民を辱め、(みなごろし)にした挙句―――我が同胞(はらから)の末裔を言われなき罪で処断しようなど言語道断』

 

 

 

 そうして彼はレイと同じように一時期は《鉄機隊》預かりの身となり、先祖と同じ長柄の得物を操る武人に教えを請い、その才がヘカティルナの目にも留まり―――そうして”猟兵”ライアス・N・スワンチカは誕生したのである。

 

 

 

 

「ラウラも分かってはいるんだろうさ」

 

 適当な慰め心からではなく、ただ一つの事実としてレイはそう言う。

 

「アイツもフィーと……元《西風》の構成員と出会った時はギクシャクしてたモンさ。でも、アイツなりに色々と乗り越えて今は随一の友人と来てる」

 

「…………」

 

「猟兵には猟兵の流儀があり、その生き方は決して卑怯卑劣と一蹴できるものではない。……特に《マーナガルム》は何の関係もない人様に迷惑を掛けないように散々仕込んだ場所だからな」

 

 だからこそ、正義を善しとするラウラも己の歪さを理解できた。

 正しいのは確かに善い事だ。だが、その正しさが必ずしも世界の全てを包むわけではない。それは文字通りの”独善”でしかないのだから。

 

「お前らに必要なのは確かに”話し合う時間”さ。凍り付いちまった花に無理に触れようとすれば砕け散っちまうだろ? 時間を掛けて解凍してやれば、また元通りの(いろ)を取り戻してくれる」

 

関係(いろ)、か。―――はは、大将、暫く合わない内に随分洒落た事を言うようになったんスね」

 

「生憎と俺もお前みたいに色とか恋とか愛とか知っちまった身なんでな。まぁ客観的に見てもお前らの関係は今でもそう悪くは見えないんだが……」

 

「? 兄上、何か気にかかる事でも?」

 

 それまでライアスとラウラの話には一切割り込んでこなかったツバキが、レイの一瞬の言葉の澱みに何かを察したのか言葉を挟んでくる。

 それに対してレイは、うまく言葉にしにくそうな様子を見せながら、絞り出すようにして話し始めた。

 

 

「いや、何となくなんだが……今更ながらこの国(エレボニア)はどうにもおかしい事が起こるような気がしてな」

 

「おかしな事、ですか?」

 

「あぁ。アリアンロード卿や師匠が戦い抜いた《獅子戦役》なんかは、まぁ当時の時代常識に当て嵌めるとどうにでも解釈できるとして……流石に《百日戦役》に至るまでの一連の流れは異常だ」

 

 中世の時代とは違い、近現代の戦争に於いては情報の伝達速度が異様なまでに進化している。《百日戦役》当時はまだロクにネットワーク技術が発達していなかったとはいえ、それでも近代技術を応用した情報伝達システムは存在していた。―――同時に、一度生まれた情報が容易に拡散してしまう危険性も。

 

「《ハーメルの悲劇》の真実は、今ですらも帝国政府にとってはタブー中のタブーだ。これが帝国内のみならず近隣諸国に広まれば、間違いなく国際世論はエレボニアという国を団結して潰しに来ることは目に見えてる。……そんな危険性を孕んだ愚行を実行に移すほどに当時の貴族将校がバカだったのかと思うと、な」

 

「……戦争における功績の欲の前では、人は容易く過ちを犯します。敵国を攻める口実に自国民を虐殺、というのは確かに度し難い愚行ではありますが、背水の陣となった人間の狂気は常人が想像する以上に易々と倫理という壁を乗り越えてしまうものです」

 

「……あぁそうだ、それは否定しない。俺も《結社》に居た頃はその程度の地獄はよく見ていた。だが、例えリベールとの戦争で勝ったところで負けたところで、明るみに出れば確実に自分たちがトカゲの尻尾切の様に闇に葬られるのが()()()()()()尚、これ程までのリスクを負う覚悟があったのかは微妙だ。開戦の口実なんぞ、探せば他に幾らだって出てくるだろうに」

 

「それは、まぁ」

 

「ライアスの親父さんを嵌めるという思惑があったにしても、だ。近代戦争に於いて「自国民の虐殺」という事実がどれ程ヤバい意味を持つのか知らねぇワケじゃねぇだろう。リベール女王は聡明だったから事実の隠匿と引き換えに終戦に応じたが……もし差し違える覚悟でこの事実が暴露された時のデメリットと天秤に掛けたら、やっぱり納得は行かねぇのさ」

 

「……兄上、全ての人間が聡明なわけではありません。()()()()()がこの世で最も犠牲を生み出す存在であるように、そうしたメリット、デメリットの容易な比較すら出来ない無能が一国の軍隊を担っている例もあります故」

 

 ツバキはあくまで冷静に戦争の狂気を客観的に論じてくるが、それでも腑に落ちない部分は、ある。

 

 何も《百日戦役》に至る一連の狂気だけではない。帝都での特別実習の際にギデオンが聖遺物(アーティファクト)の力を使って地下墓所(カタコンベ)で呼び出したという悪竜《ゾロ=アグルーガ》。

 嘗ての七耀歴以前に猛威を誇っていたという《古代七竜》の一角。―――話を聞く限り実習の際に復活したのはただ悪竜の()()を纏った、魂も何もないハリボテであったのだろうが、そんなハリボテですら、本来であれば呼び出せるようなものではない。

 

 何せ《古代七竜》とはそれぞれが何かしらの神性を帯びていた、それこそ聖獣クラスの規格外だ。一柱一柱が全ての力を解放したシオンと同等の力を持っていると言ってもいい。

 神代の時分から煉獄で神にも近しい力を有していたエルギュラでさえ、その《古代七竜》の一柱を属従させるだけで精一杯であったのだ。

 

 恐らく、ギデオンが有していた聖遺物(アーティファクト)《降魔の笛》は低級の部類に入る物だろう。まかり間違っても、ガワだけのハリボテであったとしても高位の神性存在を呼び出し、あまつさえ限定的であったとしても制御できるほどの力が有ったとは思えない。

 

 まぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その限りではないのだが。

 

 

「……ツバキ姐さん、俺は大将の言ってる事は正しいと思います」

 

「ふむ、根拠は?」

 

「エレボニアは一応俺の故郷っすからね。猟兵として色々な場所を見て回ったからこそ、故郷の異常さってのは何となく理解できるモンです。……特にアルテリア周辺に比べて、エレボニアの霊脈の澱み具合は酷いモンっすよ」

 

「……まぁ確かに、エレボニアは西ゼムリア大陸の中でもかなりの”歪み”を抱える国ではあります。今はまだ亀裂が入っている程度で済んではいますが……この後の動き次第では取り返しのつかない事態を招きかねないでしょうね」

 

 そこで漸く本題に入れたと言わんばかりに、ツバキは持っていた扇子をパチンと鳴らした。

 

 

「《月影》の総力を以てして、現在エレボニア帝国の『貴族派』に直接的・間接的問わず手を貸している者らの調査を一通り終えました。

 猟兵団は《西風の旅団》《北の猟兵》《ニーズヘッグ》《赤枝の獅子》らを中心に大中問わず十数の数が。……そして結社《身喰らう蛇》は相当の戦力を投入予定だそうです」

 

「……今まで遭遇はしてたから何となく分かってはいるがな。具体的な事も分かってるのか?」

 

「えぇ。《使徒》は《蒼の深淵(ヴィータ・クロチルダ)》と《蒐集家(イルベルト・D・グレゴール)》の二柱。《執行者》は《劫炎(マクバーン)》、《冥氷(ザナレイア)》、《怪盗紳士(ブルブラン)》、《剣王(リディア・レグサー)》の四名。そして《鉄機隊》より《神速(デュバリィ)》《雷閃(ルナフィリア)》《剛毅(アイネス)》《魔弓(エンネア)》―――そして《爍刃(カグヤ)》の五名。《執行者補佐》より《錬金術師(ルシード・ビルフェスト)》と《殺咫烏(クリウス)》の二名」

 

「何だかもう、聞いてるだけで嫌になって来たな」

 

「言わないでくださいよ大将……俺も今割と頭痛がヤベェんスから」

 

 ”準達人級”、”達人級”、果ては”絶人級”まで選り取り見取り。本気で力を発揮すれば国家転覆程度は余裕でこなせる過剰戦力。

 しかしそこまで告げてなお、ツバキの報告は終わらない。

 

「そしてこれは……まだ確定ではないので兄上にお伝えするかどうか悩んだのですが……」

 

「……お前が歯切れを悪くして報告するってことはとびきりの厄ネタだな。いいぜ、来いよ」

 

「では遠慮なく。―――《侍従隊(ヴェヒタランテ)》より一角、《天翼》のフリージアが投入されるという情報がございます」

 

「っ⁉ はぁ⁉」

 

 大抵の報告には動じまいと、そう心に言い聞かせていたレイであったが、その名前を聞いて流石に声を挙げた。

 

「《盟主》は正気か⁉ ただでさえ化物の見本市みてぇな戦力を投入してるってのに、事此処に至って《天翼(フリージア)》だと⁉ 破壊狂(デモリッションモンガー)のアイツを投入して好き勝手やらせたら、それこそ本気で帝国全土が焦土と化すぞ‼」

 

「っ、えぇ、仰る通りです兄上。元より《侍従隊(ヴェヒタランテ)》を”戦力”として数える事自体今までの《結社》では有り得ない筈でした。《盟主》の傍回りを固める”絶対の盾”、それが表に出るという事は―――」

 

 

「―――まぁその通り。《結社》もこの作戦にはちょいと本気で挑んでるのサ」

 

 

 背後から聞こえたその声に、ライアスだけが過剰に反応した。

 手の内に掴まれた戦槍斧(ハルバード)の刃が首筋に迫っても、声を掛けた張本人はヘラヘラと緊張感のない笑みを浮かべていた。

 

「おーっとっと。気を付けてくれよー。美人にやられれりゃご褒美だけど、野郎にやられても嬉しくないんでねぇ」

 

「何だ、来たのかドM。てっきりラクウェルの裏売春宿辺りでハードSMプレイにでも興じてるのかと思ったぜ」

 

「あ、うん。それはもうやった。でも生粋の天然モノには敵わないねぇ、やっぱり」

 

「姐さん姐さん、俺今割とドン引きしたんスけど」

 

「ドMは放置しててもプレイと捉えるからかなりやり辛いんですよねぇ……」

 

 色素の抜けた髪を揺らし、仕立ての良い貴族服を靡かせながら自分の性癖を包み隠そうともしない青年―――ルシード・ビルフェストは、一見すればふざけているように見える表情のままレイに近寄った。

 

「や、直接この姿のまま会うのは本当に久しぶりだねぇ、友よ。もっとも? オルディスでのバカンスの時は最初っから気付いてたみたいだけど」

 

「カンパネルラお墨付きのテメェの変身魔法と幻術はホント厄介だからとっとと排除しておきたいんだけどなぁ……で? 何の用だよ変態。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あー、うん。そこのところは本当に感謝してるよ。《蒐集家(コレクター)》様がメチャクチャやってくれたせいで危うく《氷の乙女(アイスメイデン)》嬢に特定されるところだった。―――それだけは何としても避けなきゃならない事態だったからねぇ」

 

 そもそも、と。ルシードは溜息を吐きながら呆れたように言う。

 

「僕と同じ《執行者補佐(レギオンマネージャー)》のクリウス君が完全に《蒐集家(コレクター)》様のシンパだからねぇ。そのせいで今回の作戦の根回しとかその他諸々の雑用がぜーんぶ僕に回ってくるんだ。全く、忙しいったらありゃしない。その所為でヴィータ様に豚を見るような目で足蹴にされる時間が少なくなってしまうのが割と致命傷で困るんだよ‼」

 

「お前少しはシリアスな雰囲気を保つ努力をしようとは思わねぇのか‼ もう一度言うぞ、テメェの性癖云々の話は俺はま・っ・た・く興味ねぇの‼ 地面歩いてるアリの行方を追ってた方がまだ有意義なの‼ つまりお前は虫ケラ以下なんだよ‼ あ、こんな事言ったら虫ケラに失礼だよなぁ‼ 必死で生きてる命と自ら命を縮める生粋のバカ野郎なんぞ天秤にかけるまでもねぇからなぁ‼」

 

「…………ふぅ」

 

「え? なに、お前今ちょっと興奮したの? クッソ気持ち悪いんだけど」

 

「というかさっき俺に「野郎にそんなことされても嬉しくない」とか言っておいて大将のそれには反応するとか業が深すぎるっすね」

 

「まぁ兄上は確かに女装したらエオリア様がリットル単位で鼻血噴き出しかけた事があるので”そちら”も守備範囲内の方なら……」

 

 話がズレかけたところで、今度は手加減をあまりしていない長刀の柄の一閃でルシードの頭部を殴ってリセットする。

 凡そ人体から出てはならない鈍い音が響いたものの、喰らった当人は笑みを漏らす余裕を残していたので、鳩尾に膝蹴りを追加してから話を戻す。

 

 

「……まぁ結社(お前ら)からして見れば? 《蒼の起動者(ライザー)》であるクロウを喪う訳には行かねぇだろうし、そもそも《帝国解放戦線》という組織に気を取らせる事で《情報局》を撹乱してるところもあるだろうしな。……ただ見逃してやるのは今回だけだ。今度俺の前で奴らが下手打つ時があったら徹底的に潰すからな」

 

「うぉぉ……割といい所入った…………あぁ、うん。それは別に構わないとも。どうせもう少しすれば状況(ステージ)は次の段階に移行する。君達は晴れて敵同士となり、君は君の思惑を果たす事が出来るんだから」

 

「…………」

 

「だけども僕と君は、最終的に至る目的は同じだ。それを果たす為に僕は《使徒》様すら欺いて、君は大切な仲間を欺いているんだ。違うかい?」

 

「……ま、違わねぇな。バケモンに等しい野郎の思惑に手ェ出そうとしてんだ。コッチが差し出す対価がタダって訳にも行くまいよ」

 

 物語の中の英雄ならば、きっと何の犠牲も無しに望むがままの結果を得ることが出来るのだろう。自分と関わった全ての者達を幸せにする未来を紡ぐことが出来るのだろう。

 だがそれは、自分には無理だと悟っていた。元より護りたいと思うものが自分のエゴである以上、何かを差し出すのは当然の事だ。

 

 マキアスが命の対価に金銭を差し出す事を許容したように―――自分もまた、そうしなくてはならないのだから。

 

「”外”の根回しの方は……その分だと大丈夫そうかな?」

 

「何のためにここ一ヶ月近く俺がシオンを手放してると思ってる。……お前の言ってることが本当なら、もうお前とこうして話すことも無いだろうけどな」

 

「はは、違いないね。何せ僕は―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その笑みには、虚があった。乾きがあった。

 偽の笑顔という名の仮面を被って、心の奥では笑っていない。覚悟を決め、狂気に塗れても生きていくことを決めた人間は、誰だって同じような顔をするものだ。

 

「―――エマは」

 

「っ……」

 

「エマの事はどうするつもりだお前。まさかこのまま顔を合わせないまま消えるつもりじゃねぇだろうな」

 

「……仕方ないさ。彼女は彼女で真っ当な魔女としての生き方を歩んでいる。《焔》の眷属の末裔として在るべき姿でいてくれている。―――ヴィータ様はともかく、魔を手繰るものとして全てを投げ捨てた僕は、彼女の記憶の中に在り続けるものじゃあない」

 

「それは―――」

 

「それじゃあね、友よ。……お互い、望む結果を得る運命を手繰るとしようじゃないか」

 

 そう言い残し、ルシードは足元に転移の魔方陣を展開させてその場を去った。

 相変わらずも相変わらずだったなと、レイは一つ息を吐いてからルシードが立っていた場所をもう一度見やる。

 

「……姦しい方でしたね、相変わらず」

 

「あれで《執行者補佐》としては随一の実力者って言うんですからねぇ。ホント人間は言動だけじゃ分からないモンっすわ」

 

「本心を欺くのに笑顔で居られる奴に本物の馬鹿はいねぇよ。―――それよりツバキ、ライアス」

 

「「―――はっ」」

 

 レイの言葉に再び背を伸ばした二人であったが、彼はそんな二人に対して正面から向き合うと、深々と頭を下げた。

 

「改めて頼む。もう一度……もう一度だけでいいから俺に力を貸してくれ」

 

 レイにとって《マーナガルム》という組織は、どんなに口では手放したように言っていても、やはりかけがえのないものなのだ。

 だからこそ、こうして頭を上げる事を一切厭わない。そもそもレイは彼らを名目上率いた事はあっても、都合の良い部下のように扱った事は無いのだから。

 

 

「―――どうかお顔をお上げください、兄上」

 

 しかしそんなレイに対して、ツバキは穏やかな笑みを浮かべて諭すように声を掛けた。

 

「兄上がそう仰らずとも、僕らは元より貴方の味方です。……士官学院、特科クラスⅦ組、そして恋慕って下さる女性の方々は、それは確かに兄上の心の支えでありましょう」

 

「…………」

 

「僕たちは、貴方の”心の支え”になる事は出来ません。ですが、”力の支え”になる事は出来ます」

 

「大将はそういうのあんまり好まないっての分かってますけど……そんくらい俺らにも背負わせて下せぇや」

 

「ライアスの言う通りです。僕たちは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()戦っているのですから」

 

 その言葉に、一切の嘘も過言も有りはしない。

 忠誠というよりは、誓いのようなものだ。形はどうあれ”戦う”事しかできないのだから、それで恩を返す事に何の異議も無い。

 右胸に掲げたエンブレムに手を当てて、二人は再び傅いた。

 

 

「我ら《月喰らいの神狼》の紋を掲げし戦士、嘗ての貴方の恩に報いるため、今こそ全ての力をお貸ししましょう」

 

命令(オーダー)を、レイ・クレイドル特別顧問相談役。団長ヘカティルナ・ギーンシュタインの命を拝し、今この時を以て貴方の命令(オーダー)は団長と同等の権利を有する事となりました」

 

「神狼の爪牙一本、血の一滴に至るまで如何様にもお使いください。それが我らの使命でありますが故」

 

 有無を言わせぬ服従の言葉に、しかしレイはすぐに言葉を返す事は出来なかった。

 呑み込むまでにかかった時間は数分。漸く再び口を開いた時、レイの覚悟は既に決まっていた。

 

「なら命令(オーダー)を与える。誇り高き神狼よ、その牙を、その力を俺に貸せ」

 

「「御意に」」

 

「手始めに、ツバキ。……いや、お前なら俺の言いたいことくらいは分かってるか」

 

「……フフ、当たり前ですとも。兄上の仰りたい事など既に理解しておりますとも」

 

 そう言うとツバキは、扇子を開いて口元を隠したまま含むように言葉を紡いだ。

 

 

 

 

「シャロン・クルーガー女史に《天道流》の技を伝授する使命、確かに拝領いたしました。―――五日ほどお時間を頂ければ、僕が知る技の全てをあの方に伝授してご覧に入れましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 
 どうも、十三です。最終章前に互いの戦力を再確認して見ましたが、いやぁ、これは酷いな‼
 改めて見ても《結社》側の殺意が高すぎますねコレ。反省は少しするけど後悔はしてないけどな‼

 ……え?《天翼》の元ネタは何かって?

 《天翼―――種》、破壊癖……天……撃……焦土……cv田村ゆかり……うっ、頭が。

 
 さてそれでは皆々様方も僕も、今年一年頑張って参りましょう。あ、26日になったらモンハンワールドやらなきゃ(使命感)。


PS:
 葛飾北斎引き当てました。気風の良い性格は勿論、耳が蕩けそうなボイスも最高ですね‼ これでバーサーカーを一方的にボコせるよ、やったね‼





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