英雄伝説 天の軌跡 (完結済)   作:十三

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 よくよく考えてみれば初めての本格的な対人戦。


紫天交叉

 

 戦火の中で、声が聞こえた。

 

「私はもう、誰も殺したくはない」―――と。

 

 外道の亡骸を踏みにじり、聞くに堪えない慟哭に顔を顰めながら相対したその声はどこまでもまっすぐで。

 

 

 だからこそ、最初は気に食わなかった。

 

 

 覚悟をするにせよ、しないにせよ、自らの手で、自らの意志で人を殺したその瞬間から、ヒトは”鬼”へと変化する。

 

 一度踏み越え、踏み入れてしまった世界から、”本当の意味で”抜け出すことは容易ではない。

 少なくとも、瞳に涙を浮かべ、震えた手で武器を握る。その程度の覚悟で抜け出せるものではない。

 

 故に、躊躇いもなく刃を抜いた。

 

 立ち上がるのならば涙を枯らせ。逃げたいのならば前を見ろ。

 

 

 紫色(しいろ)の閃光と、鈍色の剣鋩。

 

 

 交わした火花の鮮やかな色は、今この時にも褪せてはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 ある意味、予想していた事であった。

 

 前回の実習を経て、関係の修復どころかさらに溝を深めてしまったユーシスとマキアス。

 その二人が同じチームになって行われた実技テストが、散々なものになるであろうことは。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

「…………ぐっ」

 

 

 ユーシス、マキアス、それにエリオット、フィー、エマ。

 前回と同じく戦術殻を用いて行われた実技テストは、結果だけ見れば何とか倒すことはできた。

 ただしそれは、フィーの圧倒的な攪乱能力と、エマとエリオットの正確なアーツ攻撃で達せられたようなものであり、ユーシス、マキアスの両名は有体に言って役立たずだった。

お世辞にも、試験として合格であったとは言い難い。

 その一番の原因は、前回のテストと同じく、”戦術リンク”が繋げないことにある。

リンクを繋いだ人間同士の意識の中にまで潜り込むそれは、必然的に互いの心情や思考などを受け入れることが必要となる。

それが叶わない状況にある場合、リンクはいとも容易く途切れてしまい、戦線の崩壊を招く。ある意味、死活問題なのだ。

 

「あーらら、こりゃヒデェ」

 

 それを分かっていながらレイがそう呟いてしまったのには理由がある。

 前回のテストを行った際はリンクの継続時間を15秒ほど維持して、そして途切れてしまった。その程度なら、まだ”未熟だから”という理由だけで片付けることができたかもしれない。

 しかし今回は、あろうことかリンクを”繋いだ瞬間に”途切れてしまった。

それだけでも二人の対人的な軋轢が見て取れてしまい、そう呟かざるを得なかったのだ。

 前回の実習であの二人に同行したガイウスの方を見てみると、彼はレイと顔を合わせた後に、ただ黙して頷いた。

 

 つまりは、そういう事なのだ。

 

 現在この二人には、最新鋭の戦術オーブメントを本当の意味で活用することはできない。

誇張表現でもなんでもなく、頭の痛い問題であった。

 

 

 因みにこれより前で行ったリィン、アリサ、ラウラ、ガイウス、レイのチームでのテストは恙無く、何の問題もなく終了している。

先日の旧校舎探索の成果が出ているのか、リィンとラウラにガイウスを組み合わせた前衛三人組の連携も見事であり、前回と同じく”お手本”のような戦いぶりを見せていた。

 

 

「うーん、分かっていたけど、これは酷過ぎるわねぇ」

 

 サラもレイと同じような感想を口に出し、「特にそこの男子二人はしっかり反省しなさい」と窘める。

納得がいかない様子の二人であったが、流石に戦技教官に盾突くほどに頭に血は登っていない。最後に互いに鋭い眼光を交し合いながら、元の位置へと戻っていった。

 

 しかし、その冷戦状態は直後に脆くも崩れ去ることになる。

 

 原因は、前回と同じように配られた、特別実習の班分けの旨が書かれた用紙であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 【5月 特別実習】

 

 

 

 

 A班:リィン、エマ、マキアス、フィー、ユーシス、レイ

 (実習地:公都バリアハート)

 

 

 

 

 B班:ラウラ、アリサ、エリオット、ガイウス

 (実習地:旧都セントアーク)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何でやねん、ツッコみたいのはやまやまであった。

 それと同時に、何となく納得できてしまう班分けなのがまた苛立たしい。

 

 6:4と、数だけを見れば明らかに不備がある班分けだが、メンバーの内訳を見るとその疑問も氷解する。

 旧都セントアークに向かう4人は、いずれも協調性があり、その内の3人は前回の実習で寝食や問題解決を共にしたメンツだ。例外はガイウスだが、彼に限って他のメンバーと軋轢を起こすということはないだろう。それは断言できる。

加えて戦力バランスも整っており、そんじょそこらの魔獣相手に後れを取るようなものでもない。ラウラを筆頭に正しい戦い方をすれば、心配はいらないだろう。

 

 だが、問題は自分も含めた6人の方だ。

 つい数分前まで現実逃避をしてしまいたくなるほどの問題点を見せつけられたのもさる事ながら、その場所が悪い。

 公都バリアハート。クロイツェン州を治めるアルバレア公爵家のお膝元であり、ユーシスの実家がある場所だ。

帝国の中でも有数の、貴族の権力が最大限に振るわれる街。実際平民暮らしをしているメンツにとって近寄りがたい場所であるし、なにより―――

 

 

「じ、冗談じゃない!!」

 

 

 この少年が、認めるはずがない。

 

 彼の立場から鑑みれば、凡そ最悪のシチュエーションと言えるだろう。蛇蝎の如く忌み嫌う貴族の一大拠点。加えて同行者の一人に反りが合わないどころか相性が最悪な貴族生徒。

これ以上悪い条件はあるまい。

 

 

「茶番だな。こんな班分けは認めない。再検討をしてもらおうか」

 

 加えて、ユーシスの方も不服の感情を隠すことなく露わにする。

 

 例えるならば二人は、異なる磁石の同じ極同士。

どちらかが譲歩しない限り、歩み寄る事は決してできない犬猿の仲である。その事は、Ⅶ組一同、そしてサラもよく理解していた。

 

 

 だからこそ(・・・・・)の、この班分けなのだが。

 

 

 言うなれば現在二人は、自分の前に立ち塞がる目も合わせたくない壁に対して完全に背を向けてしまっている状態だ。

このまま放置し、視点を変える機会を奪ったままに放置することは控え目に言っても良くはない。

それ以外の思惑も色々と絡んでいるのだろうが、その機会を与える状況を作り出したのだろう。

 しかし、今まで積もりに積もった鬱憤が爆発してしまっている二人に、その思惑が理解できるはずもない。

 

 だから、少しばかり沈静化させることにした。

 

 

「はぁ……ちっと落ち着けや、二人とも」

 

 わざと呆れたという感情を全面に出して、レイは口を挟んだ。

すると予想通りに、二人の鋭い視線は自分の方へと向けられる。

 

「……何?」

 

「君は口を挟まないでくれ。これは僕たちの―――」

 

 

 

「『僕たちの問題だから、部外者は黙っていてくれ』ってか? ナメんな、アホ。今、俺たちは、どこに所属してんだよ(・・・・・・・・・・)?」

 

 

 

 組織行動の重要さ、というものをレイは知っている。

 彼の場合は比較的自由度の高い遊撃士という立場でのものだったが、それでも決められていた規律や下される命令というものは勿論存在していた。

その中には、理不尽だと思うものも少なからず紛れ込んでおり、しかし大きな組織の歯車の一つとして活動している以上、それらにも応え続けなければならない。

 ましてやそれが、軍人を養成する学校であればなおさらだ。

 

「お前らがどんなつもりでこの学院に入って来たのかは知らねぇけどよ、紛いなりにもここは軍人の養育機関だぜ? そこに属してる以上、個人の感情よりも優先しなきゃならねぇモノがあるだろうが」

 

「そ、それは……」

 

「再検討? できるわけねぇだろ。学院に入ってまだ2ヶ月足らずの俺たちヒヨっこがそんな意見を通せるはずがない。意見を通すだけの力がねぇからな」

 

 そう言って鞘入りの愛刀を正面に掲げるレイ。

それが何を意味するのかを察した二人は、口を噤んだ。

 

「武力、政治力、経済力、統率力、財力―――秀でている力が何であれ、意思を、我が儘を貫き通すのに必要なのはそれだ。お前ら二人は、”軍”属の組織を相手取ってなお”否”と言えるだけの力を持ってるのか?

持っていないのならひとまず鎮まれ。頭を冷やして、頭を働かせろ」

 

 言い終えると、嘆息を一つ残して元の位置へと戻る。

 もしこの言葉を入学直後に聞いていたのなら、ユーシスもマキアスも反発しただろう。”自分一人だけ分かったような事を言うな”と。

だが、どんな形であれ2ヶ月の時を共に過ごしてきた今ならば分かる。その言葉が咄嗟の判断で出た口八丁のものではなく、彼自身の持論であるという事を。

 

「―――詭弁だ。それでも俺は貫かせてもらう。この班分けには反対だと」

 

 しかし、認めるのと聞き入れるのはまた話が別だ。

理解はしている。それが正論だという事も分かっている。

だがそれを受け入れて、自らの意思を捻じ曲げる事ができない。

その点で言えばマキアスも同じであり、良く言えば芯の通った信念を貫き通す正直者。悪く言えば自分の考えこそが正しいと思い込み始めている頑固者だ。

 

 それが危うい考えの発露であることをレイは分かっていたが、ユーシスのその言葉には「そうかい」と一言を返すのみで終わった。

 

 その理由はただ一つ。

 何のための戦技教官で、何のための担任教諭なのかという事だ。

 

 

「……まぁ、私だって士官学院の教官とはいえ軍人でも何でもないし? 命令してるつもりでも何でもなかったから一応、君たちの言い分は聞いてあげてもいいかなって思ってたんだけど―――ちょーっと気が変わったわ」

 

 ニッコリと、まるで菩薩のように微笑むサラ。

しかしその瞬間にリィンとラウラの体は強張り、フィーの手が自然に銃双剣を収納した後ろ腰に回されかける。

武人としての鍛錬と、戦場で培われた危機察知能力。直感とも呼べるべきそれが、その笑顔の裏の脅威を察したのだ。

 

「”意志を貫くのに必要な力”。アタシは”力が全て”なんて面と向かって叩き付けるほど完全実力主義を気取ってるわけじゃないけれど、そこの生意気な子狼の言う事にも一理あるわ。

アタシは君たちの担任教官として、その現実を教える義務がある。それでも異議があるって言うのなら―――それを貫けるだけの力を見せてみなさい」

 

 表情は変わらずに笑顔。しかし最後の言葉に圧し掛かったのは、紛れもない強者の重圧感。

 

 今度は他のメンバーにも充分理解できた。威圧という方法で以て心臓を鷲掴みにされそうになる感覚。今までそれらとは無縁であった少年少女たちにとっては、比喩でも何でもなく心臓に悪い。

 しかしフィーは一瞬で慣れて平常心を取り戻し、レイに至っては小さな欠伸をする始末。

つまり、分かっているのだ。

 これはまだ、彼女にとって序の口の闘気であるという事を。

 

 

「(ねぇ、レイ)」

 

「(何だ? フィーよ)」

 

「(サラ、あれ教育的指導するついでに自分も楽しんじゃおうとか思ってるよね?)」

 

「(そうだな。威圧してるように見せかけてちゃっかり挑発もしてる。あざとい。流石サラあざとい)」

 

 

 二人の間でその場の雰囲気に似合わない小声の会話が交わされていると、マキアスとユーシスがそれぞれ武器を構えてサラの前に立っており―――何故かそこにはリィンも混じっていた。

 

 

「「……生贄か」」

 

「皆言わないようにしてたんだから、二人でハモるのはやめなさい!!」

 

 思わず口に出してしまったその言葉をアリサが諌めるものの、実際のところ何のフォローにもなっていない事にリィンは密かに肩を落とした。

 しかし実際、そう捉えられてもおかしくはない。目の前で武器を構えたこの女性は、明らかにレイと同じ雰囲気を持っていたのだから。

 

 その髪色と同じ、赤紫色(ワインレッド)に塗装が統一された大型の導力銃と剣。それらを右と左の片手で軽々と持っている姿からも、その力量は分かる。

それは、決して今の自分如きが立ち塞がってはいけない大きすぎる存在。

その感触はまさしく、あの日、あの夜に、レイと戦った時に感じたものそのものだった。

 だがリィンは、そこで踏みとどまった。

 敗北を恐れて引き下がるなと、そう自分に言い聞かせて刀を抜く。

 

「フフ、良い目をしてるじゃない。レイに何か吹き込まれたのかしら?」

 

「はは……それもありますけど、一度肌で感じてみたかったというのもあります。―――サラ教官の強さを」

 

「―――上等」

 

 紫色の闘気が、彼女の周りを包み込む。

その迫力に気圧されながらも、その視線はただ、目の前の強者のみに注がれていた。

 

 

「さて―――始めましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後にこの時の戦いの様子を見ていたⅦ組メンバーは口を揃えて言った。

 

 

 

 

 

 ”あれは完全な蹂躙劇(一人リンチ)だった”―――と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラウンドの一角で、倒れる人影が合計三つ。

 

 その内二人は立ち上がる事すら困難な体を自らの得物を支えにしてなんとか無様な姿を晒すまいとしており、一人は荒い息を吐いて膝をつきながらも、顔は上げ、自らを完膚なきまでに叩きのめした人物の顔を見据えていた。

 

 

「……ユーシスとマキアスの二人はまぁ予想通りだったけど、リィンは結構保ったわね。アンタのやってた”早朝訓練”とやらの成果かしら?」

 

「俺は別にリィンを鍛えたつもりなんかねぇぞ? もしそう感じたのなら、そりゃリィン自身の成長の現れだろうよ」

 

 

 実際、リィンがユーシスとマキアスよりも長くサラの猛攻に耐えきった要因は、(ひとえ)にレイの瞬間移動にも似た瞬足を見て来たからである。

 無論、サラは手加減を施して三人の相手をしていたのだが、リィンは最初の数分間だけだが、攻撃に食らいつき、何とか凌いでいたのである。

その様子を見て一段階ギアを上げたサラによって、攻撃の物量に押されて潰されたが、レイから見てもそれは良い戦果であったと思えた。

何せ相手は、元遊撃士協会帝都支部が誇るA級遊撃士。自国間だけでなく、大陸全土にその名と異名が知れ渡る一流の遊撃士だ。

伊達に帝国最大の士官学院の戦技教官を拝命しているわけではない。帝国有数の武人を相手に、よくあそこまで食らいついたものだという賞賛も込めて、レイはリィンの事をそう評価したのだ。

 

「ははは、そう言ってもらえると少し気が楽になるな。……ユーシス、立てるか?」

 

「……フン、気遣いは無用だ」

 

「マキアス、良ければ手を貸そう」

 

「あ、あぁ。すまない」

 

 ユーシスは意固地になって無理矢理に立ち上がり、マキアスはガイウスの手を借りてそれぞれ列へと戻って行った。

サラはそんな彼らを見届けると、再びレイへと視線を向ける。

 

「あー、スッキリしたわ♪ 教師になってからどうも体を動かす機会に恵まれなくってねー」

 

「仮にも教師としてその発言はどうなんだよ。別にスッキリもしてねぇくせに」

 

「あらら、バレた?」

 

「顔にデカデカと書いてあるぜ? 消化不良だ、ってな」

 

 食後の軽い運動にはなり得ただろうが、彼女を満足させるには程遠いだろう。

それはレイも良く分かっている。分かってしまっている(・・・・・・・・・・)

 

 だからこそ、少しばかり血が滾ってしまっている。お互いさまに(・・・・・・)

 

 

 

「しっかしまぁ、アンタも言うようになったわよねぇ。お節介なのは昔からだけど、今は随分と顕著なんじゃないの?」

 

「別に深く考えてるわけじゃない。俺の言いたいことは、どっかの力の権化さんが実際に見せてくれたしな」

 

「あら、アタシに丸投げする気? ちょっとはアンタ自身が証明して見せてもいいんじゃない?」

 

 カシャン―――と、サラが左腕に構えたままの導力銃から微かな音が聞こえた。

銃のリロードが終了した駆動音だが、その音にフィーが反応する。

 試験はもう終わったはずだ。そうならば、わざわざこの場でリロードを行う必要なんかない。

その一見無意味とも取れる行動をサラが取った理由。―――少し考えれば分かる事だった。

 

 

「……レイと戦う気? サラ」

 

 故に、気づいたフィーが代弁する。

 その問いに対してサラは、特に隠す事もなく頷いた。

 

「言いだしっぺがこのまま何もしないのはナシでしょ? ユーシスやマキアスはちゃんと戦う事でひとまず意地は見せたわけだし。……で? どーすんの?」

 

「はっ、良く言うぜ。リィンと戦ってちっとばかしスイッチ入っちまったから俺を捌け口にしようってのが本音だろうが」

 

 サラの言い分に反論しながらも、レイは右手に長刀を握った。

 

 

 断る理由? そんなものはありはしない。

 

 所詮は仕合。―――”コロシアイ”ではないのだから。

 

 

 気が付けば、前に出ていた。

 

 

 一歩、また一歩とグラウンドの土を踏みしめ、数アージュ離れた場所でサラの正面へと立つ。

 挑発に乗ったのだと、ひとまずはそう言う理由を建前に相対する。

 

 本音は、勿論違うのだが。

 

 

「さて、補習授業のお手本といきましょうか」

 

 あくまでも授業の一環であると、同じく建前を上塗りして武器を構えるサラ。

”理由”を得た二人は、互いに闘気をぶつけ合う。

 サラは紫。レイは鋼色。闘気の奔流が空間を支配し、二人以外の存在を完全にシャットダウンする。

 

「これは……凄まじいな」

 

 思わずラウラの口から、そんな言葉が漏れる。

他のメンバーも程度の差こそあれ、二人の気迫に呑み込まれていた。

 

「……皆、離れた方がいい。ここにいると絶対に巻き込まれるから」

 

 そんな中でフィーがいつもの通りの抑揚のない声でそう告げる。

凡そ緊張感というものが感じられない言い方ではあったが、”巻き込まれる”という言葉には全員が同意し、フィーを先導として距離を取った。

 

 少しばかり、無言の時間が流れる。

 

 互いに語らず、ただ視線を交わすのみ。

手の内を探るといった観察力を高めているわけではない。ただそこにあるのは、戦意の高め合いだ。

 

 

「―――トールズ士官学院Ⅶ組所属、準遊撃士 レイ・クレイドル」

 

「―――トールズ士官学院戦技教官 サラ・バレスタイン」

 

 厳かに、それでいて獰猛に。

 抑え込んでいた戦意を、名乗りと共に爆発させる。

 

 

「「推して参る!!」」

 

 

 そうして互いに、地を蹴った。

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 ―――初撃を防がれた。

 

 

 レイにとってそれは、実に数か月ぶりの感覚であった。

 駆け出しと共に発動させた”瞬刻”。極限まで高めた脚力に加え、足に纏った呪力を瞬間的に解放してブースターとする事で瞬間移動にも似た超常的な加速を可能とする《八洲天刃流》の歩法術。

 達人級と呼ばれる、ゼムリア大陸の中でも有数の実力者でなければ初見でこの歩法を完全に見切る事は控え目に言っても尚困難であると言えるだろう。

かつて”速さ”で競い合った親友ですら「初見殺しってこういう事を言うんだね」とそれはそれは見事な苦笑をしていたのを今でも覚えている。

 故に、彼の初撃を防ぐ事のできる人間は限られている。

一つ目のパターンは、前述通り相手が武術の神髄である”理”に到達した達人である場合。彼らは戦いを己の”目”のみに頼らない場合が多く、鍛え、研ぎ澄まされた超人的な感覚が、ヒトの限界を超えた脚力を捕らえてしまう。

そしてもう一つは、この動きを何度も見、そして感覚的に慣れてしまった場合である。武人としての直感と経験が、その動きに本能的に反応してしまうのだ。

 この場合サラは、その後者のパターンであると言えよう。

 

 八洲天刃流【剛の型・瞬閃】。

 

 流派の中では最も基本(・・・・)とされるその剣術は、口頭で説明するとなると至って単純なものである。

 【瞬刻】で以て対象の懐にまで入り込み、その加速に乗った状態のまま刀の鯉口を切り、抜刀。両断するというものだ。

 

 前回の実習、そしてオリエンテーリングでは投擲された大木から魔獣まで幅広い対象を両断して来たこの技だが、今回は甲高い金属音を掻き鳴らすだけに終わった。

 

 理由は簡単。技のタイミングに合わせて、サラが右手に握った剣を振るったからだ。

レイはサラの横を通り抜け、そこで【瞬刻】を解除。再び刀身を鞘へと戻しながら、久方ぶりに技を弾いた当事者を見やる。

 

「……流石にもうこの程度の攻撃は防がれるか」

 

「アタシが何度その技を見て来たと思ってんの。ナメんじゃないわよ、っと!!」

 

 導力銃から放たれる、紫電の弾丸の三連発。それを横に移動する事で回避し、大きく半円を描くように走り抜けると、直角に曲がるようにして再び”瞬刻”で距離を詰めにかかる。

 

「―――フッ!!」

 

 裂帛の一息と共に抜刀。本来であれば長刀の振り回しが困難であるはずの近距離戦にて、レイは抜身の刀身を右手に、そして鞘を左手に(・・・・・)握って流れるような連撃を繰り返す。

その猛攻はまさに、間合いと破壊力を兼ね備えた二刀流。刃を収めることにしか使われないはずの鞘をも利用して生み出される動きは、一朝一夕で培ったものではない。並以下の実力の者ならば、この攻撃を防ぎきる事は叶わないだろう。

 だがサラは、その動きに付いて行っていた。

弾き、躱し、そして合間合間に牽制とでも言わんばかりに導力銃の銃口から弾丸が放たれる。

レイもそれを弾き、或いは躱し、自らが有利だと踏んだ距離を空ける事はない。

 攻撃の応酬が交わされる度に響く衝撃音。数分ほどそれが続いた後に、はたと膠着状態に陥った。鍔迫り合いである。

 本来の、本当の、互いの命がかかった戦闘であるならばこんな事は両名共に絶対にしない。

交差された刀身と鞘。同じく交差された導力銃と剣。その隙間を縫って交わされる視線は、どちらも実に楽しそうな(・・・・・)感情を湛えていた。

 死合いであれば、間違っても笑顔など交わしはしない。

 鍔迫り合いをしている暇があるのなら、攻撃を掻い潜って相手の喉元を掻き切ってやった方が遥かに効率が良い。そうでなくとも、武器の耐久度の低下を招くその行為は、実戦で行うには非効率的すぎる。

 しかし、今は違う。

 これは手合せ。相手を潰す事を念頭に置くのではなく、自分の現在の実力と、相手の力量を見極めるための戦いだ。非効率的で、何が悪い。

 

 やがて二人は、押し返すようにして互いの体を弾き、再び余裕のある間合いが生まれた。

 だが、間髪を入れる事はなく、レイは体を捻り、独楽(コマ)のように回転させながら刀身を地面と平行に滑らせる。

 

 八洲天刃流【剛の型・薙円】。

 

 ルナリア自然公園にて、多数の領邦軍を戦闘続行不可能に陥れた、範囲攻撃に属する剣術。

従来の刀よりも刀身が長い分、その攻撃範囲の直径は広がり、更に遠心力によって増幅した攻撃の威力は限定的ではあるがカマイタチを生み出す。それによって、刀身の長さ以上の範囲攻撃が可能となっている技だ。

 この攻撃を、迎撃ではなく回避するには二つの方法が存在する。

一つはただ単純に技に発動よりも先に攻撃範囲外へと退避する事。しかし【瞬刻】が使えるレイにとって多少の間合いなどあってないようなものである。追撃の可能性も考慮すると高い脚力が必要となる。

そしてもう一つは、この技の特性を理解している者にしか取れない回避行動だ。

 回避先は―――空中。

 

 

「はあっ!!」

 

 跳躍の後にかかる重力。

サラはそれすらも利用し、刀を振り抜いた状態のレイに対して情け容赦のない攻撃を頭上から叩き込む。

剣に纏うは紫電。破壊力は相乗効果で小規模な天災にも匹敵するそれを、レイは防御する素振りも見せずにただ佇んだまま迎え入れようとする。

 

 

「あ、危ないっ!!」

 

「避けろっ!! レイ!!」

 

 その姿は他のメンバーにとってはさぞかし肝を冷やす光景に見えた事だろう。声を出さなかったメンツも、目を見開いていたのは同じことだった。

 ただ二人、フィーとリィンを除いては。

 

「(あれは―――)」

 

 特にリィンは、先日そんな状況を体験したばかりである。

こちらが攻撃を叩き込もうとしていたのにも拘らず、防御どころか、回避行動も取ろうとせず、ただ無防備に佇むだけ。

仕掛けた本人ではなく、第三者として見ている今ならば、その雰囲気が変わっているのが分かる。

 異様に―――”静か”なのだ。

 先ほどまで見せていた獰猛な覇気は鳴りを潜め、一変して冷気にも似た静かな闘気を湛える。

 時間にして数秒の短い間で、レイは自らの戦闘スタイルを全く真逆なものへと変貌させたのだ。

 

 そしてやってくる、攻撃が直撃するまでの刹那の瞬間。

 

 雷を纏った赤紫の牙が、その小柄な体躯を飲み込まんと空気を震わせ唸りをあげる。

 ここより先の未来を知らない者は、大抵が反射的に目を伏せる。攻撃が直撃して糸の切れた人形のように吹き飛ぶであろうその姿を、たったの一瞬であるとは言え視界に収めたくはないからだ。

 

 しかし、実際に体感した者は知っている。

 彼が動くのは、ここからだ。

 

 

「【静の型―――」

 

 

 呟くように放ったその言葉は、直後に暴力的な轟音によって掻き消される。

舞い上がる土と砂埃。行き場を失った紫電が周囲へと放電され、予想に違わぬ威力の余波をまざまざと表した。

これが直撃でもしようものならば、大怪我はまず免れない。先ほどの三人がかりの戦闘ですら、この光景を見てしまえばどれほど手心を加えられていたかという事が嫌でも理解できてしまう。

観戦する面々が感じた事は二つ。一つはサラに対する畏怖の念。そしてもう一つは―――他でもない、レイの安否だ。

 しかし、それを口に出すよりも早く、その疑念の結果が示される。

 

 

「―――・輪廻】」

 

 

 舞い上がった砂埃をその身の後ろに棚引かせ、体を半身に捻った状態のままサラのすぐ背後の空中へと回避したレイが、眼帯に覆われていない右目を鋭く輝かせ、そのまま先ほどよりもコンパクトな動きで体を回転させる。

そして、右手に握った黒塗りの鞘を容赦なく、サラの背中を目掛けて叩き落とした。

 

「ッ―――!!」

 

 しかしその攻撃も、間一髪間に合ったサラの突き出した剣によって防がれる。

空中で攻撃を受け止められたレイは、その反動を生かしたままに縦に数回転してそのまま地面へと着地した。

 

(いつ)つ……ちょっと、今の本気だったでしょ?」

 

「お前こそ、本気で俺の脳天カチ割りに来てたろうがよ。おあいこだ、ボケ」

 

 後ろ腰の部分をさすりながら立ち上げるサラと、右頬の一部に走った少量の流血を伴った裂傷を手の甲で拭うレイ。

 

 その動きの一部始終を、今度こそリィンは瞬きの一つもせずに見続ける事に成功した。

 あの夜、自分の放った『疾風』を事もなげに回避し、視界を欺いて一瞬で背後を取られたそのカラクリが、曖昧ではあるが理解できたのだ。

 

 自身が攻撃を受ける直前―――それこそ刃が自らの薄皮一枚に迫ろうという文字通りの刹那の一瞬まで一切の動きを見せず、同時に行動距離の小さい【瞬刻】を相手の周囲を最短の距離で半円を描くように発動させ、コンマ数秒の僅かな時間で以て相手の背後を取る。

 実際に体感したからこそ理解できた剣技の一部である体捌き。しかし同時に、それを成功させる困難さも理解できてしまった。

 ”瞬刻”のカラクリについては既にレイの口から聞いていたリィン。鍛え上げた脚力に噴出させる呪力を推進力にして生み出される歩法術。なるほど、それは確かに脅威となるだろう。

だがレイは、今まで直線的な(・・・・)動きの【瞬刻】しか見せて来ず、リィンとラウラも理解した気になっていた。その直線的な動きでのみ、発動できるものなのだと。

 しかし今見せたのは、紛れもなく曲線的な(・・・・)動き。その姿を捉える事は叶わなかったが、舞い上がり、棚引いた砂埃が幸いにもレイが辿った軌跡を浮き彫りにしていた。

 

 それが何を指すかと言えば、極限まで精密に定めた動きの”制御”だ。

 

 瞬間移動にも似た速さの動きを、半円状の曲線を描くように制御し、最低限の動きで人間の死角を奪う。

 あの夜の自分が簡単に背後を取られてしまったのも頷ける。と言うより、理解できてしまった今でさえ簡単に取られてしまうだろう。

 改めて痛感してしまう。自分と彼との現在の差を。

恐らく、”才能”などと言ったたった一言で片づけてはならない修行を繰り返してきたのだろう。

慢心はなく、油断もない。同い年でありながら言葉通りの”力”を有言実行で示して見せたその姿に、リィンは思わず笑みを溢した。

 あれが、自分の目標だ。あの境地に至ることはできないかもしれないが、せめて近づきたいとは思う。

その努力をしていれば、或いは自分の■■■も抑え込むことができるかもしれない。―――そんな感情を胸に、リィンは視線を二人へと戻した。

 

 

「ははっ。だがまぁ、久しぶりにマトモに戦えたぜ。色々とスッキリした」

 

「そりゃ私も同感よ。教師の仕事は嫌いじゃないけど生徒相手に思いっきり戦えないしねぇ。その点、アンタなら殺しても死なないしオールオッケーってわけよ」

 

「オイコラ、死闘がお望みなら買ってやんぞ」

 

 互いに少しばかり乱れた息を整えながら、笑みを浮かべ合う。

その直後、本校舎の方から授業終了のチャイムが鳴り響いた。

 

「ここまでか。ま、楽しかったぜ」

 

「もうちょっと教師として敬いなさいよ」

 

 闘気を収め、そして武器も収める二人。

 様子を見ていたⅦ組の面々は、それを見て揃って息を吐いた。とんでもないものを見たと、暗にそう言っているように。

ユーシスとマキアスの二人も黙りこくっていた。口だけではなく、実際自分たちが手も足も出なかったサラと互角に戦っている姿を見た今となっては、彼の言葉に反論することもできない。

 その時だけ、その二人の心情が一致した。それが皮肉なものだったと苦笑しながら口に出すことができたのは、もう少し後の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 結果的にグラウンドに決して小さくはない穴をあけてしまい、轟音を聞きつけたハインリッヒ教頭から「やりすぎだ」という説教を受ける事となってしまった手合せから数時間後。

夜の帳は既に下り、窓の外では梟がホウホウと鳴いている。

 風呂上りはあまり自室から出る事を好まないレイであったが、今は、まだ微かに肌寒さが残る寮の廊下を歩いていた。

 

 理由は一つ。サラに呼び出されたのだ。

 説教から解放された後、教室に戻る前にわざわざ耳元で囁かれた。

 

 曰く、「話があるから夜にアタシの部屋に来なさい」との事。

 

 ただの話ならば一階の共有スペースで事足りる。なのにわざわざ部屋に呼び出すという事は、機密性の高い話をするつもりだろうか。はたまたただの気まぐれか。

どちらにせよ、行かなければ報復と称して後日酒に酔った状態のサラに関節技を極められかねない。面倒事は限りなく事前に処理するのが信条の彼からしてみれば、ここで赴かないわけにはいかなかった。

 

 第三学生寮に、教職員用の特別な部屋などない。サラの部屋は女子部屋の階層となっている三階の一角にある。

 扉の前に立ち、とりあえずの礼儀としてのノックをする。中からやたら陽気な声が返ってきた段階で、レイの不機嫌度メーターは上昇を始めた。

 

「おっそいじゃないのよ~。待ちくたびれたわ」

 

「時間指定しなかったお前が悪い。何瓶開けたんだ?」

 

「ん~、二瓶ってトコかしらね。それよりホラ、アンタも一杯やりなさいよ」

 

「だから俺は今学生だっつってんだろうが」

 

「バレなきゃ良いのよ、バレなきゃ。どーせアタシ以外誰も見てないんだし」

 

 本格的に倫理観というものを叩き込んだ方が良いのだろうかと本気で考えていると、いつの間にかレイの手には酒の入ったグラスが握らされていた。

カラン、という氷が転がる音に懐かしさを覚え、その流れでつい口を付けてしまう。グラスの中身を空にするのに、そう時間はかからなかった。

 

「ホラ、突っ立てないで座んなさいよ。ホラホラ」

 

 ベッドの上に腰かけていたサラは、自分の横をポンポンと叩く。

意味が分かってやっているのか、それとも酒の入った勢いで無自覚でやっているのか。

どちらにせよ、酔ったサラの意向に逆らうと、タチの悪い絡みを見せてきて非常に厄介であることは分かっていた。

溜め息を一つ吐き、指定した場所に腰を下ろす。

 

「いやー、今日は疲れたわねー。アンタが上手い事ノッてくれたからアタシもちょっと全力で行きかけたじゃない」

 

「アホぬかせ。『雷神功』も使ってないお前が本気なはずねぇだろうが。……ま、俺もちょっとマジになりかけたけどな」

 

「その割には【鬨輝(ときかがり)】すら使ってこなかったじゃない。最初ナメられてんのかと思ったわよ」

 

「あれ以上にグラウンドの被害がデカくなったら色々と面倒だったろうが。特にお前が」

 

 不機嫌そうに口を尖らせるレイを見て、サラはその左手を伸ばして頭を撫でる。酔っている人間とは思えないその優しい手つきが、レイの表情を更に曇らせた。

 

「アタシの心配なんかしてんじゃないわよ。ただでさえアンタは色々抱えてるんだから。こちとら教師よ? 怒られるのは慣れてるわ」

 

「―――随分と入れ込んでるみたいだな。この職業に」

 

 この女性が教師になるなどと、それこそ青天の霹靂という諺が似つかわしいと、最初は思っていた。

だが、実際に見てみると驚くほど溶け込んでいるのが分かる。それを嬉しいと思う反面、どこかもの悲しさを感じていた。

 

「最初に会ったときは思いもしなかったな。あれだけ本気で殺し合ったってのに、今やこうして教師と生徒として隣に座って酒を飲んでるなんざ」

 

「……そうね」

 

 先ほどまで陽気で余裕があったサラの声が、尻すぼみで小さくなる。下手な事を言ってしまったかと横を向こうとしたとき―――不意にサラに抱きしめられた。

 温かい人の温もり。普段の言動とは裏腹に女性らしい体つき越しに聞こえてくる心臓の鼓動は、とても速く刻まれていた。

 

「……今でも不安になったりするわ。何かのきっかけで、無差別に人を狩っていたあの頃に戻ってしまうんじゃないか、って。―――でもそれは、アンタだってそうでしょう?」

 

「…………」

 

「今日やったのはただの手合せ。でも、どうしようもなく気分が高揚してしまった。戦って、戦って、戦い続けたあの日の記憶が、今でも時々アタシを蝕む。踏み越えてしまったから、だから容易には戻れない。結局、アンタが言ってた通りだったわね」

 

「戦闘狂じゃねぇだけマシだろうが。本当にヤバいのは、戦う日々を否定する事もなく受け入れてたどうしようもない馬鹿野郎だ。揺れて、足掻いて、這ってでも抗ったお前は、俺から見りゃただの人間だよ」

 

 暗に、自分は”異常”だと。

 異性の感情を揺さぶるような、悲しげな笑みを浮かべた彼の顔を、サラは至近距離から覗き込んだ。

互いの酒気の混ざった息が交わる距離で、それでも彼女は彼を正面から見続ける。そして想う。

 

「アンタは……報われる資格があんのよっ……!!」

 

 ただの一片の悪意もなく、ただの一片の他意もなく。

 それでもこの少年は、他人を掬って救いつづけようとして、その度に自分の心を蔑ろにしてしまう。

それがサラにとっては、たまらなく嫌だった。

 

「―――それを決めるのは俺だ。お前じゃあ、ない」

 

 突き放すようにそう返したが、その声色は震えている。

やがてレイは優しくサラの肩を押して距離をあけると、「ごちそうさん」という言葉を残してグラスを置き、立ち上がった。

 

 最悪だ。―――他ならぬ自分自身にそんな評価を叩き付け、何故か来る前よりも一層冷え込んでしまったような廊下を歩きながら自室へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




サラvsレイ。書いてしまったことに後悔はありません。

レイ君のことを面倒くさい人間だと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、どうか勘弁してやってください。

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