先日『閃の軌跡Ⅱ』を購入してプレイしていく内に上がっていったテンションのままに書こうと思った作品です。つまり、行き当たりばったりです(~_~;)
何分投稿作品を書くのは初めてなので執筆スピードは亀にも劣ると思いますが、チラリとでも見ていただけたら幸いです。
それでは、よろしくお願いしまーす。
軌跡の始まり
戦うことが、存在意義。
その事を今まで疑問に思ったことがあるかと問われれば、最初は首を傾げて悩み、そして否、と答えるだろう。
よくよく考えてみれば、これまで力を振るう事を否定したことはなかったのだし、戦場に立って戦う事を忌避したこともなかった。
異常だと、そう言われてしまえばそれまでだ。
世間一般の、それこそ銃声にすら馴染みがない平和な日々を謳歌する人々からすれば、確かにこの考えは異常なのだろう。
それも少年は否定する気はない。祖国を護るため、などという高潔な理由があるのならともかく、確たる理由も無いままに命のやり取りを繰り返し、流れ作業のように刃を血に染めていた時期が、確かに自分にもあったのだ。
そんな日々から少しばかり離れた今となっては、それがどれだけ歪んでいたのかが分かる。これでは罵られ、誹られても文句は言えない。冷静になって鑑みれば、死んだら即地獄行きになるだろう所業を続けていたのだから。
しかし生憎と、若気の至りと言うには余りにも度を越した事を続けていたあの日々を記憶の中から消し去る気は毛頭なかった。
あんな混沌を具現化したような場所でも、少年にとっては確かに”自分の居場所”だったのだ。仲の良かった人々がいて、一時的にでも背中を預けた人物がいた。例えそこが闇の巣窟であったとしても、彼は胸を張って言えるだろう。「あそこは、自分を受け入れてくれた場所だ」と。
とは言え、やんごとなき事情の末に、もはやあの場所には戻れなくなってしまった。
悲しいと言えば悲しいのだが、不思議と涙は出てこなかったのを覚えている。大陸にいる限りふとしたきっかけで出会う事は間々あったし、新しい職に就いた後も顔を合わせることは何度もあった。まぁその時は、大体が敵同士として相対していたのだが。
新しい職場の、アットホームながらも時々修羅場が舞い込んでくる雰囲気や、時々かつての同僚と鉢合わせする状況を過ごす日々。恐らく自分はずっとこんな生活を続けていくのだろうな、などと思っていた矢先に、人生何度目かの急転直下な事態が訪れた。
特に驚くことはない。急な生活の変化などはこの齢にして既に慣れてしまっていた。幼少期に鍛えられた強靭な胆力は、例え明日自分が死ぬと告げられても薄い反応を返す程にまで、自分の常識を非常識で浸食しているに違いない。そう思い込み、信じていた。
だからこそ、信じられなかったのだ。
今自分が、ストローを使って飲んでいたジュースを危うく逆流させてしまいそうになるほどに動揺した事に。
そして、それを見事成し遂げた人物が、一国の皇子であった事に。
―――*―――*―――
エレボニア帝国 首都ヘイムダル近郊 皇族専用避暑地『カレル離宮』。
本来であるならば式典などの行事や、皇族に近しい身分・地位にいる人間しか来訪を許されないこの特別な場所に、高位の身分どころか帝国臣民ですらない人物が、今完全に非公開にされた状態で招かれていた。
招かれた過程ですらも、普通ではない。
隣国より特別急行列車を何度か乗り継いで半ば強制的に連れてこられた、いわば”被害者”であるはずの少年は、しかし先程までは一切狼狽えることをしなかった。
特に逆らうこともなく、暴れることもなく、離宮の気品が漂う応接間に通された時ですら、粛々と”招待者”である青年の言葉に従って腰を落ち着けた。
その胆力には離宮に勤める使用人のみならず、招いた本人である青年ですら舌を巻いた程であったが、その年齢に不相応なまでの冷静さは、唐突にかけられた一言で不意を突かれて崩れてしまった。
―――ポタ、ポタ……と。
危うく逆流しかかったオレンジジュースを口元から数滴垂らした少年は、直ぐにそれを拭うと、目の前にいる人物の方へ向き直った。
互いに高級なソファーの上に座り、その間を分け隔てているのは
鮮やかな金髪を首筋辺りで一つに纏め、その身を”紅”を基調とした服で覆った、自分よりも10は年齢が上であろう人物。
知らない訳ではない。寧ろ情報の扱いが基本となる職場で仮にも数年働いていた身として、この人物の事を耳にした事が無いとは、そのプライドにかけても言えないだろう。それ程までに、このゼムリア大陸において、彼は有名人であった。
《放蕩皇子》―――オリヴァルト・ライゼ・アルノール。
このエレボニア帝国における皇族の一人にして、国民の敬意を羨望を背負う人間である。
「……スミマセン。最近歳のせいか耳が遠くなって来たような気がしましてね。もう一回、言って下さいますか?」
そろそろ17になる人間が何を言うか、というツッコミが脳裏を過ったが、気にしない事にした。兎にも角にも、もう一度聞かない事には始まらない。今自分は、とても恐ろしい台詞を聞いた気がしたのだから。
「おやおや、言い方が悪かったかな? それとも私の声が小さかったのかな? いいだろう。もう一度、言わせてもらうよ」
できれば聞きたくないなぁ、という願望が心の中で反芻されるが、それは決して表情には出さない。仮にも相手は王族、度が過ぎて不敬罪に問われたら目も当てられないだろう。
尤も、彼の後ろで怒気のオーラを立ち昇らせて身を震わせながら立っている黒髪の青年の姿を見る限り、その心配は杞憂になるだろうが。
「レイ・クレイドル君。僕は―――」
再びストローに口を付ける。もう少しでなくなりそうなジュースの残量を一瞬だけ一瞥しながら、特に歓迎もしていない、目の前の皇子の次の言葉を待った。
「君が―――欲しい!」
―――ドガッ!
―――スゾゾッ……
本来聞こえない筈の、否、聞こえてはならない筈の鈍い打撃音と、少年―――レイがジュースを吸い終わった音が偶然にも重なった。
今度は動揺などしなかった。微妙に冷めた目で目の前で起きた惨劇を見つめながら、後ろに控えていた執事のような人物にジュースのお替りを頼み、再び視線を戻す。
何も知らない一般人がこの状況を見たら、あるいは卒倒するかもしれない。巷で人気な煌びやかな皇子が、思いっきり後頭部を殴打されたのだから。
「一辺死ね、このバカ」
からの、この暴言である。その一連の流れを僅かの躊躇もなく行ったのは、先程から怒りで身を震わせていた長身の青年。エレボニア帝国が誇る機甲師団の軍服を纏っているその人物は今、眉間にこれでもかと皺を寄せながら、振りぬいた右の拳を元の位置に戻した。
エレボニア帝国正規軍第七機甲師団所属、ミュラー・ヴァンダール少佐。
各地で耳にするオリヴィエ皇子の話題は、大抵この人物の情報がセットで入ってくる。
それもその筈。帝国において<ヴァンダール家>は、代々帝国皇室を守護する名門中の名門。この人物が付き人兼要人警護として皇子と行動を共にする事は、何らおかしな事ではないのだから。
更に言えば彼はオリヴァルト皇子とは幼馴染であり、加えて親友の間柄でもある。だからこそ、この皇子の行き過ぎたアホな言動に対する窘めとして、拳と暴言を繰り出す事ができるのだろう。
とは言え、流石に目の前で見ると迫力があった。レイが見る限り、あまり手加減をしていなかったように思える。
「アタタ……酷いな親友。今のは結構本気だったんじゃないか?」
「当たり前だ。お前がノリと思い付きで連れてきた客人だろう。少しは真面目に振る舞え」
フン、と鼻を鳴らし、視線を皇子からレイへと移してくる。
言葉にこそしなかったものの、何故か憐れみと同情を含んだような目で見られ、黙したまま一つ頷いた。どうやら、この程度の事はスルーしなければいけないらしい。普段から接しているのならばともかく、出会ってからまだ一日と経っていない人間には少々難易度の高い要望だ。
「えっと、殿下?」
「うん?」
「あのですね、えっと、自分は流石に男色のケはないんですが……」
一応確認としてオリヴァルトにそう進言したレイであったが、直後、盛大に笑われてしまう。それが数秒続いた後に、再びミュラーに殴られていたが。
「イタッ!……ハハハ、分かっているとは思うが、流石に先程のは言葉の綾さ。そういう風潮を否定はしないが、僕はちゃんと妙齢の女性が守備範囲内だよ」
「……良かったです。殿下がもし、本気でそうだったとしたら、自分は全力で以てここから脱出してクロスベルに帰ってました。えぇ、国境越えなんざ些細な問題ですよ」
「安心してくれ。君の安全は俺が保証する。この馬鹿が、無理を言って連れて来てしまった身の上だしな」
全く以て笑えないジョークを解決した後、レイは届いたジュースを再び啜る。理不尽な緊張を強いられたせいか、やけに喉が渇いてしまっていた。
可能な限り早く帰りたい―――そう思っていると、自分の眼前の卓上に、スッと一枚の封筒が差し出された。
「……」
ストローから口を離し、それを手に取る。裏返してみるとそこには、黄金の一角獅子の紋章が堂々と真ん中に印刷されており、その上部にはとある一文が載っていた。
『トールズ士官学院 推薦入学受付願書』
「これは、本気ですか?」
思わず問い質してしまう。それもそうだろう。何故この皇子は、今更自分に”学生”に戻れなどと言うのだろうか。青春などとうに捨てたものだと思っていた、自分に。
色々な複雑な思いが胸中で交錯し、怪訝な目を向けてしまっても、オリヴァルトは変わらぬ微笑を浮かべたまま、答えた。
「勿論、本気さ。一応僕はその学院で、お飾りであるが理事長なんぞを務めていてね。今回はその立場から、君の入学を勧めさせてもらったんだ」
「……それでしたら帝国内に優秀な人材は他にもいるでしょう。わざわざ他国に籍を置いている人間を誘うメリットなど、殿下にはないのでは?」
談話の雰囲気が一変、真剣なものへと移り変わる。
レイの方は変わらず”個人”として相対しているが、オリヴァルトの方はそうではない。あくまでも皇族の一員、<アルノール>の家名を冠する人間としての話し合いを仕掛けて来たのだ。
噂通りの食えない人間模様に、内心で苦笑する。成程、伊達にリベール王国に偽名を使ってまで乗り込んだ人物ではない。交渉事には随分と聡いようだ。
「謙遜することはない。僕も幾つかの独自の情報網を持っているからね、君の活躍は何度も耳にして来たよ」
「そう言っていただけるのは素直に嬉しいです。先輩方の影に隠れて、細々と行動しているだけなんですがね」
「その行動が僕にとっては眩しく見えたんだよ。確たる実績を残しながらも決して名声を求めようとはしない。控えめに言っても、遊撃士の鑑のような人物じゃあないか」
―――そう言われる資格なんぞ、俺にはない。
反射的にそう言葉にしたくなる衝動に駆られたが、ギリギリ口内で呑み込んだ。
「”求めない”のは当たり前です。俺みたいなポッと出の若造が有名になりすぎたら支部に迷惑がかかりますから。そういう、打算的な意味ですよ」
半分は本音で、半分は嘘。
声色に震えはないし、言葉を詰まらせたりもしていない。普通の人間が相手ならば、この答えでうまくはぐらかす事ができた筈だった。
そう―――”普通の人間”であったならば。
「中途半端な嘘は良くないよ、レイ君」
極めて自然に、そして間髪を入れずに、その思惑は即座に看破されてしまった。
それでもレイは心情の揺れを表に出さない。こんなやり取りはただの小手調べだと、そう言わんばかりの不遜な態度のまま、じっとオリヴァルトの双眸を正面から見据える。
今の言葉が、当てずっぽうで放たれたものではない事は明らかだったし、こちらを探るためのカマをかけたものであったとも思えない。それが分かる程度には、レイも話し合いには慣れているつもりだった。
恐らくは、全て知られているのだろう。
自分の―――過去が。
「君が今までどれ程の茨の道を歩んで来たのかは、一応知っているつもりだよ。所詮、情報の羅列でしかないがね」
「ハハハ、皇族の方とはいえ人の過去を勝手に調べるのは止めて下さいよ。……面白いモンじゃないんですから」
言葉に険が出始めている事を自覚しながらも、会話を続ける。
激情を表す事は簡単だ。今ここで殺気を出しても、恐らく目の前の皇子は咎めはしないだろう。
だが、それでは駄目だ。
些細な挑発にホイホイ激憤していたら、それは癇癪を起こす我儘な子供と何ら変わらない。それに、過去を探られるのはこれが初めてという訳ではない。反応するだけ、エネルギーの無駄だろう。
「それでは殿下は、全てを知った上で俺を士官学院に招待しようと? 将来の明るい少年少女たちの群れの中に混ぜるには、些か異端すぎると思いますケド」
「新しい風を吹かすのに
「俺以上にヤバいモノを背負っている新入生がいるとでも?」
「いやいや、流石にいないよ。君のような人材を何人も抱えれば、さしもの僕でも手に余るだろうさ」
「ま、そうでしょうね」
自分から振った話ではあるが、そんな教育機関はすぐに学級崩壊を起こすだろう、とは思った。教師陣としても悪夢以外の何物でもないに違いない。
段々と、対話にも余裕が生まれてきた。
それに伴って自分の口調がいつもの友人や同僚に接している時のそれに戻りつつあるのにも気が付いていたが、特に今のところ問題は起きていない。レイはこの人物に、皇族の風格を残しながらも、頭の切れる自由な風来坊のような印象を抱き始めていた。
「それが、殿下が俺を入学させようとしている理由、という訳ですか。しかしまた、随分と思い切りが良いですね」
「未だ空を仰ぎ見るだけの雛鳥とは違って、君はもう立派な翼を持った成鳥だ。後は、羽ばたく切っ掛けさえあれば、と思ってね」
「それが故の先程の言葉、ですか。成程、確かに拒否する理由は何もないですね」
唯一の懸念事項と言えば遊撃士の仕事を一時休職しなければいけない事だが、それについても訳を話せば同僚たちは自分を快く見送ってくれるだろう。常日頃からお節介焼きな面々の事である。留学などと言いだした矢先には、さて、どんな反応を見せてくれるのやら。
そうしてレイがもう一度願書の封筒を手にしたところで、オリヴァルトが「あぁ、そうだ。もう一つ」と、思い出したように言った。
「僕がそれを君に渡したのは間違いなく君が優秀な人材であると判断したからなんだがね、君に興味を持った切っ掛けはまた別にあったんだよ」
「切っ掛け……
正直、それ以外から今の自分の情報が入るとは思えない。
否、探そうと思えば情報など幾らでも探せるのが現代ではあるが、今ここで自分にそれを話すという事は、そんな漠然とした情報源ではないのだろう。
「初めは……そう、リベールに赴いた時だった。”とある少年”から、君の存在を聞いてね」
そう言われた瞬間、レイはその情報源にあたる人物を特定させていた。この皇子が当初は身分を隠して”彼”に接触していたのは知っていたが、まさか余計な事まで口走っていたとは露程にも思っていなかった。
「野暮用が終わって帰ろうとしていた時に言われたのさ。『自分はもう大丈夫だから、もし彼に出会ったら何か力になってやって下さい』とね。その時僕は、口約束ではあったけど、必ずその役目は果たそうと決心したのさ。”彼”の、君に対する感謝の念がひしひしと伝わって来たからね」
「あンにゃろう……他人の心配してる場合じゃねぇだろうによ」
ガシガシと、思いっきり後頭部を掻く。
変に気を遣わせてしまった事に対する
そんな心情を知ってか知らずか、オリヴァルトは含みのない笑みをレイに向ける。
「良い友人を持ったじゃないか。大事にしたまえよ」
「はぁ……というかアイツには
まるで反論するかのような言葉であったが、その口元には隠し切れない感情が漏れ出ていた。
何度も離れそうになった腐れ縁。再び繋がったそれが今回の事態を招いた要因の一つとなった事を考えると少しばかり複雑ではあったが、親友の頼みを無下にするほど落ちぶれてはいない。
結果として、オリヴァルトが切った
「ふぅ……了解しました。
「それは、推薦を受けてくれるという解釈で構わないのかな?」
「はい。人生何事も経験だと、昔師匠にも言われましたしね。それに、せっかくの親友のお節介です。受けておかないと損でしょう?」
「フッ、麗しき友愛か。いいねぇ、美しいよ」
その芝居がかった言葉になぜか無性にイラッと来たが、冷やかしなどの悪意は感じられなかったためにすぐに鎮まった。この帝国皇室の長子は、良くも悪くも人の心を搔き乱すのに長けているらしい。
社交界では凄まじい人気を誇るという情報も、直接会った今ならば身に染みて理解できるような気がした。いつの世も、女性はミステリアスで自らを翻弄してくれるような異性に、少なからずの興味を抱くものだ。
―――ヴ―――ッ、ヴ―――ッ。
「あ、っと」
そんな事を思っていた時、不意に上着の内ポケットの中に仕舞い込んでいた機器が振動した。そう言えば電源を切っていたことを忘れていたな、と今更ながらに思い出し、二人に許可を取ってから折り畳み式のその機器を開いて、耳の近くへと持って行った。
「はい、もしもし―――あぁ、ミシェルか。悪ぃ、心配かけたな」
俗に『
「いや、別に拉致られた訳じゃあ……ない、かな。うん。ともかく、もうすぐ支部に戻る。残ってる仕事は明日一気に片づけるから、依頼書は俺の部屋の机の上に積んどいてくれ。―――は? クロスベル支部全員で帝国に殴り込みをかける? 待て待てやめろ。国際問題になンだろうが」
そんな不穏な会話が十数分続けられた後、どうやら穏便に収めたようで、やや疲れた顔をしながらレイが機器の電源を切った。
「……さて、ちょっとすぐに帰らなきゃいけなくなったんで特別便を用意していただけますか? 殿下」
「あぁ。皇室御用達の列車をすぐに用意させるよ。いやぁ、ゴメンね♪」
茶目っ気を全開にして反省の色ゼロで謝るオリヴァルトに、再びミュラーの鉄拳が落ちる。それを冷めた目で見ながら、これまでの過程を思い返してみた。
半ば強制的、とは言ったものの、実際のところレイ自身望んで付いてきた部分もある。オリヴァルトと会うのも今日が初めての事ではなかったし、名前こそ偽名を使っていたものの、やんごとなき身分の人間であることは最初から分かっていた。そんな人物に突然「重要な話がある」と持ち掛けられたら、多かれ少なかれ興味を抱いてしまうのは仕方のないことだっただろう。
しかし、近場のどこかで話をするのかと思いきや、まさかいきなり皇室の離宮にまで連れて来られるとは流石に思いもしなかったが。
余りにも急な展開に、職場に連絡をする事も忘れてしまっていた。この事は、レイの落ち度でもある。遊撃士たる者、いかなる状況でも冷静な判断と行動が求められる存在だからだ。今回の場合は、その状況が突拍子過ぎて対応が遅れてしまったせいで、危うく国際問題にすらなりかけてしまった。
だが、わざわざ隣国くんだりまで赴いた甲斐はあったと言えた。
「別に気にしていません。それに、面白そうな事を提案して下さっただけでも俺としてはとても有意義な時間を過ごせましたから」
「フフッ、そう言ってもらえるとこちらとしても嬉しい限りだ。ではまた、今度は学院の行事ででも会おうじゃないか」
「俺に新しい友人ができている事を期待しておいて下さい。……では、これで」
そのやりとりを最後に、レイはソファーから立ち上がりって踵を返す。そしてそのまま、使用人に案内されて応接室を出ていった。
「―――ミュラー、彼をどう思う?」
二人しかいなくなった広い部屋で、オリヴァルトがそう問いかけた。その言葉に顎に手をかけて少し考えた後、衛士であり、親友でもあるミュラーが答える。
「お前が目を掛けるだけの事はある、か。アレは相当修羅場を潜って来ている。強いぞ」
「もし
「ヴァンダール流の名に懸けて負けるとは言わんさ。ただ、お前が見ているのは彼の技量だけではないだろう?」
自分が求めていた的確な答えに、喜色を見せる。ミュラーの方はと言えば、未だ渋面を崩してはいなかったが。
「あぁ、その通りだ。彼には”あのクラス”のもう一つの”支え”となってもらいたい。決して常人が経験することのない道を辿って来た彼にしかできない在り方を、あの場所で示して欲しいと思っているよ」
「……悪趣味と取られても言い逃れはできないぞ、オリビエ」
「理事長として、最低限の責任は負うつもりだよ。たとえそれが、どんな結果に繋がろうとも、ね」
オリヴァルトが放った最後の一言は、何故だかやけに真実味を帯び、余韻がしばらくその場に残っていた。
……という訳で序章なんぞを書いたわけなんですが、いかんせんオリビエさんの口調がよく分かんないことになってますね。殿下ファンの皆さん、ゴメンナサイ。
ちなみにこの序章は閃の軌跡原作が始まる昨年度の出来事となっております。主人公は会話の中でもあるとおり遊撃士なわけですが……あの濃い連中と仕事してれば大抵のことには耐性がつきそうですよね。怖いッス。
それでは次回、また読んで下さいませ。