英雄伝説 天の軌跡 (完結済)   作:十三

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「諸君、夜が来た

 無敵の敗残兵諸君 最古参の新兵諸君

 万願成就の夜が来た

 戦争の夜にようこそ‼」
          by 少佐(HELLSING)








帝都騒乱 壱 ※

 

 

 

 

 

 

 

 帝都の≪夏至祭≫では、昼を過ぎた後、皇族が帝都各地の行事を視察するために専用のリムジンに乗って『バルフレイム宮』を出発する。

 

 皇位継承権第一位のセドリック皇太子は帝都北西の『ヘイムダル大聖堂』に。

 

 皇位継承権第二位のアルフィン皇女殿下は帝都北東の『マーテル公園』に。

 

 そして嫡子であるオリヴァルト殿下は帝都南西の『帝都競馬場』に。

 

 

 

 さて、この日この場所、どこかを必ずテロリストが襲撃するとして(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、防衛に回る側としてはどこを重点的に守護するべきか。

 無論、全ての場所に皇族直轄の近衛兵が配備され、厳重な警備が置かれているのだが、恐らくそれでもまだ足りない。決して近衛兵の練度の高さを疑うわけではないが、それに頼り切っていては予想外の事態に対処できない。打てる手は最大限打っておいてから臨機応変に対応するというのがクレアの基本的なスタイルだ。

 

 それを踏まえてⅦ組を始めとした予備戦力はどこに配置すればいいのか。それを昨夜、集まった時に意見を集めてみたところ、まず挙がった意見が一つ。

 

「競馬場は放置で良いよな」

 

「そうね。あのバカなら自力で何とかするでしょうし」

 

「それにミュラーさんもいるだろうしね」

 

 結論として、「テロリストに素直にやられてやる程に軟な人間じゃない。というかよしんば捕まってもミュラーさんが何とかする。多分」という事で丸く収まり、また要らぬ苦労を背負い込む事になった第七機甲師団の若き青年将校に心の中で合掌を送ってから思考を再開する。

 

 単純な人物の重要度合で判断するのならば、警護を優先すべきはセドリック皇太子だろう。未だ社交界にも出席していない年齢ながら、皇位継承権は第一位。未来のエレボニア帝国の象徴として君臨する人物なのである。テロリストの目的が”帝国に害を為す事”であろうという所で推測が止まっている今、襲撃者の側になって考えればまず間違いなくこの人物を狙うだろう。

 

 ……という事は誰だって分かる(・・・・・・・)

 

 

 

「……狙うならアルフィン殿下のいる『マーテル公園』かな。お前らはどう思う?」

 

「まぁ、そうだろうね。≪帝国の至宝≫なんて呼ばれている方だし、そんな人が拉致された日には、帝国民はその動向に注目せざるを得なくなる」

 

「未だ名乗りを上げていないテロリストが旗揚げをするにはちょうどいいデモンストレーションになる、って事ね。サラ、あんたはどう思う?」

 

「…………」

 

 しかし、サラは口元に手を添えたまま、どうにも納得がいかない、という雰囲気で思考に耽ったまま言葉を発しない。

 そしてその気持ちを代弁するかのように、クレアが口を開いた。

 

「えぇ。確かに皆さんの仰られている展開が妥当でしょう。私でもそうするでしょうし。故に―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 ≪G≫こと、ミヒャエル・ギデオンは、思い描いていた筋書とは違う展開になってしまった事に内心渋面を浮かべながらも、状況は全て我が掌の内と言わんばかりに、『マーテル公園』のクリスタルガーデンの中で堂々と立っていた。

 

「御機嫌よう、知事閣下。招待されぬ身での訪問、どうか許していただきたい」

 

 クリスタルガーデンの中で催されていたのは、皇族が主催となっている園遊会。訪れたのは名立たる貴族の面々と、アルフィン・ライゼ・アルノール皇女殿下。そして、付き人であるシュバルツァー男爵家の息女、エリゼ・シュバルツァー。

 粛々と、しかし静かな華やかさの中始まったその催しであったが、会が始まって1時間と経たない内に、ガーデン内の石畳の一部が地下から爆破されて、そこから数名の武装集団が乱入して来た事によって静寂は簡単に破られる事となった。

武装集団の闖入の際、皇女殿下を守ろうとしたレーグニッツ知事閣下は左肩を打たれて負傷。アルフィンとエリゼは腕を頑丈なロープで拘束されて、武装集団の内の二人にそれぞれ銃口を向けられていた。

 

 ―――そこまでは、ギリギリ予想通りになった。なってくれた。

 

 ギデオンの予想外であった事態は二つ。

 一つは、テロ行為開始の狼煙代わりに仕込んでおいた『ドライケルス広場』の大噴水が暴走する仕掛けが解除されていた事。この影響で一般市民の混乱を招く事が叶わなくなり、≪帝都憲兵隊(H・M・P)≫や≪鉄道憲兵隊≫の戦力を割く事が出来なくなってしまった。

 そしてもう一つは、”笛”の音で飼い慣らしておいた地下道の魔獣達が、軒並み殲滅されていたという事であった。当初の目的ではこの魔獣達を地上に放ち、クリスタルガーデンの外で警備をしている近衛兵達を釘付けにするというものだったのだが、危うくそれすらも失敗するところだったのだ。

幸い、魔獣の異常に関しては行動を起こす数時間前に地下に潜伏していた同志から連絡があったために、”とある筋”から手に入れていたモノを投入する事で攪乱する事には成功していた。

 

『くっ‼ 何だコイツらは‼』

 

『機械⁉ う、うわぁぁッ‼』

 

『ええぃ、怯むな‼ 近衛兵の名に懸けて園遊会には一歩も近寄らせぬぞ‼』

 

 ガーデンの外で近衛兵達を相手しているのは、全身が深緑色に塗装された自律型の戦術戦闘機械(オートマタ)。”ファランクスJ9”という名がついているそれは、本来広域殲滅型の兵器であり、牽制のために使用するにはあまりに火力過多な代物だ。事実、今回の作戦では本来使用しないはずのモノであったのだが、背に腹は代えられず、投入する事となった。

 

 そして今、ギデオンの両脇に控えているのは、襲撃に備えて行動を共にしていたために殲滅の対象にならなかった”グレートワッシャー”が二体。高位の魔獣ではないにしても、そこいらの武術の腕前のない者なら束になっても敵わない。事実、唸りを挙げて眼光を鋭くしているその姿に、ガーデン内にいる貴族達はすっかり震えてしまっている。

 

 

「ッ‼ 殿下は関係ないだろう‼ 二人を解放したまえ‼」

 

 肩に奔る痛みと熱を堪えながら、カール・レーグニッツはそう叫ぶ。しかしギデオンは、その言葉に色好い返事を返すつもりなど毛頭ない。

 彼女らは謂わば生贄だ。本当に命まで取るつもりは毛頭ないが、”命を狙われた”という事実さえ残ればそれでいい。それさえ叶えば、帝国政府に、ひいては”あの男”に対する致命的な楔となる。

 無慈悲にそう告げた後、ギデオンはもう話す必要はないと言わんばかりに背を向ける。正直なところ、不確定要素が起こり過ぎてこれ以上作戦を長引かせるのは得策ではなかった。拘束している二人を連行するように指示を出そうとして―――しかし、背後からの声に思わず足を止めてしまう。

 

「―――待て」

 

 恫喝するような声色でもなく、気高さ故に出たような声。振り向くとそこには、頬に一筋汗を浮かべながらも、レイピアを構えて気丈に立つ金髪の青年がいた。

 

「殿下とシュバルツァー嬢は返してもらう。そのお二人は、お前達のような下賤な人間が触れて良い方々ではない」

 

 その振る舞いは一見堂々としているように見えるが、言葉の端々などからは恐怖の感情を抑え込んでいる事が理解できた。

普通ならば、この程度の安い挑発に乗る程ギデオンは愚かではない。だがその時は何故か、憐憫じみた笑みを返してしまった。

 その姿には見覚えがあった。直接顔を合わせた事はないが、その名は聞き及んでいる。

 『四大名門』が一角、<ハイアームズ家>の三男にして、トールズ士官学院所属、パトリック・ハイアームズ。確かにハイアームズ家の子息ともなればこの園遊会に出席していても何らおかしくはなかったが、しかしこの場所、この状況で牙を剥いてくるとは思っていなかった。

 

「断る。としたら、どうする? パトリック・ハイアームズ殿」

 

「ッ……決まっている」

 

 レイピアの切っ先を突きつけて示すのは、交戦の意志。しかし、やはりその切っ先は僅かに震えている。

仕方のない事だろう。まともに戦えるのは自分一人であるのに対し、相手は数名の武装集団に中型魔獣が二体。余程腕に覚えがある人間でなければ必勝は限りなく遠い。この状況下で恐怖を感じずに何を感じろと言うのか。

 

「愚策だ。このままでは君が無駄死にしてこの場に死体を晒すだけ。得られるものなど何もない。それが分からない程、愚鈍でもないと見受けたが?」

 

「……フン。お前達は帝国貴族というモノが分かっていない」

 

 しかし、体が震えながらも、声に不安が混じりながらも、それでもギデオンを見据える青色の瞳にはある種の覚悟のようなものが現れていた。

 

「この国の主たる皇族の方が攫われようとしている時に、御家を仰ぐ僕達が何もせずに見ていたとあれば、そんなものは忠義じゃあない。ましてや僕は『四大名門』のハイアームズ家、その家名を背負う一人だ。嘗めないでもらおうか」

 

 ギデオンは、知らない。

 嘗てこの青年が、貴族の”誇り”を履き違えていたという事を。

高貴な家に生まれた者は生まれながらにして高貴であり、それは有象無象の平民とは一線を画するモノ。その一線を己の歪んだ価値観の身で引いて―――その在り方を、一人の少年に粉微塵に打ち砕かれた。

 それはパトリックにとって屈辱でしかなかったのだが、それでも知らず知らずの内に、彼は<ハイアームズ>という家名に固執するだけでなく、己自身を見つめ直す時間が増えていたのだ。

 元より、根幹から悪人であるわけでは決してない。言ってしまえば、生まれたその瞬間からの環境が彼をそうさせてしまったとも言えるのだから、ある意味被害者であるとも言える。

 それらの意地を一度全て曲げて考えてみると、あの実技試験に乱入した際、リィン・シュバルツァーには酷い暴言を吐いたものだと、そう思い至ったのだ。そして、あそこで自分の胸ぐらを掴んでまで喝を入れた少年、レイ・クレイドルの言い分も、何となく理解できてしまった。

 

 パトリックは、今でも貴族の血は尊いと思っている。その考えは恐らく、生涯変わる事はないだろう。

 だが、その高貴な血を示す”誇り”とは、決して尊大な態度で平民を見下す事で得られるものではない。それは、あの時の彼の言葉が物語っていた。

 

 

『自分と違う人間を真正面から罵倒するその気概は認めてやろう。なら後は覚悟を持てよ。お前の眼前にいる人間に、お前が陰で悪評を流した人間に、ブン殴られて怒鳴られる可能性を視野に入れろ。その覚悟すらもできずに安全圏から諦観するような人間に、誰かを馬鹿にする権利なんかない』

 

 

 ただ高みから見下し、憫笑を向けるだけの人間に、誇りを持つ資格などない。

 ならば、と。パトリックは理解する。ハイアームズという家名を背負う資格を持つには、自分は色々と弱過ぎた。自分を殴る価値すら無しと判断したあの少年を、どうにかして見返してやりたかった。加え、家名に一切臆することなく自分を真正面から打ち負かしたリィンに、今度は己自身の強さというものを証明してやりたかった。

 故に、彼はいまここで立ち向かったのだ。

以前の彼であれば、ここで臆したまま何もできなかった事だろう。自分が立ち向かった所でどうにもならないと言い訳して、一歩も進まなかったに違いない。

 勇気と蛮勇は違うという事を、聡い彼は良く分かっている。それでも、ここで動かない程度ならば、そもそもその誓いを守る権利すら得られない。

 

 彼は今、立ち向かっている。

 それこそ、”殴るならば殴られる覚悟をしなくてはならない”場所に、自分の意志で立っている。

 例え感情の半分が恐怖に支配されようと、如何に絶望的な状況であろうと、彼は今、”答え”を見つけるための一歩を踏み出した。

 

 

 

「……済まないが、忠道の精神に付き合っている暇はないのでね。その高邁な考え方は見事、と言えなくもないが、今の私達には不要なものだ」

 

 しかし、ギデオンにその覚悟は伝わらない。片手を軽く上げ、それを合図に武装集団たちの軽機関銃の銃口が一斉に向く。加え、二匹の魔獣も唸り声を上げて近寄って来た。

 時間を食ったと、所詮その程度にしか考えていなかった。否、状況だけ見ればそうだろう。自分が手を振り下ろせば、数秒後に前途有望な青年貴族の死体がそこに転がるだけなのだから。

 

 だが、その一瞬。兵士達の注意がパトリックに移ったその一瞬(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)こそが、反撃の狼煙だった。

 

 

 

「フム、主に聞いていたのとはまた違う。いやはや、一皮剥けた若者の覚悟とは、斯くも美しいものですか」

 

「見事也。その気概、その風格。今や貴方は、(とうと)(やから)の末席になられた」

 

 その威厳が漂う言葉は、さてどこから聞こえて来たのか。

 ガーデン内に居た誰もが疑問に思ったその瞬間、アルフィンとエリゼの近くに居た兵士二人が、腹部に強い衝撃を受けて昏倒した。

 

「な……⁉」

 

 放たれたのは掌底。両の手首が塞がれていようとも放てるそれを容赦なく兵士にぶつけたのは、拘束されていた二人だった。

如何にも虫一匹たりとも殺せないような小柄で心優しい二人であり、少なくともこの場に集まった者達は、彼女らに同じような印象を抱いていただろうし―――事実、それは間違っていない。

 今ここにいるアルフィン・ライゼ・アルノール、エリゼ・シュバルツァーの二人が、本人であれ(・・・・・)ばの話だが(・・・・・)

 

「お騒がせをして申し訳ない、参加者の方々」

 

「それとご安心を。本物のアルフィン皇女殿下とエリゼ嬢のお二方は、『バルフレイム宮』にてお待ちいただいております故」

 

 その言葉と同時に手首から流れ出た黄金の炎が拘束していた縄を焼き切り、そして全身を覆う。その数秒後、現れたのはアルフィンとエリゼという擬態を解いた、オリジナルの体よりも二割ほど小さくなった体躯の、二人のシオンであった。

 二人は同じ動きでひょいとその場から跳躍し、ギデオンを左右から見据える位置に降り立つ。

 

「ッ‼ ≪天剣≫の式か、貴様‼」

 

「ご明察。我は主に隷属する唯一の式」

 

「此度は反撃の一翼を担ったまで。さぁ、どうなされる。まもなく形勢は覆りまするぞ」

 

 この策を仕込んだのは、勿論クレアだ。『バルフレイム宮』からリムジンに乗って出発したアルフィンとエリゼに擬態して、そのまま園遊会に出席したという、ただそれだけの事。

 それを可能にしたのは、シオンが擁する『尾分け』と呼ばれる術だ。膨大な呪力と神力を有する尾の一房を離して、それを基盤に擬態する対象となる人物の体の一部を媒介とする事で、一時的にではあるがオリジナルと全く同じ容姿・口調・雰囲気で過ごす事が出来る。今回はクレアの要請で、二人の髪の毛を拝借して擬態し、囮役をこなしたという事だ。

 

 ギデオンにとって、形勢は一気に不利となる。

 人質とする筈であった皇女殿下と御付の少女は最初からガーデン内におらず、戦闘不能者も出してしまった。彼の脳内には、もはや撤退の二文字しか浮かんでいない。

 

「(≪氷の乙女(アイスメイデン)≫ッ……‼)」

 

 現在、≪鉄血の子供たち(アイアンブリード)≫の中で帝都に居るのは彼女だけだ。噴水の稼働不良、地下魔獣の掃討、そして今回の囮作戦。完全に先手を取られている中でここまで巧妙な手を打つことが可能なのは、恐らく彼女以外にはいない。

 忌々しい、憎々しいと歯軋りをしていると、封鎖されていたクリスタルガーデンの入り口が、荒々しい音を立てて強引に抉じ開けられた。

 

 

「八葉一刀流―――弐の型『疾風』‼」

 

「八洲天刃流―――【剛の型・瞬閃】」

 

 それと同時、地を蹴った二人の人影が、尚も怯まず威嚇を続けていたグレートワッシャーを、不意打ちにも近い斬撃が襲った。

固い筈の鱗を難なく切り裂き、一瞬の内に首が落とされる。その後、後方から放たれた炎属性のアーツが、その骸を跡形もなく焼き切った。

 その先陣となった二人は、薄い笑みを浮かべて、果敢にテロリストに立ち向かおうとした同じ学校の同輩を見やる。

 

「ありがとう、パトリック。君が引き留めてくれたから、このガーデンの中で奴らを抑えられた」

 

「何だ、良い表情するようになったじゃねぇか。良いね、覚悟掴んだってツラしてるぜ」

 

「ぁ……」

 

 瞬間、全身の力が抜けて、パトリックは膝をついた。

安堵と悔しさ。助かったという気持ちと、助けられてしまったという気持ちが複雑に混ざり合う。振り絞って見せた覚悟が手放しで評価されたとあらば、尚更だ。

 

「遅い、ぞ」

 

「スマンな」

 

「休んでいてくれ。ここから先は、俺達の戦いだ」

 

 そういう二人の後ろに控えているのは、特科クラスⅦ組のメンバーたち。あの実技試験の時よりも更に強者の雰囲気を纏うようになった彼らの背は、パトリックとは比べるべくもない。

それがどうにも悔しくて、涙をこらえながらもその提案を享受せざるを得なかった。いつか必ず見返して見せると、改めてそんな意志を固めて、立ち上がるとそのまま後ろに下がった。

 

 

「……特科クラスⅦ組。ケルディックやノルドでの件に飽き足らず、ここでも我らの邪魔立てをするか」

 

「テロ行為をしようとしている奴を見逃せる性分じゃないんでね」

 

「うわ、確かに話に聞いてた通り有能な策士ヅラしてるわ。こういう奴の立てた策を横合いからブン殴るの俺大好きなんだけどそれは置いといて。なぁ、とっととフルボッコにされて尋問室送りになってくれよ。二日前に従者に財布の中身ブリザードにされてイラッと来てるからさ、ちょっと手加減できるかどうか分かんねぇけど」

 

「「あれ? 主、ひょっとして怒ってます?」」

 

『『『ゴメン、ちょっと黙ろうか』』』

 

 いつものノリで漫才の雰囲気に突入しかかった所を、他のメンバーが全員で止める。最初に良い感じの台詞を言ったリィンなどは、頭を抑えてしまっていた。

 一見すれば緊張感がないと思われるかもしれないが、今の彼らにそれは通用しない。既にこのやり取りの最中にARCUS(アークス)のリンクは完全に接続されており、考えうる限り最強の布陣が完成していた。

 

「……フッ」

 

 しかし、それでもギデオンは笑みを浮かべる。

決して力の上下が分かっていないという事ではない。だからこそ、レイを含めた全員が表情を引き締めた。その直後―――

 

 

 

 

「―――『死氷ノ薔薇十字(ニヴル・ローゼンクロイツ)』」

 

 

 全身の毛が逆立つような殺気を全員が感じ、反射的にその場から飛び退いた。

 その数瞬後、ガーデンの天井を破って現れた、膨大な冷気を纏った巨大な氷の十字剣。それは床に刺さると同時に周囲に高さ4アージュはあろうかという氷柱を出現させ、レイ達とギデオンの間を完全に分断した。

 

「‼」

 

「な、何だこれは‼」

 

 無言で警戒心を最高レベルにまで引き上げるフィーと、狼狽するマキアス。しかし、それはメンバーの誰もが思った感情に他ならない。

ただ一人、レイだけを除いては。

 

 トンッ―――という音と共に、十字剣の柄頭の部分に一人の人物が降り立つ。その姿は、もはや見間違えようもない。

 

「≪X≫……」

 

「あれが……」

 

 全身を覆い隠す黒に近い紺色のローブ。一見幽鬼のようにも見えてしまう格好だが、その実力は、レイに匹敵する。

しかし、以前襲撃して来た時とは違い、それ以上の攻撃の意志は見せてこなかった。

 

「済まない、≪X≫」

 

 ギデオンがそう声を掛けるが、言葉を返す事はなく、首を動かすだけに留まった。

それが撤退を催促する仕草であるとリィン達が理解した時には、既に冷気の靄に隠れて、彼らの姿はクリスタルガーデン内から蜃気楼のように消え失せてしまった。

 

「……フン」

 

 無論、それを見逃す程甘い訳ではない。鼻でそう笑うと、仲間の制止を聞かずに氷の十字剣へと近づいて行き―――踏み込みと同時に高速で抜刀した。

 八洲天刃流【剛の型・散華】。繰り出された幾十もの斬撃が甲高い音と共に傷を刻み、そして最後の一撃が剣の中心を捉えた瞬間、硝子細工が割れるような音が辺り一帯に響き渡り、瓦解する。

 己が生み出したそれが容易く破壊されてしまったというのに、やはり≪X≫は無言を貫く。破壊される寸前に跳躍して床に降り立ったものの、やはり攻撃を仕掛けるような素振りは見せてこない。

 

「―――行け。シオンも同行しろ」

 

 その様子を見て、レイは目線を逸らさないままにリィン達にそう告げる。

 開けた道は≪X≫のすぐ背後。攻撃を仕掛けられないかどうか、少しばかり躊躇したものの、レイの言葉を信じて全員が走った。

 目的は”キツネ狩り”。逃がさず殺さず生かして捕える。今の彼らの実力ならば、それも叶うと判断した故の指示だった。

 そして予想通り、≪X≫はリィン達がガーデンの奥に開いた地下への穴に飛び込むまで指一本たりとも動かす事なく、レイは緊張感を張りつめさせながらも、刀身は既に鞘の中に収め、視線だけで相手を地面に縫い付けていた。

 

「知事閣下、大丈夫ですか?」

 

「あぁ、問題はないよ」

 

 先程、ここに駆け付けた際にマキアスに同じ事を答えていたために、その二度目の返事で本当に問題はないのだという事を再認識する。出血の量は少ない訳ではないが、見た限り掠っただけのようなので、命に別条はないだろう。

 実際、彼も作戦の全容を知っている一人だ。だからこそ、作戦の趨勢を握る彼らに迷惑を掛けまいと、気丈に笑みも見せる。

 

「パトリック」

 

「……何だ」

 

「ここに居る人たちの避難を頼む。外の決着もそろそろ着くだろうし、それまで戦えるお前が守ってくれ」

 

「き、君はどうするんだ」

 

「俺? 俺はまぁ、勿論―――」

 

 その答えを言い終わる前に、レイは【瞬刻】で≪X≫に肉薄し、遠心力をつけた蹴りを左の肩口に叩き込む。

分かりやすい攻撃だったために左手でガードされはしたものの、その体はガーデンの窓を突き破って公園へと弾き飛ばされる。

そんな、普通に生きている人間からすれば有り得ないような光景を見て呆然とする人達を差し置いて、レイはいつも通りの不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「ちょっとOHANASHI(物理)して来る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦に、狂いはない筈だった。

 『マーテル公園』に向かったアルフィン皇女殿下を拉致するために襲撃し、帝都に巡回中の憲兵隊の戦力を大幅にそちらに集中させた所で、別働隊のメンバーが同じく地下水道を経由して北西の『ヘイムダル大聖堂』を襲撃。アルフィン殿下とセドリック皇太子の身柄を確保した後に帝都地下道の最深部である地下墓所(カタコンベ)にて合流して脱出。大本の筋書きはそうであった筈なのだ。

 

 それを遂行するにあたって最も懸念材料となったのは、元≪執行者≫の経歴を持ち、≪風の剣聖≫の後釜とまで謳われた≪天剣≫レイ・クレイドルの存在。

 幸いにも彼らの陣営には≪X≫という、実力的に彼と拮抗する存在がいるために対抗する事は可能だったが、彼女がいなければ彼の実力に真正面から張り合う事は出来なかっただろう。例えどれ程雑兵を投入したところで、”武闘派”の≪執行者≫として腕を鳴らした彼を止められるとは思えない。

 

 だからこそ、彼の視線を『マーテル公園』に釘付けに出来た。色々と予定外の事態は起きたようだったが、それが叶った時点で作戦は成功したと言っても良い。故に、『ヘイムダル大聖堂』に向かった面々は、早急にセドリック皇太子の拉致という目的を終わらせて撤退する―――それが可能だった筈だった。

 

 

 

「あら、もう終わりなの? 帝都に直接急襲掛けてくるからもうちょっと骨のある連中かと思ってたんだケド」

 

「大外れの貧乏くじ引いたわね、テロリストさん。恨むならアテが外れた自分達を恨んで頂戴な」

 

 

 大聖堂への襲撃。壁面を爆破して内部に潜入するところまでは順調に行った。

 しかし、嫌な雰囲気がしたのはその直後だ。セドリック皇太子が聖堂の壇上に上がって厳かなミサが大々的に行われている筈の内部には人が一人たりともおらず、業を煮やしたメンバーが大聖堂の正面玄関から外に出た瞬間、鞭と導力銃の急襲を食らったのだ。

 別働隊を率いていたのは、≪S≫と呼ばれている女性の幹部。そんな彼女は、聖堂の外で待ち構えていた面子を見て、作戦が完全に読まれていた事を思い知った。

 

「(まさか≪銀閃≫に≪紫電(エクレール)≫まで待ち構えていたなんて……これはどう考えても不利ね)」

 

 加え、彼らが潜入した大聖堂を囲むように包囲していたのは、≪氷の乙女(アイスメイデン)≫率いる≪鉄道憲兵隊≫の精鋭部隊。彼女自身は事が起こる十数分前にセドリック皇太子を特別車両で『バルフレイム宮』に送り届けていたために不在だったが、それでも状況が限りなく劣勢である事に変わりはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『故に―――そう簡単に思い至る策を、ここまで用意周到に仕掛けてくるテロリストが本気で仕掛けてくるとは思えません』

 

 

 そう言いきったクレアの思惑は、まさに的中したのである。

 彼女は相対する相手を、決して過小評価せず、また過大評価もしない。収集した情報と事前に打っておいた策を元に常に最善の一手を導き出して的確な指示を放つ。その先見の目と理論上における膨大な演算処理能力の実力から導力演算器(カペル)の頭脳を持つ人物と称されているが、本人はそれを謙遜しながらも、そう在れるようにと日々研鑽を積み重ねている。そんな彼女からすれば、この程度の策を読み切るなど造作もない事であっただろう。

 尤も本人は、長い時間をかけて帝都でテロリストの仲間を潜伏させてしまった事について悔いている部分もあるのだが。

 

「さて、抵抗する気がないのなら大人しく投降した方が身のためだと思うわよ?」

 

「『マーテル公園』で動いてるアンタ達のお仲間も、そろそろ一杯食わされてる頃合いだろうし」

 

 鉄道憲兵隊の面々が建物を包囲しているだけで内部に突撃しないのは、追い詰められたテロリストが自爆テロを引き起こすのを警戒しての事である。

二次災害を食い止めるのと同時に、ゼムリア文化遺産にも登録されている荘厳な大聖堂が破壊されようものならば、帝都市民の感情も負の方向に歪みかねない。

 だからこそ、一縷の望みにかけて投降を促してみたのだが、その結果は芳しくなく、けんもほろろに断られてしまう。

 

「お生憎様、ここで素直に頷く程度の覚悟で帝都で事を起こしたわけじゃあないわ」

 

「……ま、そうでしょうね。何と言うか、アンタ達からは執念じみたモノを感じるわ。一体、何が目的なのかしら?」

 

「私達の目的なんて、皆同じよ。そして、そのためだけに動いてる。ともすれば≪紫電(エクレール)≫さん、あなただって同調できるかもしれないわよ?」

 

「…………」

 

 何となく、分かってしまった。

彼らが何を目的として、何を為そうとしているのかが。

 ≪S≫は不敵な、しかし自虐の意も含んだような表情を浮かべて、堂々と宣言する。

 

「≪鉄血宰相≫の首を取る。―――ただそのためだけに私達は集まって、行動してる。ホラ、あなただって思い当たる所はあるでしょう? 嘗て所属していたギルドを≪鉄血宰相≫に潰された、あなたなら」

 

 エレボニア帝国宰相、ギリアス・オズボーンへの怨嗟の念。サラの中にそれがないと言ったら嘘になる。

 否、寧ろ彼女も目の前の女性同様に彼を恨んでいると言っても過言ではない。二年前の事件を契機にして、自分の家とも呼べる場所を慈悲なく潰された事に対する恨みは、多分一生抱えていく事になるだろう。

それが例え帝国の国益になる事だったのだとしても、被害者の側からすればそんな大層なご高説など聞きたくもないし聞く価値もない。もしその考えが悪化していたら、宰相のみならず帝国政府そのものを恨み、最悪の場合直情的になり過ぎて道を踏み外してしまう事もあったかもしれなかった。そんな未来が、絶対になかったとは言い切れない。

 だが―――

 

「……ま、否定はしないわ。あの髭親父が気に食わないってのは事実よ。それは認めてあげる。

でも、ただそれだけで(・・・・・・・)、守ってきたはずの帝国国民を危険に晒すくらいなら、アタシはそれを抱えたまま生きて行く。そしていつか、抱えた恨みよりも大きい幸せを手にした時に帝都庁に向かってバカヤロー‼ って叫んでやるわ。アタシはそれだけでいい」

 

 サラが惚れた男は、きっと復讐心に駆られる事を許容しないだろう。もし踏み外したのだとしても、胸ぐら掴んで殴り飛ばしてでも真っ当な道に戻してくるに違いない。

それを考えてしまった時に、サラの心の中の優先順位が変わってしまった。悲しみしか生まない復讐心を抱えるよりも、悲しみすらも塗りつぶしてしまえるような幸福を追い求めた方が良い。

 

「だから、アンタ達とは相容れないわ」

 

「……そう。一個人としては羨ましくもあるけれど、残念。時間が来てしまったわ(・・・・・・・・・・)

 

 そこで彼女が見せたのは、自分の不甲斐無さを呪うような笑み。しかしそれを浮かべながらも、≪S≫が右手を掲げた瞬間、北の方角から飛来した”何か”が、大聖堂の巨大なステンドグラスを貫いて内部に着弾した。

 

「なっ……⁉」

 

 直後巻き起こる暴風。割れた窓ガラスが目くらましになって、さしもの憲兵隊の精鋭も両目を腕でガードして視線を遮ってしまう。

 その隙をついて、動けるメンバー達は、≪S≫も含めて皆一斉に後方へと跳んだ。

 

「クッ‼ 待ちなさ……」

 

 慌ててサラが後を追おうと大聖堂の扉に向かって駆け出したが、その直後、戦場と遊撃士稼業で鍛えられた彼女の直感が、その先に進むのを躊躇わせて急停止する。

 すると一拍を置いて、サラが駆け抜ける筈だった場所を、横薙ぎに風を伴った斬撃が空間を剪断するような勢いで横切った。もしそのまま進んでいたのだとしたら、恐らく胴体が泣き別れになっていただろう。

 それを察して柳眉を逆立てるサラと、その後ろに控えるシェラザード。そしてその数秒後、未だ薄く煙が掛かった大聖堂の内部から、二人の人影が現れた。

 

 

「まったく、折角の不意打ちだったのに外してるんじゃないですよ、まったく。それでも”筆頭”ですか、アナタは」

 

「う、煩いですわね‼ そういうアナタだってその槍投げた時「あ、ミスった」って呟いたのわたくし聞いてましたよ‼ ちょっと第一投だからって気合い入り過ぎたんじゃありませんの?」

 

「アー、アー、キコエナーイ、キーコーエーマーセーン」

 

「ホンット、面倒臭いですわね、アナタは‼」

 

 半壊した教会から出て来たとは思えないその軽口の叩き合いに、思わず警戒心をより強めてしまうが、その判断は間違っていなかった。

 

「白銀の、騎士甲冑……」

 

 それは嘗て、≪結社≫の情報を漏らせないレイに変わってシャロンが伝えてくれた、とある部隊の戦士が身に纏うモノ。頭部に巻いた鉄製のバンダナの両脇にあるのは、純白の羽が二対四枚。

 神話の中で戦場を飛び回り、勇猛な戦士の魂を集める事を生業としていた戦神の眷属。個々が一騎当千の実力を兼ね備えたというそれらの名は”戦乙女(ヴァルキュリア)”。

 

「≪鉄機隊≫―――」

 

「おや、私達の事をご存知でしたか。……って、アレ? あなた、もしかして……」

 

 その内の一人、鮮やかな金髪を後頭部で一括りにした槍使いの女性が、サラの顔を見るなり怪訝そうな表情を一瞬浮かべ、何かを考えるような仕草を見せる事数秒、頭上に豆電球が点灯したかのような表情を見せた。

 

「あー、そうだ。そうでした。思い出しました。スミマセン筆頭、あの人私が相手していいですかね? いや、ダメって言っても戦いますけど」

 

「あなたはホント、時々殺意を覚えるレベルでフリーダムですわね。―――まぁいいですわよ。どうせ何言っても聞かないのでしょうし」

 

「感謝感激雨嵐です。―――さて」

 

 手元に握っていた槍を半回転。それだけで砂埃は吹き飛ばされ、大聖堂の内部が露わになる。

しかし今のサラには、その内部の床がまるで爆撃を受けたかのように抉れて見事な穴が開いてしまっている事や、恐らくそれを逃走ルートにしてテロリストが逃亡したのだろうという事よりもまず、目の前の女性の事が気になっていた。

 状況だけを鑑みれば、サラが今すべきことは彼女らを相手する事ではなく、テロリストを追跡する事だ。

しかし、助太刀のような形で現れた彼女らを無視してそれが出来るほど甘くはないだろう。現に今、自分は疑う余地もなく標的にされているのだから。

 

「……ゴメン、シェラ。どうやらアタシをご指名みたい」

 

「でしょうね。ねぇあなた、派手になりそうなら場所を移してくれないかしら? ここだと色々と厄介だし」

 

「えぇ。そこは勿論考えていますよ。派手に暴れて大聖堂全壊させて後で修繕費費用請求とか来たらマズいですし」

 

 ケラケラと笑うその表情が一体どこまで本物なのか、今のサラには読めない。それでも、動いたのは同時だった。

地を蹴り、その数秒後には大聖堂の敷地内にある『マグダライア自然公園』の木々の向こうへと消えていく。その様子を見て、シェラザードは一つ息を吐いた。

 

「……それで? あなたもあたしを足止めしにかかるの?」

 

「まぁ、そうなりますわね。ですが、わたくしが”足止めするように”と仰せつかったのは貴女ともう一人の方だけでして。他の方が何をしようと一切関与致しませんわ」

 

 その澄んだ言葉は、風に乗って周囲を包囲していた鉄道憲兵隊の隊員達にも伝わる。その後の行動は素早く、指揮を執っていたエンゲルス中尉は速やかに隊員達を纏めて大聖堂の中心部に開いた大穴から地下へと降りて行った。

 その行動が終了するまで数分、それをきっかり待ってから、シェラザードは僅かに口角を釣り上げた。

 

「律儀じゃない」

 

「追う必要のない者らを背後から斬り付ける趣味はありませんわ」

 

 そう言って、亜麻色の髪を左右の首筋で纏めた女性は、右手に携えた剣の切っ先を、真っ直ぐシェラザードに向けた。

 

「≪銀閃≫のシェラザード。貴女では、わたくしには勝てませんわ」

 

 それは誇張ではなく、自らの剣の腕に絶対の自信があるが故の宣告。そしてそれは、シェラザード自身も分かっていた。

 仮にもリベールで修羅場を潜っていたから分かる。目の前の女性が達人級の使い手であり、それを自分一人で相手するとなれば、持って数分が精々だろう。流石にあの≪剣帝≫程ではないだろうが、それでも脅威である事は変わらない。

 

「わたくしは、貴女を殺せという命は受けておりませんわ。故に貴女が彼らの追跡をしないと言うのであれば、この剣を下ろして差し上げましょう」

 

 だから、それは当然の言い草だった。

 力が数段勝っている者が、劣っている者に対して「何もしないなら見逃してやる」と、遠回しにそう言ったのである。

 彼女からすれば、それは彼女なりの”誇り”の表れだったのだ。≪鉄機隊≫筆頭隊士、≪神速≫のデュバリィとしての、最大限の譲歩。しかし皮肉にも、それが彼女の唯一の武人としての”隙”だった。

 

 

 

「-――それじゃあ、僕があなたの相手をします」

 

 

 霧の如く茫洋とした声が聞こえると同時に繰り出された双撃を、デュバリィは左手に携えた盾で受け止める。

その超人的な反応速度に、しかし襲撃者は驚く事もなく、まるで初めからそこに居たかのような自然体で、彼女の目の前に立った。

 

「お久し振りですね、デュバリィさん」

 

「ッ……本当に帝国を訪れていたのですね、≪漆黒の牙≫」

 

「今は、ただのヨシュア・ブライトですよ」

 

 苦笑と共にヨシュアは、嘗ての異名を嗤う。勝手知ったる、という程交流があるわけではなかったが、レイの経由で何度か顔を合わせた事はあった。

騎士と暗殺者という、相反する戦闘方法を根底に持つ二人。しかしだからこそ、対決には相応しいとも言えた。

 

「僕が加わっても、不足がありますか?」

 

「……いいでしょう。少しばかり、お相手してあげますわ」

 

 そう言ってデュバリィは剣を頭上に掲げる。途端、彼女の背後の空間が圧縮されたように捻じ曲がり、そこから三機の大型戦闘機械(オートマタ)が姿を現した。

蒼と赤に彩られ、両肩に盾を、大柄な成人男性の腰回り程の太さの頑強そうな四肢を軋ませるそれは、≪鉄機隊≫隊士が所有する重装甲拠点防衛用戦闘兵器。名は、ヴァンガードF3≪スレイプニル≫。

 

「あらら、これは随分と骨が折れそうね」

 

「シェラさん、あの人は強いです。本気で掛かりましょう」

 

「了解。リベールの遊撃士の底力、見せてやろうじゃないの」

 

 

 

 

 

 ―――斯くして、帝都の一角を舞台とした本格的な戦闘は、遅まきながら火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、ios版のFate/Grand Orderは配信されないわ、今週ものんのんびより終わっちまったわでテンションが若干低めな十三でーす。こんな時は『星天ギャラクシィクロス』でも聞いて回復したい。

何だか今回書いてて思った事なんですが、ルナフィリアちゃんのキャラが何故かCharlotteの友利ちゃんに似て来た気がする。イメージCVがあやねるでしか再生されない。ホント、どうしたもんか。

あ、それと、今まで描くかどうかガチで悩んで、先日勢いで描き上げたシオンさんのイメージイラスト貼っときます。



【挿絵表示】



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