英雄伝説 天の軌跡 (完結済)   作:十三

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奮闘の余熱

 

 

 

 

 

「主‼ 何故私をお呼び下さらなかったのですか‼ 主の一声を頂ければ、このシオン、あの氷女めを容易く葬って見せましたものを‼」

 

「馬鹿じゃねぇの、お前。ザナレイアを相手にしたらお前絶対に”酔う”だろうが。”四尾”になったらどれくらいの被害が出るか分かるだろうがよ」

 

 心底主を心配して諫言したシオンの言葉に、しかしレイはいつも通りの憮然とした口調で返す。

 別にシオンの好意を無下にしているわけではない。確かに彼女の”本体”を召喚していれば、レイは傷を負わなくとも済んだかもしれないのだから。

 

 だが、それではいけない。

 ≪冥氷≫のザナレイアは、レイが手ずから殺さなくてはいけない相手で、その役は誰にも譲るつもりはない。そうでなければ示しがつかない(・・・・・・・)し、何よりアレは、レイが抱える数多の”贖罪”の内の一端を担っているのだから。

 ただそれと同じくらいに、レイはシオンが出張って来た際の被害状況の拡大を懸念していたのだが。

 

「俺も今回結構はしゃいだ(・・・・・)けどよ、お前が”四尾”で本気出したら絨毯爆撃レベルじゃ済まないぞ。今回は極力一般市民にテロが起こった事を隠匿する必要があったからな」

 

 以前実技試験の際に見せた”三尾”ですら、少しばかり本気を出せば学院の校舎を数回焼く事くらい造作もないのだ。それ以上の状態で更に”興が乗っている”ともなれば、何をしでかすか分かったものではない。

 そも、彼女の”力”は破壊力、持続性、制御力共に優れているが、隠匿が難しいのが玉に瑕だ。金色に輝く炎など、目立ってしまってしょうがない。

 

「ツァイスに居た時に『神威の炎で火力発電で来たら凄くね⁉』とかいうラッセル爺のバカみたいな提案にホイホイ乗って、ミスって大火災未遂起こした事を忘れたとは言わせねぇぞ。当事者のお前らがエスケープした所為で、俺が工房長に土下座するハメになったんだからな」

 

「う……そ、その折については幾度も謝罪をしたではありませぬか」

 

 遊撃士の新人時代に起きてしまった不幸(?)な事故を思い返すレイ。

 事件が起きた僅か数分後にラッセル工房に駆け付けたZCF(ツァイス中央工房)のマードック工房長に、レイは逃げ出した張本人二人に代わって玄関先で土下座をして何度も謝罪の意を示したのだ。

基本的に人が良い工房長は「君の所為ではないのだろう?」と言ってくれたのだが、駆け出しの身で悪評判が広まる事は防ぎたかったし、何より義理堅い性格のレイはその後一ヶ月ほど、中央工房関連の依頼を無償で引き受けたのであった。

 因みに余談ではあるが、火災未遂の片棒を担いだシオンにはその後、一ヶ月禁酒&エルモ温泉での無償勤労奉仕をレイから命じられた。

 本人は「温泉での勤労は喜んでさせていただきますが、どうか禁酒だけはご勘弁をおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」と慟哭していたが、その時ばかりは一切の慈悲を掛けなかったのを覚えている。

 まぁその時期、エルモでは『和服の似合う謎の金髪美女が働いている』と話題になって温泉の来客数が増えたという利点もあったりしたのだが。

 

 そこでふと隣に立つシオンを見てみると、頭の上にある耳がしゅんとしなってしまっていた。

その様子を見て、レイはバツが悪そうに右手で後ろ髪を掻くと、指を曲げて少し屈むように合図をしてから、シオンの頭を撫でた。

 

「―――ま、その心意気だけ貰っておくさ。それと、今回はご苦労だったな、シオン。”尾分け”の囮からリィン達のフォローまで、良くやってくれたよ」

 

 本当なら、最初にこうするべきだったのだ。

 シオンはレイの式神ではあるが、決して奴隷ではない。あくまで相互に良好な関係が築けている間、という条件で契約を結んでいるため、どちらかと言えば雇用主と部下という例えが正しい。

正直なところ、話はそんな単純なモノでは済まないのだが、それでも労を労うのは当然の事であり、それを怠って初めに叱責をしてしまった自分の迂闊さに反省をしながらそう言うと、シオンは俯いたままプルプルと震え出した。

 普通なら、そこで彼女が涙を流しているものと考えるだろう。至らなさを恥じたものか、はたまた主に労いの言葉を貰った歓喜から来たものかはさておき、そう考えるのが普通だ。

 しかし、レイは目の前の存在と契約を結んではや10年近くにもなる。その震えが意味するところを立ちどころに悟って、無言で右手を手刀の形に変えた。

 するとシオンは、その瞳を一層輝かせ、勢いよくレイを抱きしめた。

 

「あ、主が‼ 普段は私に冷淡な態度を取られる主が、遂にデレられた‼ 嗚呼、このシオン、感無量の至り‼ 何となれば、褒美で主の温もりを―――(イダ)っ⁉」

 

 不穏な言葉を発する前に、形作られた手刀が、シオンの脳天に炸裂する。体術も修めているレイの、氣も練り込んだ一撃は、ヒトならざる身のシオンを以てしてそんな声を出させてしまうほどには強烈だった。

 

「調子乗んなや色情狐。”そういう事”はあれっきり(・・・・・)だと何度も言った筈だろうが」

 

「うぅ、私とて6年近くも経てば人肌寂しく感じる時もありまする」

 

「神獣だろうが、お前」

 

「固い者や老骨らと違い、私はまだ比較的若うございます。それに、妖狐にとって若い男の精は極上の甘露であります故」

 

 金色の尾を揺らしてそう言うシオンの姿は、異性にとってさぞや魅力的に映る事だろう。しかしそれを、レイは全く意に介さなかった。

 

「ビッチめ」

 

「何を仰せられますか。今の私は身も心も主のモノでございます。(しとね)を共に出来るのも主一人の特権です」

 

「よく昼間からそんなエロい単語を連発できんな、お前」

 

 レイとて、このような美しい存在が傍に居る事に何の感慨も抱かないわけではない。それでもその誘惑の数々を悉く跳ね除ける事が出来るのは、偏に彼が持つ鉄壁の理性が弾いているからに他ならない。

 加え、愛すると決めた女性を三人も抱えた現状で手を出すのは明らかに不貞行為だ。そも三人も女を抱えている時点で不貞も何もあったものではないのだが、過去、やむにやまれぬ事情で目の前の神獣に食われた(・・・・)経験がある身としては、それは冗談でも何でもないのである。

 今後も気を付けなければならないなと、そう思っていると、ふと、裸になった自分の上半身の左肩口に巻かれた真新しい包帯が目に入った。

 

 現在二人が居るのは、憲兵隊が所有する医療関連施設の一角。そこでレイは、ザナレイアから受けた傷を二日間に渡って治療していた。

 民間の医療機関に委託されなかったのは、テロ未遂による負傷を出来るだけ公の目から逸らしておきたかったという事と、彼の受けた傷があまりにも特殊過ぎた(・・・・・)という事に起因する。

 何せ『ティア』や『ティアラル』といった回復系のアーツは悉くその効力を発揮しなかったのだ。特殊な魔力によって構成された氷杭によって貫かれた事で、傷口が通常のアーツによる治療を受け付けず、担当した主治医が匙を投げかけたほどだ。

 幸いにも、この攻撃を過去数え切れないほど食らって来た上に、解呪のスペシャリストである呪術師でもあるレイが”毒”とも呼べるこの魔力を取り除いたことで治療は滞りなく終わり、二日後の今は完全に治癒していた。

 本来ならこの包帯も必要ないのだが、「傷口が開いたら事ですから」というクレアの逆らう事の出来ない語気で言われた言葉に従って、律儀に巻いてもらっている。

 

「クレア殿やサラ殿が深く心配して下さって。まったく、主は罪深いお方ですなぁ」

 

「され過ぎて夏至祭行けなかったけどな。コンチクショウ」

 

 当初、≪夏至祭≫の初日までであったⅦ組の特別実習は、しかし実際にテロ未遂事件が起きた事で警備が一層強化され、Ⅶ組の面々もそれに駆り出される事となった。

とはいえ、そのシフトは憲兵隊のそれよりかはかなり緩く、≪夏至祭≫を楽しむ時間は充分にあったという。

その情報を持って来たのはフィーであったが、他の面々も度々医療施設を訪れて、その度に土産の食べ物や話題などを持って来てくれた。あんな事があった後だというのに、すぐに意識を切り替えて行ける辺り、逞しくなったなぁと実感する。

 しかし、医療施設からの外出を許可されていなかったレイは、退屈どころの話ではない二日間を送る事になってしまった。余りにも暇すぎたために施設の厨房に潜り込んで久々の菓子作りに没頭していたところ、それを発見した≪鉄道憲兵隊≫と≪帝都憲兵隊≫の隊員が試食用にそれを貰い、その美味さが口コミで広がってファンが増えてしまったのだが、それもレイにとってはあまりテンションを上げる出来事には為り得なかった。

 

 そんな事を回顧していると、病室のドアがノックされ、しかしその返答も聞かない間に来客―――サラが入って来た。

 

「ホラ、迎えに来てあげたわよレイ。ありがたく思いなさい」

 

「お前さぁ、ノックって言葉の意味知ってんの?」

 

 せめて常識の範囲内で生きている人間が相手ならば、レイは今学院指定の半袖シャツを着た状態で出迎える事が出来たのだが、今回、ノックから引き戸が開くまでのタイムラグはほぼゼロであったと言ってもいい。呆れ顔でそう言うレイに対し、サラは悪戯っぽい笑みを浮かべて返す。

 

「いいじゃない、別に。それとも、いかがわしい本でも読んでたの? ん?」

 

 ニヤニヤとした表情でからかうサラに、レイは鼻で笑って返す。

 

「ハッ、エロ本程度で興奮するほどガキじゃねぇよ。それとも何だ? そういう本に出てくる女の格好をお前がしてくれるのか?」

 

「えっ……」

 

 レイにしてみれば、それはいつも通りのカウンターパンチであり、勿論本気で言っているわけではない。

 こうでも言えば「な、何言ってんのよ‼」といった具合の反応が返ってきて結果的にレイの勝利で終わる筈なのだが……今回は違った。

 

「あっ……えっ……」

 

 まるで突然の告白を受けた乙女の如く、サラは頬を真紅に染め上げて、狼狽えるような声を出しながら数歩後ろに下がった。

 女性を嬲るような発言をしたレイを咎める事もなく、琥珀色の瞳は不自然なほどに揺れている。その仕草に、思わずレイも息を呑んでしまった。

 

 レイは知らない。

サラが≪夏至祭≫初日の日、シェラザードに過激な事(・・・・)を言い含められていた事を。

そして、ルナフィリアとの対決の折に―――乗せられていたとはいえ、自分の想いを声高に叫んでいた事を。

 故にサラは、今は想い人(レイ)の言動に敏感になっていた。だからせめていつものようにからかう事で平常心を保とうと思っていたところに、繰り出されたカウンター。狼狽えてしまうのも、無理のない事であった。

 

 サラが動揺のあまり声を失う姿はレアであり、もう少し見ていたいという欲求にも駆られそうになったが、流石に自分の言動でそうなってしまった人間に対して追い打ちをかけるような趣味は持ち合わせていない。

 レイは一つ浅い溜息を吐くと、黙ってシャツに袖を通し、腰を据えていたベッドの上から勢いをつけて立ち上がる。左肩を何回か回してみたが、既に僅かの痛みもなかった。

 

「……そら、行くぞ」

 

 呆然としたままのサラの肩を軽く小突いて意識を現実に引き戻す。その後、正気に戻ってレイの後を追う後ろ姿を見ながら、シオンは一人、薄く笑った。

 

「さてさて、存外御三方の中で最初に契りを交わすのは―――サラ殿やも知れませぬな」

 

 心底面白そうにそう言ってから、その体を黄金色の粒子に変えて、シオンはその場から消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、レイにはさも≪夏至祭≫を満喫しているように解釈されてしまったリィン達Ⅶ組のメンバーであったが、実のところ彼らは無垢な心で祭りを楽しんではいなかった。

 否、実際は帝都の警備を一任されていたクレアから羽目を外しても構わないという旨を伝えられてはいたのだが、彼らはそれを善しとしなかった。再度のテロリストの襲来の可能性が限りなく低い状況での警備任務という、見ようによっては煩瑣(はんさ)な仕事ではあったが、それを気を緩めることなく祭典の終了までやり切ったのだ。

 その集中力と連携の高さ、加え元遊撃士二人の薫陶を受けて培った行動力と注視すべき場所の特定など、そういった手並みの良さは、たまたま居合わせた精鋭揃いの憲兵隊を唸らせたほどである。

 

 クレアが見るに、彼らは既に一士官学院生という枠には収まっていない。レイという破格の存在を抜きにしても尚、総勢9名、二個小隊の”部隊”として数えるのに何の躊躇いもない程だった。

 統制の取れたテロリストに対し臆さず挑む胆力、それに伴う個々の実力と、その長所を最大限に発揮できる場を整える観察眼。全員の纏め役、総司令塔としてリーダーの役割を担っているのはリィンだが、二手三手に仲間の数を分けた時に彼に代わって的確な指示を出す人物が複数いるのも評価できる。

 広い視野と冷静な判断力、加えて攻め際と引き際を見極める客観的な思考が必要となる指揮官というポジションは、実は誰にでも出来るモノではない。そこには少なからず生まれ持った才覚が必要になり、そう言った意味では確かに、Ⅶ組は才に秀でた者達が集まっていると言える。

 未だ粗さは箇所に見える時があるが、彼らは入学してまだ4ヶ月程度。その短期間で築き上げた実力という観点から見るのであれば、驚異的だと思わざるを得ない。

 

 そんな彼らが、羽目を外せる機会を断ってまで警備に応じたのかと言えば、理由は簡単である。

 

 二日前、確かに彼らはテロリストを撃退した。地底の底より()び出された魔竜を下し、拿捕まであと一歩の所まで追い詰めた。

 だが、結局取り逃がしてしまった。リィンはあの場で深追いをせずに撤退の指示を出した事については、今でも後悔はしていない。功を得る事は確かに大事だが、それで大事な仲間の命が失われてしまっては元も子もない。彼はそうした、指揮官として当たり前であり、そうで在るが故に咄嗟では示し辛い判断を、ほぼ無意識でやり遂げたのだ。それをクレアは評価したし、サラもそれについては惜しみなく褒め言葉を口にした。

 

 しかし彼らは、それで満足はしなかった。

 否、満足しなかったという言い方には語弊がある。必要以上に自分達の功績を卑下しない方が良いと教わっていた彼らは、自分達の行った行動が無為なものであったとは思っていなかったし、そう思う心もなかった。

 心に引っ掛かっていたのは、やはり仲間であり、欠かす事の出来ない人物であるレイの事だ。

 

 彼の戦いに、魅せられてしまっていた。今の自分達が見上げるどころか、雲霞に紛れて見る事すら叶わない領域。その場所に足を踏み入れた者達が戦う姿に、茫洋と魅入ってしまったのだ。

 そして結果としてそれが、彼が傷を負う理由となってしまった。

 

 許せなかった。例え他の誰もが仕方がないと擁護してくれたのだとしても、それを無かった事にしてしまう事は出来ない。何せ、同じ過ちを二度繰り返してしまったのだから。

 ノルドに向かう列車の中で、リィンと、あの場に居合わせた面々は屈辱を味わった。仲間が戦っている場所に背を向けて退避せねばならない無力感。自分達の存在が足手纏いであると悟ってしまったが故に感じた誤魔化しようもない強い敗北感。もうあのような惨めな思いは二度とするまいと、そう心に誓った筈なのだ。

 だがどうだ。結局今回も結果的に彼の足手纏いになってしまった。

 彼の戦いを見届けたい。例えどれだけヒトの域を逸脱した戦いを目にしようとも、その剣と在り方に恐れは抱かないと決意して向かった筈なのに、まさか畏怖すらも通り越して時を忘れる程に魅惑されてしまうとは思いもよらなかった。

 しかし、それは言い訳にはならない。どう取り繕った所で、彼が傷を負ったという事実には変わりない。それも、そのままであれば既存の治療が限りなく難しいという重傷を。

幸いレイ自身が解呪の心得があった為に大事には至らなかったが、もしそうでなかったとしたら、治癒不可能の傷を抱えたままこれからの人生を生きて行く羽目になっていたのかもしれない。そう考えると、背筋が凍るような感覚を覚えてしまう。

 

 ≪X≫―――聞くにザナレイアという名を有するあの人物と渡り合おうなどとは思っていない。自分達が総員で相手になった所で、あの圧倒的な氷の攻撃の前には手も足も出ないだろう。業腹だが、それは認めなくてはならない。

 ただそれでも、戦場に於いて足手纏いにならない方法は幾らでもあったはずなのだ。それを自覚したのは激闘が終わった後、レイがリィン達の前で初めて膝を屈する姿を見せた瞬間だった。

 ヨシュアが言っていた言葉を、しかし彼らは本当の意味では理解していなかったのかもしれない。戦闘に於いて常に毅然と、確実に勝利を攫って行くレイの姿を見過ぎていたが故に、どこか妄信していたのかもしれない。”彼は強い。どうあっても敗北はないだろう”と。―――実際は、自分達と同じ年代の少年であるという事など、完全に忘却してしまったかのように。

 

 それを理解し、良心を苛ませて俯きかけたが、この4ヶ月間で教え込まれて来た教訓が、彼らを立ち止まらせなかった。

 反省はいつでも出来る。悔やむ事もいつだって出来る。だが、それを思い続けて立ち止まっている時間は無駄だ。時の浪費は金の浪費と等価であるという諺にもあるように、未熟者である自分達に、俯いたまま悔やみ続ける時間などない。

 だから、警備任務を請け負ったのだ。せめて自分達が乗り掛かった舟が終着点に辿り着くまではきちんと見届けるのが筋だろうと、そう提案したリィンに、他のメンバーも一様に頷いた。

 結果として≪帝国解放戦線≫による再度のテロ活動は無かったものの、祭典の熱気に紛れて活動していたスリや通り魔を幾人かひっ捕らえた事で、Ⅶ組の株は上がる事になったのだが、特に名誉などを求めていたわけではない彼らは、依頼の追加報酬のみを受け取るだけでその感謝の意に応えたのであった。

 

 ただ、レイの見舞いに出向いた時はその限りではなかった。

 警備のシフトの合間に出店などに赴き、医療施設からの外出を許されていなかった彼に土産を持って行くときは、彼らも一介の学生に立ち戻って接していたのである。

それは決して虚偽ではなく本心であったため、レイもリィン達の本心までは見抜けなかった。努めて明るく、まるで祭りを満喫していたかのように振る舞って、あまつさえ警戒心の高いレイにそれを信じさせたのだから、そう言う意味では彼らも確実に成長していると言えた。

 

 

 そして今、三日間に渡る≪夏至祭≫も終了し、撤収の作業が続いている中、リィン達はオリヴァルトの計らいで『バルフレイム宮』に招待されていた。

 華美にして荘厳、帝国国民の畏敬と敬愛を示す象徴でもある真紅の皇城の内部に招待された面々は、流石に緊張こそしていたものの、必要以上に委縮はしていなかった。唯一『四大名門』の出であるユーシスはこの場所を訪れた事があり、元々過度な反応はしていなかったのだが、他のメンバーも外見的には変わらない風を装っていた。

 

 彼らが通されたのは、皇城の中の第二迎賓口。本来であれば城に立ち入る身分ではない人間が多数いる事をそれとなく先導したオリヴァルトに漏らしたが、それを彼は笑い飛ばした。

 

「そんな事は関係ないさ。今回の一件では、君達に随分と助けられてしまったからね。これはもう、士官学院に足を向けてなられないかな?」

 

「えぇ、えぇ。お兄様の言う通りですわ。もしシオン様に身代わりになって頂かなかったらどうなっていたかと思うと……」

 

 感謝の言葉を衒いもなく口にするオリヴァルトに追従するようにアルフィンがそう言うと、畏れ多く在りながらも、達成感のようなものが込み上げて来るものを感じた。

 しかし、それを分かち合う筈のもう一人は、まだこの場に来ていない。

 

「あの、オリヴァルト殿下。レイは……」

 

「あぁ、もう少しで此方に来る筈さ。その前に、君達にお礼と、謝罪をしておこうと思ってね」

 

「え?」

 

 謝罪、と聞いて、リィン達は思い当たる節などがとんと見当たらなかった。故に少しばかり焦った表情を見せると、オリヴァルトは真剣な表情に戻り、目を伏せる。

 

「済まなかった。君達の決意を確かめる狙いがあったとはいえ、晩餐会のような場で言うべき事ではなかったと反省しているよ」

 

 晩餐会という言葉で、リィン達はオリヴァルトが何を謝罪しているのかは分かった。

 実習の二日目、女学院の一室にて問われた、レイとの絆。彼の何を知り、何を思っているかという問いに、遂に彼らは答える事が出来なかった。レイと短くない時を過ごしていたフィーでさえ、”どこまで知っているか?”と問われれば、口を閉ざすしかなかった。

 

「―――いえ、殿下が謝られる事はありません。あの時自分達が沈黙してしまったのは、偏に彼と真正面から向き合って来なかった自分達の脆弱性を悔やんだだけでした」

 

 ”仲間”だ”友人”だと、そう言っておきながら、それまで彼を彼たらしめる要因については一度たりとも踏み込んだ事はなかった。それが自然な日常となってしまった所に投げかけられたのが、オリヴァルトのあの言葉であり、それによって大事な事を思い返させてくれたのだ。

 だから、感謝こそすれ不快に思う事などあろうはずもない。

 それを素直に告げると、オリヴァルトは再びその口元に柔和な笑みを浮かべ、「そうか。ありがとう」と告げた。

 

 その後、アルフィンやエリゼなどからも礼の言葉を幾度も掛けられる事数十分。漸く皇城の美麗な設えの雰囲気に馴染んできた時に、待っていた人物が案内役のメイドと共に現れた。

 

「あ、レイ。待って――――た、ぞ?」

 

 待ち人の方を振り向いたリィンが、最後言葉の歯切れを悪くしたのには理由がある。その理由は、レイの表情を見たⅦ組全員が理解していた。

 傍から見れば、至って普通の表情だ。極度の喜怒哀楽のどれにも当てはまらず、さりとて皇城の空気に呑まれたわけでもない、平時の表情。

実際、オリヴァルトやアルフィンはその表情を異常に思う事無く、普通に彼を迎え入れていた。しかし、遠目からでは分からない、ごくごく僅かな変化ではあるが、眉根が少しばかり寄っている。

 それは、不機嫌な時のレイの表情だった。とはいえ、本当にヤバいレベルで不機嫌な時は全身から「あんまり近寄るな」オーラを排出するため、程度としては低いレベルの不機嫌なのだろう。その感情を皇城の中にまで持ち込むあたり、流石だなとは思うが。

 

「ど、どうしたのレイ。ちょっと不機嫌みたいだけど」

 

 問うかどうか迷った末に、エリオットがそう言うと、レイは深い溜息と共に右手で顔を覆い隠してその内容を告げる。

 

「……外れた」

 

「え?」

 

「三連単、外した。クソッ、メフィストの奴、最後の最後で走行妨害とか有り得んだろ……プライスが三番手に差し込んでくるのも予想なんかできねぇっての」

 

 心底悔しそうに言うその内容を、しかしその場に集まった大半の人間は理解できなかった。

唯一その経緯を完全に察したオリヴァルトは心中を察するといった雰囲気で苦笑を漏らす。

 頭の上に疑問符を浮かべる少年少女が多数いる中、しかし説明する気は全くゼロで落ち込んでいるレイを見かねたのか、光の粒子と共に現界したシオンが、溜息混じりに説明を始めた。

 

「あー、皆様、それ程深刻に捉えなくても宜しいですよ? 主はただ、先程見た新聞で、先日懸賞葉書で応募した≪夏至賞≫三日目最終レースの結果が揮わなくて落ち込んでいるだけですので」

 

「競馬かよ」

 

「通常運転し過ぎでしょ」

 

「バカヤロウ‼ メフィストオーラの奴が順当に一着になってグランマリーナ、オールドファイツの順でゴールすりゃ三連単ヒットして万馬券だったんだぞ‼ チクショウ、芝25セルジュじゃなかったら勝てたのに……ッ‼」

 

 絞り出したかのようなその声に、オリヴァルトがレイに近寄り、ポンとその肩に手を置いた。

 

「気持ちは分かるよ、レイ君。昔から≪夏至賞≫は運命の悪戯とも呼べるほどに大番狂わせが連発するベテラン殺しの大会でね。僕も慣れるまでは結構痛い目にあったものサ」

 

「……因みに、お前はどうだったんだよ」

 

「最終レース、三連複で当てたよ?」

 

「この裏切者がァ‼」

 

 目の前で皇族と一般人が喧嘩を繰り広げるという、見る人間が見れば卒倒しかねない光景にも、リィン達はもう驚く事はなかった。

 その内、遅れて来たサラも合流し、これ以上の喧嘩は不毛だと理解したレイもリィンに宥められて一先ず感情を鎮静化させた。それでも、近衛兵が踏み込んで来るか来ないかギリギリの瀬戸際で喧嘩を展開するその絶妙な匙加減にはオリヴァルトの舌を巻かせたのだが。

 

「レイさんにも、今回は本当にお世話になってしまいましたわ。お怪我をなさったと聞きましたけれど……」

 

「いえ、掠り傷のようなものです。もう完治しましたので、ご心配なく」

 

「……アルフィンにはちゃんと敬意を払うんだね。ヒドい、僕とは遊びだったのかい⁉」

 

「普段の行いを鑑みてからモノを言え。あとキモい、ただキモい、どうあってもキモい。大事な事だから三回言った」

 

「……何というか、アレだな。レイが殿下に向ける罵倒っていつにも増してストレートに思えるんだが」

 

「団に居た時のレイのSっぽさって大体あんな感じだったよ」

 

 ヒソヒソと小声で話すマキアスに、フィーは特に珍しいものを見たといった感じでもない態度でそう返す。

 とはいえ、今のレイは、いつもの通りの”学生”としてのレイに立ち返っている。二日前に見せた、触れただけで全てを斬り裂いてしまいそうな闘気も殺気も、今は見る影もない。

一体どちらが彼の自然体なのだろうかとリィンが考えていると、迎賓口に新たに靴音が響いた。

 

 

「皆さん‼ ―――あぁ、良かった。何とか間に合いました」

 

 奥の貴賓室へと続く場所から現れたのは、王族の証である真紅の貴族服を身に纏った少年。

 小柄ではあるが、それでもレイよりかは僅かに高い身長。容貌は同年代の少年に比べれば幼く、しかしそれも艶やかな金髪と生来生まれ持つ高貴な雰囲気の中に紛れればどこか倒錯的な美貌を感じさせる。

 皇城を去っていなかったⅦ組の面々を見つけ、心底安堵したような齢相応の表情を見せたその人物こそ―――帝国第二皇子にして皇位第一継承権を持つ未来の皇帝、セドリック・ライゼ・アルノールに他ならなかった。

 

「初めまして皆さん。今回は姉が危険な目に晒されるのを未然に防いで下さり、本当にありがとうございました。心よりお礼を―――」

 

 初対面の年上の相手を目の前にして臆する様子は微塵もなく、笑顔を浮かべたままに斟酌なく礼を言いかけて、しかしレイの姿を視界に捉えた瞬間、目を見開いて驚愕したような表情を見せた。

 そのまま硬直する事数秒。再度疑問符を浮かべる一同を他所に、セドリックは徐にレイに近づいた。

 

「あ、あの、レイ・クレイドルさんですよね? アルフィンとオリヴァルト兄様からお話は伺ってます」

 

「えぇ、お初にお目にかかります、セドリック皇太子殿下。お会いできて光栄の極みです」

 

「あ、ありがとうございます。それで、その―――」

 

 処世術の一つである柔らかい言動を見せるレイに対して、しかしセドリックは(ども)りながらも、羞恥を必死に隠しているような焦りを見せて、続けた。

 

「多分、ですけれど……僕と同じ悩み(・・・・)を抱えている人ではないかと、そう思ってしまったんですが」

 

「―――あぁ、成程」

 

 それだけで、言わんとしている事は理解できてしまった。レイはオリヴァルトとアルフィンに許可を取り、セドリックと共に迎賓口の片隅へと移動していく。無論、話を聞かれないための配慮だ。

 

 

「……皇太子殿下、一つ質問をしても宜しいですか?」

 

「あ、はい。何でも聞いて下さい」

 

「それでは―――主な加害者はどなたでしたか?」

 

「大体、というか全て姉のアルフィンでした。もう何と言うか……クローゼットの中をとっかえひっかえといった感じで。手伝っていたメイドたちも何だか鼻息が荒かったような気がしましたし……」

 

「……ご愁傷様です」

 

「じゃあ、僕からも良いですか?」

 

「えぇ、何なりと」

 

「被害って……どれくらいまで拡がりました?」

 

「自分の場合、酒で泥酔させられてその後に、というパターンが多かったので。撮られた写真の総数は数知れず、出来るだけ”回収”はしたのですが……今でも身近な所に現物が存在しているものかと」

 

「……僕の方が断然マシですね」

 

「服の方の内容は?」

 

「え、えっと……女性用の貴族服とか、どこから調達したのかゴスロリ調のモノとかを……」

 

「自分は……メイド服巫女服学生服ドレスナース服シスター服等々。えぇ、罰ゲームという建前で主張も拘りもなく色々着させられましたよ」

 

「あ、あわわ……」

 

 身内だけで恥が完結していた自分とは”痛み”の度合いが違いすぎる事にセドリックは戦慄し、しかしその後すぐに真剣な眼差しのレイに見据えられてその感情を飲み込んだ。

 

「セドリック殿下。自分が以前アルフィン殿下とお話しした限りでは、どうやら殿下はもうこの”呪縛”からは解放されていると聞き及びました。貴方はもう、仄暗い過去を振り返らずとも良いのです。殿下はいずれこのエレボニアを背負って立つ御方、帝国男子よ斯く在るべきと、それを御身で以て知らしめるように強くなられる事を、不肖の身で自分は祈っております」

 

「そ、そんな……で、でもあなたは……ッ」

 

「自分は少々特殊な体質(・・・・・)を抱えていますので、以後も茨の道を進むのは覚悟の上です。晒し者になる趣味などは毛頭在りませんので、抵抗は致しますよ。

 セドリック殿下、どうか、自分と同じ轍を踏まれませぬよう」

 

 その語らいだけを見れば、忠臣が自らの在り方を迷う若き主に諫言をしている姿に見えなくもない。実際のところ内容は国の情勢を左右するような話題では天地がひっくり返ってもないのだが、それでも彼らにとってそれは人生の汚点を払拭するために必要な語らいであった。

 一点の曇りもなく、虚偽もなく、己の覚悟を言い切ったレイに対して、セドリックは感動してしまったのか涙目を浮かべる。そして、レイの手を強く握った。

 

「レイさん。よ、良ければ僕の友人になって下さいませんか? 同じような悩みを抱えている人に、僕はこれまで出会って来ませんでした。これだけ自分の心情を吐露できたのも初めてなんです。ですから―――」

 

「それはなりません、殿下。いずれ最も高貴な身分となる貴方が、自分のようなどこの馬の骨とも知れない人間と友となってしまっては、後々足元を掬う輩が現れるでしょう」

 

「そ、そんな事は関係ありません。同じ苦痛を味わい、それを共有できる人に出会えたんです。例え僕が皇族の一員であろうとも、友人を選ぶ権利はあります‼」

 

 だから、と。セドリックは意を決したような表情を見せて、言い切った。

 

 

「友達に、なって下さい。お願いしますっ」

 

「…………」

 

 レイとしては此処で、お互いの愚痴が言い合えればそれで良かった。それは本当だった。

 しかし、まさか弱みを共有しているというだけでここまで強く迫られるとは思わず、内心では密かに困惑すると共に、気弱そうな外見とは裏腹に自分の意志をしっかりと見せたセドリックに称賛も送っていた。

 レイが最初の申し出をやんわりと断った理由については、これも実は口から出まかせではなく、本心であったりする。

既にオリヴァルトとアルフィンの間で友人関係を承諾したレイではあったが、しかし皇位継承者のセドリックと、という話になれば別だ。もし公になれば狡猾な輩が何を言ってくるかという可能性も考慮しなくてはならない。

 損益のみを考えるのならば次期皇帝とのパイプが出来上がるというのは悪い話ではない。だが、その結果もし彼が帝位を追われるという事態になれば、それは取り返しのつかない事だ。

そこまで考えなくてもいいのでは、と思う人間は多いかもしれないが、大国の帝政や王政というのはそういうものだ。上に立つ者は、足元を掬われる可能性を1%でも多く取り除いておかなけばいけない。

 

 セドリックとて、そこは理解しているのだろう。だがそれでも、彼は己の友を己で決める事を選択した。

皇位継承者という自分を覆う殻のみに引き寄せられて近づいてくる阿諛追従の輩といるよりもきっと自分にとって良い事になる、そう本能的に察したのだ。事実、セドリックはそう思っていたし、そう思われているのならば、こちらから否定する理由などどこにもない。

 

「―――分かりました。敬語は取れないと思いますけど、それでも良ければ、是非」

 

「あ、ありがとうございますっ」

 

 差し出された手を握ると、セドリックは満面の笑みを見せた。

その笑顔は比喩抜きで輝いて見え、噂で聞くところの、貴族の婦女子達を虜にしているという話は、成程確かに事実らしいと図らずも実感する事が出来てしまった。

 

 さて、始めこそ話のネタにする勢いで二人だけにしてもらった筈なのだが、蓋を開ければ時期皇位継承者と友人になってしまっていた。それを戻った際にリィン達に告げると、もはや呆れすぎて追及する気も失せたのか、「あぁ、そう」と言わんばかりの表情で返されてしまった。流石に少しいたたまれなくなったのは事実だが、話を切り出して来た当の本人が姉と兄に大満足の笑みを浮かべて報告をしている姿を見たら何も言えなくなってしまった。

 

「本当に主は、訳の分からない経緯を経て御友人を作るのがお得意ですな」

 

「うっさい。今回ばかりは想定外だったわ」

 

「因みに私も、リベール時代にキリカ殿に付き合わされて潰された主を着替えさせて撮った写真を今も何枚か保持しているのですが」

 

「お前に捨てろ云々言ってもどうせ無駄だろうから、外部に漏らさない限り好きにしろ」

 

「ありがたき幸せ。一生貴方様の膝下に下りまする」

 

「お前の忠誠心は実は紙っぺら同然の強度なんじゃねぇかなぁって今思ったわ」

 

 そんな感じで予定外の事態は起こったものの、取り敢えず実習任務は終了となった。

当初より随分と時間が掛かったなと、そう思い返しながら皇城を後にしようと思い踵を返そうとして、そこで―――

 

 

 

「フム、何やら賑やかな様子。私のような無骨者が入る意味はありませんかな?」

 

 

 圧に、縫い止められた。

 

 声の主は、先程セドリックが通って来た通路と同じ場所から姿を現し、その言葉とは裏腹にゆっくりとその歩を進めた。

 元軍人であるが故の、威圧するかのような体躯。加えその身で周辺諸国より畏怖の念を抱かれる絶対的強者の圧力。常人であればこの男に睨まれれば皆等しく蛇に威嚇された蛙と成り果てるだろう。

 

 弟と話に興じていたオリヴァルトの雰囲気が、怜悧なものに変わる。Ⅶ組の面々に指示を出そうとしていたサラの表情が、憤懣を交えたそれへと変わる。

 そして何より、苦笑を漏らしていたレイの表情が、一瞬にして無味無臭のそれへと変貌を遂げた。

 

 その三人にとって仇敵であり、怨敵であり、便宜上味方であるものの油断を決して許されない人物であるその男は、まるでそれらの感情をまるで意に介していないかのような足取りで、レイ達の前に立った。

 

「初めてお目に掛かるな、トールズ士官学院特科クラスⅦ組の諸君。此度の騒動に際して力を貸してくれた事、まずは礼を言っておこう」

 

 憮然と、それでいて毅然と、そして実力に裏打ちされた不遜さとが、その言葉には凝縮されていた。

 雰囲気に呑まれまいと、顔を強張らせる一同を若者の邁進とでも言うような視線を投げかけて逸らした後、その獅子の如き双眸は、その二人を捉えた。

 

「君達には、名乗りの言葉など要らないかな? 遊撃士、それに≪天剣≫」

 

「えぇ、そうですね宰相殿。此方は色々とお世話になったものですから」

 

 怒りを抑え込み、皮肉交じりの口調で返すサラ。そこにはほぼ形骸化していたとは言え、敬語を使うだけの意識はあったが、もう一人は違った。

 

「その名前で呼ぶなっつたろうが、オズボーン。クロスベルで会った時と何も変わってねぇな、その面構えも、何もかも」

 

 普段ならばどれ程気に食わない相手であろうとも立場が上の人間や敬意を払うべきと思った相手には形だけでも敬語を使うレイが、普段と何も変わらない口調で、先程のオリヴァルトに向けたそれとは比較にならないほどの嫌悪感を含ませてそう言った。

 しかしそう言われた本人は、怒気を露わにすることなく、寧ろ忍び笑いを漏らす。

 

 

 エレボニア帝国宰相、ギリアス・オズボーン。

 

 嫌ってはいない、だが気に食わない―――レイがそう公言して憚らない稀代の傑物は、自分の圧を意に介さない少年との邂逅を待ちわびていたかのように、その言葉に呼応した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




FGOのドラマCDを聴きました。

「先輩」と呼んでくるCV種田さんのマシュがストブラの雪菜ちゃんと被ってカワイイ。
兄貴マジイケメン。オルガマリーさんもカワイイ。


……なんて現実逃避してたらがっこうぐらしのOPとEDが脳裏にフラッシュバックして来た。
あれトラウマもんだよ……

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