英雄伝説 天の軌跡 (完結済)   作:十三

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投稿が遅くなってしまい、申し訳ありません。

自分の通っている学校で文化祭がありまして、出し物の準備やら係やらをやっている内に気付いたらこんな時間。まだ課題が途中だってのにとりあえずこれだけは書き上げたいと思った次第です。

アニメの『Fate/stay night』の作画の神具合に驚愕しっぱなしの今日この頃、眠い瞼をこすりながら投稿させていただきます。


Ⅶ組結成! 

石の守護者(ガーゴイル)……だと?」

 

 音が響いた場所へと並んで走りながら、ユーシスはレイからこのダンジョンの終着地点に待ち構えている存在についての考察を聞いていた。

そして耳にする。かつてゼムリア大陸に訪れた《暗黒時代》に神殿等の衛士として製造された、魔導の産物の名を。

 

「あぁ。奴らは普段石像に擬態して指定された場所を守護してるんだが、侵入者を感知した途端に生命体に変貌して襲い掛かって来やがる。とにかく頑丈な上に自己再生能力とかも備わってる個体があるから、討伐はメンド臭ぇんだよな」

 

「信じられん……何故そんなものが士官学院の旧校舎なんぞに眠っている?」

 

 辺境の地に長い間放置されている古代遺跡などならばともかく、そんな危険極まりない上に歴史的に稀少な存在が、古い歴史を持つとは言えたかが一士官学校に放置されているなど、ユーシスの常識からすれば考えられない事だった。

 

「ま、ドライケルス帝が御自ら設立した学校だ。予想外な事の一つや二つ起きてもおかしくないんじゃねぇか?」

 

「……そう言われると否定できんな。そう言うお前は、そんな化け物と遭遇したかのような口ぶりだが?」

 

「何度かあるぜ? 昔は結構大陸各地を飛び回ってたからな。怪しい遺跡に侵入したときに、即死級のトラップとセットで遭遇してた」

 

「……お前は本当に俺たちと同年代なのか?」

 

 どうにも嘘を吐いているように見えないその体験談にさしものユーシスも若干引きかけていると、二人が走っているその前方に、後方から頭上を越えて飛び込んで来た影が着地した。突然乱入してきたそれに、ユーシスは反射的に右手に持っていた騎士剣を構えるが、レイは特に警戒することもなく、それに近づき、片手を挙げた。

 

「よぉ、フィー。どうだった?」

 

「ん。討ち洩らしもなくて丁寧に殲滅されてた。追ってくる可能性はないと思う」

 

 影の中から現れたのは、レイの掲げられた手にハイタッチをかますフィー。正体がクラスメイトである事を確認して、ユーシスは息を吐きながら臨戦態勢を解いた。

 会話を聞く限り、どうやらこの二人はこのオリエンテーリングにおいて斥候と殿(しんがり)という最も危険な任務を難なくこなしてくれていたらしい。それに加えて男子と女子に分かれて行動していたそれぞれのチームのフォローもしていたと言うから素直に驚かざるを得なかった。もしこの行事におけるMVPを決める機会があったとしたら、間違いなくこの二人が選ばれるだろう。そんなことも知らずに自らの感情を優先して一人で行動していたことを、ユーシスは今更ながらに少し恥じた。

 

「(俺たちの安全は、こいつらの働きで保たれていた、と言う訳か)」

 

 悔しい気持ち、と言うのも勿論あるが、何せこれは今まで正式な訓練を受けた事のない者たちが行う腕試しのようなイベントである。ユーシス自身も実家で宮廷剣術は修めているが、それだけだ。ダンジョンでの罠の解除や、サバイバル知識などは心得ていない。他のメンバーも、各々異なりこそあれ、似たようなものだろう。そんな中で自分たちが安全に、かつ思う存分実力を発揮できる舞台を整えてくれたこの二人には、口にこそしないが感謝の念は抱いていた。

 

「さて、まんまと石の守護者(ガーゴイル)を復活させたあいつらの手助けに行くとするか。ユーシス、お前はどうする?」

 

「行くに決まっているだろう。こんな場所で燻っているのは性に合わん」

 

「ん。それじゃあ行こっか」

 

 互いに頷き、再びダンジョンの中を走り始める。ユーシスも連れているために先程よりかはペースは落ちていたが、魔獣が一切出没しなかったため、順調にエリアを踏破していく。

そして最終地点が近くなった時、徐にレイが特注である『ARCUS(アークス)』を取り出した。

 

「入ったらまず俺が動きを止める。それと同時にユーシスが攻撃アーツを叩き込んで対象を怯ませろ。できるか?」

 

「当たり前だ。お前こそアーツの代わりになるというその”術”とやら、使い物になるのだろうな?」

 

「さっき試してみたが、問題なく発動はできた。使いこなすにはちと時間がかかりそうだが、足止め程度の”術”なら問題ねぇだろ」

 

 その言葉の真偽は生憎とユーシスには量りきれなかったが、レイの隣を走るフィーを一瞥すると、無言で一つ頷いた。問題はない。そういう事だろう。

ならば、と、ユーシスは自らの『ARCUS(アークス)』を構えてアーツの駆動準備をする。フィーはと言えば体勢を更に低くし、一気に飛び出す準備をした。

 

 

『う、うわあああああああっ!!』

 

 そして、大広間からエリオットの悲鳴が響くと同時に、先行したレイとフィーが同時に突入する。

 

 

 

「―――【(いにしえ)の術鎖よ、忌者を封じよ】」

 

 レイが呟くようにそう口にすると、通常アーツを駆動する際に浮き出る魔力光ではなく、黒と白の見慣れない文字列が虚空より現れ、それが列を成してレイの周囲を囲っていく。明らかにアーツを発動する時のそれとは違う光景に石の守護者(ガーゴイル)・イグルートガルムと相対していたリィンたちの視線が一瞬集まった時には、既にレイはその”術”を発動させていた。

 

「捕えろ―――【怨呪(おんじゅ)(ばく)】‼」

 

 特注の『ARCUS(アークス)』から放たれたのは妖しく輝く白黒(モノクロ)の光と、レイを囲っていたものと同じ、見慣れない文字列で編まれた鎖。それは猛スピードでイグルートガルムへと迫るとその右翼の部分に着弾し、一瞬のうちに対象を縛り上げた。

 

「なっ!?」

 

「何だ、コレは!?」

 

 驚愕の表情と声をあげる一同を他所に、次いでユーシスが突入する。

その瞬間、その場にいた十人全員が青白い淡い光に包まれ、加えて光のラインで繋がる。そしてユーシスが、アーツの駆動を終わらせてそれを放った。

 

「食らえ―――『エアストライク』‼」

 

 青い魔力光が弾けると共に、クオーツが生み出した風の魔力が球状に形を変え、直線に飛んで頭部へと着弾した。捕縛と攻撃が同時に行われたためか、耐え切れなくなったイグルートガルムが咆哮を吐き出して大きくのけ反る。

 その好機を逃さずに飛び込んだのはフィー。地面を蹴る動作で一気に小さい体躯を加速させると、敵が反応する前に懐深くまで潜り込む。

 

「それっ」

 

 発した言葉こそ気の抜けたようなそれだったが、両腕に持って振りぬいた双銃剣の二連撃は確かにイグルートガルムの右前脚を捕らえ、正確に削り取ることで大きくバランスを崩す事に成功した。人間の数倍はあろうかというその巨躯は、貴重な体の支えの一つを失った事で支えきれなくなり、右肩から転がるように倒れ込んだ。

 

「呆けてんじゃねぇ! 今の内に奴の首を刎ねろ! それで活動は停止するはずだ!」

 

 『ARCUS(アークス)』を構えながら”術式”を維持し続けるレイが喝を入れるかのようにそう叫ぶと、比較的戦いに慣れている面々がその声に正気を取り戻す。その中で真っ先に動いたのは青髪の少女、ラウラだった。

 

「承知!!」

 

 彼女は反応も早ければ、攻撃に移るまでの動きにも無駄が少なく、大剣を軽々と操ると、八相の構えから上段へと剣を移動させ、豪風を伴った一撃で迷いなくイグルートガルムの首部を刈り取った。

すると切り落とされた首部は勿論のこと、残されて無残な姿を晒すこととなった胴体も、魔法生物の末路に沿って紫色の光を発した後に爆発し、欠片も残さず消え失せてしまった。

 

「ふぅ……」

 

 捕縛する対象がいなくなった事で効果を失った”術”を解除すると、レイは一つ息を吐いた。

特に疲れたという訳ではなかったが、慣れない方法で理の違う術式を発動するという行為に多少の違和感を覚え、いつもより集中力を使っていたというのも事実であり、腰に差した長刀の柄を弄りながら今後の課題を頭の中に浮かべていた。

 しかし、とレイは思う。あの全員が淡い光に包まれた現象。アレが起こってから、ユーシスがどんなアーツを使用するのか、フィーが敵のどの部位に攻撃を加えるのか、はたまた誰が自分の声に反応してトドメを刺すのかまで、手に取るように”理解”できた。まるで全員の心が繋がったかのようなその感覚に、悪い気持ちこそしないものの、”術”を扱う以上の違和感を覚えてしまう。周りも自分の身に起こった事の方がインパクトが強かったせいか、レイの”術”に対しては誰も言及する事はなかった。

あのような現象が、偶然引き起こされたものであると思える程、楽観的な思考はしていない。可能性があるとすれば全員が特殊な体質の持ち主であるという事。そしてもう一つの推測としては―――

 

「なぁ、レイ……」

 

 偶然同じ結論に至ったリィンが視線を向けてくる。レイは、それに首肯で返した。

 

「さっき全員を包んだ光。これが”新型戦術オーブメント”の真価なんだろうさ。―――そうなんだろ? サラ」

 

「そ。”戦術リンク”。それが第五世代型戦術オーブメントの特徴にして本領。戦場で使用するには、まさにうってつけの機能ってわけね」

 

 ”リンク”で繋がれた者同士の行動を互いに予測し、常に先の一手を見据えて作戦を立案・実行できる機能。それが二人だけではなく、複数人の間で結ばれるとなれば、戦場において絶大な恩恵をもたらすのは火を見るよりも明らかである。どんな状況下でも最大限の連携が可能な精鋭部隊の誕生―――それは導力革命には及ばないものの、”戦闘”という人類が人類である以上避けては通れない行為においての新革と言っても過言ではなかった。

 大広間の上段にて石の守護者(ガーゴイル)との戦闘の成り行きを見守っていたサラは、そんなレイの言葉に促されて階段を降り、彼らの前に立った。

 

 恐らく今回のオリエンテーリングも、この戦術リンクという機能の汎用性の高さを、その身で以て知らせるためのものであったのだろう。レイやフィーといった”戦い慣れている”人物ならばともかく、実戦自体初めての面子がちらほらと見受けられたこの状態での魔法生物との戦闘ともなれば、苦戦は免れない。最初の時点でどれだけバラバラに行動しようとも、最後のこの戦いだけは全員が集まって力を合わせると踏んだのだろう。

そして見事、その思惑通りとなった。

サラが言うには、ここに集められた特科クラスⅦ組のメンバーは、新入生の中でも特にこの『ARCUS(アークス)』に対して適性の高い少年少女で構成されたものであるらしい。しかしながら果たして、こんな異色な経歴を持つ人間たちが計ったかのように一ヶ所に集まることなど、有り得るのだろうか?

否、蓋然性の観点から見てもその可能性は極めて低いだろう。ならばこの人選は、意図的に行われた事であると考えるのが普通だ。

 チラリ、とレイは先程サラが居た場所よりも更に上の場所に目を向ける。だが直ぐに興味を失ったかのように、ふいと目を逸らした。問い詰めるのは勘弁してやる(・・・・・・・・・・・・・)。そう吐き捨てるように小さく呟くと、不意にサラから声を掛けられた。

 

「ホラ、レイ。アンタはどうするの?」

 

「え、何? ゴメン、聞いてなかったわ」

 

 本当に聞いていなかったために正直にそう言うと、サラは溜め息と共に人差し指でレイの額を軽く押した。どうやら、Ⅶ組に入るか否か、その最終的な意思決定をしていたらしい。

最初にリィンが参加を表明し、その後は順調に誰も降りる事無く表明を終えた。あまり乗り気でなかったフィーでさえ、「レイが一緒ならいいよ」と前向きな検討をしたらしく、今彼を除いた9名の視線が、揃ってこちらを向いていた。

 

「参加表明ねぇ……これって必要?」

 

「一応、ね。やる気のない人間に強制はできないでしょ?」

 

「ま、俺に選択の余地なんか最初(ハナ)からねぇと思うんだが―――そんじゃレイ・クレイドル、及ばずながら参加させて貰うとしますかね」

 

 片手を軽く掲げてそう宣言すると、傍らにいたフィーが薄く微笑み、リィンが「これからよろしくな」という言葉と共に右手を差し出してきた。それをレイは、一言を添えて握り返した。

 結局のところほぼ全てが自分をこの場所に引き込んだ人たちの思い通りに着てしまった事を少しばかり悔しく思いながら、ここに”特科クラス《Ⅶ組》”が無事に設立されたのだった。

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

「あー…………何だか変に疲れたなぁ」

 

 オリエンテーリングが終わってから数時間後、既に空が黄昏から宵のそれに変わり始め、昼間は活気のあったトリスタの街も、徐々に一日の終わりに向けての仕度を始めている。

そんな中でレイは、Ⅶ組専用として割り当てられた寮である『第三学生寮』の自室にて、ベッドに寝転がって何をするでもなくただ天井を見上げていた。

引っ越して来たばかりで、殺風景な室内。クロスベルから送ってもらった荷物が段ボールに包まれて部屋の隅に放置されたままなのだが、流石にこれから梱包作業をする気にもなれず、現実逃避の意味合いも含めてとりあえずベッドの上に避難しているのである。

 ゴロゴロと新品のブランケットの上で数回寝返りを繰り返すと、ふと何かを思い出したのか、ベッドを降りてまだ何も置かれていないラックの下へと駆け寄った。

 

「これだけは着替える前にちゃんと置いとかねぇとな」

 

 そう言って上着の内ポケットから取り出したのは、朝方リィンに拾ってもらった真鍮製のペンダント。特に有名な職人が作ったような代物でもないのだが、得物である長刀と同じく、彼の身の一部も同然の私物である。故にこれだけは、何があっても失くすわけにはいかなかった。

 

「………」

 

 専用に作った置き棚のところに置く前に、レイは少しばかり逡巡してからペンダントの脇にある小さなボタンを押して、その中身を開いた。

 そこに収められていたのは、まだ幼少期と言っても差し支えのない黒髪の少年と、ストールを肩から下げ、儚い印象ながらも毅然とした雰囲気で少年の横に立つ女性が写った写真。所々焦げてしまっているそれだが、辛うじて2人が仲良く並んでいるそこだけはまるで守られていたかのように無傷のままで残っている。

 

「ははっ、まーた俺は厄介なトコに放り込まれたみたいですよ、母上」

 

 自嘲気味にそう笑いながら、写真に写る人物に語り掛けるレイ。ただ一言、それだけを言うと、ペンダントの蓋を閉じ、置き棚に置いてしまう。

自分もまだあんな弱弱しい声が出せたのかと内心驚きながら、壁にかけた自身の相棒である長刀の鞘の部分に触れた。

 

「(だらしねぇ。新しい生活拠点に移っても、結局俺は女々しいまま、か)」

 

 サラやフィーは、それを決して否定はしないだろう。むしろその感情を忘れるなと、叱りつけてくるかもしれない。

だが、レイ本人はそう考えてはいなかった。今のこんな自分を見たら母はどう思うのかと、この写真を見るたびに思ってしまう。そんな気を紛らわすために、レイは刀の一部に触れる。自分の”業”の象徴とも言えるコレに触れている間は、余計な事を考えずにいられるからだった。

 

「(今更、俺が―――)」

 

 それでもネガティブな思考は止められない。そう思っていた矢先、自室のドアが少々控えめにノックされた。

 

『レイ、今大丈夫か?』

 

 扉の向こうから聞こえてきたのはリィンの声。レイは急いで額に浮かんでいた汗を拭うと、扉に近づいてそれを開けた。

 

「どうした? こんな中途半端な時間に」

 

 夕飯までにはまだ時間がある。そんな事を考えていながら、レイは相も変わらず人の良さそうな微笑を浮かべるリィンを見た。

 

「いや、レイはまだ面と向かって自己紹介しているメンバーが少なかっただろ? ちょうど今男子が一階の談話室に集まってるから丁度いい機会だと思ってさ」

 

「え、もしかして俺ってばナチュラルにハブかれてたの? 流石にちょっとショックなんだけど」

 

「だから呼びに来たんだろ? 寮に入ってからずっと部屋に籠りっきりみたいだったからさ」

 

 どうやら自分の与り知らないところで心配をかけていた事を知ると、流石にその申し出を無碍にすることもできずにリィンと共に階下へと降りていった。

2階から1階へと降りると、なるほど確かに「ユーシスを除いた」男子一同が談話スペースに会していた。恐らくは、ダンジョンの中で行動を共にしていたメンバーなのだろう。

 

「よぉ、楽しそうだな。俺も混ぜてくんない?」

 

「あ、レイ。いいよ、座って座って」

 

 エリオットは笑顔でレイを迎えると、特に緊張した様子もなく席を勧めた。すると手前に座っていた大柄な褐色肌の男子が立ち上がり、奥の席へと誘導してくれた。

 

「おー、サンキュ。えーっと、確か……」

 

「あぁ、俺はガイウス・ウォーゼルだ。ノルドから来た留学生だが、よろしく頼む」

 

「へぇ、あの高原地帯からか。俺もクロスベルからの留学生だから同じだな。よろしく」

 

 互いに国外から来たという共通点のせいか、それともガイウスの性格が思ったよりも柔らかかったせいか、2人は直ぐに握手を交わす。すると今度は、目の前に座っていたマキアスがレイに対して少し申し訳なさそうな視線を送って来た。

 

「ん? どうしたよ、んなしみったれた顔して。さっきまでユーシスの奴に突っかかってた気概はどこにいったんだ? ホレホレ」

 

「そ、それはこの際忘れてくれ! ……コホン。改めて、僕はマキアス・レーグニッツだ。僕の方も、よろしく頼む」

 

「おうさ。こっちもな」

 

 挨拶を交わすと、マキアスは次の言葉を出しかけたが、少し言いよどむ雰囲気を見せる。その反応だけで何を言おうとしているのか何となく分かってしまったが、敢えてレイは言葉を待った。

 

「その、正式に挨拶したばかりで不躾なのは分かっているんだが……君の身分を聞いても構わないか?」

 

 予想通りの、その問いかけ。恐らく、自分以外の全員にそれを聞いたのだろう。

そして、自分がその最後。流石に何回も繰り返していると罪悪感のようなものが生まれてくるのか、声の大きさは小さめであった。

だがレイは、ここで素直に答える前に少しばかり彼の心情を突いてみる事にした。

 

 

「―――貴族」

 

「!!」

 

「なーんて言ったら、お前は俺と今後どう接するつもりだったんだ?」

 

 口調こそ軽いものではあったが、問いかけ自体は本気であった。その答えを他ならぬマキアス自身から聞きたいと、真剣な表情で彼の瞳を見据える。空気を察してか、リィンらも押し黙った。

 

「それ、は……」

 

「ラウラにも聞いたんだろ? 栄えある<アルゼイド子爵家>の嫡女であるアイツにも、さ」

 

 ラウラ・S・アルゼイド。旧校舎を後にした時に同じ剣使いだと挨拶を投げかけてくれた彼女の姿を頭に浮かべながら、レイは更に問う。彼女が問われて自身の出自を誤魔化すような性格ではない事は一言言葉を交わした瞬間に理解できた。ならば、それを聞いてマキアスはどういう反応を示したのだろうか。

 

「お前はラウラの事を、どう思った?」

 

「……少なくとも、人格的には良い人物だ。そう思ったよ」

 

「充分だ。それが認められただけでも俺はお前を軽蔑せずに済む」

 

 貴族と平民。社会的に分け隔てられた階級の差がそこにあったとしても、結局のところそこにいるのはただの”一個人”に過ぎない。人間であることには変わりなく、思考も、言動も、全てが十人十色。そこには紛れもない「個」が存在するのだ。

 それを理解することすらできないほどの偏見の目をマキアスが持っていたのだとしたら、比喩でも脅しでもなく、レイはマキアスを軽蔑していただろう。その思想はつまるところ、人間を人間として見ていない事と同義になるのだから。

 

「…………」

 

「意地の悪ぃ質問したのは謝るよ。だがまぁ、それだけは知っておきたかったからな。あ、ちなみに俺は平民な。つーか俺の故郷に身分の概念なんか最初(ハナ)から存在してねぇっての。ガイウスのトコもそうだろ?」

 

「あぁ。ノルドには身分の隔たりというものはない」

 

 ガイウスがそう言い切ったところで、レイは俯いたままのマキアスの頭の上に少し強めのチョップをかました。

 

「イタッ! な、何をするんだ!」

 

「だからしみったれた顔すんなって言ったろうが。まぁそんな感じに誘導したのは俺なんだけどよ、それでも黙ったままってのは少しよろしくないぜ?」

 

 レイはそう言って立ち上がると、ソファーの背もたれを軽々とジャンプで飛び越え、着地する。そこで再び、マキアスの表情を見た。

 

「”人”をどう見て、どう判断するか。んなモンは人それぞれだ。お前がそうやって悩んでるのは良い事だし、答えなんてのはすぐ見つかるようなモンじゃねぇ」

 

 だから、と。レイは昔の自分を思い起こしながら、格好つけた言葉を口から紡ぐ。

 

「悩む事を忘れんなよ? 決めつけちまったら、そこでお前の価値観は固定されちまうからさ」

 

「悩む事、か」

 

 言葉を反芻するマキアスの目に徐々に生気が戻ってきた事を確認すると、レイは談話室の横にある食堂に目を向けた。時間もちょうど良い頃合い。久方ぶりに初対面の相手に腕を振るおうかと、はしゃぐような気持ちでリィンたちを見渡した。

 

「さて、一段落ついたところでメシにするか。今日は簡単なモンしか作れねぇが、30分ぐらい経ったら女子連中も含めて皆食堂に集めてくれ」

 

「えっ? レイって料理得意なの?」

 

 意外だと言わんばかりの表情で驚くエリオット。他の面子も程度の差こそあれ、同じような反応を見せていた。

 

「なめんなよ? これでもクロスベルの大衆食堂で厨房の仕事をやってた事もある。腕にはちっとばかし自信はあるさ」

 

「―――ほぅ、ではその腕とやら、存分に見せてもらおうじゃないか」

 

 階段を降りる音と共に聞こえてきたその声に、まずマキアスが渋面を作り、次いでレイが好戦的な笑みを浮かべた。

 

「本来なら外で済ませるつもりだったが……気が変わった」

 

「上等だ、ユーシス。その肥えた舌を唸らせてやるよ」

 

「フッ、期待しないで待っておこう」

 

 そんな掛け合いが続いた後、レイは本格的に作業に取り掛かり、言葉通りに30分で仕度を済ませた後にⅦ組メンバー全員に手料理を振舞った。

 

 

 

 その結果、寮の炊事係が自動的に決定してしまったことは、また別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




うーい……やっと序章が終わりましたよぉ。

次回からは少し置いてケルディック実習ですかねぇ? レイ君の立ち回りに気を配っておかないとパワーバランス崩壊しますわ。やばいやばい。

あと、感想とかバンバン下さいませ! 感想見るとメッチャ励みになるという事を昨今実感しております。

ではでは、また次回。
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