自分はといえば足りない脳みそを油を絞り出すが如く捻りまくって何とか書かせていただいております。あと風邪気味です。気温の変化、マジヤバイ。
あと、この作品を書き始めるにあたって零の軌跡&蒼の軌跡の公式設定資料集を買いました。いやー、凄い情報がいっぱいでテンション上がります。いつか閃の軌跡の設定資料集も出て欲しいですねー。電撃さん、お願いしまーす!
「このところ、《赤い星座》が妙な動きを見せてやがるらしいぞ」
客の来店時から新聞を読み耽り、サービスの一つすらする素振りも見せない壮年の男性が何の脈絡もなく言ったその言葉に、店内のショーケースに飾られていたアンティークものの時計を眺めていたレイが、僅かながらに反応した。
トリスタ駅前から少しばかり裏路地に入ったところに居を構えている店。表沙汰の名前こそ、そこは”質屋”となってはいるが、そこの主である不愛想な店主の副業であり、ある意味本業と言えるのが情報屋としての仕事である。遊撃士時代から何回か世話になり、顔見知りでもあったそんな人物と久方ぶりに顔を合わせたのはもう1週間程前の話であり、それからちょくちょく店で扱っている商品の冷やかしも兼ねて足を運んでいたりする。
店主―――ミヒュトが徐にそんな情報をレイに漏らしたのは、そんなレイに対する彼なりのサービスだったのか。或いはちょっとした嫌がらせだったのか。
どちらにせよ、今のレイにはそんな思惑などどうでも良かった。
「あの戦闘狂共、まーた何かやらかすつもりか? 情報屋の耳に入って来るって事は相当大規模に動いてるって事だろ? ヤな予感しかしねぇわ」
店の隅に飾ってある観葉植物の葉を弄りながら、そんな言葉を漏らす。実際”彼ら”と少なからずの因縁があるレイにとっては一概に他人事とは言えなかったし、そう思えなかった。
まぁ、そんな前提を抜きにしても、個人的にその集団の名前を聞いただけで眉を顰めてしまうのはある意味仕方のない事であるとも言えた。
ゼムリア大陸西部を中心に神出鬼没に現れ、その起源はかの《暗黒時代》にも遡るという最強最悪の猟兵団。それが《赤い星座》と呼ばれる存在である。
つい1年前までは《闘神》の異名で恐れられた戦士、バルデル・オルランドに率いられていたその集団は、陸戦任務においてまさに”最強”と呼ばれるだけの実力を有し、とある事情により団長の座が空席となった今でも、副団長である《
血気盛んな猟兵団の中でも群を抜いて危険度が高い戦闘狂集団。仕事柄、ヤバい組織は山ほど知っているレイですらも、できればもう二度とお近づきになりたくないと思っている連中である。
「そうだな。逆に言えば大規模な作戦だと分かっているだけでも収穫って事だ。こりゃ七耀教会や遊撃士教会も出張って来るかもしれんぞ」
「無いな。教会は
「ほぅ? 遊撃士も動かねぇと?」
「最低でもA級が何人かは欲しい。だがこの不安定なご時世だ。一ヶ所に戦力を集中させるのは難しいだろうさ」
滔々と考察を述べるレイは、一見無関心なようにも見える。
だが先程から店内のあちこちを移動して視線も一定していない。情報屋の目から見れば、若干動揺しているのは明らかだった。
本来、心根は優しく、実直なこの少年の事である。近い内に大陸のどこかで最凶の猟兵団が暴れ回り、少なからずの死傷者が出る事を、ただ黙して見てはいられないのだろう。
だが、今の彼はあくまで”学生”なのだ。このトリスタの街からも容易に出る事は叶わない身。さぞかし、もどかしく感じている事だろう。
「……もう一つ、情報がある」
情報屋が”情”に流される事などあってはならない。だがミヒュトの口からは、次いで言葉が紡ぎだされていた。
「大規模な行動にも関わらず、『クリムゾン商会』の方に動きは見られない。お前は、これをどう見る?」
「……作戦の資金源が、身内の物ではない、っつーことか」
《赤い星座》が作戦資金を得るために経営しているダミー会社、それが『クリムゾン商会』である。帝都に存在する高級クラブ、『ノイエ=ブラン』を中心として広がるその経営網は、現在も無視ができない利益を叩き出しており、団の重要な資金源となっていた。
それが大規模な作戦行動に際して全く動きがない。―――それが指し示す事実と考察を、レイはすぐさま弾き出す。
「大陸最強の猟兵団のほぼ全勢力を動かすほどの膨大なミラを支払う事のできる組織……ふーん、なるほどな」
「分かったのか?」
ミヒュトのその問いに、レイは肩を竦めて首を横に振った。
「いんや、やっぱ候補が多すぎて今の段階じゃ絞り込めん。つーか、今の俺じゃ知ったところでどうしようもねぇしな」
自嘲する風に笑う彼を見て、ミヒュトは元より不機嫌そうな表情を更に歪めた。
僅かに怒りを覚えたのは、レイに対してではない。彼を常に心配し続け、彼が学院生となる事を良しとした知己の女性に対してである。
「(お前はコイツがここにいて良いと思ってんのか? サラ)」
ただの一士官学院生という地位に縛り付けてしまうには惜しい麒麟児。しかし、ミヒュトのそんな思惑とは裏腹に、レイは今度こそ、偽りではない表情を見せた。
「あっと、もうこんな時間じゃねぇか。邪魔したな、ミヒュトのオッサン」
「フン、貴重な自由行動日に来店したかと思ったら何も買わずにトンズラか。またクラスのガキ共のメシの材料を買いに行くのか?」
皮肉ったらしいミヒュトの言葉に、「今日は違う」と、来店した際に一緒に持ち込んだ使い込まれた釣竿を肩に担いだ。
その行動ですべてを察したミヒュトは、呆れたような表情を見せる。
「今夜の主菜は自給自足、か。どこまで万能になる気だ、お前は」
「失礼だな。ここの川は良い魚がよく釣れる。今日はサモーナやクインシザーあたりを狙ってみるか」
そんな宣言を残して、レイは質屋『ミヒュト』の玄関から店外へと去っていった。恐らく冗談でもなんでもなく、今から本気で魚釣りに興じるつもりなのだろう。
先程までの重々しい雰囲気から一変、何とも言えない感じを作り出したまま去っていってしまったレイに対して虚空を睨み付けながら、再び新聞を開く。
今度はもっと悩ませてやるような情報を仕入れよう。嫌がらせの意味も含めて、心の中でそう決めながら。
―――*―――*―――
「さーて、それじゃあ第一回の実技テストを始めるわよー」
4月21日。雲一つない晴天の中、士官学院のグラウンドに集められたⅦ組メンバー10名は、サラの軽快な声と共に僅かばかり気を引き締めた。
リィン、アリサ、エリオット、ラウラ、エマ、ユーシス、フィー、ガイウス、マキアス、そしてレイ。各々が、その手に得物となる武器を携えて、例外が二名ほどいるものの、ほぼ全員がやや緊張した面持ちで次の言葉を待っている。
士官学院に入学してからはや3週間が経過し、難度の高い授業にもようやく慣れてきた頃に、突然担当教官のサラから二つの事柄が伝えられた。そしてそれが、この”特科クラス”ならではの事項であった事に、皆が一様に不思議そうな顔をしたのである。
一つは、定期的に行うという”実技テスト”の告知。戦術リンクが使えるⅦ組ならではのテストを行うとの事で、これにはレイもある程度の期待を寄せていた。ただ単に生徒同士の一対一、もしくは教官相手の多対一という形式では、有体に言ってつまらない。だからこそ、長刀の鞘を握る手にも、いつもよりかは力が入っていた。
もう一つは、二つの班に分かれて行うという”特別実習”。各々の班がトリスタを出て帝国各地にて課題に取り組むという、現時点では内容が曖昧な取り組みだ。
だがいずれにせよ、このテストとやらを切り抜けなければならない。悪戯っぽい笑みを浮かべるサラに対して一同が揃って嫌な予感を感じたものの、一抹の不安と共に全員が自分の武器を握りなおす。
「そんじゃ、始めるわね~♪」
開始の声と共に、サラの指鳴りの音がグラウンドに響く。
すると、それと連動するかのように突如として虚空から浮遊する謎の物体が現れた。
「「「「えっ!?」」」」
その目の前で起きた非現実的な現象に、思わず驚愕の声を漏らす一同。それも当然の事だ。戦闘経験があろうとなかろうと、”普通に”生きていればこのような摩訶不思議な物体と遭遇する事などないのだから。
それは機械と称するにはあまりにも滑らかに動く物体であり、さりとて生物と称するにはあまりにも不可思議過ぎる。ガイウスがポツリと呟くように言った「生命の息吹を感じない」という表現。有体に言えば、それが一番良くそれの正体を言い現わしていた。
浮遊しながら不気味なまでの滑らかな動きを見せる紫色のそれ。よく見るとボディの横腹に『Type-α』と刻まれており、それが名前である事が分かる。
しかし、驚きや僅かな恐れが一同の間で伝播していく中、ただ一人無感情な瞳でそれをボーッと眺める生徒がいた。言うまでもなく、レイである。
彼はひとしきりそれを眺めると、一つの溜め息と共に徐に手を挙げた。
「一つ質問、いいか?」
「あら、どーしたのよ。レイ」
クラスメイトの視線が集まる中、レイはジト目でサラを睨みながら、恐らく彼女自身が説明するつもりだったであろう事をあえて質問する。
「この不細工な木偶人形、一体
気にならない、と言えば嘘になる。
「なーんか”とある筋”から押し付けられたみたいなのよね。まぁでも、使い勝手は良いから重宝してるってわけ」
「んなテキトーな……まぁ安全性が保たれてんなら別に良いんだけどよ」
もう一つ溜め息を漏らしたレイは、しかしそれ以上は踏み込もうとはしなかった。その代わりに、隣に立っていたエリオットに逆に質問を投げかけられる。
「レイはあの機械を知ってるの?」
「何回か見た事があるってだけだ。詳しい事は知らんぞ」
自分で見てもあからさまな誤魔化しに内心冷や冷やしたが、まだ付き合いが短いせいか特に疑われる事もなく、そこで会話が終わった。
そして、ひとしきり騒いだ後にサラからの”実技テスト”の説明が入る。
とは言っても複雑なものではなく、サラが指定した複数人で以てチームを組み、この機械―――”戦術殻”と戦闘をして、その結果で評価を決めるというもの。
ただし、ただ単に力任せの個人戦闘だけで勝利を収めても評価は低い。戦術リンクを駆使できるⅦ組の面々らしく戦い、勝利を収めろ―――要点だけ掻い摘めば、そんな試験内容である。
最初に指名されたのは、リィン、ガイウス、エリオットの三人。上手い具合に前衛と後衛に分かれたチームであり、実際、その動きも悪くはなかった。
東方剣術《八葉一刀流》を駆使してスピード重視の戦い方で戦術殻を翻弄するリィンと、長槍を巧みに操り、その破壊力で以てリィンの作り出した隙をついて確実に攻撃を叩き込むガイウス。そこにエリオットがタイミングよくアーツの攻撃を挟み込むという、最良の意味でお手本のような戦闘を披露し、特に苦戦する事もなく勝利を収めたのであった。
「(たった数週間前に出会ったばかりの人間同士がこうも巧みな戦術の行使を可能にする……なるほど、確かにコイツが軍隊に導入されれば戦場における革命が起こせるな)」
多感で未熟な学生同士ですら、ここまでの結果が出せるのである。無論、この三人の相性が初めから良かったという理由もあるのだろうが、それでも互いの動きを見透かしたかのような流れる動作に、レイはテストが終わって列に戻ってきた三人に掛け値なしの賞賛を送った。
聞けば三人は昨日、旧校舎の中を探検し、そこで戦術リンクの練度を高めていたとの事。そんな面白そうな事に自分を誘ってくれなかったという不満を一瞬考えたものの、よく考えれば昨日は完全に単独行動をしていた事を思い出し、僅かな後悔と共に口を噤む事となった。
しかし、順調なのはここまでであった。次に指名されたのはラウラ、アリサ、エマ、ユーシス、マキアスの五名。些か人数が多い事にマキアスが疑問を述べたものの、実際そうした理由は誰もが理解していた。
金緑コンビという爆弾を抱えている以上、少人数でチームを組んでも碌な事にならない。それは、誰の目から見ても明らかだった。
実際、その戦闘内容は、お世辞にも優秀とは言い難いもので終わった。結果こそ女子勢三人の尽力により辛くも勝利したものの、”戦術リンクの活用”というテーマに沿って見てみれば落第点もいいところ。原因は言わずもがなであり、その結果を巡ってまた一悶着が起きそうになったところで、サラが言葉を挟んだ。
「はいはいそこケンカしないの。とりあえず君たちはこの結果を受け止めて充分反省するように」
「うっ……」
「フン」
流石に担当教官の諌めを無視してまでいがみ合いを続行する気はなかったのか、大人しく列に帰っていく二人。それを見て女子勢も、嘆息と共に戻って来る。
「お疲れさん。大変だったろ」
「えぇ……心臓に悪いわ」
「あの二人にはなるべく早く関係を修復してもらわねばな」
レイの言葉に、アリサとラウラがそう返す。それができれば苦労はしない。それがⅦ組の総意だった。
とは言え、とレイは考える。今までは二人の間だけでのいがみ合いだったのが、とうとう周囲にまで影響を及ぼし始めた事について、少しばかり危惧する。今回はテストであり、危険度は限りなく低かったとはいえ、本番の魔獣との戦いの際に連携が取れないというのは致命的だ。このままではいつか、誰かが巻き込まれて怪我をしかねないと、悪い予感が頭の中を巡る。
「(どうしたもんかねぇ……)」
そう考えるも、現状はどうしようもない。別にお互い直接危害を加えたわけではないというところが、逆に関係の軋轢を広がる要因になっている。どちらかが謝ろうにも、そもそも何を謝ったらいいのかが分からないというのは、相当に面倒くさい。経験則からすれば時間が解決してくれるのを待つのが最善手なのだが、そう単純に行くとも思えなかった。
「さて最後ね。レイ、フィー、前に来なさい」
などと思案を巡らせている内にサラに呼ばれたレイは、フィーと共に前へと歩み出る。
「二人だけとかイジメか?」
「仕事量が増える。めんどい」
先の八人に比べてあからさまにやる気がない二人を見てサラは失笑する。
緊張していない……否、
「アンタたち二人は一体だけだと物足りないだろうからもう一体追加してあげたわ。感謝しなさい」
「「ありがた迷惑過ぎる」」
珍しく声をハモらせた二人だったが、その怠惰そうな雰囲気とは裏腹に、早々に武器を構える。長刀と双銃剣、用途も攻撃範囲も全く異なるそれらだが、何故かそれらを構える二人の姿はサマになっていた。
「さて、アンタたちもよーく見ておきなさい」
サラの声が、今度は待機中のリィンたちへと向けられる。しかし言われるまでもなく、彼らの視線は二人に釘付けとなっていた。
「これから見れるのが―――本当の戦術リンクの使い方よ」
その声を合図にしたかのように、二体の戦術殻がそれぞれバラバラに行動し始める。戦闘経験が薄い者ならばこの時点で既にパニックになるだろうが、生憎とこの二人は違った。
「ダルいがやるぞ。―――速攻で終わらせる」
「
手慣れた声の掛け合いと共に、”本物”の戦闘が始まった。
―――*―――*―――
戦場における鉄則と言うものを、二人は知っている。
剣や槍などが武器の主流となっていた前時代の戦においては、密集陣形と言うものが絶大な威力を誇っていた。隊列を揃えて集結し、それが鬨の声を挙げて突撃をすることで自軍の士気の向上と同時に敵に恐怖の感情を植え付ける。また連帯感を実感させる事で兵の結束力を養うというメリットもあり、その戦法は先の時代においても不動の先方になるであろうと、誰もが思っていた事だろう。
だが、銃や大砲が戦争における武器の主流になり始めた頃から、その常識は脆くも瓦解する事になった。
銃の一斉掃射と大砲の広範囲の制圧能力。密集陣形を主流としていた騎兵、歩兵にとってそれはまさに天敵とも言える攻撃となる。そして戦場から近接武器が姿を見せなくなり、戦の歴史が近代戦闘に移行するようになると、歩兵の戦術は散開戦闘が主流となっていった。連携を取りながら少人数で戦場に散らばり、機動性を生かして敵拠点を制圧する。それに伴って、情報収集技術や情報伝達技術なども比例して進化するようになったのだ。
近代戦闘における鉄則は、敵に自軍の動きを可能な限り悟られない事にある。移動した時間・方向・距離などが分かってしまえば、そこから戦術を読まれてしまう可能性があるからだ。
だからこそ、目の前で機械的な動きで散開したこの無機物生命体に、戦闘のプロである二人が負ける道理など、どこにもなかった。
「やらせない―――『クリアランス』」
フィーが開戦早々行ったのは、二丁銃を構えての一斉掃射。巧みな動きで放たれたその弾幕は、しかし戦術殻本体ではなく、その周囲に着弾した。その攻撃を危険と判断した二体の戦術殻が一瞬だけ動きを止める。しかし、レイにとってはその”一瞬”だけで充分だった。
「そら―――よっと」
散開を中止した二体の内の一体に肉薄すると、刃を収めたままの黒塗りの鞘の部分で下から掬い上げるように殴りつけ、それを宙へと放り出す。空中へと投げ出されて身動きが取れなくなったそれのボディに今度は容赦なく銃弾の雨霰を浴びせたのは、戦術リンクによってレイの動きを読んで戦術殻よりも高く跳躍していたフィーだった。
空中戦は彼女の十八番。ほどなく決着が着くであろうことを察したレイは、もう一体の方へと目を向ける。
心を持たない無機物の面目躍如と言ったところか、銃弾に対する恐れなど一切なく、魔力で拵えた刃を腕の部分に展開させてこちらに斬りかかってくる機体。しかしレイは防御の姿勢は見せる事なく、ただ僅かに腰を落とした。
瞬間、レイと戦術殻の間に投げ込まれたそれが、カチッという音と共に爆発し、膨大な閃光を撒き散らす。
空中からのサポートに僅かに口角を吊り上げると、レイは動いた。
「【剛の型・
見せたのは、旧校舎地下にてコインビートルの群れを瞬殺した技。一拍の呼吸と共に姿が消え、閃光の中でその刃が開帳される。それは確かに戦術殻の首の接続部分を捉え、両断した。
「うわっ……!」
「これは……っ」
リィンたちギャラリーがその戦闘結果を視認できたのは、グレネードの光が収まった数秒後の事。そこには、片や銃弾でボディを穴だらけにされてグラウンドに沈み、片や剪断されたように綺麗に首を落とされた二体の戦術殻が機能を停止させている様子。そして、その中心で拳を突き合わせているフィーとレイの姿があった。
「
「ん。クリアタイムは5.47秒……まぁまぁかな」
さも当然の事と言わんばかりに言葉を交わす両名を眺めて唖然とする一同。そこに、再びサラが声を挟んだ。
「まったく、あっさりクリアしてくれちゃって。さて、今の戦闘を見てどう思った? リィン」
「え? あ、はい!」
いきなり指名された事に一瞬戸惑ったリィンだったが、直ぐにいつもの落ち着きを取り戻して今の戦闘の感想を述べる。
「何と言うか……圧倒されました。たった数秒の間でここまでの動きを見せる事ができるなんて」
これが戦術リンクの真価なんですね? とリィンが問うと、サラは回答に逡巡した。
「いやー、あの二人の場合は元々のポテンシャルも高いから一概にそうとは言い切れないんだけどね。まぁ、正しい使い方っていう点では間違っちゃいないわ」
サラの評価を聞きながら、自然な流れで列に戻る二人。レイは隣にいたガイウスからの賞賛に言葉を返すと、引き続き話を続けるサラの姿を見やる。
申し分ない評価でテストをクリアできたとは言え、意思のない木偶人形との戦いは、レイの戦闘本能に中途半端に火をつけたまま終わってしまった。つまるところ、燻っているのである。
「(あー、全力で戦いてぇなぁ。……そう考えるとクロスベルにいた時の方がアリオスさんと鍛錬できたし、良かったかもしれん)」
目の前にいる女性教官も充分な戦闘能力をもった人物ではあるのだが、何せ彼女は曲がりなりにも教官である。生徒との私闘など、容易く許可できる立場ではないだろう。
などと色気のない事で悶々としていると、サラから一枚の紙が配られてきた。既に話題は、3日後の”特別実習”に移っていたらしい。その班の振り分けの詳細が書かれたそれを一瞥する。
【4月 特別実習】
A班:リィン、アリサ、ラウラ、エリオット、レイ
(実習地:交易地ケルディック)
B班:エマ、マキアス、ユーシス、フィー、ガイウス
(実習地:紡績町パルム)
レイが向かう事となったのは帝国東部・クロイツェン州にある交易が盛んな土地、ケルディック。ユーシスの実家<アルバレア公爵家>が治める土地であり、初めての”特別実習”を執り行う場所としては、悪くはないと言えた。
問題となったのは、実習地ではなく、この班の振り分け方。A班はともかく、B班は狙いすましたかのように最悪だ。
「ど、どうして僕がこの男と……!」
「……あり得んな」
レイとフィーの戦いを見て言い訳のしようもない格の違いを見せつけられたことで鎮火しかかっていた二人の間に再び油が投入される。
それだけではなく、彼らと同行する事になった三人もどこか憂鬱そうな表情を浮かべていた。特にフィーなどは「めんどい」という文字があからさまに顔に現れている。
「(ヤベェわ、コレ)」
レイの顔からも、いつもの余裕そうな笑みが消えて真剣な顔で心の中でそう呟く。
せめて週明けに再び全員で集まった時に一人いなくなる、なんて事がないようにと、レイは柄にもなくそう思ったのであった。
いやー、まさか実技テストだけで一話が終わってしまうとは思いませんでした。
でもこれ以上書くとだらだらと長引く恐れがあったので、いったんここで区切らせていただきます。
レイ君とフィーのリンクレベル? そんなものはMAXに決まっております。ラッシュⅡとか出しちゃいます。怖いな、この二人。
まぁそんなこんなで次回はお待ちかねの実習でございます。フィー、エマ、頑張れ! むしろそっちが気になるわ!
それでは、さようなら。またお目にかかりましょう。