そう思うとなんか興奮してきた(末期)
「んで、結局ゲームの方はどうなったのよ?」
「三人で二時間くらい遊んでから持って帰ったよ。面白かったからお薦め」
「ふーん、将来の夫の事を考えて参考にしとくわ」
「取らぬ狸の皮算用とはこの事だな」
「調子乗ってんじゃないわよアンタ」
いやだって本当の事ですし。
内心そんな事を思いながら、俺は自分を写している鏡を避ける様に目を閉じる。
客足が遠のき辺りが暗くなった今、ミズキは俺にこっそりと化粧を施していた。当の本人である俺は先日千束に借りた予備のリコリス制服を身に付けている。
勘違いが起こりそうだが、俺は決して女装願望がある訳ではない。
確かに、健全な年頃の男子諸君は一度はスカートの感覚が気になった事もあるだろう。だが、そんな茶々な事で俺はこんな格好をしている訳ではない。
連日のリコリス襲撃犯を欺く為の立派な作戦の一つなのだ。
襲撃犯の正体が分からない理由としては、そもそも証言者が全員殺されてしまっているからだ。
DAはリコリスを囮にする際、減っても支障の出ないサードリコリスばかり使っていた。
生半可な実力しか無いリコリスが己の身を守り切れる訳がない。だが、ファーストやセカンドは人数が少ないのでリスクが高過ぎる。
その中で1番都合が良いのが俺こと錦木律なのだ。
再生能力がある俺なら、ミンチ状にでもならない限り死ぬ事はない。多分。
そして、そんな俺がリコリスの振りをして出歩けば、リコリス襲撃犯を誘き出して拘束する事が可能って訳だ。
この案を思いついて大人組二人に提案したが、先生にはかなり渋い顔をされた。けど、提案者が俺な上に実際これ以上の被害者を出さない為の最適解という事で渋々了承された。
それに何より……
「ほら、出来たわよ」
ミズキの一声に応じて暗く閉ざされていた視界をこじ開ける。
すると目の前の鏡には、喫茶リコリコの看板娘こと錦木千束の姿があった。
そう、これが最大の利点だ。
俺と千束は血の繋がった双子の兄妹だ。
趣味嗜好や性格は違えど、ある程度外見は似ているもの。顔に関しては特に顕著で、カツラさえ被れは常連さえ一瞬見分けがつかないくらいには似ているのだ。
完全に余談だが、千束が顔について褒められると俺も同時に褒められてるって事にして勝手に喜んでいる。
まあ、それでも男性の雰囲気は残っている為、化粧を行う事で完全に千束の姿へと変える事にしているのだ。
一度だけ自分で化粧をしてみたのだが、千束とミズキに『福笑いレベル100』と言われ笑われた事があるので自分では一切やっていない。
餅は餅屋だ、一応これでも女性なミズキに頼むのが最適解なのさ。
でもなんで千束にここまで寄せる必要があるのって声が聞こえてくる。愚問だな、そんなのたきなを驚かす為に決まってるだろJK
任務以外で滅多に驚かないたきなの目を見開いた顔を大人組と俺は見たいのだ。まあこれは嘘ではないが、ただ面白そうだからって理由でやってる部分が八割くらいはある。てか俺に関してはたきなのビックリ顔はよく見てるしな。
さて、取り敢えず化粧と着替えは終わったし、後はシリコンパッドと声帯を少し弄るだけで完成だな。最初はクルミにバレないかでやってみよをっと。
俺はそう思いながら、机の上にあったパッドを胸に装着して上から制服を身に付ける。
一連の動作を見ていたミズキが怪訝そうな顔でこっちに向かって口を開いた。
「なんか…これ親戚じゃなかったら犯罪な気がしてきたんだけど…」
「何言ってるんだよミズキ。死ぬ時は一緒だぞ☆」
「ていうか、胸を再現する為にシリコンまで用意って……これ後々千束に訴えられないかしら」
「……まあコスプレって事にしとけばいけるでしょ」
「……『公的な制服』を無断で使用したって事で犯罪になるらしいわ」
なんて事だ、もう助からないゾ♡
今すぐ関わりを断ちたいって感じを出しているミズキだが、シリコンパッドをノリノリで購入したのは彼女だ。もう立派な共犯者なのさコイツは。
多分酔ってたのもあるだろうけど、千束のバストサイズを暴露した上でそれと同じ物を買ってた時点でコイツの方が俺より怒られるべきだと思う。
妹のバストサイズとか知って損でしかないし何より聞きたくもなかったのに…。日本語に耳をNTRされた様なもんだよ。
さて、胸の膨らみも出来た所で完成だ。今、錦糸町には見た目だけ千束の人間が二人いるって事になる。
初めて千束にコレを見せた時は面白かったなぁ。ドッペルゲンガーが出たって大騒ぎしてたのが昨日の事の様に思い出せるわ。
そんな事を考えつつ二人で後片付けをしていると、座敷の扉が開かれる。
開かれた向こう側にはこの店のマスコットになりかけている年齢不詳美少女こと、クルミの姿があった。
「…どったのアンタ」
「少し甘味系の物が欲しいんだが何も手持ちがなくてね。律に頼んで何か作って貰おうと思ったんだが見当たらないから探してるんだよ……千束は何か知ってるか?」
「…冷蔵庫に昨日作ったプリンが余っているはず」
「でかした。二個頂くって律に伝えといてくれ」
了解、実は一個しか残っていないけどまあ頑張れ。
心の中でクルミからの伝言に答えていると、当の本人から何処か怪訝そうな表情を向けられる。化粧に何かミスでもあったのかと鏡を見ようと動いたその時、クルミの口が開いた。
「千束、何か今日は声が低くないか?」
「えっ!?えーっと…そ、ソンナコトナイヨ?」
「?まあ最近は夏風邪とか流行ってるから気をつけろよ」
そう言いながらクルミはそそくさと部屋の外へと足を運ぶ。
廊下から『プリン、プリン♪』という鼻歌が聞こえてきたのと同時に俺とミズキは張り切っていた肩をため息と共に降ろした。
「あっぶねぇ、声変えるのがあと少し遅れていたらバレるところだった」
「ホントよ全く。一時間の努力が無駄になるところだったわ」
「無駄なフィアンセ探し七年よりはマシでは?」
「無駄なゲーム探し七年よりはマシよ」
「お前それ本気で言ってんのか?」
「本気で言ってたら何年もアンタと一緒に仕事やってないわよ」
「「えへへへへ(´ω`)」」
この後、近所迷惑だとミカに怒られる未来が待っている事を、この時の二人はまだ知らない。
◯●◯●
「んで、その戦法は効果自体は出そうなのか?」
「東京一のリコリスっていう大きな釣り針に引っかからない理由がないでしょ」
「まあ、相手側に何処まで情報が出ているのかが判らない限りは何とも言えんな」
本当その通りだよセンセェ…。
ここまで準備しといて効果がなかった時のショックは割とでかいぞ〜。たきなの反応でプラマイゼロにはなるけど、何とか犯人確保の切り札になって欲しいもんだよ。
「…中身が律だってわかっていても脳がバグりそうだな」
「あれ、さっきネタバラシした時は素っ気ない反応だったのに意外だね」
「これでも動揺はしてる方だよ。声まで一緒とか本当に律か?」
「そんなに信じられないなら自分で確認してみたら?」
俺はそう言いながら両手を頭の位置まで上げる。
フッ、そこまで気になるのなら自分の手で証拠を掴み取るんだな!!
何処か自信満々に息巻いている俺を見て店長は渋い顔をこっちに向ける。そんな事お構い無しにクルミは俺に近づいて来て…
「……」
「そんな躊躇なくスカートをめくるとは思ってなかった」
「千束は前もトランクスを穿いていたし判断材料にはならないな」
つまり俺は無駄に下着を見られただけって事じゃないか。しかもトランクスって情報付きだし。
俺が恥ずかしさを誤魔化す為にそっぽを向けていると、クルミとミズキはニヤニヤしながら席に戻り、目が合った店長ことミカは優しそうな笑顔をこっちに向けてくる。
ヤメロ、先生のその仲間を見つけたみたいな微笑みヤメロ!!
居た堪れない空気に耐えきれないでいると、店に入店を知らせるベルの音が響き渡る。音につられて入口の方を見るとそこには買い出しから戻ったたきなの姿があった。
「店長、買い出しから戻りました。領収書は袋に入っています。…で、千束は何処に行ってたんですか?」
「え?えっと…ずっとここに居たけど…?」
「……そうですか、今日の夕飯は時間が無いので昨日の残りにしますね」
「りょ〜かい」
ふっ、危なかったぜ。こんなに急に戻ってくると思ってなかったから適当に返事したけど、我ながらかなり千束に似ていて満足満足。
さて、大人組も全員いるしそろそろネタバラシを……
俺がそう思って椅子から降りようとした時、ふわっと頭上が軽くなるのを感じる。空気の抜けるような感覚に違和感を覚えながら目の前を見ると、そこには鬘を手に持ったたきなの姿があった。
あれぇ…?
「やっぱり律でしたか。それで、何の理由があってこんな格好をしてるんです?」
「チガウヨーワタシハチサトダヨー」
「律は嘘をつく時に頬を掻く癖があります。さっき喋りかけた時にも頬を掻いてたので既視感を感じてました。それに、千束は私と一緒に買い出しに出たので本人が居るのはあり得ないんですよ」
「わァ…あ…」
一から綺麗に説明されて完全敗北した俺は逃げるようにカウンターの方に俯せる。
マジか、俺ってそんな癖あったのか。それよりもたきなの観察眼鋭すぎるだろ!!こんなっ、一時間もかけて準備したのに…!スカートとか穿き方わからなくて苦労したのに…!!スカートの前後って何だよ全方向同じだろ…!!
俺が苦虫を噛み潰したかの様な表情をしていると頭の上に鬘が戻ってくる。振り返るとそこには首を傾げるような顔をしたたきながそこに居た。
「事情は知りませんが何か理由があっての格好なんですよね?」
「うん、二割くらいはそうで八割くらいはたきなを驚かせる為って理由」
「……まあ、そういう事で理解しておきます」
「たきな、さっき千束と一緒に出たって言ってたけど何で一人で戻って来たんだ?」
クルミからの問に大人組二人が思い出したかのような表情を浮かべる。
そういえば完全に忘れてたわ。何で二人で出て一人で戻って来るんだよ。
「千束は取ってくる物があると言って一旦自宅に戻りました。別れてからある程度時間が経っているのでそろそろ戻ってくる筈…」
「皆のアイドル!!千束ちゃんの参上でーーーーす!!!!」
たきなの声を遮って恒例の挨拶を発しながら千束がリコリコへと帰ってきた。勢いよく扉を開けた千束が千束の扮したままの俺と目が合う。
数秒の沈黙の後、耳を劈くような叫び声が錦糸町に響いた。
「私のドッペルゲンガァ゙ァアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!」
◯●◯●
「へぇ〜誘き出す為にやってたんだ」
「他に何の理由があって制服を借りたと思ってたんだよ」
「……趣味?」
「ド変態ではないか」
自分で言うのも気が引けるけど、ここまでゲームばっかやっている人間の趣味が制服鑑賞な訳あるかよ。
言うのも面倒くさいので黙っていると何らかの準備を終わらせた千束が立ち上がる。
彼女は戻って来た時から制服の上に黄色いポンチョを身に着けている。何でそんなのを着ているのかは聞いていない。面倒くさいから。
「んじゃ、組長さんのとこに行くわ〜」
「すぐ支度します」
「あー、良いよ!すぐ済むし。クルミが制服がバレてるんじゃないかって」
「リコリス制服、ですか?」
「そそ、これなら〜絶対〜分かんな〜い」
そう言いながら千束がポンチョを開帳してみせる。
考え自体は良いが、そもそも色々と問題がある。例えば…
「私服じゃ銃は使えないんだぞ」
「警察に捕まっちまえ」
「そもそも黄色ってかなり目立つのでは?」
「んなことは分かってるよ、下に着てます〜ほら」
そう言いながら千束はポンチョを捲ってみせながら配達へと意気揚々と出ていく。
暗い夜道の中、黄色の後ろ姿が見えなくなったのをたきなと確認してから俺達はリコリコの扉を閉めた。
それじゃ、俺も本来の目的の為に動きますかね。
「俺は今から襲撃現場付近を適当に回ってきますね〜」
「何かあったらすぐ連絡を入れるんだぞ」
「その格好で職質されない様に気をつけるなさ〜い」
「私はこっちで待機しときます」
よし、三者三様のエールを貰ったし俺も頑張らないとな。
外見だけは千束の状態で、俺は現場に急ぐ為に可憐さの欠片もない走り方で向かった。
◯●◯●
「――ああああああああ!!?」
錦木兄妹が出ていった数分後。
静けさを取り戻していたリコリコ内で甲高い叫び声と共に、普段からクールなクルミが取り乱しながら押入れを蹴破って飛び出してきた。
手には普段から愛用しているタブレットを持ちながら駆け寄ってくる。
「見てくれ!これは銃取引の時のDAのドローン映像!殺されたのはこの四人だ!これが犯人に流出して顔がバレてたんだ!」
若干息を上げながらもとんでもない事を告げてそのタブレットを三人に見せる。
たきなが凝視すると、そこには自分がかつて参加した銃取引現場のビルの下で待機していた四人のサードリコリスが、顔まで鮮明に映し出されていた。
「なんでそんなもんが流出すんのよ!?」
「……あの時のハッキングか」
ミズキとミカの会話を聞きながらたきなはある事を思い出していた。以前、千束と律と共に本部に行った時に千束から聞いた話を。
たきなが左遷になった理由は任務中の独断行動__つまり取引現場での機関銃の乱射が原因だ。
だが実際は、偽の取引時間を掴まされた上に、ラジアータがハッキングされたという失態を上層部から隠蔽する為にたきなの独断行動を任務失敗の原因という事にし、たきなを左遷する事で事態を治めたという事だ。
つまり、あの時DAをハッキングした輩が別にいるという訳だが…
「DAもまだそのハッカー見つけられてない様です!」
「アンタの仲間じゃないの!?さっさと調べなさいよ!」
「……っ」
「何よ」
ミズキの発言にクルミはどこがバツの悪そうな表情を浮かべる。しかし何か耐えきれない物があったのか、彼女は思い口を開いた。
「……あの時のはボクだ」
「ハァッ!?」
「どういう事だ!?」
「……依頼を受けてDAをハッキングした。その依頼主に近付く為には仕方無かったんだ……!」
「ちょっと……アンタが武器をテロリストに流した張本人って訳!?」
「っ、それは違う!指定の時刻にDAのセキュリティを攻撃しただけだ!」
「そうですかぁ!おかげで正体不明のテロリストが山ほど銃を抱き締めて、たきなはクビになりましたぁ!」
「もういい!やめろミズキ!」
「映像はそれで全部ですか!?」
小言を言うミズキを制止するミカを横目に、慌乱する心を落ち着かせながら、たきなはクルミへと問いかける。
ここから何か特定出来れば、此方で出来る対応が何かしら増える事を考えての算段だった。
しかし、客間をサッと見渡したクルミは目を見開きながらかなり狼狽えていた。
「っ……おい、千束と律はどこだ!?」
「先ほど配達に行きましたが……」
先程から取り乱しているクルミから二人の名前が出た事に嫌な予感を感じる。そして、外れて欲しいと願っていたこの予感は最悪の形で実現する事になる。
「……全部じゃないんだ……!」
クルミがタブレットを操作し再び三人に見せる。
そこには、先程の銃取引現場でドローンに撮られた千束と律の顔写真であった。
絶句する三人。時が止まったかの様にリコリコ内に静寂が訪れる。
「いかんな、これは……」
ミカの一声で我に返ったたきなとミズキは千束と律の保護に向けて急いで行動へと移る。
たきなは急いで更衣室へと駆け上がりながら、自分の携帯を取り出して律へと連絡を入れる。
それと同時に、ミカも携帯から千束へと連絡を入れていた。
数コール後に繋がった千束は、事情を知らない為に呑気に連絡に出ていた。
『もしもしもしもし?』
「千束っ、敵はお前を狙っているぞ!」
『えっ、それってどういう…』
「事情を話している暇はない、今すぐリコリコに戻ってこい‼︎」
『っ⁉︎分かった』
言い終わると同時に千束からの通話が途絶える。取り敢えず千束はクルミのドローンの援護を受けながら帰って来る筈だからひとまず安心だ。
後は律との合流を…
「店長…」
ミカは自分を呼ぶたきなの声に振り返る。
そこには、いつもの冷静さを失った不安そうな顔をしたたきなと彼女のスマホのトーク画面があった。
普段から報連相を大切にする律は千束と同様に数コールで電話に出るのが普通だ。
しかし、トーク画面に映し出されていたのは(応答なし)の四文字。
そして、その下には簡潔に数文字のメッセージが添えられていた。
ヘルプ
◯●◯●
(クソ痛ェ……)
高速で車に衝突された律は道路に投げ出されてしまっていた。
どうにか避けようと動いたのが功を奏したのもあって骨折程の致命傷にはならなかったが、体の節々からは悲鳴が上がり続けていた。
(感覚が鈍ってるとは言え、ここまでの衝撃なら流石に意識は飛びそうにはなるな)
何処か冷静にそんな事を考えていると律を轢いた車から一人、特徴的な髪型をした男が律の方へと向かってくる。
次々の周りに停まるワゴン車を背に、彼は倒れている律へゆっくりと近づいて来た。
(あれ、コイツ何処かで……)
閉じそうになる目をバレない様に少しだけ開きながら彼の顔を覗き込もうとする。それと同時に長身の男は仰向けにされたソレを仰向けにし、
「よぉ、噂のアランのリコリス」
その一言と同時に、無防備な状態の律に向かって何発もの銃弾が撃ち込まれる音が、辺りに響き渡った。
展開は原作準拠のまま、敵キャラとしてオリキャラを出すのは賛成?(オリ敵は一人で、オリ主の過去に滅茶苦茶関わっているものとする)
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賛成
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反対
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