俺がコイツでこいつがあれで   作:熱々の冷やし中華

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今回で七話は終了


終末、BarForbidden!(最終回じゃないよ)

「え……ヨシさん?」

 

 ミカと律の隣に座る吉松の姿を見て、千束は呆然とした様子で口を開く。

 困惑した様子のたきなを余所に千束が額に手を当てて黙り込んでいると、インカム越しにミズキの困ったように吐き出す声が耳に届いた。

 

 『だぁ〜……逢引きだなこりゃ』

 「『…えっ?』」

 「私としたことが……」

 

 千束とミズキの反応に困惑しながら、たきなは今の状況を冷静に分析する。

 司令でも女性でもなかったにも関わらず、千束とミズキは吉松の姿を目にした瞬間『逢い引き』という単語を口にした。

 つまり、相手が違うだけで予想通りこれは店長の―――

 

 『待て、ミカは()()なのか?お前らそれ先に言えよ!』

 「……行こう、邪魔しちゃ悪い」

 「は、はい……」

 

 インカムと盗聴器を耳から外しながら、千束は二人の視線に触れぬように座席から離れる。

 やや理解が追いついてはないが、たきなは何とか千束の指示に従って立ち上がる。

 そそくさと持ち場を離れる千束を余所に、後を追って撤収の準備を行うたきなにふと一つの疑問が浮かんだ。

 

     店長はどうして律を連れて来たのか?

 

 右耳にある盗聴器を指でなぞりながら、たきなは千束の背中を追いつつ身を屈めながら思案する。

 プライベートでの会話に接点のない律を巻き込む意味が分からない。

 考えを巡らせていると、盗聴器から三人の会話が耳へと届いた。

 

 『手術後、私は()()()にあの子を託した。――その意味を忘れたのか?』

 

 リコリコでの温かい口調と打って変わって、冷たい声色で吉松は律とミカに問いかける。

 千束が動きを止めて三人の方に視線を向けているのは、先程の吉松の言葉が盗聴器越しに聞こえたからだろう。

 そんな千束の様子を見ながら、たきなは吉松の言葉に一つだけ違和感を覚えていた。

 

 『手術後、()()()にあの子を託した』―――つまり店長と律は千束の心臓の件に関わっているという事だ。

 だが、店長どころか律まで関与しているとは一体―――

 

 「何の為に()()()()()を救けたと思っている?あの治療薬と心臓だって、アランの才能の結晶なんだぞ」

 

 その一言に、千束とたきなの動きが完全に止まる。

 千束だけじゃなく律も?彼は何かしらの持病があるのは知っているが、それも吉松が何か関与しているって事なのか?

 あまりの情報量の多さに、たきなの頭は処理が追いつかずにいた。だが、千束は相棒の様子もお構い無しに三人の方へと歩み寄る。

 

 「ちょ…ちょっと、千束―――

 

 「……だから松下さんを使って殺させようとしたんですか?」

 「才能は神からのギフトだ。必ず世界に届けねばばらん」

 「それが千束を悲しませる理由にはならないって言ってるんです」

 「他人事の様に話しているが、約束を破っているのはキミもだ」

 「…じゃあ、今ここでアンタを殺せばそれで満足します?」

 

 そう言いながら、律は吉松の頭に何かを押し当てる。

 指と指の間から黒光する金属のそれは、一般人が普段目にする事がない、いとも簡単に命を奪う事が出来る物。

 律が()()を持つ姿を、たきなが見るのは初めてだった。

 

 「律…!」

 「…銃が揺れているよ。今のキミにはまだ無理なんじゃ( 撃てないんじゃ) ないかな?」

 「………っ」

 「……一般人もいる、早く仕舞いなさい」

 

 落ち着きを取り戻した律は、ミカの声に呼応する様に内ポケットに持っていた拳銃を入れる。

 一触即発の空気が解けると同時に、息を殺していた千束は二人へと声をかけた。

 

 「…ヨシさんなの?」

 

 その一言にミカと吉松は驚いた様子で振り返る。

 ただ一人、真ん中にいた律だけは天を仰ぎながら手で顔を覆っていた。

 

 ◯●◯●

 

 あ〜終わった…

 盗聴器が仕掛けられた直後にバレない様に破壊しとくべきだった。

 

 千束が探していた、アラン機関の人間( 千束の救世主)

 それが吉松な事は昔から知ってはいた、直接彼に聞いたから。

 だが、彼は千束が思っている様な理由で俺達を助けた訳では無い。

 その事を知られたら、千束への精神的なダメージは計り知れない。

 

 「…ミカ」

 「いや違う!」

 「やったのは俺達です、先生のせいじゃない」

 

 俺は吉松の目の前で、服に仕込まれていた盗聴器を見える様に取り出す。

 吉松と先生の二人が呆然とそれをミていると、訂正を入れるように千束とたきなが会話へと入った。

 

 「ごめんなさい。先生のメールをうっかり見ちゃって……」

 「司令と会うのかと……」

 「お前たち……」

 「でも、今の話。ちょっとだけ……ちょっとだけ吉さんと話をさせて!」

 

 千束の必死の懇願に、吉松が耳を傾ける。

 

 「千束、吉松は……」

 「分かってる、律があんな事したのには何か理由があるって。でも、それでも話したいの」

 

 ……俺って兄失格だな。

 俺と違って千束は覚悟が決まっていたんだ。

 勝手に耐えれないと決めつけて、勢いで殺そうとした俺と違って。

 

 「…すみませんでした、少し頭を冷やして来ます」

 

 そう言いながら俺はバーの出口へと駆け足へ向かう。

 ただ、これ以上この場にいるのが嫌だった。

 

 外の空気を吸う為にエレベーターを待っていると、スーツ姿のたきなが隣に並んだ。

 何か話しかけようかと考えた瞬間、エレベーターの到着を知らせる音が鳴る。

 一階へのボタンを押し、扉が閉まった瞬間にたきなは俺に話しかけた。

 

 「銃、持ってたんですね」

 「…昔は使ってたからね」

 「何で使わなくなったか聞いても?」

 

 意外とグイグイ聞きに来るなこの娘。

 たきならしいけど少しは遠慮しないもんかね。

 

 「……あんまり話したくない」

 「わかりました」

 「無茶苦茶聞き分けいいな!?」

 

 ビックリしすぎて反射的に言っちゃったよ。

 雰囲気と合わない発言をした自分に若干驚いていると、口元を抑えながら笑っている様子のたきなが目を合わせて言った。

 

 「いつか、必ず教えて下さいね」

 

 その一言に、またもや固まってしまった自分がいる。

 応えるのは簡単だ、少し時間が掛かるだけで複雑な内容ではない。

 だが、この事を話して彼女との関係性が変わってしまうのが怖い。

 俺にはまだ、千束やたきなと違って覚悟が出来ていないんだ。

 それに、彼女に全てを話せる様になるまでに俺に残された時間は――――――

 

 「…うん、いつか話すよ」

 

 何処か嬉しそうに頷く彼女に、俺は大きな嘘をつく。

 別に残された時間は決して少ない訳じゃない。だから、いつか約束を果たそう。

 

 「…にしてもキマってるね、それ」

 「スーツの方が緊急時に動きやすいので」

 「髪の方は戻したんだな」

 「……変でしたか?」

 「いや、似合ってたよ。いつもと違う魅力があって俺は好きだった」

 「……ありがとうございます」

 

 たきなは少し顔を赤らめながら、再び解いていた髪を結び直そうとする。

 なぜ急に髪型を変える必要があるのかを聞く前に、エレベーター内に一階への到着を知らせるアナウンスが響き渡る。

 たきなと共にビルの自動扉を出ると、丁度目の前に一台の車が停車した。

 ……こんな車はリコリコに無かったよな?

 見るだけで高級だとわかるソレに困惑していると、後ろから足音が近づいて来ていることに気づく。

 

 「こんな所にいたのかい?」

 

 コイツの車かよ。

 

 「キミもまた、関係者である前に一人のアランチルドレンだ」

 「………」

 「私との約束もだが、その才能の在り方を忘れるんじゃないぞ」

 「…千束達に手を出したら、今度は容赦しない事も忘れずに」

 

 これ以上話しても何の意味もない。

 吉松に視線を向けるたきなの手を取り、俺は半ば強引にその場を後にしようとする。

 しかし、彼女の手をいくら引っ張っても、たきなは動こうとしなかった。

 

 「あの!」

 

 その一声に吉松が反応する。

 

 「先程はお邪魔してしまって……でも、千束喜んでました。またお店でお待ちしています!千束はずっと貴方を――」

 「キミならば分かる筈だ。……千束の居場所がここではないと」

 

 予想外の一言に、彼女は息を呑む。

 何を言っているのか理解出来なかったのだろう。

 千束の気持ちを無下にされた事への動揺もあってか、彼女はしばらく固まったままでいた。

 その間に、吉松は何か怪しい表情をたきなに向けながら車へと乗り込む。

 エンジン音を立てながら車が走って行くのを、たきなは怪訝そうな顔で見送った。

 

 「戻りましょう」

 「…ああいう人だ。たきなが気に病む必要はない」

 「…………」

 「あと、勝手に手握ってごめん」

 「…今はこのままで良いです」

 

 俺はたきなと共にミズキ達が待機している場所へと戻る。

 俺の手を握るたきなの力が、何故か少し強かった。

 

 

 

 

 

◯●◯●

 

 

 

 「伊藤さん、落ち着いて聞いてくれ」

 「聞こえない聞こえない」

 「電話の主は編集長さんだ。そして、まだペン入れ作業が20p残っている」

 「鳴ってない鳴ってない」

 「さっき締め切り時間はまだ過ぎていないと言ったよな?」

 「そうよ律くん、まだ間に合う――」

 「あれは嘘だ」

 「ウヷアアアアアァァァァ」

 「結局これか……」

 

 絶望的な現実を直視出来ずにいる彼女を見ながら、クルミがポツリと呟く。

 最早リコリコの風物詩となっている伊藤さんの期限切れイベントが今月もやってきていた。

 一番新入りであるクルミが見慣れている様子から、これが珍しい事ではないのは明白である。

 

 「律くん、本当に手伝わなかったんだね」

 「人聞きが悪いな北村さん、俺は伊藤さんが直前で覚醒して原稿を描き切ると信じていただけですよ!」

 「じゃあその手に持っている応援団扇はどう説明するのかな?」

 「…いやぁ、今日も天気がいいですね!!」

 「その回答は肯定を意味すると思うけど」

 

 聞こえない聞こえない、俺は何も悪くないもーん!!

 俺が北村さんからの正論を躱していると、奥から露出度がやや高いドレスを着飾ったミズキが歩いてきた。

 ついに俺は幻覚まで見える様になったらしい。

 

 「ミズキ、おまっ……日の高い内から何っちゅう格好してるんだ!?」

 「あれ、クルミにも幻覚が見えてるの?」

 「ボクも幻覚であって欲しかったよ」

 「ミズキさん、お出かけ?」

 「まあねぇ〜」

 「キマってるね!!」

 

 【悲報】ドレス装着ミズキ、幻覚じゃなかった

 

 何処か艶めかしい雰囲気を醸し出すミズキに嫌悪感を覚えていると、クルミが当然の疑問を投げかける。

 

 「どこ行くんだ?」

 「もちろん昨日の高級バーよ。お子様連れで入れなかったけど、私一人で行けば入れますから」

 「大人の女性が入れても、独身の酒呑みが入れる訳じゃないんだぞ」

 「だから何よ、このゴールドカードで入るから無問題…」

 「そのIDならもう消したわ」

 「何で!?高級バーよ!?」

 「お前が低級だからだ。いいから座れ」

 「そもそも普通に犯罪定期」

 「ヤダ!絶対行く!!」

 

 ミズキは半ば投げやりになりながらリコリコを飛び出して行く。

 その様子を見ながら、俺は先生とたきなの元へと近づいた。

 

 「……遅いですね」

 「今日くらいは休ませてやろう」

 「…律は大丈夫なんですか?」

 「俺は大丈夫だけども……」

 

 正直、千束に会わせる顔が無い。

 彼女の為とは言え、十年間も秘密にし続けてきたんだ。

 拒絶されたりしても何も文句は言えないな。

 

 「私は、律が思っている程千束は怒ってないと思いますよ」

 「少なくとも今日来れない位は落ち込んでる筈だ。もし明日来てくれたらその時はちゃんと謝ろーー」

 

 「千束が来ました!!!!!!

 

 

 ……人が決心した瞬間にそれをぶち破るのヤメてよ!!!

 無茶苦茶心配したのに何元気に出勤して来てるんだ、もっと落ち込め(ヤケクソ)

 

 「千束、早く早く〜」

 「おお〜!!最新話出来ました⁉︎読む読む‼︎」

 「昼休みが終わっちゃうよ、早く早く‼︎」

 「ダメ!これは遊びじゃないんだから!」

 「千束!営業始まってるんですから早く着替えてきてください!」

 

 千束がいつもの様に常連と交流しているのを見ながら、たきなが嬉しそうに彼女を呼び掛ける。

 ハイハイ、と言いながら此方に近づいて来た千束は、俺に対して変わらぬ様子で喋り掛けた。

 

 「おはよ、律‼︎」

 「……あぁ、おはよう」

 「ねえ聞いてよ、昨日観た映画がさ〜……」

 

 いつもと変わらない日常が、再び動き出した。

 




 書いてみたら意外と長くなったので遅くなりました。
 えっ、連続投稿?ハハッ(絶望)


 
 

今作のタイトルの略、何が良い?

  • 俺コイ
  • 俺あれ
  • コイアレ
  • その他(案があったら感想欄に書いてね)
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