格納庫での一件後、彼女は不機嫌なままだ。
しかし、離れる様子はない。
今現在も手を引かれるがまま飲食店へと入店していた。
向かいの席で彼女は腕を組み椅子に背を預け足を組んでいる。
彼女の耳はこちらを向いており、鋭い目は私を射抜いていた。
「ねえ、考え直して」
低い声でそう言うと彼女は身を乗り出した。
「私は意地悪で言ってるんじゃないの、心配だから言ってるの」
「十分頑張ったのだから、これからの世代に託してもいいじゃない」
相変わらず鋭い目つきだが怯えがにじんでいる。
彼女も撃墜された身、故にここまで心配しているのだろう。
「予備役だから前線に行けないよ」
戦闘部隊の再編制で身体的ハンデがある私は主力から降ろされることとなる。
お上としては主力に入れられないが首にするには惜しい人材ということだ。
そのため、私たちのような人材は予備戦力として留めつつ後進の育成を行う考えなのだろう。
「でも予備戦力なのだから、出撃はあるでしょ」
実際、予備戦力なので出撃はある。
主力を動かすような事案でないものが主な任務だ。
「それはそうだけどさ、心配しすぎだよ」
「機動訓練や演習で問題は起きてないし、まだまだやっていけるよ」
私の言葉に彼女は眉をしかめる。
撃破後の機動訓練や演習はそれは酷いものだった。
操縦席に座ることすら辛い、死の恐怖を乗り切るのには時間がかかった。
周りから浴びせられる憐みの視線、とても惨めな思いをした。
彼女も機動訓練や演習で後輩に手ひどくやられたこともあり、その辛さを乗り越え復帰した。
向かいの彼女は溜息一つ吐いて背もたれに身を預けた。
「貴方の決意の固さはよくわかった」
「でも、何かあったら許さないから」
彼女は私を一睨みしてメニュー表に目を通し始めた。
あの戦闘でお互い辛い思いをした者同士、失うのが怖いのは確かだ。
ふと、店の中を見回してみる。
進駐軍の職員や王国騎士団の団員が多い。
入店を知らせるベルが鳴り、店員が明るい声で出迎える。
王国騎士団の制服に短めの髪から見える長い耳、中性的な顔立ちをしていた。
彼女はこちらに気付いたようだ。
ヘルマが小さく手を振った。
嵐は過ぎたと思っていたが台風の目だったのかもしれない。
「ヘルマちゃんにフランツさん、お疲れ様です」
彼女の名はミリー、王国騎士団の主力部隊の一員であり私を撃墜した人だ。
ヘルマの脇に座ると早速、話が始まる。
「ミリー、貴女からも彼を説得して」
「え?」
唐突なお願いに困った顔をするミリーに私が説明する。
「ヘルマがA7Vへの改修を許してくれないんだよ」
彼女の顔がみるみる曇り始める。
無理もない、原因を作った張本人なんだから。
「その、あの時は…」
気まずそうに切り出すミリー、またこの流れだ。
「やめろ、済んだ話だ」
彼女の言いかけた言葉を遮った。
あの一件は不幸な誤解から発生した事故ということになり、この問題は解決した。
しかし、二年経った今でも彼女は自身を許すことができていないのだろう。
「すみません」
彼女は申し訳なさそうに視線を落とす。
「ミリー、むしろもう一度落として欲しいぐらい」
ヘルマは少し嫌味ったらしく言う。
「そうすれば、少しは考えも変わるかしら?」
彼女は脇のミリーにメニュー表を譲ると視線を窓の外に移した。
頭頂部の耳はこちらを向いている。
「フランツさん、本当に大丈夫なんですか?」
ミリーは心配そうにこちらを見ている。
彼女も私の復帰までを知っているからなおさらだ。
「今じゃ撃破前と同じぐらいまで戻ってきてるよ。」
このままいけば主力へ返り咲きできそうだと冗談めかして言ってみる。
ヘルマの目線が鋭くなる。
「もし練習相手が必要なら言ってください」
ミリーは心配そうな声から一転、しっかりとした口調で述べた。
「私に手伝わせてください」
ミリーの一言にヘルマは目を見開いた。
「ミリー?!」
「ヘルマちゃん、私が奪ったものだから」
ミリーがメニュー表をこちらへ差し出す。
「返させてください、ちゃんと」
「あの時と同じように」
こちらを見据えた彼女の眼に迷いはなかった。
誤字等あったら教えてください。