私は元気です。
UAが2000を超えた事に驚愕しております。
読んでくれる皆様には心から感謝を述べたいです。
執筆の励みになっております…だいすこ!!
こんな作品ですがこれからも楽しんでいただけると幸いです。
格納庫から出ていくオットー君達を見送ったあと我々も退散する事にした。
外に出れば日が傾き始めていた。
「ミリーさんは午後の業務は大丈夫なのかい?」
私の問いに彼女は小首を傾げた。
昼食から彼女はずっと行動を共にしている。
制服を着ている事から出勤しているのではないのだろうか。
「あぁ、午後からお休みを頂いたんですよ」
まるで忘れてた様に答える彼女。
なら尚更、私達の所で油を売らずに帰宅すべきだろう。
「いいのかい?せっかくの休みをこんな所で潰して」
「いや、その…する事が無くて…」
困ったように笑う彼女。
我々SPzG乗りで多く見られる職業病だ。
「せっかくの休みが勿体無い、ヘルマも何処か出かけて来たら?」
振り返り、患者2号に視線を向ける。
「余計なお世話、私は好きでやってるの」
彼女は格納庫入口のベンチに座り、こちらに鋭い視線を送っていた。
ミリーはフフっと小さく笑った。
「ヘルマちゃんは貴方にお熱だから」
「ミリー!」
ミリーの一言にヘルマがベンチから立ち上がって詰め寄る。
やいのやいのと賑やかな2人から視線を上げる。
暗く重たい雲に所々青空がのぞいていた。
ミリーの言葉に私は内心、そんな気はしていた。
ヘルマは私が撃墜されてからずっと側に居てくれた。
撃墜された同士、お互い励まし合ってここまで来た。
逆に私が足枷になってしまっているのではないのだろうか。
彼女はあの日を五体満足で生還し、SPzG搭乗員として復帰を果たした。
今では後輩たちを教育する立場だ。
私はどうだ?
足を無くして予備役配備となった私は民間と教練隊の業務をこなす毎日。
安定した日々、私は自身の運命を受け入れて来ている。
しかし、心残りが消えるわけではなかった。
だからこそ、今一度戦いたいのだ。
限界を迎えつつある私と機体、その限界を越える時、私は本当の意味であの日から立ち直る事ができるのだろう。
「ねぇ!」
ヘルマに呼ばれ、思考の海から現実に浮上する。
私の前に立つ彼女は不安そうな顔をしており、頭頂部の耳も少し後ろを向いていた。
「大丈夫?」
彼女が私に問いかける。
何についてか私は皆目検討が付かない。
「何がだい?」
「どこかここじゃない、遠くを見てたから」
頭頂部の耳が彼方此方と向きを変えて周囲を伺っている。
迷っているのだろう。
ミリーも心配そうな表情をしていた。
「少し考え事してた」
心配させないように笑顔を作り声色に気を配る。
上手に笑えてるだろうか。
「まったく、夜ご飯は何にするの?」
ヘルマは少し不満そうにそう告げると今後の予定を話始める。
私が歩き出すと左脇にピタリとくっついて並ぶ。
彼女は常に私の左脇に居る。
義足の私が転んだ時に助けられるように。
「特に考えてなかったな」
「やっぱり、じゃあミリーも居るしクリームシチューね」
するりと彼女の尾が手首に巻き付いた。
「この調子なら雪はすぐに溶けそうだね」
ミリーが困ったように笑いヘルマの左隣に並んだ。
「あら、ミリーも王子様を見つけてたでしょ?」
ヘルマの仕返しに顔を赤くする彼女。
「いや、あの人はそういうのではなくて」
「施設警備隊のヨハンに出迎えられて顔が緩んでいたわよ」
容赦のない追撃をするヘルマにミリーは更に顔を赤くする。
「施設警備のヨハン…」
ヘルマの改修装備等操作運用講習に出席していた彼だ。
2年前のあの日、捜索隊の支援部隊に居た彼は絶えず照明弾を打ち上げてくれた。
そのお陰で多くの生存者を救うことが出来た。
彼らの活躍は夜間救援隊として今もなお語り継がれている。
「彼は元気にしている?」
私はミリーに問いかけた。
彼女は少し複雑そうな顔をする。
「元気だけど貴方の事を気にしてた。」
「彼には話したの?」
彼女は静かに首を振る。
言えるわけがなかった。
あの日の戦闘にも彼らは支援部隊として作戦に従事していた。
味方を助ける支援部隊なのに助けられない、あの日に嫌と言うほど思い知らされたのだろう。
どうしても取りこぼしてしまう事はある。
「いつか話さないといけないね…」
ミリーは少し不安そうに呟いた。
彼女もまた新たな一歩を踏み出そうとしていた。
終わり始める今日、相変わらず身に染みる寒さだ。
「そんなに心配する事じゃないよ、むしろ誇るべきだ」
私の言葉に彼女は目を見開いた。
左手首が少し緩んだ。
「じゃないと私の立つ瀬がないよ」
笑いながら冗談めかして言った私を複雑そうな顔でミリーは見ている。
ヘルマはこちらを一瞥し視線を戻した。
しかし、頭頂部の耳はこちらに向いている。
「私は貴方の足と人生を…」
ミリーは絞り出すような、今にも消えそうな声でそう呟いた。
「確かに装甲駆逐中隊には戻れない」
「足のある時と違って操縦もハンデがあるのは理解してる」
「本当に恨んだし、絶望したよ、本当にね?」
少し驚いた顔で此方を見上げたヘルマの横でミリーは静かに聞いている。
「でも終わった訳じゃなかったんだよ」
撃破されて足を失って。
トラウマと足を無くした苦痛に耐えて操縦の練習をして。
イーザとの演習で惨敗して。
確かに私はもうダメだと思った。
全て失ったと思った。
「終わりは始まりだったんだ」
「ヘルマやミリーのお陰で少しずつ新しい体に慣れて操縦も上達した」
「ヘルマが持ってきた民間の仕事も新しい道を知るには悪くはなかった」
多分あの時の私に必要だったのは、これまでとこれからを見直す時間だったのかも知れない。
それに気付くまでの安心を彼女たちが私に貸してくれた。
ちらりと彼女の顔を見れば少し不満そうだ、悪くはなかったの部分が気に障ってしまっただろうか。
「確かに想像通りに行かなかった」
予想より上手く行かない事のほうが多かった。
「その分遠回りしたけど」
辛く長い道のりだった。
「正解が見つかった気がするんだ」
元の場所に戻るのではなく、無くした足でどこまで跳べるか。
私は彼女に笑顔を向ける。
彼女たちから借りた安心を私が返す番だ。
ミリーの瞳から涙が頬を伝う、それは安心か救いか彼女にしかわからない。
「もう大丈夫、もう気にしなくていいんだ」
声を抑えて泣く彼女をヘルマと2人で抱きしめた。
私たちを照らすように街灯が灯って行く。
寒空の下、暖かな光が降っていた。
想像の通りにいかなかった分だけ
遠回りした正解で安心を
きみに返している
稲葉曇様の「きみに回帰線」より
私の人生も想像通りにいきませんでした。
だからこそ、この曲が好きです。