私は元気です。
寒くなってきましたね、流行病に注意してご自愛くださいませ。
今回は難産でした。
見切り発車はやはり良くないですね(今更)
「夕飯はもう少しでできるからそこで待ってて」
教導隊の制服の上着を脱ぎ、エプロン姿のヘルマがご機嫌そうに尻尾を揺らしキッチンに立っていた。
ほぼ日常と化してきた光景に改めて危機感を覚える。
あれから2年、共に復帰を目指してトラウマを乗り越えて来た仲とは言え同棲状態と化してしまっている。
お互い依存してしまっている様な気がしてならなかった。
「私が一緒の方がお互いに楽でしょ?」
義足がまだできる前、彼女の復帰訓練をしていた時に彼女がそう提案したのが始まりだった。
そこから義足が出来ても
「危ないから私が一緒に居てあげる」
と彼女は言いながら共に過ごす事になる。
「私の代わりなんて居なくていいでしょ、この方が効率的だし」
一年が過ぎても彼女はそのままこの生活をしている。
確かに今までなら私が義足に慣れていないから補助者が必要だったが今は違う。
あれから2年、義足の生活にも慣れいい頃合いだ。
「ほら、もうすぐ出来上がるから机を拭いてちょうだい」
ヘルマは振り返り様に机を拭く用の布巾をポンとテーブルに投擲した。
私は食卓を拭きながら彼女の背を眺める。
頭頂部の白い耳がピコピコと動き、時折こちらに向いていた。
雪のように白い髪が調理に合わせて揺れる。
白い尻尾はゆったりと動いていた。
「なぁ、ヘルマ」
「なぁに?」
彼女の名を呼ぶと調理中の手元から視線を外さずに返事が返って来た。
しかし、ちゃんと頭頂部の耳がこちらを向いている。
次の言葉が喉に詰まり、口の中が乾燥した。
「大事な話があるんだ」
私の言葉に彼女の耳と尻尾がピンッと立った。
手を止め振り返る彼女の目には期待の色が滲んでいる。
彼女の想像している話ではないことに少し後ろめたい気持ちになった。
「少しお互いの生活を見直してみないか?」
私の言葉に彼女は顔を顰めた。
「は?」
低く鋭い声で彼女は返す。
不機嫌になったのは一瞬で分かった。
「あれから2年も経ったんだ、私も義足に慣れて来たし…」
「ダメ、まだ危ないわ」
私が言い終わる前に彼女の言葉が遮る。
しかし、ここで引き下がるわけには行かない。
「もう転ばずに歩けるし、操縦も日常生活も問題ないよ」
「だからヘルマも私に付きっきりじゃなくて大丈夫だよ」
私の反論に彼女は鋭い視線を送る。
納得していないのは明らかだった。
「は?私が嫌々貴方の世話を焼いてるって思ってるんだ?」
「そうじゃないのは理解してるよ…でも私達は教導隊の職員なんだ」
「じゃあなんなの?問題ないでしょ?!」
指導する人間がこれでは生徒たちに良い影響は与えないだろう。
常日頃から彼女の執着に似た感情を感じ取ってはいた。
そうでなければ私が操縦席に戻る事にあそこまで反対しない筈だ。
そして私も彼女に依存してしまっている。
彼女と過ごす日々は好きだし、この歪な関係に居心地の良さを感じていた。
だからこそ一度距離を置いて、その執着心がなくなってから正しく関係を進展させるべきだ。
同時に私が足枷になりそうで嫌だった。
「交際している訳でもない男女が一緒に暮らしている…生徒たちの模範としてよろしくないじゃないか?」
私の意見に彼女は不機嫌そうに鼻を鳴らすと腕を組みこちらを睨む。
「じゃあ、私が彼女になる」
「それなら問題ないでしょ?」
彼女の言葉に私は頭を抱える。
文字通り彼女は全てを捧げるつもりらしい。
「なあ、君はもっと活躍できると思うんだ」
「私を想って一緒にいてくれているし、今まで支えてくれたのは、とても感謝しているんだ」
視線を上げれば不安そうなヘルマと目が合った。
「絶対に嫌」
頭頂部の耳は後ろに倒れ、身体は微かに震えていた。
「だからこそ、君の足枷になりたくない」
「なぁ、改めて関係を見直そうヘルマ」
「なんで?なんでなの?」
私の言葉に彼女は堰を切ったように言葉を紡いだ。
「足枷になる?そうなるようにしたのは私!」
「貴方はボロボロになっても絶対に機体から降りなかった」
「だからせめて私が管理できる範囲に貴方を縛った!」
「その為に教練隊へ推薦したし、あの仕事だって取ってきた!」
「ずっと不安だった、貴方はいつもここではない遠くばかり見てるから」
「こうでもしないと貴方も私の両親や戦友のように遠くに行って消えてしまうような気がしてならなかった!」
普段感情を表に出さない彼女が涙を流しながら語る姿に私は黙って聞くほかなかった。
「貴方は私を親切な友人だと思っているようだけど私は違う!」
「私をあの装甲の棺から救い出してくれたのは貴方!」
「私の戦友を助ける手助けをしてくれたのも貴方!」
「私が操縦席に戻れるよう支えてくれたのも貴方!」
「今の私を構成する人生の多くを占めてるのは貴方!だからこそ失うのが怖い!」
顔を手で覆い、彼女が泣いている。
彼女にとって私という存在がそこまで大切に思われている事に少し嬉しさを感じたが事態は深刻だ。
彼女もまたあの日に囚われている。
私も彼女も仲間を失った。
そのトラウマを抱えて彼女はここまで来たのだ。
誰も失わない為に機体に乗る彼女と失くしたモノを取り戻す為に機体に乗った私。
しかし年月が経つにつれて私の考えは変化していった。
確かに失くしたモノを取り戻したかったが結局それは不可能な事だと悟った。
どんなに頑張っても足は戻ってこないし、偽情報に踊らされ同士撃ちで死んでいった仲間達は帰ってこない。
起きた事はもう変えられないんだ。
だから私はそれらを受け入れる事にした。
失くした仲間達の遺品と足でどこまで高みに至れるか。
それを目標に日々私は生きていた。
たとえその先に死が待って居ようとも、怖くはなかった。
なんだか先立って行った仲間達が待っているような気がして恐怖心は湧かなかった。
「なぁ、ヘルマ」
「それじゃあ、あの日に囚われたままじゃないか」
「あの日から私は練習を重ねてこの間の授業の演習を披露できるまで回復したんだ」
「心配いらないよ、私を信じてほしい」
「私はもう大丈夫だよ」
ピクリと耳が反応し、彼女は顔を上げた。
「なら、模擬戦で私を倒せたら信じてあげる。」
「負けたら私の言うこと聞いてもらうから」
彼女の鋭い視線が私を射抜いた。
「大丈夫だと言うなら、証明して!」
「私のことを撃墜してみせて」
有無を言わさぬ彼女の言葉に私はゆっくりと頷いた。
年末と年明け早々に忙しくなるため気長に待ってていただけると幸いであります。