私は再び操縦席に身を置いている。
操縦席から動けなくなった記憶が頭から離れない。
冷や汗が止まらない。
「ヘルマ?無理そうなら辞めよう、急ぐことはない」
無線越しに聞こえる優しい声が現実に引き戻す。
私は呼吸を整えメインモニターへ目を向ける。
基礎講習で何度も見たコースなのに怖い。
「始めて」
彼へ返答し操縦棍を握りしめた。
「よし、そのまま歩行移動しよう」
彼の指示に従い歩行移動を開始する。
一歩を踏み出すたびに恐怖が顔を出す。
「撃破された後はみんな操縦席が怖くなる」
「まずは、その恐怖を消していこう」
カメラのズーム機能で管制室の様子を窺う、彼が見守っていた。
カメラを等倍に戻し、私は歩行移動を実施した。
一歩、また一歩と歩みを進める。
始めて機体を操縦した時を思い出す。
不安でいっぱいだったが、回数をこなしていくと自然と楽しく感じていた。
演習訓練をする頃には自信が付いていた。
今は?死の恐怖が離れない。
今すぐここから逃げ出したい。
「気分はどう?」
「最悪」
彼の問いにキツく当たってしまった。
私の心が弱さ故に死の恐怖を克服できていないのに。
「だろうね、まだ1ヶ月しか経ってない」
私の言葉に彼は変わらない優しい言葉をかけてくれる。
「いいかいヘルマ、恐怖は自分を守るセンサーなんだ」
「逃げたくなるのも、言葉がキツくなるのも、生き物の防衛本能なんだよ」
「心が弱いからじゃない、普通の事なんだよ」
彼の言葉が頭に響く、心の中を見通しているのだろうか。
「なんでわかるの」
私はそんな問いを投げかけていた。
彼は少し笑うと語り出す。
「私もそうだったんだよ」
「初めての出撃で怖くなったんだ」
「だから、自身を責めることはないんだよ」
彼の言葉に私は救われた気がした。
操縦桿をしっかりと握る。
恐怖心は少し和らいだ。
しっかりと正面を見据える。
視界にあの日がフラッシュバックする。
「大丈夫、ここには敵は居ない」
私は移動速度を上げた。
脚部履帯で戦闘移動へ切り替える。
コースに沿って移動する。
視界が歪む、でもここでやめたくはなかった。
重いペダルを踏み込み加速する。
まるで恐怖心を振り切るように。
しかし、私の体が限界を迎えた。
胃酸が逆流する。
私は思わず機体を停止させた。
しかし、その衝撃が私に止めを刺してしまう。
操縦席へ胃の内容物をぶちまけてしまった。
咆哮にも似た吐瀉はしばらくして収まる。
「ごめんなさい、吐いちゃった」
彼へ事後報告する形となり謝罪する。
「仕方ない、今日は此処までにしよう」
「ごめんなさい」
「いいんだよ、よく頑張ったね」
彼は責めることなく、労いの言葉をかける。
どうしようもない私の無力さが突き刺さった。
五体満足の私が失ったものは思っているより大きかったことを実感した。
失敗したことやケガした記憶って結構辛いですよね。
皆さまどうか健やかに生きてくださいませ。
誤字あれば教えてください。