TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#101

今まで築いた伝手を全て使って手に入れた必要な物。

 

「…」

 

列車を走らせている途中、スフェーンはこの列車で唯一窓の開閉ができる運転席横のいつもの乗降用の扉の窓を開ける。

この速度で走らせているので風が凄いが、その中に持っていたカード…例のネクィラムが作った銀行口座のデバイスをへし折ると窓の外に投げ捨てた。

 

「…コレで終わりになると良いが」

『お互いに袂を分つ、と言う意味では祈るしかありませんね』

 

窓を閉じ、密閉された列車の中でスフェーンは新しくなった自室に入る。

 

『しかし、こう言うキャビンもあるんですね』

「乗り心地はあまり良く無いらしいが…」

 

そう言いながらも所々に客車の面影を残している新しい部屋だが、台所含め家電類はケチケチした為に前から据え置きである。

ただ台所に排水口を設けた事で、垂れ流しではあるが台所排水をトイレに流す必要がなくなった。…今考えても酷いな。

 

「まぁ、コレで下準備は整ったし…取り敢えず寝ますか」

 

ベッドの上に転がって毛布を被るスフェーンは天井を見上げる。

ジンベイザメのぬいぐるみを抱きながらスフェーンはベッドで横になる。

 

「ZZZ…」

 

そしてそのまま寝息を吐いて寝始める。

時折、コンピューターの電源が落ちるように睡眠をとる事があった。目覚ましはルシエルがしてくれる。

 

『やはり、スフェーンに関しては分からないことばかりですね』

 

ルシエルは目の前で寝ている自分と同じ姿の少女にため息を吐く。

 

『私達は一体、どんな理由で生まれてきたのでしょうか?』

 

ルシエルは呟き、少しだけスフェーンの体を借りると、彼女の灰色の瞳は虹色に変化してジンベイザメのぬいぐるみをベッドに置くと窓の外の景色を眺める。

 

「美しいですね…」

 

空に上がる月と少しズレた位置にもう一つの星、軍警の持つ宇宙要塞『ニアー・ルナ』が見える。

防砂林が所々に植えられている線路沿い。その上で二つの月が昇り、二つの宇宙要塞が常に自分たちを見下ろしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

数日後、列車は仕事を受けてある都市の貨物ターミナルに侵入する。

都市の名はイルカ、至って普通の都市であり、ただ大都会というほどでも無く。ハイパービルディングの一つも立っていないほどの都市である。

 

『イルカに到着いたしました』

「ん〜」

 

列車は貨物ターミナルに停車し、そこで依頼完了の証であるガントリークレーンが近づいて列車の荷物を吊り上げていく。

ロックが自動で外れ、回収されていくコンテナ。

 

「終わった〜」

 

いつもの依頼を終え、列車を降りて背を伸ばしたスフェーンはそこでついでに一服する。

 

「取り敢えず夜まで待つか…」

『ですね』

 

目の前をトレーラーが走って行き、貨物列車が出発していく。

 

「でもその前にローン返済すっか…」

 

軽くため息を吐きながら彼女は運輸ギルドの横の銀行に向かう。

 

「ローンのお支払いですね」

 

受付のダックスフンドの獣人の女性が頷くとローン返済に来たスフェーンを出迎える。

そして会員証を提示してローン金額を見た時に一瞬驚かれたが、平然とした一人の銀行員としての顔を崩さずに返済に来たスフェーンに言う。

 

「スフェーン・シュエット様、今回のお支払いは完了いたしました。こちらが明細書となります」

 

新しく作ってもらったローン用の通帳に軽くため息を漏らしながらスフェーンは受け取ると、運輸ギルド併設のカフェに入ってそこで少し休憩をしていた。

 

 

 

 

 

基本的にまともな人間は下手に夜に出歩かない。

理由はやはり人気が少ないので、ヤベェ奴らが徘徊し始めるからだ。

 

「よしっ」

 

数個の封筒に名前を書き、それに全て糊付けをした後に最後に赤い蝋封をする。

印璽は何も掘られていないシンプルな物であり、赤い蝋で封筒を閉じていた。

 

『準備はできましたか?』

「おうよ」

 

片手に重いアタッシュケースを持っている所為で若干腕から結晶体が突き出てしまっていた。

 

「いかんな…」

 

今は緩い腕に出たが、足に出ると少し不味かった。

今着ているのは上は裏起毛の革ジャケットにジーンズ、そして足にはブーツである。

スフェーンはバイザー付きヘルメットを片手にバイクに近づく。

 

「よっ…と」

 

ハンターカブの荷台に乗せ、紐で縛るとそのまま荷物室の扉を開けてスロープを敷く。

そしてバイクを押して地面に降りると、スロープを片付けて荷物室を閉じるとそのまま列車の扉がロックされた。

 

「ありがと」

『いえ、コレくらいは簡単にできます』

 

鍵を閉めてくれたルシエルに軽く感謝しながらスフェーンはバイクにエンジンを掛けるとそのまま貨物ターミナルを走り出していった。

 

 

 

スフェーンがこの街に来た理由は一つ、ある場所に荷物を届けるためだ。

夜中にバイクのエンジン音を静かに響かせながら音と光に注意してその場所に到着する。

 

「…変わらないな。ここは」

 

赤煉瓦の壁に囲われ、上には槍状の鉄格子が突き立てているその施設。正門前に到着すると、そこには白いシンメトリーの二階建ての少々レトロな建物。

複数のアーチや柱が並ぶベランダや中庭、玄関前の車寄せなどが特徴的なその施設はフランツェ孤児院。

かつてレッドサンがブルーナイトにけしかけられて作った孤児院である。

 

周囲には防犯対策でコレでもかと監視カメラが設置されており、此処には常に多くの孤児が住んでいる。

多くはスラム街から引き取ったりしてきた子供ばかりだが、一部は…

 

「ベビーボックス…か」

 

生まれたばかりの赤ん坊を匿名で託すための設備に入れられる事がある。

一部の人間はコレを知っているので、時折ここに包まれた赤ん坊が眠っている事があった。

 

「入っていないな…」

 

ヘルメットで顔を隠し、少々申し訳ないが、中に赤ん坊は居ないので中にアタッシュケースと封筒を突っ込む。

今の時間、此処を管理しているのはアンドロイドだが、別の場所を巡回をしているので此処には居ない。

 

「(仕事は終わった)」

『ではそろそろ移動したほうがよろしいかもしれません』

 

周囲の監視カメラは事前にルシエルによって改竄されているので後から確認してもバレないだろう。

すぐに用事を済ませ、バイクに再び跨ったスフェーンはそのまま走り出して行った。

 

 

 

 

 

『先生』

「ん…?」

 

深夜、アンジョラの携帯が鳴ると彼女は夜中を巡回しているアンドロイドの連絡を見る。

 

「赤ん坊でも来たかい?」

 

軽く目を擦って体を起こす彼女、この時間の呼び出しはベビーボックスに孤児が入っていた時のみだ。

 

『いえ、その…』

 

言い曇るアンドロイドにアンジョラは聞く。

 

「何が来たんだい?脅迫状かい?」

『いえ、お荷物が一つと封筒が三通…入っていました。兎に角、来て貰ってよろしいでしょうか?』

「分かった」

 

一体なんだと首を傾げながらもアンジョラは届いたという荷物を見に向かった。

 

「コレかい?」

「はい」

 

施設の壁際、ベビーボックスの裏の施設に入ると、そこには銀色のアタッシュケースに三つの蝋封された白い封筒があった。

 

「爆発物の危険性はありません。時限爆弾でもありません」

「…」

 

封筒を手に取り、裏を見た時。アンジョラは目を見開いた。

 

「先生?」

 

そんな彼女にアンドロイドは首を傾げていると、彼女は残りの二つの封筒を確認した後に自分宛に書かれた封筒を見た。

 

「…」

 

そして数回手紙とアタッシュケースを確認した後に恐る恐るケースに手を伸ばした。

 

「私が開けましょう」

「…お願いするわ」

 

念の為、アンドロイドが外に持ち出して周りに人のいない場所でゆっくりとアタッシュケースの鍵を外して中を開けると、

 

「「っ…」」

 

そこには手紙の通りの金塊の山が積まれていた。

 

「すごい…」

 

アンドロイドは思わず呟いてしまうと、アンジョラは絶句した。

 

「じゃあ本当に…いや、でも…」

 

とは言いつつも、彼女は残った封筒の宛名に記された人物に連絡を取った。

 

 

 

 

 

幸いにも彼は数時間後に到着した。

寝ている孤児たちが目覚めないよう裏手の門から車で乗り付けて孤児院の院長室に入った。

 

「ブルー…」

「連絡は本当なのか?」

 

ブルーナイトに言われたアンジョラはそのまま視線をテーブルの上に移すと、そこには蓋の空いたアタッシュケースと二通の封筒が置かれていた。

 

「これは…」

「さっき、ベビーボックスの中に入っていたの」

 

アンジョラは言うとブルーナイトは反対のソファに座ってアタッシュケースを開けると、中には金塊が入っており。彼は試しに元素検測機を当てると、金の数値がずば抜けていた。

 

「貴方に宛てたのが二通あったわ」

 

言われ、封筒を手に取る。柄のない蝋封、裏面を見ると宛名が書いてあった。

 

「(この字体は間違いない)」

 

彼の手がやや震えていた。

この特徴的な跳ね方の字体は一人しか心当たりがなかった。

 

「レッドから…だと?」

 

封筒を恐る恐る開くと、中には一枚の手紙。

そして手紙には一行だけ書かれていた。

 

『俺はもう(じき)死ぬ。だが企業とは手を切れ。その代わり、この金でお前のやりたい事を叶えろ』

 

金塊の量はとても多く、ざっとした計算でこの前消えたレッドサンの預金ともほぼ同じだ。

 

「…」

 

そしてもう一通は数枚の手紙にぎっしりと書かれた内容で、要約すると『自分は糖尿病が悪化したので勝手ながら傭兵を引退する。赤砂はブルーに一任する』と言う物だった。

 

「レッドが…生きていたと言うのか?」

「防犯カメラも見たんだけど、何も映っていなかったわ」

「改竄…か」

 

できる訳がないと彼は思った。

オートマトン以外に彼が得意なものはない、彼がそんな芸当ができる訳がないと確信していた。

 

「偽物はあり得ない…」

「手紙には何て?」

 

聞かれてブルーナイトは二通の手紙を見せると、それを読んでそれを静かにブルーナイトに返した。

 

「用意周到ね…」

「本当にレッドサンなのか…?」

 

いきなり動き始めた事態に困惑しているブルーナイト。

しかし彼の凍結口座から全ての預金が消え、その直後にアンジョラの元に届いた金塊と自分たち宛の手紙。

 

「でも彼以外にこの字体は書けないわ」

「だが彼に監視カメラの改造なんて芸当ができる訳がない」

「そうね…」

 

謎が謎を呼ぶ事態ではあったが、レッドサンが彼に宛てた手紙を読んでから再び疲れた顔をしているブルーナイトにアンジョラは言う。

 

「コレが本物かは不明だけど…でもこの手紙の通りにしたほうが良いと、私は思うわよ」

「…」

 

アンジョラはブルーナイトを静かに見つめると、彼はそんな彼女を見て全てを察した。

 

「…」

 

そして彼女から溢れた感情を全て感じ取ったブルーナイトは金塊を改めて見た後に呟く。

 

「…そうだな、君の言う通りにしてみるか」

 

言うとアンジョラの顔も少しだけ安堵していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

翌日 十三:〇八

 

赤砂傭兵団よりとある声明が発表された。

 

『本日、我が赤砂傭兵団は現在行っているアイリーン社との業務提携の停止。及び業務提携の契約取消しを行う旨を発表いたします』

 

そしてその二分後、同じく声明が出される。

 

『以下の傭兵団団長に対し、七月十三日にカレル島にて会議を行う要請を致しました』

 

この突然の声明に世間は一瞬驚き、一方的に契約打ち切りをされたアイリーン社からは遺憾の声明が発表された。

 

 

 

 

 

「腹括ったか…ジェロ」

 

そのニュースを街頭テレビで見ていた一人の少女は少し微笑んでいた。




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