#102
軍警。
軍警察などと一応呼ばれる彼らはこの星で圧倒的な軍事力を持っていた。
戦車、軍艦、オートマトンなどの兵器を多数保有し、トラオム中のPMCを合わせても勝利することはできないと言われている。
「ニアー・ソーレ…」
空に浮かぶ太陽と少しズレた位置にあるもう一つの少し白い星、宇宙要塞『ニアー・ソーレ』だ。
反対の『ニアー・ルナ』と対となってトラオムの周りを回っている人工衛星である。
大災害以前に作られた宇宙要塞をそのまま使用しており、宇宙と言う自分たちから絶対に届かない位置から攻撃ができた。
目に見えて軍事力の脅威と分かる二つの宇宙要塞が昼夜問わず見下ろしている。
相手は一つの衛星だ。一企業がどうにか出来る兵器を持っているわけない。
「相変わらず軍警は異常ね…」
『世界最強の軍事力を持っていますからね』
そう言いながら今は軍警名物の唐揚げカレーを食べている。
醤油に浅く漬けて下味を整えられた鶏肉に薄くまぶされた片栗粉。噛んだ瞬間にもも肉のしっとりとした食感に下味の醤油の塩味が溢れる。
「うまぁ…」
そして特製キーマカレーを白米と絡めて食べながら幸せ顔になる。
このカレーは艦隊ごとに違うらしく、ここでは海軍カレーフェスが行われていた。
「から〜い」
そしてキーマカレーの特徴であるひき肉は大豆ミート。うむ、実にヘルシーである。
今訪れている都市、ニューサセボでは軍警主催の軍警観閲式が行われている。
主な目的は軍警の戦力の誇示と、軍警への新隊員の勧誘などである。
街の治安維持や野盗の討伐、企業間抗争の仲介、司法局による裁判など多岐に亘る仕事を請負、中には通貨の発行も行っている。
『軍警はこれほどの仕事を行っているのに国家を名乗らないんですね』
「そりゃそうさ」
ルシエルの疑問にスフェーンは頷く。
「今の軍警は徹底的な孤立主義を謳っている。企業に付け入れられて内部を腐敗されるくらいなら、組織を存続させるために徹底した企業への不干渉を取っている」
『しかし企業への強制捜査などは干渉に入るのでは?』
「いや、強制捜査を行う場合、事前に内偵を行って確実な証拠がない限り突入しない」
まぁそう言う場合は告発文や、証拠を握っている会社の役員などがクビになった腹いせに軍警に匿名で通報するのが多いのだが…。
「軍警を創設した先人はよほど頭が回っていたんだろうね…」
そう言いながら都市一体を巻き込んで行われている観閲式、軍警には陸軍・海軍・空軍の三つの部隊があり、最近では海軍傘下の海兵隊を分離独立させるのかどうかで揉めていると言う。
あらゆる場所で軍歌が演奏され、紙吹雪が舞う。
都市は前に訪れたアイアンハウンドとは違い、ここは軍警が直接都市の統治を行っている軍警の直轄地である。
故に市長や市役所役員は軍警の天下り先である。
「…」
この日は軍警の三軍全てが一堂に会する大型の観閲式が行われている。
事実スフェーンも、今回の仕事で運んだのは軍警の屋台で使う食材と機材である。
都市の郊外には無数の滑走路があり、西半分は海に面しているので数多の軍艦が直ぐに大洋に直ぐに出航できるような構造となっている。
ッーーーーー!!
上空で四機のYa-41が編隊を組んでスモークを引いて飛行し、巻き上がった空気で紙吹雪が再び舞い上がってスフェーンに襲い掛かった。
「わっぷ」
そして巻き上がった紙吹雪に晒されながらも街を歩く。
まだパレードまで時間があるのでスフェーンは花電車に乗り込む。
チンチンッ
二回ベルを鳴らし、造花や電飾の施された華やかな車両は企業の宣伝も兼ねているので大量に走っていた。
手すりに捕まって乗っていたスフェーンは列車の加減速に揺らされながら次の停車場で直ぐに降りる。
『次は陸軍の装備品展示ですね』
「街全体でやっているから会場が広すぎるよ〜」
軍警観閲式は三軍別々の場所で行われており、都市には大量の人が出入りしていた。
観閲式は一週間かけて行われており、毎日何処かで軍警のイベントが行われている。
中でも最大の目玉は海軍による観艦式である。
今、港には多数の軍艦が停泊しており、明日見に行く予定である。
「装備品はこちらでーす」
陸軍のブースでは隊員の着る迷彩服や防弾チョッキ、その他装備品一覧が並べられ。装甲車や戦車がずらりと屋外で展示されていた。
「うお〜」
装備品には当然銃もあるのだが、目の前の軍警のサイボーグ兵標準装備品の12.7mm自動小銃/機関銃を見る。
同時に一般兵の6.5mm自動小銃/機関銃も展示されており、巡回警備用の拳銃も展示されていた。
警邏車両から戦車まで幅広く展示され、軍用オートマトンも配備されている。
現状、最も多くの第四世代オートマトンを配備しているのが軍警だ。
多くの造兵廠を持つ軍警はこの都市にもサセボ造兵廠と言う名前で装甲車と軍艦を作る施設が存在している。
「すげぇ」
装甲車や兵員輸送車を見ながら近くで軍警の車両を見る。
『警邏車両は死ぬほど見かけますが…』
「昔はどちらも死ぬほど見ていたよ」
軍警からの依頼を受けた時にその都度、駐屯地を間借りさせてもらっていた。
今思えばロトの策略だったかと軽く苦笑しながら今の主力のオートマトンの3式オートマトンと4式オートマトンを見る。
砲兵仕様や工兵仕様、水中工作仕様などバリエーション豊かな軍警のオートマトンは、たまに警邏車として都市を巡回している事がある。
「懐かしいねぇ…」
そんな昔の記憶を掘り起こしながら軍警のパレードを見に移動する。
「うわっ」
そしてパレードが行われる大通りではすでに人で満杯だった。
「これじゃ見えんな…」
人が見に集まっているが、子供サイズでも間をすり抜けて行く事は無理だった。
「…仕方ない」
パレードを行う建物の上を見るとそこからも数人の人が覗き込んでおり、スフェーンはビルの空いていた外階段を少し登って空いていた場所に立った。
幸いにも上の階に人が数名いるだけでここには誰もいなかった。
「ふぅ…」
パレードが始まり軍歌が聞こえてくる中、スフェーンは小さな踊り場で煙草に火を付ける。
軍警観閲式はパレードの他に総合火力演習が行われており、陸軍による射撃演習や戦車の一斉砲撃が行われる。
散々戦場で見てきた軍警の車両達、トラックに乗った歩兵やバイク兵と共に無数の車両が隊列をなして行進してくる。
装甲車や戦車、多脚戦車やオートマトンが片側六車線の大通りを前進してくる。
世界で最も巨大な組織とも言われる軍警はこの世界で唯一『軍』の名を使う事が許されていた。
各都市は治安税を支払う事で強大な軍事力の庇護下に置かれる。
自分たちの作り上げてきた都市を、金を払って厳正に守ってくれる軍警という存在にどの企業も対立しようとして来なかった。
「戦争か…」
現在、アイリーン社を筆頭の企業連合とグリーンボウル筆頭の緑化連合の対立が顕著化している。
この大陸の都市は緑化連合の緑と企業連合の赤色に徐々に区分けされている。
特にアイリーン社の傘下にあった赤砂傭兵団が抜けた事により、その混迷度合いは深まっていた。
『戦争は国と国同士の戦いを定義するのでは?』
「だから今までは企業間抗争と言われてきたんだろう」
資源を求めて企業間同士で争って来ていた時代は大災害以降、星の数ほど行われて来た歴史である。
「私なりの予測だけどね、恐らく二大勢力は国を名乗るよ」
『そんな事が?』
ルシエルは少し驚いた様子でスフェーンに聞くと、彼女は目の前の通り過ぎていく多脚戦車を見ながら少し頷く。
「現に見て。今の二大勢力の名の下に傘下の企業や都市の自警団は統廃合を繰り返している」
『…』
スフェーンの言う通り、大陸を二分しつつある勢力はその影響力を徐々に強めていた。
「すでにお互いの思想の戦いになっている以上、戦争の火種は増え続けるだけよ」
今の企業の資本力を用いた支配と言うのは終わりを迎えつつあった。
理由として自由市場の世界規模の拡大による労働者の意識の底上げされたからいったところだろうか。
『戦争を回避する手段はあるのでしょうか?』
「さぁ?口が立つビスマルクの様な人物が現れれば、回避されるんじゃないかね?」
『それはほぼ不可能に近いのでは…』
あまりにも低い確率にルシエルは苦笑していた。
赤砂がアイリーンから抜けた。
その事実は、業界を知っている人からすれば驚きの行為であった。
アイリーンの傘下に一早く加入した赤砂傭兵団はあの企業からの援助を受け、勢力を拡大させていた。
しかし、勢力を拡大させてのこの仕打ちにアイリーン社からは抗議の声明文が出ていた。
「一先ずは終わったか…」
各所への連絡を終え、一人事務所の部屋でブルーナイトは椅子に深く座り直す。
「…」
そして天井の照明を見上げると、そこで溢す。
「これで良かったと思うか?」
誰に宛てた物か、彼は薄く微笑んだ。
「駄目だな、彼奴なら嘯くに違いない…」
徐に机の引き出しを開けると、そこに入っていた二通の封筒を手に取る。
「赦さないと、一言書いてくれれば良かったものを…」
二通の封筒には一言も触れていないその文言に彼は少し俯いて眉間に手を当てると、
『ちょっと、ご予定にない訪問は…』
『失礼』
部屋の外が騒がしくなり、雇った秘書が抑えるもそのまま部屋の扉が開き。ブルーナイトは封筒を胸ポケットに仕舞うと、部屋に数名のスーツ姿の集団が入ってきた。
「ブルーナイトさんですね?」
「えぇ、そうです」
するとその軍警の捜査員は一枚の書類を見せた。
「複数の要望により、貴方は保護観察対象に指定され。一時的に安全な場所に護送致します」
「…」
保護観察対象に指定された事実にそれほど驚かない。
何せあんな事をしたんだ、全てを知っているアイリーンから告発がないのがむしろ可笑しいくらいだ。
「ご同行を願います」
先頭に立ったロトが令状片手に言うと、ブルーナイトは事情を理解した上で聞き返す。
「仕事は続けられるかね?」
「はい、ただ我々の用意した隔離施設に移動する必要があります」
ロトはそう返し、ブルーナイトは全ての行動が軍警の監視下に置かれる旨を伝える。
「持ち物は?」
「こちらで用意いたします」
「…分かった」
ブルーナイトは頷くと、座っていた椅子から立ち上がって護衛に来たと言う軍警の職員に付いて行った。
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