軍警観閲式を訪れているスフェーン。
ニューサセボで行われている軍警観閲式で、スフェーンは朝早くから並んでいた。
「う〜、冷え込む〜」
革ジャンに暖パンの暖かい格好をしながら長蛇の列に並んでいるスフェーン。
その列は長く、紐で区画ごとに区切られるほどだった。
『そんなに欲しいとは珍しいですね』
ルシエルはそんな寒そうな思いまでして早朝から並んでいるスフェーンに感心していた。
「そらそうさ。人間、なんでも限定って言葉には弱いのよ」
そう言っていると、アンドロイドがアナウンスを流した。
『間も無く、発売しまーす』
そう言うと列がゆっくりと動き出し、まるでマスゲームのように人が歩くと、目の前で数名の治安官と思われる販売員が臨時のテントも用いてこの客を捌いていた。
「二つくれ」
「ありがとうございます」
「三つで」
「わかりました」
軍艦のあしらわれたペナントが恐ろしい勢いで消えて行き、スフェーンも一つ購入する。
「一つお願いします」
「お一つですね。畏まりました」
女性の治安官はスフェーンを見て微笑みながらペナントを手渡す。
ペナントには軍警の巡洋艦と航空母艦が刺繍されており、同様にニューサセボ観艦式と文字も打たれていた。
「〜♪」
ペナントと同時に渡されたチケットを持ってスフェーンは少し嬉しげに街を歩く。
『なんですか?そのペナントは?』
「今日の観艦式に参加するためのチケットだよ」
そう言って同時に渡された紙を見ると『海軍観艦式参加券』と印刷されていた。
硬券切符のような赤色のその切符は軍艦に乗って実際に海に出て、目の前で行われる観艦式を直接見る事ができる切符であった。
「やっぱ一日前に並んで正解だったよ」
そう言い昨日にしこたま食材を買ってスタンバった甲斐があったとスフェーンは溢す。なにせ一人で待っていてもトイレに行って抜ける必要がないからだ。
切符を上着のポケットに入れ、チャックを閉めて防犯をしっかりした後にペナントを持ってスフェーンはウッキウキで街に入る。
これで後顧の憂いは無くなったかの如くスフェーンは屋台を巡る。
この都市は軍警のお膝元なので各所に交番が設置されている。その代わり都市では銃火器の所持は基本的に禁止であり、スフェーンも今回ばかりは丸腰で都市に入っていた。
やはり日頃から犯罪者や怪しい人物に職質しているだけあり、子供相手でも容赦なく見てくるのだ。
そして鋭いので銃剣を持っていてもすぐに見つかってしまう。
「このクソガキっ!」
「ぐっ…」
視界の先では一人の貧相な身なりの少年が太った少々無精髭の生えた禿げ親父に蹴飛ばされる光景があった。
禿げ親父が片手に財布を持っていたのでおそらくスリに失敗したのだろう。
「あらあら…」
片手に煙草の箱を取り出しながらスフェーンは呟く。
別に少年を助けないとかと聞かれれば、答えはNOだ。悪いが自ら火の粉を被るほど聖人ではないし、明らかに少年の方に非がある現状では庇ったところで自分が殴り飛ばされるだけだ。
「こんな私を非情と思う?」
『いいえ、スフェーンの考えは正しいと言えるのではないでしょうか?』
「正しい…ねぇ」
正しいか間違いか、それは後々に客観的な判断が下される相対的な評価でしかないが、少なくとも今は関わらないのが正しいと皆思うに違いない。
実際、誰かが通報したのだろう。治安官が人を掻き分けて禿げ親父を押さえつけて少年を救助していた。
「放しやがれ!!」
「はいはい落ち着いて、話は後で聞きますから」
「怪我しているぞ…」
そう言い、少年を救助した治安官は頭から血を流している少年にやりすぎだと言う意思を込めた目線を禿げ親父に送りながら少年の手当てをし始めていた。
その後、スフェーンは沿岸の軍港地区に足を踏み入れる。
「おぉ〜」
軍港地区は数多の軍艦が並んで停泊しており、錨を下ろして海鳥達が訪れていた。
停泊しているのは駆逐艦や潜水艦、強襲揚陸艦などであり、スフェーンはその視界を使って写真を収めていた。
『壮観な眺めですね』
「えぇ、本当に…」
岸壁を歩きながら駆逐艦を見る。
『この駆逐艦は第二三駆逐戦隊所属のトウゴウ・ヘイハチロウ級駆逐艦五六番艦、ヤマモト・イソロクですね』
「わざわざ艦名まで解説どうも」
そう返し、スフェーンは目の前の万国旗が吊り下げられた駆逐艦を眺める。
この駆逐艦は軍警で最も使用されるオーソドックスな駆逐艦であり、一番艦の艦名の由来は嘗て歴史的勝利を収めた海戦の指揮をとった将軍から来ているそうだ。同型艦は二三五隻ある。
主砲は六〇口径の203mm単装電磁加速砲を前後に二基搭載し、前後に分散した垂直発射機や機関銃座。後部にはヘリコプターとオートマトンの格納庫がある。
魚雷発射管やCIWS、機関銃などの基本的装備を備えた軍艦であった。
全長約二〇〇m、全幅約二〇mの船体はステルス性を意識したデザインを施されていた。
「軍警で一番見かける軍艦ね」
『今度新型の駆逐艦が進水するという話ですが…』
「配備が進むのはしばらく先でしょうね」
スフェーンは言うと、反対に停泊していた駆逐艦よりも巨大な船体と真っ平な広い甲板を持つ軍艦を見上げる。
『こちらは大鳳級航空母艦六番艦天城、軍警が保有する最大級の軍艦となります』
「でっけぇなぁ…」
初めて見るその大きさにスフェーンは圧倒されていた。
ロトが陸軍に所属していたために海軍にはほとんど縁がなかったスフェーンはその大きさに唖然となっていた。
『全長四〇六m、最大幅約八八m。武装はCIWS六基、近接防空ミサイル四基、空対空ミサイル発射機四基、電磁カタパルト四基を備えています。同型艦は三二隻在籍しています』
「なんちゅうデカさじゃ…」
巨大な航空母艦に乗り込む人々を見ながらスフェーンは片手にペナントと共に購入した赤切符を手に持つ。
「ペナントはお持ちですか?」
「え?あぁ、いやぁ…」
航空母艦へと乗船する列に並ぶ途中、ある男が職員に訊かれてしどろもどろになっている中、横では順調に切符とペナントを見て改札鋏で切符を切り落としていた。
非常に古典的ではあるが、偽物を作って乗り込もうとする連中には良い対策とも言えるだろう。
『哀れですね』
「詰めが甘いって事よ」
この乗船するために必要なペナントと切符を転売している連中もいたが、そう言った連中は都市規則に則ってしっかりと治安官にしょっ引かれていた。
定価以上での転売は都市規則の違反となり、また軍警直轄地であるので即刻司法局行きである。
『態々命懸けで転売をする人たちの意図が理解できませんね』
「成功したら儲かるからでしょ?」
一度経験した大きな成功体験の二度目を夢見て失敗する例はよく見ている。
転売で簡単に儲けられる喜びを知った彼らは同じ経験をもう一度味わいたい。失敗してもあまり痛手ではないし、まだ次があるだろう。
そんな誘惑に引き寄せられて転売を続ける。まぁなんともお幸せな人生だと思う。
「ほぼギャンブルと変わらないのにねぇ…」
そんな事を呟きながらスフェーンは治安官にペナントと赤い切符を見せると、切符は治安官の手によって改札鋏で切られる。
パチンッ
硬い切符を切り落とす豪快な音が聞こえると、そのままスフェーンはタラップを伝って船内に入った。
「こちらをどうぞ」
船内に入る直前、黄色いライフジャケットを渡されるが、子供という事で治安官に手伝ってもらいながら着付ける。
「おぉ〜」
安全の為に着ることが義務付けられており、スフェーンはその非日常感に少し興奮しながら船内に足を踏み入れた。
船内では順路がすでに決められており、一般公開されている通路には短機関銃を持った治安官が待機しており、変な事をしでかす客がいないかを監視していた。
これだけの人数だ。そりゃ中には碌でもない事を考えている人間もいるのだろう。
細い階段を登り、幾つもの隔壁を潜り抜けて元に船内格納庫に到着する。
「広〜い」
最大で航空機九〇機を駐機可能な格納庫は巨大で、端にはYa-41やティルトローター機、ヘリコプターが展示目的で駐機されていた。
甲板まで行くと最大一〇〇機搭載可能だと言うのだから驚きだ。
『どうやら私たちはエレベーターで甲板に上がるようですね』
そう言い、視線の先で忙しなくエレベーターが動いている様を見ていた。
格納庫の壁には軍警の旗も掲げられており、所々に治安官募集のテーブルが置かれていた。
四基あるエレベーターは格納庫に訪れた見物客達を甲板に上げる作業に従事していた。
『観艦式は複数の企業、並びに空軍からも出向予定だそうですね』
「それを最前席で見れるんだ。並んだ甲斐があるってもんでしょう?」
『そうですね』
少々趣味が滲み出てはいるが、スフェーンは一人格納庫を見物する。
格納庫全体の照明が点灯し、後部には航空機の整備点検ができるようにオープンデッキとなった場所がある。
『元々航空母艦は洋上で航空機の前線基地となるために設計された軍艦だそうですね』
「だから、護衛の為に艦隊を組むのが必然なんでしょう?」
そう言っていると、アナウンスが流れた。
『間も無く本船は出航致します。航行中は安全の為、皆様は付近の治安官の誘導に従ってください』
どうやらあの並んでいた列を捌き切ったようで、スフェーンはいよいよ出航すると言う事に少し興奮していた。
『もうすぐ出ますね』
「そうだよ」
するとエレベーターから人が降りてきて格納庫に集められる。
本当は甲板の視察もして見たかったのだが、後からどうせ上に上がれるので格納庫で待つ事にした。
『出航用意!』
艦長の号令で出航の喇叭が鳴り響く。
「出航用意!!」
無線で艦全体に命令が降ると、岸壁では厳重に結ばれていたもやい索が解かれ、数隻のタグボートが牽引索で航空母艦はゆっくりと離岸する。
この軍港は離岸してすぐに大洋に出られるので、タグボートもここで仕事を終える。
「機関、両舷前進微速
「両舷前進微速、宜候!」
艦長の指示で航海長は握っていたスロットルを倒すと、エーテル機関が唸ってスクリューが回転する。
全長約四〇〇mの軍艦は徐々に速度を上げ、岸壁では軍歌が奏でられ、人々が見送る軍港区域を離脱していく。
軍港から出航する巨大な航空母艦は民間人を乗せて観艦式の会場に進路を取った。
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