メイコーは大陸南方に位置した港湾都市である。
大陸で貨物取引量が一番の港で、主な輸出品は自動車である。
『メイコーには巨大な水族館があるようです』
「あっ、マジ?」
運転席に座って見えてきた都市を見ているとルシエルが教えてくれた。
『そしてメイコーにはメイコー・トライデントと呼ばれる巨大な三つの吊り橋があるそうです』
「ほぇ〜」
港湾都市に入っていく一本の列車。貨物ターミナルに進入する信号を運転台に置いたタブレットで確認し、速度を制限速度の時速一一〇キロに落として分岐点を別れて貨物線に入る。
「水族館にジンベイザメはいるのかな?」
『いえ、メイコーの水族館はイルカショーが有名なようです』
「イルカショーかぁ…」
『あと他にシャチやベルーガがいるみたいですよ?』
「おぉ、それは楽しみ」
そんな都市に少し心を躍らせながら貨物ターミナルに入る信号を受信する。
タブレットでアプリを入れてシステム管理を一括して今は行っているので、視界に厄介な警告が出る事もない。ただ音はするが…。
「それに、今はお客も乗っているしね…」
『ですね、今はスフェーンの渡したスプライトを飲んで暇を持て余していますね』
そう言い昨日、砂漠で拾った小さな客を乗せてスフェーンは聞くと、ルシエルは今の状況を教えた。
「んじゃあ、降りたらお別れしますか」
『そうですね』
元々人攫いに遭って誘拐された子、このまま軍警に預けてもどうせろくな対応はされないので何も怪我がないのならそのまま送り返してあげれば良い。
「間も無くメイコー、メイコー…なんてね」
『旅客キャビンを積んでいないですよ?』
「ははは、冗談だよ。冗談」
そう言いスフェーンは数多の貨物列車が出入りし合う貨物ターミナルの荷下ろし場に到着する。
「さて、着いたよ」
「っ!!」
列車を停め、そのまま後ろの部屋に移動したスフェーンはそこで外の景色を見て待ちきれない様子のショウキに少し微笑んだ。
「あっ、ありがとうございます!本当に」
「どういたしまして」
運輸ギルドの待合室で、ショウキはスフェーンに頭を下げる。
腰から下げるホルスターにTRR8を差し込み、軽く頷いた彼女は油でところどころ汚れている白手袋をとって彼の頭を軽く撫でた。
「君の家の場所はわかる?」
「はい、僕にとって庭みたいな場所ですので」
彼はそう言うと、ここまで送ってくれたスフェーンに改めて頭を下げると、思いついたように聞いた。
「お礼で僕に着いて来てもらっても良いですか?」
「え?」
「僕の家に行けば、多分お兄ちゃん達がお礼をしてくれると思うので…」
「あぁ、そぅ?」
どうしようかとルシエルに聞くと、彼女は言った。
『彼の言葉に悪意は感じられませんので、おそらく純粋な感謝かと…』
「(…分かったよ)」
そして短く相談した後にスフェーンはショウキに言った。
「んじゃ、お言葉に甘えようかな」
「っ!きっとお兄ちゃん達も喜びますよ!」
彼女はそう言うと、ショウキも嬉しそうにしてスフェーンを早速連れて行こうとしたが、
「あぁ、ちょっと待って」
「ん?」
「色々とやらなきゃ行けないことがあるのよ…」
そう言い仕事完了の話や、ローン支払い諸々をしにギルドを連れて回した。
ローンの支払いや排水処理依頼を済ませると、スフェーンは都市規則を確認して散弾銃と拳銃を手に取って装備一式諸々を背負う。
「うしっ、行こうか」
「…はい」
ナッパ服の上から防弾チョッキを被り、ホルスターとスピードローダーを腰から下げている姿にショウキは目を丸くしていた。
「何だか…兄ちゃんみたい…」
「じゃあ、その人は私と同じく用心深いって事だよ。さぁ、行こうか」
「は、はい」
慣れない土地な上に二人乗せられないのでバイクは使わない。
なので運輸ギルドの前から出ている市電に乗る必要があった。
「君の家の場所は?」
「海沿いです」
「ほほーん…」
今まで幾つかの港湾都市を巡って来たが、ここは大量の自動車が留め置かれている。
都市間移動で自動車があまり一般的ではない今の時代、自動車はあくまで都市内移動に限られて使われている。
少なくとも車を使って都市間移動する人間は限られているのだ。
「んじゃ、案内頼んだよ」
「はいっ!」
市電に乗り込んでそのまま走り出してゆくと、街中を進んで行く。
多くのトラックや自家用車、バスが走り、その中を市電も混ざって走る。
「お兄さんがいるの?」
「そうですね。血が繋がっているわけでないんですけど…」
車内で二人はそう話していると、最寄りの停車場で彼はスフェーンの手を引いた。
「ここです」
「おけ」
そして二人分の料金を払い、市電を降りると市街地の少し治安の悪い地区に移動する。
「この先に僕の家があるんです」
「そうなの〜」
ショウキに連れられ、街を歩くスフェーンは少し辺りを見回す。
スラム街ほどではないが、都市中心部と比べると雰囲気が暗い。治安も悪いのだろう、建物が貧相である。
「…」
そして先ほどから視線をやけに集めている自分に軽くため息を漏らす。
「あら、ショウキくんじゃない?」
「あっ、叔母さん!」
すると一人の黒髪天パのおばちゃんがショウキを見て話しかけて来た。
「お久しぶりです」
彼はそのままそのおばちゃんに駆け寄って返す。
「最近顔を見せなかったから心配していたのよ?」
「あはは、ごめんなさい」
ショウキはそう言いおばちゃんと軽く話している。
なるほど、人攫いにあったとは言わないわけね。ややこしいことになるから。
「今度からはちゃんとみんなで食べに来てね」
「はーい」
そう言っておばちゃんと別れたショウキは再びスフェーンの元に戻ってくると言った。
「いつもお世話になっている食堂の人なんです」
「へぇ、そうなのね。いい人じゃない」
「いつも良い人すぎて困るくらいですよ」
彼はそう言い家までの道を進んでいたのだが…。
「…ショウキくん」
「ん?どうかしましたか?」
聞いた彼にスフェーンは手招きをする。
「ちょっとね…」
「?」
ショウキは首を傾げながらスフェーンに近づくと、彼女はショウキの手を握って走り出す。
「え?ちょっと…」
言おうとした時、後ろで誰かが叫んだ。
「逃げたぞ!」
「くそっ、気づかれていたかよ…」
「走れ!」
その声を聞いてショウキは察してスフェーンを見た。
「よく分かりましたね」
「むしろこれで驚かない君が可笑しいんだよ」
そう言い二人は近くの雑居ビルの階段を駆け上がる。
襲撃者達は銃を片手に持っており、それを見たショウキは言った。
「あの人、僕を攫った奴らだ…」
「って事は、殺しに来たかよ」
面倒臭いと愚痴り、スフェーンは雑居ビルの屋上に飛び出す。
そしてそのまま柵に近づいて下を覗き込むと、そこは普通であれば自殺できる高さがあった。
「…ショウキくん、ひとつ聞いて良い?」
「はい、何でしょう?」
下を見ながらスフェーンは聞いた。
「高いところは苦手かい?」
「…いえ、そんな嫌いじゃありませんが」
なにを聞いているのか、彼はあまり理解できなかった。
すると階段を登る足音は近づいており、それを聞いたショウキは焦る。
「どうするんですか?!」
「大丈夫大丈夫、そう焦るなって」
そう言うと彼女はショウキを抱えて柵を越えさせる。
いきなり何をするのかと彼は首を傾げていると、彼女は言った。
「ショウキくん」
「はい」
「これから見た事は忘れるのよ、OK?」
「え?」
するとビルの屋上の扉を蹴飛ばして銃を持った人攫いが叫んだ。
「逃げられると思うか!?」
そう叫んだ女の声にスフェーンはやや驚きながら見た。
「ちょっと遅いね」
「は?」
柵の外スレスレで立っていた二人を見て人攫いのリーダーは困惑した。
「じゃあの〜」
「えっ?」
すると次の瞬間、スフェーンはショウキの手を取ったままビルの柵から飛び降りた。その事にショウキも困惑した様子で落ちていく。
「えっ…!?」
それには流石に襲撃者達も驚いて、慌てて柵の方に駆け寄って下を見た。
「よっ、ほっ」
「うわぁ…」
「何!?」
すらと宙を階段を降りるように空中に足をつけて降りる様に追いかけて来た奴等は驚愕していた。
のだが、
「ぬおっ!?」
突如床が抜けるようにスポッと抜けた感覚を味わうと、
「あっ、らぁぁああっ!?」
「きゃあぁああっ!!」
そのまま自由落下をはじめ、咄嗟にショウキを守るように両腕で姫様抱っこをすると、そのまま下の建物の屋根に足から着地して盛大に破壊した。
「いっ、痛たたた…」
屋根を破壊し、その先で軽く尻餅を付いたスフェーンは軽くさすると、視線を感じて前を見た時。
「おっと…」
そこでは裸の男女がベッドの上で真っ昼間から激しい運動をしていた。
「これは失礼」
教育のため、ショウキの目元を手で覆いながらスフェーンは言うと、直後に上から機関銃や自動小銃の射撃が入ってきた。
「撃て撃て!!」
「あーたたたたっ!!」
慌ててショウキの目を覆ったまま部屋の扉を蹴破り、そのまま建物の屋根を飛ぶ。
「なんで目を隠したの?」
「君にはまだ早いからよ」
聞いた彼に真顔で返すとそのまま二人は路地を走る。
後ろでは数人の襲撃者が追いかけて来ており、埒が開かないと察した。
「ちっ」
そして角を曲がった瞬間にショウキを後ろに隠し、両手に拳銃を握ったスフェーンは敵が飛び出した瞬間に引き金を弾いた。
ッ!ッ!ッ!ッ!
銃口からの弾道予測線がスフェーンの視界に映りながら、スロー再生のように引き金を弾くと、発射された弾丸は綺麗に飛び出した三人に命中する。
「ぎゃあっ!!」
着弾したホローポイント弾はそのまま中の鉛が出るように変形しながら敵のサイボーグの腕を落としながら破壊した。
「くそっ!」
そして人攫いのリーダーと思われる女は吹き飛んだ右腕を抑えながら恨めしそうにスフェーンを見て撤収して行った。
その後、人攫い達が居なくなったのを確認してショウキとスフェーンは目的地に歩く。
「あっ、あれです!!」
そう言い彼は本当に海辺の桟橋や格納庫、コンテナハウスなどがある場所の一つを指差した。
「ただいまー!!」
そしてそのまま彼は待ちきれずに走り出すと、そのコンテナハウスの前で洗濯物を干していた少女が声に気づいて振り向いた。
「え?ショウ…キ?」
するとその少女はショウキを見て軽く固まると、その後に状況を飲み込んだのか、格納庫に向かって大声で叫んだ。
「お兄ちゃん!ショウキ!ショウキが帰って来たよ!!」
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