「よっと…」
バイクの荷台によく冷えた缶ジュースを入れた保冷ケースを積んでスフェーンはバイクに跨って列車を降りる。
自動で扉はロックされ、それを確認してそのまま貨物ターミナルを移動し始める。
「〜♪」
口笛を吹きながらバイザーを下ろしてヘルメットを被るスフェーンはナッパ服で跨っており、道路を縫うように走っていく。
朝時間なので車通りも夜と比べると圧倒的に多く、貨物ターミナルから直接港にコンテナが行き交っていた。
『コンテナが大量ですね』
「それだけ物の出入りが激しいって事だよ」
コンテナトラックの脇をすり抜けながらスフェーンは言うと、街の海辺に近いスラム街に近づく。
ここには使用済みのコンテナを再利用して作ったコンテナハウスで造られた集合住宅があり、すべて市が建築して下流層に提供された安い賃貸住宅であった。
メイコーは緑化連合と企業連合のどちらにも属していない無所属都市であり、早々に中立を宣言していた。
元々メイコーはその最大の港のおかげでどの派閥に所属しなくとも港からの収入で食っていける余力があったのだ。
鉄道連絡船も発着する港であり、今日も海を渡った列車が降ろされていた。
「…」
そしてバイクは海沿いのアスファルトを踏みつけて曲がると、そこで立ち並ぶコンテナハウスの一つに辿り着く。
「あっ!スフェーン姉ちゃん!」
すると柵からショウキが乗り出すように顔を覗かせた。
「よぅ、手伝いに来たよ」
バイクを少し傾けて地に脚をつけてスフェーンは言うと、彼は嬉しそうに家に戻ってハヤブサを呼び出した。
年相応の明るい振る舞いにスフェーンは少し笑みを浮かべながら待っていると、
「遅刻はしなかったか」
ハヤブサが出て来て階段を降りてくる。
「当たり前よ。初日で遅刻とか恥ずかしいわ」
当然と言わんばかりにスフェーンは頷くと、ハヤブサは家の階段を降りてスフェーンに近づく。
「取り敢えずバイト先に移動する。ちょっと此処で相手頼んだ」
「え?あぁ、そゆことね」
家から出てくるショウキ達を見ながらスフェーンは頷くと、ハヤブサが戻ってくるまで子供達の面倒を見る事になった。
「「へぇ〜」」
そして四人の孤児達、ショウキ、ヒエン、ヘレン、ペギーはボラードに腰をかけるスフェーンの運び屋の話をすると、興味深そうに聞いていた。
一部傭兵時代の話も織り交ぜているが、楽しそうに聞いてくれた。
「凄い、そんな街があるんだぁ」
「初めて聞いた」
「世界は思っているよりも広いのよ?」
「凄い…ですね」
ヒエンはあまり興味がなかったのか、一人岸壁の上で船を眺めていると、知らないエンジン音が近づいて来た。
「おーい」
そして曲がり角から一台の車が出てくると、ハヤブサがハンドルを握っていた。
「おおぅ…」
ハヤブサはヤリスクロスを運転して出てきており、それを見たスフェーンは思わず苦笑してしまった。
「なるほど、車ですか」
「バイト先までは遠いからな。人数もいるし、これでいくしか無いんだよ」
そう答える彼にボソッとスフェーンは呟いた。
「どうせならオート三輪でも乗ればいいのに」
「おう喧嘩売ってんのか?」
それを耳にしたハヤブサはスフェーンに良い笑みを見せて返すと、それを軽く宥めて彼と通信を繋げた。
『ついて来れるか?』
「もちろん」
インカムで通信を行うと、スフェーンはバイクのエンジンをかけ、ハヤブサはアクセルを踏むと彼が先導する形で軽いドライブが始まった。
メイコー南部にはメイコー国際空港と呼ばれる空港が存在している。
三本の滑走路が大洋に槍を突き刺すように建造され、海を渡った飛行機を使った速達便や旅客便が離発着を繰り返していた。
空港へアクセスできる鉄道も走っており、巨大な設備が整っていた。
「おぉ〜」
そして空港の巨大な格納庫に到着すると、そこでスフェーンは中に停まっていた機体を見上げる。
「なるほど、US-2ですか」
「あぁ、古い機体だが整備はしっかりしている」
そう言いハヤブサは駐機されている飛行艇のUS-2の扉を開ける。
軍警から貸し出されていると言う機体で、この空港から飛び立つと言う。
US-2は今でも現役の飛行艇である。
ターボプロップ機である事から消防用や一部旅客用、救急飛行機として運用されており、マリーンアルバトロスよりも機体が安価である事から軍警の第一線を引いた後でも民間警備会社や病院などが運用していた。
「バイトってそう言う事ね」
「あぁ、軍警が撒いたソノブイを回収する仕事さ」
ハヤブサは頷きながら乗り込む。
メイコーの沿岸部十二海里は軍警の防衛義務がある領域であり、その海域を防衛する為に哨戒機からソノブイが投下されている。
しかしそのソノブイは電池式なので電池が切れると海に浮かぶゴミと化すので、それを回収する為にハヤブサ達は仕事をしているのだ。
「よくこんな条件を引き出せたわね」
「いやぁ、無駄飯喰らいになるよりはマシだと思ったんだろう」
機内に乗り込むと、ショウキ達も乗って準備を始めていた。
格納庫に入る時にゲート審査でスフェーンを通す為に新たにカードを作ってもらっていた。
「おぉ〜」
視線の先、滑走路にAn-124が着陸していた。
そして同時に赤く塗装された消防用US-2がプロペラの回転数を上げて短い滑走をした後に離陸していった。
郊外の防砂林火災のニュースを見ていたので、おそらくそれに出動する為だろう。
洋上塗装に軍警識別の白縁赤丸マークや『軍警察』の文字を上から同じ色で塗りつぶしただけの簡単な仕様変更にスフェーンはやや苦笑していた。
「なるほどね〜」
片手にクーラボックスを持ってコックピットに上がるとそこで多数の計器やスイッチ、画面を見てスフェーンは納得した。
「これでよく五人で運用できるわね」
「複数兼任さ、これ以上は面倒も見切れんしな」
「あら格好良い」
そう言ってヘルメットを被り、パイロットスーツに着替えて出てきたハヤブサを見て思わず呟くと、彼はそのままスフェーンの横を通り抜けて操縦席に座る。
「慣れているの?」
「散々乗り回して来たんだ。もう慣れっこさ」
そう言い出発前の確認を始めるハヤブサ、見ると機内でショウキ達がウェットスーツに着替え始めていた。
「手伝おうか?」
「できるのか?」
スフェーンの問いにハヤブサは少々訝しむ目線を送った。
「これでも知識はあるのよ?」
軽くウインクをしながら答えると、彼は若干身震いしていたのでとりあえずヘルメット越しに頭を叩いておいた。
その後、ひとしきりの準備を終え、格納庫からトーイングトラクターによって駐機場に移動する。
『こちら管制塔、US9943。滑走路へのタキシングを許可します』
「了解、US9943。タキシング許可を確認」
無線を確認しながら操縦席で操縦桿を握るハヤブサ。その横ではヘレンが操縦桿を握って座っていた。
『フライトプランを承認、誘導路05、32、16を通り、滑走路手前で停止してください』
無線で管制塔との通信を終えると、ヘルメットのバイザーで滑走路までの道案内がされる。
赤い矢印に沿ってエンジンの回転数を上げながらハヤブサは誘導路を進むと、風速や方角がリアルタイムでハヤブサのバイザーに投影される。
「…」
そして操縦桿やスロットルを動かして滑走路手前で停止する。
「US9943、管制塔。指示を乞う」
『こちら管制塔、US9943。滑走路進入を許可します』
丁度目の前では軍警のC-2輸送機が離陸を始めており、巨大な胴体が浮き上がった直後であった。
『US9943、そのまま離陸を許可します』
「了解、US9943。離陸を開始する」
『良きフライトを』
そうして通信を終えると、ハヤブサは確認を終えてスロットルを倒してエンジンの回転数を上げると、US-2はそのまま加速を開始。
ものの数十秒で機体を傾けると、US-2は地面から脚を離した。
「おぉ〜」
その様子を機内で座って確認していたスフェーンは改めて感心していると、横でショウキが言った。
「たまに僕が操縦を手伝ったりしているんだよ?」
「へぇ、そうなの〜」
「まぁいっつも兄ちゃんが操縦しているけどね」
そう答える彼はウェットスーツを着て序でにゴムボートの準備も進めていた。
離陸したUS-2は軍警が港湾防衛用に散布しているソノブイの回収作業を行うために、備え付けられているビーコンを頼りに飛行する。
ハヤブサが機長を務め、今日はヘレンが副機長を務めていた。
仕事を手伝うと言う条件でついてきたスフェーンだが、ハヤブサ以外全員がウェットスーツを来ており、超軽量電動サーフボードとゴムボートを準備しており。その数はボード二つにボート一つ、おそらく副操縦席に座っているヘレンまで出るのだろう。
『そろそろ着水するぞ』
無線でヘッドホンで言われると、窓の外でスフェーンは徐々に近づいてくる海面を見る。
「…」
波の経つ群青色の海面にゆっくりと機体は着水すると、水を切り裂くように機体全体で着水するとそのあと船のように機内全体が揺れていると、
「じゃあ、始めるよ〜」
「「はーい」」
機体のハッチを開いてショウキ達はバイザーを付けて海面にサーフボードを置いて上に乗り、そのまま取手を握って洋上を進み出す。
「ソノブイを拾ってくれ」
「了解」
機内で待っているハヤブサはスフェーンに言うと、彼女は言う。
「帰りは私が手伝おうか?」
「…怖ぇな」
スフェーンが副操縦席に座る景色を想像してハヤブサは言うと、少しスフェーンは反論する。
「これでも単座水上機に乗ってた経験あるんですが?」
「…」
そう言い、過去に単座水上機のEdo OSEに乗ってホテル・ヴォンゴラに通っていた昔を思い返す。
「単座と飛行艇は違うぞ?」
「大丈夫よ、どうせ機長は君だし」
機内のハッチで待機している二人は遠くで電動サーフボードとゴムボートに乗って海上を駆け巡っているヘレン達を見る。
「帰りまで子供に操縦させるのも酷でしょう?」
「…仕方無いな」
基本的にショウキ達には甘いハヤブサは軽くため息をついた後にスフェーンにやや呆れた目を向けて、次に回収したソノブイを乗せて戻ってくるペギーの操縦するゴムボートを見た。
US-2を生で見た時、滑走距離短すぎてビビり散らかした記憶。
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