ドライブの目的地のラーメン屋。途中でトラブルに見舞われたものの、海を眺めながらラーメンを食べられるこの場所は確かに魅力的だ。
外に置かれていたテーブルに座り直してスフェーン達は注文したラーメンが出てくるのを待つ。
「海辺なのに豚骨なのね」
「ここの親父の海鮮豚骨ラーメンがこれまた美味いのさ」
スフェーンとハヤブサはそんな事を言いながら外の席でひっくり返したビールケースの上に座っていた。
「うお〜!!」
「ちょっと走らないでよ!!」
その視線の先では砂利の敷き詰められた駐車場を、自分たち以外いないからと走り回って遊ぶショウキ達四人。
「こら〜、走ると転けるわよ」
「怪我すんなよ」
「「「「は〜い」」」」
ショウキ達はそう返すと、そのまま四人は走り回っていた。
そんな彼らを見た後、スフェーンは視線をハヤブサに戻した。
「それで?いつウチに来る?」
「こっちはいつでも良い。ただ、次のバイトのことも考えると明後日が好ましいかな?」
「そうね、私も掃除やらで準備を済ませておきたいし」
彼女が聞いたのはハヤブサ達がスフェーンの列車に乗り込んでくる日にちの確認だった。
実を言うと、スフェーンがハヤブサ達のUS-2に乗り込んだ時のあの仕事を手伝った時の報酬は一切受け取っていなかった。
元々勢いで勝手に乗り込んだものだったので、スフェーンはそんなに気にすることなのかと首を傾げたが、
「人を殺す理由は愛と金しかないだろう?」
「…」
と言うハヤブサの意見でスフェーンは納得できてしまった。
「つくづくあなたって細かい人間よね」
「細かく無いと後が恐ろしいと思っている人間なのでね」
「…」
ぶっちゃけ傭兵なんて恩の押し付け合いが常だったのであまり気にした事が無かった。
「しかし、ここは静かで良いわね」
スフェーンはそう言って車通りも少ない海岸沿いのこの場所のコンクリートで固められた護岸を見る。
道路を渡り、階段を登ってその上で座って休憩をしているショウキ達。
「あぁ、おまけに親父は俺の事情も知っている数少ない人間さ」
「あら、それは意外ね」
スフェーンはそう返した時、
「おい、」
店から親父が出てくると、ハヤブサを呼び付けた。
「できたぞ。手伝え」
「はいよ」
「わかりました」
そう言ってスフェーンが立ったのを見て、店主は言った。
「あぁ、嬢ちゃんはいい。男手だけ十分だ」
「あら、そうですか」
では遠慮なく、と言ってスフェーンは席に戻ると護岸の上で座っていたショウキ達を呼び寄せた。
「ラーメンできたわよ〜」
スフェーンが言うと、ショウキ達もそれに気がついてこっちに走ってきた。
「へいお待ち」
そう言ってスフェーン達の前にスープや具材を乗せたラーメンが置かれた。
「それ寿司屋のセリフじゃないんですか?」
少し苦笑しながらスフェーンは親父を見ると、彼は言った。
「阿呆、俺はラーメン一筋二二年だよ」
「おおぅ、中々の職歴ですね」
ベテランな職歴を前に軽く尊敬の念を見せると、彼は少し嬉しそうにしていた。
「いやぁ、ありがてぇ事に長くやらせて貰っとるよ」
「取り敢えず…」
そんな親父の話が長くなりそうだったので、スフェーンは目の前の湯気が上る海鮮豚骨ラーメンを見る。
豚骨スープをベースにエビやイカ、蒲鉾を乗せた一品で、麺は豚骨ラーメンらしく細麺である。
「いただきます」
すでにショウキは食べ始めており、スフェーンもラーメンを箸で掴んでレンゲの上に乗せて軽く息を吹きかけて冷ました後にレンゲを口に入れた。
「独特な食い方だな」
スフェーンの食べ方にハヤブサは普通にどんぶりから麺を啜って食べていると、
「あら、これが正しいラーメンの食べ方よ?レンゲに一度とってから食べるの」
「へぇ、そうなのか〜」
少し適当に返しながら実践する気はなかった彼はそのまま麺を啜り続ける。
「やる気無しですか」
「面倒だろ、一々レンゲも使わんし」
そう言いスフェーンの丼の横に置かれた炒飯を見る。
刻んだかまぼこやネギに塩胡椒で味を付けられ、油と卵でコーティングされた艶のある米は食欲を唆られる。
「ふーっ」
そしてスフェーンはその炒飯をレンゲで掬って一口頬張ると、
「おぉ、ラーメン屋のチャーハンだ」
「そりゃうちはラーメン屋だからな」
親父は当たり前な事を返すと、スフェーンは言った。
「でも普通の中華料理屋のチャーハンとは違う何かがありません?」
「ちょっと分かるやーつー」
それにはハヤブサも納得すると、フルサイズで出てきた炒飯を平気な顔で食べているスフェーンに大食いの可能性を見ていた。
「親父、食えると思うか?」
セットではなく一品物でラーメンと炒飯を注文したスフェーンにハヤブサは心配して聞いた。
「いい食いっぷりじゃないか。余ったらお前さんが食えよ」
そんな親父の提案にハヤブサは言う。
「やだよ、なんで人が食いかけの奴を食べなあかんのだ」
「残したら俺はお前をしばく」
「理不尽すぎやしないか?!」
彼は親父の言い分に文句をこぼすと、黙々と食べているスフェーンは炒飯とラーメンを交互に食べる。
「きゅっきゅっ」
イカの歯応えがあって、それでいて豚骨の少々濃い脂の味の中に少し海鮮の特有の風味が走っていた。
「フーッ」
そしてレンゲで最後の炒飯を掬って口に入れた後、最後の麺を取って口に入れた。
そして麺を噛んで飲み込んだ後、海老の殻が入ったままの丼を傾けてスープを一気に飲み始める。
「っ…っ…」
海鮮の味が混ざり合った濃厚なスープが喉を駆け抜けていき、そこに描かれた皿のマークが見えるまで飲み干すとそれをテーブルに置いた。
「ぷはーっ。あぁ美味かった」
「すげぇ…全部行きやがった」
それを全部見ていたハヤブサは軽く唖然となっていた。
綺麗になった炒飯皿に丼、中には海老の尻尾しか残っておらず。実に良い食べっぷりであった。
「うわぁ」
「スフェーン姉ちゃんすげぇ」
大盛りのラーメンと炒飯を食べ切ったスフェーンに見ていたヘレンはちょっと引き、ヒエンは感心していた。
「凄い…」
ペギーはスフェーンに感動すら覚えており、尊敬した目を向けていた。
「どうやったら、そんなに食べられるの?」
彼女はそのままスフェーンに聞くと、聞かれた彼女は少し考えた。
「そうねぇ…」
そして少し考えた彼女はペギーに言った。
「一食一食を大切にする心じゃ無いかしら?」
そう答えると、食べ終えたスフェーンを見て親父が感心した。
「すげぇな…」
平げた大盛り炒飯とラーメンを見て彼は言う。
「大食い大会にでも出れるんじゃ無いのか?」
言うと、スフェーンは少し反論の意味も込めて返す。
「いやぁ、あんな時間制限がある野獣みたいな食べ方は嫌いなんでやりたく無いですね」
「おおぅ、そうか…まぁそうだよな」
食事を神が人類が最初に得た娯楽と前に言ったスフェーンにとって、大食い大会など言語道断であった。
「食事というのは時間にゆとりを持って楽しくあるべきなんです」
「おうそうだな」
スフェーンの持論にハヤブサも賛同しており、食事は楽しくあるべきと言う二人に親父は言った。
「お前らは似たもん同士だな」
「「え?」」
言われ、二人は親父を見返した。
「いやぁ、雰囲気といい、言っている事といい…お前ら双子か?」
「んなわけ…」
「年齢詐欺以外で似ているとでも?」
ハヤブサが言うと、親父は少し驚いてスフェーンを見た。
「もしかして…アンタもか…」
「えぇ、まぁ…そうですが?」
スフェーンは食後に煙草を取り出しながら返すと、親父は次にハヤブサを見た。
「お前さんも数奇な運命だな。本当に同郷じゃ無いのか?」
「いや、全く違うさ」
そう言い彼も食後の一服をする為に煙草を取り出す。
「「(俺)私は生まれも育ちも多分違う(ぞ)」」
二人はそう言うと煙草に火を付けていた。
その後、食事を終えて帰り支度を始めるスフェーン達。
「いやぁ、いい飯だった」
ヘルメットを被って道路を走るスフェーンにハヤブサは苦笑気味にインカムで言ってくる。
『俺はお前があの後にどて煮を追加で頼んでいたのが恐ろしいよ』
「だってあったんだもん」
スフェーンはそう言ってペギーと分けて食べたどて煮を思い返す。あれは実に美味かったぞ。
『美味しかった』
『ペギー、お前はあいつの真似しなくていいんだよ』
ハヤブサはスフェーンと共に食べていた彼女にそう言うと、それを聞いていたスフェーンは
「あら、食費が嵩むからそう言うこと言うの?」
『兄さん、酷い』
昼間に散々笑われた仕返しを込めて言うと、ハヤブサは少し慌てながら返した。
『んな訳あるか。太ったらどうするんだよ』
『その分動く。働く』
『…』
ペギーはそう言うと、ハヤブサは軽く絶句していた。
「はははっ、良い事じゃないの。働いた後の飯は最高に美味い」
スフェーンは笑って言うと、遠くに見える港の灯りを見る。
「今度はメイコー・トライデントを走ってみようかしら?」
『高速に乗ればすぐに着くぞ』
「あら、じゃあ今度の仕事が終わったらちょっと走ってみようかしらね」
スフェーンはそう言うと、アクセルを回して速度をあげていた。
「んじゃ、明後日に運輸ギルド前ね」
「分かった」
ハヤブサの家の前でスフェーンは確認をすると、彼は頷いた。
「行き方は分かる?」
「市電で一本だ。迷う訳ない」
「んなこと言って泣きつくなよ〜」
スフェーンは言うと、ハヤブサは軽く笑った。
「少なくともミスってウィリーになるような事はしねぇよ」
「この野郎…」
ショウキ達はこれから寝る準備をする為に家の中におり、この場所にはスフェーンとハヤブサしかいなかった。
「なんか、初日を思い出すわね」
「あぁ…そうだな」
ハヤブサは岸壁に腰をかけ、スフェーンはボラードに座り込む。
「もう慣れた景色だな」
「ちょくちょく私が遊びにくる事になるとはね…」
今はメイコーを拠点に活動しているスフェーン。仕事の関係で数日居ない事もあり、その時は土産物を出先で買ってくる事もあった。
「初めからは想像できないな…」
「えぇ全くね…」
スフェーンもそれには納得していると、ハヤブサは懐から四角いサプレッサー付きのクーナン.357を取り出すと、斜め後ろに向けて引き金を引いた。
「虫?」
「あぁ、見ていた連中が居るな」
そう言い墜落していく光学迷彩を施していたドローンに二人は言うと、ハヤブサは軽くため息を吐いた。
「はぁ〜、気に入っていたんだがな」
「逃げる側ってのも大変ね」
そんな彼の苦労にスフェーンは同情していた。
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