基本的に軍警の保護観察対象者となった人間は、個人情報保護の観点から積極的に対象者に接触をして来ない。
ただ隔離をして、そこでしばらくの間別人として生活をする。それが保護観察対象者になった者の宿命である。
「引越し?」
「しなきゃならんだろうな…」
空のオーロラと星を見ながらスフェーンは聞く。
「誰だと思う?」
「…大方、俺たちのどちらかの生みの親じゃないかい?」
「じゃあ君かな〜」
即答したスフェーンにハヤブサは苦笑する。
「…なぜそこで俺なんだ」
「だって、私の追跡者はもういませんし」
「…まじかぁ」
その意味を知ってハヤブサは天を仰ぐ。
「俺の生みの親はどんどんデカくなりやがっているよ」
「まじかぁ…何処?」
ふんわりとした雰囲気でスフェーンは聞くと、ハヤブサは少々雑に返す。
「アイリーン」
「…」
その名前を聞き、スフェーンは一瞬固まった。
「嘘でしょ?」
「嘘だったらどれだけ良かったかね」
ハヤブサは言うと、スフェーンはつくづく何かと関係してくるあの会社に軽く頭を抱えた。
「俺はあそこの研究所で子供のまま育てられた挙句、レッドサンになる為に訓練されてきた」
「レッドサンに…?」
スフェーンは首を傾げると、彼はスフェーンを見ながら聞いた。
「なんだ、知っているのか?」
「えぇ、そりゃもちろん」
だって本人ですし。
「なら話は早いな…元々は俺は企業スパイとして育てられていたんだが、研究所がアイリーンに買収された後はオートマトン操縦を死ぬほどやらされた」
その際、打たれた薬物の影響で成長ホルモンが分泌されない体になってしまったと言う。
「史上最強のオートマトン乗りとも名高い傭兵のレッドサン…アイリーンはその力を欲したが、彼は大の企業嫌いだ」
「…」
なんと言うか、第三者視点の自分の評価を知らないとはいえ目の前で言われると何ともいえない気持ちになる。
「故にアイリーンは俺を使って二人目のレッドサンを作ろうとした」
「…その様子じゃあ出来なかったのね」
言うと、彼は少し頷いた。
「余りにもレッドサンの戦い方は異次元過ぎた…少なくとも、ぽっと出の人間が真似できるような技量では無かった」
コンピューターですら再現が難しいとされ、彼は言う。
「動きを完全にトレースしたはずのトレーニングマシンがエラーを頻発しているんだ。少なくともまともな奴がやるようなオートマトンの動きではないと言う事だ」
「酷い言い方ね…」
「実際そうとしか評価できんだろ」
故に他の企業でも今まで多く試みられてきたレッドサンの再現は諦められていた。
「何回倒されたか…もう数えてすらいないな」
「…」
そう言うと、彼は少し懐かしむように呟く。
「どうしたらあのような強さが出るのかね…」
そう呟く彼にスフェーンは一言、
「好きだからじゃない?」
「好き…?」
首を傾げたハヤブサにスフェーンはオートマトンに乗っていた時の自分を思い返す。
「そう、好きな物ってなんぼでも極められるでしょう?そう言う事じゃない?それに才能もある程度は入ってくるでしょうし…」
彼女の返答にハヤブサは少し手を顎に当てて考える。
「そうかな?…そうかもしれんな」
そしてスフェーンの意見に納得すると、彼女は言う。
「『好きこそ物の上手なれ』…普通は極めるなら好きな事じゃなきゃ長続きしないよ」
「それはそうだな…」
ハヤブサは過去の自分を思い返しながら言うと、スフェーンは聞いた。
「君の好きなのは?」
「いきなり聞くな…」
少し苦笑しながらハヤブサは再び考えると、灯りの付くコンテナハウスを見る。
「…強いて言うなら、アイツらかもしれないな」
「ほぅ、その理由は?」
聞くと、彼は言った。
「俺ができない分、アイツらには真っ当な人として生きてほしいから…かもしれんな」
「自分勝手ね」
スフェーンは言うと、ハヤブサは少し頷いた。
「それでも良いさ、育て方が上手ければ社会でも真っ当な評価を受ける人間になる」
ハヤブサはそう言うと、ピースを取り出した。
「ほれ」
「?」
するとハヤブサはピースの一本をスフェーンに差し出した。
「無駄話の詫びだ」
「…そう」
スフェーンはすると懐から自分のラッキーストライクの箱を取り出す。
「じゃあ私も、君に意地悪な返しをした詫びで」
そう言い彼に一本差し出すと、ハヤブサは少し笑って煙草を一本とってお互いの煙草をそれぞれ火を付けた。
「「ふぅ…」」
それぞれの煙草を吸って一息吐く。そして唐突にスフェーンは話題を変えた。
「…ねぇ、知ってる?」
「豆柴かよ」
「ちょっとは乗りなさいよ…」
スフェーンは突っ込んだハヤブサに言うと、彼女は少し豆知識を言った。
「ピースとラッキーストライクの箱をデザインした人って同じなのよ?」
「マジか」
「あら、知らなかったの?」
「ああ、意外だな」
初めて知った知識にハヤブサは感心していた。
そして火を付けた煙草を指で挟みながらスフェーンとハヤブサは言った。
「「慣れない煙草は頭が痛くなる(わね)」」
同時に口から出た言葉に二人は笑う。
「くくくっ…」
「ふはははっ」
嘗てはレッドサンだった少女と、レッドサンを目指した少年。
二人は星空の下で笑い合っていた。
その後、自分の列車に戻ったスフェーンにルシエルが言った。
『どうしてアイリーンが貴方を抹殺にかかったか理解できましたね』
呆れるように彼女は言うと、スフェーンも納得しながら同時に呆れた。
「最も、根本的な問題は多分ソレじゃ無かろうて」
『ソレはそうですが…』
事情を知っているルシエルはなんとも言えない表情を浮かべると、スフェーンはこれからくる客人のための準備を始める。
「私が企業嫌いじゃ無かったらとっくに戦争だったかもしれんな」
『その場合は地獄ですね』
ルシエルはそう言い、レッドサンが企業に属した時の想定を軽く行った結果を見て答えた。
『少なくとも大陸戦争…下手をすると古事になぞらえて世界大戦になっていたかもしれませんね』
「わぁ、地獄〜」
スフェーンはそんなに重要なキーか?と首を傾げつつも、下手に戦争が長引いてその間に企業が参戦してズルズル戦火が広がる可能性というのを否定できなかった。
「私はガヴリロ・プリンツィプになりかけてたかもしれないわね」
『歴史に名を残せますよ』
「絶対ゴメンだね」
そう言いスフェーンは床に散らかっていた下着やシャツをカゴに放り込む。明日に洗濯機に回して乾燥機までかけておくのだ。
『序でにレコードの片付けもしましょうか』
「ういっ」
ルシエルに返事をし、スフェーンはレコードプレーヤーに置いていたレコードを片付けて本棚に仕舞う。
本棚にはレコード以外にも今まで買ってきた紙媒体の本が置かれているのだが、そこには銃弾を入れた箱も置かれていた。
銃の手入れをする作業台はガレージの方にあり、バイクと共にガンラックも置かれていた。
『こうして見るとスフェーンは持ち武器が多いですね』
「あと機関銃でもありゃコンプするんでね?」
彼女はそう言うと、次に足元のマットを掃除用ロボットを起動して掃除させる。
『床を全部マットにしたのはある意味で正解でしたでしょうか?』
「その方が良くね?足元柔らかいで?」
『まぁ、そうかもしれませんが…』
キャビンの居住区画は床一面にマットを敷いた事で土足厳禁にしており、二つの出入り口は玄関のようになっていた。
『調理中に床が汚れませんか?』
「その為にジョイントマットにしたんじゃん」
裸足でも足が痛まないマットの上を歩きながらスフェーンは言うと、明後日の為に丁寧に掃除をしていた。
二日後、スフェーンとの約束で彼女の仕事について行く約束をしていたハヤブサ達は運輸ギルドの待合室で座っていた。
「よう」
するとそこに紺色のナッパ服に帽子と、仕事服の格好のスフェーンが現れてハヤブサ達に声をかけた。
「悪いな、今日は」
「良いさ良いさ、こっちも指名依頼が入ったもんでね」
そう言うと、スフェーンはリュックサックを背負うショウキ達を見た。
「引越し先は見つかった?」
「あぁ、同じメイコーにな」
「何だよ、別都市に移動しないのかよ」
一昨日にドローンを堕としたハヤブサにスフェーンは少々落胆した様子で言うと、ハヤブサは
「あのなぁ、都市内移動と都市間移動じゃあ苦労が違うんだよ」
そう言うと彼らは運輸ギルドを通り過ぎて操車場に繋がる道に停めていたウニモグに乗り込む。
「広いな…」
「あら、来た事ないの?」
ウニモグを運転していると、ハヤブサは辺りを見回して呟いた。
「あの時は混乱していたのさ」
彼はその後、研究施設が軍警による強制捜査を受けた後に保護。カウンセリングを受けた後に治安官と共に旅客列車に同乗してここまで来たと言う。
「なーんだ、装甲列車じゃないの」
「阿保か、ここに乗ってますって言ってるようなもんだろうが」
運輸ギルドが運用している軌陸車を走らせながらスフェーンはハヤブサとそんな話をする。
「その後の事を考えたら、普通は装甲列車という選択肢は論外だろ」
「そうかも知れないわね」
そう言いバックミラーで荷台に乗ったショウキ達を確認する。
子供達はコンテナヤードを前に少しその非日常的な景色に興味深く見ていた。
「場所は遠いのか?」
「いや、ウニモグ乗ったらそう遠くはないわね」
そう言い、ヤードの踏切で停車すると目の前を荷物を積み終えた貨物列車が出発線に移動していた。
「…長いな」
「そりゃ貨物列車ですしお寿司」
鐘を鳴らしながら目の前の貨物列車が通り過ぎるのを待っているのだが、その長さに少々退屈していた。
「コンテナは二段重ねなのか?」
「そうね〜、場所にもよるけどここはネフィリム以外は二段までね」
「ネフィリム?」
彼の脳裏には神話に出てくる巨人が浮かんでいた。するとスフェーンはハヤブサの想像を否定した。
「いやいや、企業が使う複々線専用の貨物列車の総称よ」
「ああ、なるほど…」
「ほら、アレよ」
そう言い指を差すと、そこには離れていてもよく見える巨大な貨物船のような見た目の列車があった。
「…でっか」
その威容にハヤブサは軽く絶句していた。
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