水族館を終え、花火大会の屋台街に赴いたスフェーン。
片手には拳銃の入った篭バッグを下げ、もう片方には水族館土産を下げて歩行者天国の通りを歩く。
「スフェーン姉さん、それ何?」
「たません、美味しいよ」
浴衣姿で歩くスフェーンはヘレンとペギーを連れて屋台飯を練り歩く。
「どこに売ってた?」
「あのお店」
そう言って指を差すと、ペギーは屋台に向かって小走りで行く。
彼女は茶色を基調に龍をイメージした染色がされ、ヘレンは深緑を基調に修行僧があしらわれていた。
下駄がアスファルトを踏んで音を鳴らし、簪が揺れる。
「ペギーは相変わらずですね」
「良いじゃ無い。食事は神様が最初に与えた娯楽よ?」
「それ、いつも言っていますね」
ヘレンは少し笑うと、スフェーンは自分の簪を揺らしながら買いに行ったペギーを見る。
そしてスフェーンは食べ終えて残った包み紙をゴミ箱に放り捨てながら言う。
「あら、私の座右の銘よ」
スフェーンは言うと、ヘレンはスフェーンのイヤリングと、二本の簪を見ながら言う。
「でも意外でした」
「?」
「予定を変えてまで残ってくれるなんて」
「…あぁ、なるほど」
鉄道連絡船の運行頻度は月一、その街から海を渡ろうと思っていたスフェーンは予定を一か月ずらしてこの花火大会に参加していた。
「如何して残ったんですか?」
ヘレンは聞くと、スフェーンは少し間を置いて答えた。
「…そうねぇ」
スフェーンはそこでヘレンの側に寄る。
「人生、思っている以上に長いから一か月くらい変わっても大丈夫かなって」
「そうですか?」
「ええ、まだ貴方みたいな子供では分かりずらいかもだけど」
スフェーンは言うと、彼女の手にヘレンが触れた。
「…私も、スフェーン姉さんと長く過ごせて嬉しいです」
「あら、良かったわ」
すると彼女はそのまま体をスフェーンに傾けた。
「この後、射的とかに行きませんか?」
「良いよ、他にもまだ屋台は色々あるからね」
スフェーンもヘレンにそう答えると、その後小さく
「死んでも、貴方達は私が一緒にいてあげられるから…」
しかしその呟きは祭りの喧騒と人々の闊歩によって掻き消されていた。
「え?何か言いました?」
「ううん…何でも無い」
首を傾げたヘレンにスフェーンは軽く首を横に振っていると、
「ヘレン…」
「?」
たませんを買って戻ってきたペギーが二人を見て羨ましそうにしていた。
「ずるい」
「何がっ?!」
するとペギーもスフェーンの横に座ると、ほぼくっついた状態でたませんを片手に食べ始める。
「取り敢えず、それ食べたら移動しようか」
「うん」
「分かりました」
頷くと、三人はベンチの上で束の間の休息を取っていた。
「さぁっ!一回如何だい?!」
その後、アンドロイドの店主が営む射的屋に向かった三人はそこでヘレンとペギーがコルク銃を使って引き金を引くも、大物では無く軽い菓子類が取れた。
「やっぱりダメかぁ…」
「仕方ない」
ラムネ菓子を敗北の味として噛み締める二人は、射的の棚の上にあるゲームカセットを見る。
「おっちゃん」
そんな二人を見ながらスフェーンは店主のアンドロイドに話しかける。
「おぅ!」
「二回分、いける?」
「おうよっ!」
そこでスフェーンは両手にコルク銃を構えると、一番上の棚の先ほどヘレン達が諦めた景品を見た。
「え?狙うんですか?」
「大丈夫だよ、スフェーン姉さん」
二人はそう言うも、スフェーンは二丁のコルク銃を構えると同時に引き金を引いた。
コルクが当たると少し揺れるだけで景品は落ちる気配がなかった。
「大丈夫ですよ。そんなスフェーン姉さん…」
ヘレンが言うもスフェーンは耳に貸さない様子でそのまま次弾を装填すると、その直後にコルクが同じ場所に命中する。
「…よしっ」
スフェーンは呟くと、さらに次のコルク弾が発射される。
「…」
そしてそんなスフェーンに店主の顔色はだんだん悪くなる。
スフェーンはそのまま連続で発射し、グラグラと揺れ始める二つを見てヘレン達もいつの間にか思わず息を呑んで見守っていた。
「これで最後ね」
「嬢ちゃん…」
店主には申し訳ないが、この勝負もらった。
そしてスフェーンは一発打って大きく揺れた瞬間に二発目を発射。
一番揺れて仰け反った瞬間に二発目が命中すると一番上の景品棚からゲームカセットのセットが落下した。
「くそーっ、上手いね〜嬢ちゃん」
「ふふんっ」
店主は負けを認めてスフェーンに落としたゲームカセットを手渡す。
「ほいよ」
そして落とした景品をそのままヘレンに手渡すと、彼女達は少し呆然とした後に聞いた。
「良いんですか?」
「えぇ、私ゲーム機持ってないしね」
スフェーンは言うと、ヘレン達は嬉しそうにしながら言った。
「あっ…」
「ありがとうございます!大切にします!」
「はははっ、良いよ良いよ。如何いたしまして」
そう言いスフェーンは嬉しげにカセットを抱えるヘレン達を見て思わず微笑んでいた。
「さて、次は何処に行く?」
「私、宝釣りが良い」
「オッケー、じゃあ行こうか」
スフェーンは頷くと、移動を始めた。
そして祭り会場を淡々と歩き、スフェーンは途中で油淋鶏を三人で分けながら食べ歩いていると、
「ん?あれ、お兄ちゃん達じゃ無い?」
人混みの中でヘレンが指を差すと、そこには確かに片手にヨーヨー風船やリンゴ飴を片手に輪投げをしているハヤブサ達の姿があった。
「あっ、ホントだ」
「行こう、スフェーン姉さん」
ペギーがそう言うと、スフェーン達はハヤブサ達の後ろから話しかけた。
「よぅ」
「ん?あぁ、お前達か」
「ちょっと兄ちゃん黙って」
そこですかさず真剣な表情のヒエンが言うと、彼は片手に輪っかを持っており、それを投げると一番遠くのポールに引っかかった。
「やった〜!」
「うえぃ」
子供らしくヒエンは景品の質の良い絵の具を受け取った。
「良かったわね〜」
「へへんっ」
ヒエンの頭を軽く撫でながらスフェーンは微笑んだ。
「ってか、何でスフェーン姉ちゃん達がいるの?」
「偶々見かけたのよ」
ショウキに言うと、ハヤブサはヘレンが持っていたゲームカセットを見た。
「ん?よく当てたな、そんな高そうな景品」
「え?あぁ、これは…」
「スフェーン姉さんが取ってくれた」
ヘレン達が言うと、スフェーンはハヤブサを見ながら言った。
「下手な勧誘を追い払ってくれたお礼にね」
「あぁ…成程ね」
事情を把握してハヤブサは乾いた笑いをした。
「いやぁ、厄介なのに付き纏われると面倒だったわよ」
「…さては銃で脅したな?」
「それ以外あると思う?」
彼女は少々晴れやかに言うと、ハヤブサは内心合掌をしていた。こんな奴に話しかける方が悪いが、せめて被害が出ていないだけでも儲け物だろう。
「銃を持ち込んだのはそれが理由か」
「えぇ、下手に逃げるよりは手っ取り早い」
キッパリと彼女は言うと、ハヤブサは
「それで治安官に補導されるなよ」
「そんなドジ踏むかいな」
スフェーンはそう言うと、ハヤブサは提案した。
「んならもう仮面で顔隠せよ」
そう言って隣のお面屋を指差すと、そこでは多様なお面が比較的安く売られていた。
「あら、良いお値段ね」
油淋鶏を食べ終え、次に特大サイズのベビーカステラの入った袋を手に取って食べるスフェーンは言う。
「デカっ、何処で買ったんだ?」
ヒエンは何個入っているのか分からないサイズのベビーカステラにペギーが言う。
「ちょっと離れた屋台。チャレンジサイズで食べ切ったらおまけが貰える」
「一人で食う量じゃねぇだろ…」
明らかにスフェーンの体に対しての容量がおかしくなりそうなサイズにショウキが苦笑していると、
「あれ二つ目」
「へ?」
ペギーの言葉にヒエンは首を傾げた。ふたつめ?如何言う事だ?
「一つ目を食べておまけのベビカスくんのぬいぐるみをもらって、今二個目食べてる」
「…」
ちょっと待てとヒエン達は記憶を思い返す。確か出会った時に分けていたとは言え油淋鶏を食べていたはずだ。
「胃袋どうなっているんだ?」
「スフェーン姉さん、今までいっぱい食べてた」
「ペギー、真似しちゃダメだからね?」
ショウキはスフェーンの大喰らいに自分の中のイメージが完全に崩れ去った気がした。
「これは如何だ?」
そう言ってハヤブサが見せてきたお面にスフェーンは持っていた赤色のヨーヨー風船を顔面にぶつけた。
「いっったっ!?」
「誰が般若じゃ」
そう言いハヤブサが見せてきた般若のお面にスフェーンは反論すると、頬を打たれたハヤブサは言う。
「お前に一番似合うのはコイツだろ」
「私怒ってないんだか?」
「今怒っとるやん」
直後、ハヤブサは再びヨーヨー風船で打ち抜かれた。
「兄ちゃん…」
「それは自業自得です…」
「お前らちったぁ擁護しろや」
ハヤブサは生意気になり始めたショウキ達に嬉しさと悲しさを覚えていた。
祭りにはアンドロイド用の潤滑油や脱硫燃料も販売されており、そこで飲んで酔っているアンドロイド達が治安官に介抱されたりと賑わいを見せている中、スフェーン達は海辺の会場に向かった。
「まだ食うのかよ」
「だって美味いもん」
そう言い片手にベビーカステラと土産、片手に綿菓子を食べ、頭には狐の半面を付けたスフェーンは言うと六人はある場所に到着する。
「ここって…関係者専用じゃ無いの?」
テントに貼られた貼り紙に首を傾げていると、ハヤブサは少し笑った。
「大丈夫さ、だって…」
するとテントの受付に見知った顔が立っていた。
「おぅ、来たかお前ら」
「親父さん…?」
受付で汗をかきながらあのラーメン屋の店主がハヤブサ達を見ていた。
「如何してここに?」
「そりゃお前、俺もここの大会委員だからな」
言われてもいまいち理解が進まないでいると、ハヤブサが補足した。
「知り合いしか居ないんだ。だから俺達は関係者専用席から花火が見られるのさ」
「…あぁ〜、だからね」
「そう言うこと」
ハヤブサは言うと、ラーメン屋の親父はハヤブサ達を招いた。
「もう少ししたら始まるぞ。先に挨拶済ませとけ」
「あぁ、分かったよ」
ハヤブサはそう言うと、ショウキ達も挨拶をしてテントを通るとそこでは
「あらいらっしゃいハヤブサちゃん」
地元民と思われるおっちゃんおばちゃんが屯してハヤブサ達を快く出迎えていた。
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