港湾施設での殺戮事件を捜査している軍警の捜査官、ルージュ・ワイアット少佐。
「…」
この凄惨な事件現場の生存者全員が子供であり、尚且つケージに入れられた証拠写真や子供の中には捜索願が出されていた子供達もいた事から軍警は人攫いグループが殺害されたと断定し、銃撃戦の激しさなどから人攫いグループ同士による抗争と事件を発表した。
救助された子供達は当時の状況を全員がコンテナに閉じ込められていたので分からなかったと答えていた。
倉庫の外には無数の給弾クリップが飛散しており、発射された銃弾は二百を超えていた。
「故意に植え付けられたわけでは無いのか…?」
彼は少佐になって初めて担当捜査官となった事件故に張り切っていたのだが、
「訳が分からないな…」
彼は無数の証拠写真を前に困惑していた。
彼が見ていたのは倉庫の外にあり、尚且つ通報者が最初に発見した遺体である。
「人植融合…と言えば良いのか?」
首から顔を覆う様に花弁が生え、目や口から雄しべと雌しべらしきものが生えている様は異様の一言であった。
司法解剖の結果、その遺体は元々は女であり、事件発生時近辺で死亡したと推測されていた。何せインプラントチップも破損してしまっていたので個人情報の確認のしようがなかった。
「手も変質しているのか…」
遺体は軍警の海を越えた先の科学先進技術捜査研究所に移送され、調査が行われている。
人と植物が融合した様なこの異質な遺体は猟奇殺人の可能性や企業の医学倫理研究の対象になると判断されたためだ。
「…」
枯れた巨大な花弁は本物の植物であると遺伝子検査からも分かっている。ただ意図的に縫い付けられたわけでもなく、体の内側から生えている様だった。
「誰かが研究でもしていたのだろうか?」
世間では抗争と報じていたが、中では困惑と疑問が覆っていた。
何せこの様な遺体はこれしか残っておらず、他の遺体は普通に銃弾貫通などによる損壊や出血で死亡していた。
「だとしたら相当厄介なことになるぞ…」
彼がそう呟いた時、オフィスの内線が鳴って彼は出た。
「はいこちら、メイコー西浜埠頭殺人事件捜査本部」
そう言って返した彼は数回頷いた。
「うん…うん…っ!そうか!」
そして彼の顔は忽ち明るいものに変わると言う。
「すぐ呼んでくれ!出頭要請だ。ああいや、俺が直接行こう。アイツも呼んでくれ」
彼はそう言うと内線を置いてオフィスを意気揚々と出て行った。
後に、その遺体から生えた植物から周辺のエーテルを全て吸収して果実にすると言う浄化作用が発見され、そこから通常よりも圧倒的にエーテルに強い適性を持った植物であると言う事から、世界中に急速に広まる事となった。
またこの遺伝子を組み込んだ既存植物の研究も大きく進む事となった。
なお発見時の状態や花弁がある植物に似ていた事から、その花はこう名付けられた。
クビツバキと。
その時、スフェーンやラーメン屋の店主達、花火大会で出会った人々はある墓石の前で手を合わせていた。
「…」
先ほど、ハヤブサ達の葬式と火葬を終えて墓に仕舞われたのだ。
関係者だけの小さな葬式だった。
遺品整理も終えて、全ての事が終わっていた。
あの後、家の扉が開いていたところを近所に住んでいた住民が中を見て通報。
軍警は保護観察対象者だった人物が暗殺されたことで少々大騒ぎになったところで人攫いグループの全滅の一報が入った事で全てがそちらに割かれていた。
「今回は喪主をしてくださって有り難うございました」
葬儀後、スフェーンはヘレンの戸籍上の家族である美容院をしている一家に挨拶をした。
ここにいる人達はハヤブサ達を養子縁組しようと提案してくれたほど心優しき人達ばかりであった。
「良いんだ、あの子は私たちの家族だからね」
ハヤブサ達の暗殺は集まった全員に暗い影を落としていた。
何せ花火大会で会ったばっかりであったので全員の脳裏にハヤブサ達の明るい顔が鮮明に残っていたのだ。
「何でも海辺の人攫いのグループが関わっていたって話が…」
「酷い話よ、まだあんなに幼い子供達を…」
「殺したのは人の皮を被った悪魔よ」
そう言いハヤブサ達を暗殺した者達に憤りを覚えながら話すおばちゃん達。
犯行は換気扇から強力な睡眠剤を部屋の中に入れる事で眠らせた後に首元に致死性の高い毒物を打ち込んでいた残忍なやり方だった。
「でもその人攫いグループって全員殺されたって…」
「当然よ、神様の罰を受けたんだわ」
「それに中から誘拐された子供見つかったって…」
そんな噂話を立てているおばちゃん達の会話を耳にしていると、
「スフェーンちゃん」
「はい」
一人がスフェーンに話しかけた。その人は花火大会の時に自分にビールを渡してきたあのおばちゃんだった。
「何かあったら、私たちに必ず言うのよ?」
「…はい、有り難うございます」
スフェーンはそう言って頭を下げる。
この人達は可愛がっていた子供達が全員殺された悲しみを、スフェーンに向ける事で紛らわそうとしていた。
明後日には鉄道連絡船に乗って出港するスフェーン。葬式を終え、全員が徐々に帰って行く中でスフェーンとラーメン屋の親父…名前をウトさんと言ったその人だけが残った。
「…帰らないんですか?」
「お前さんこそ、明後日には船で出るんだろう?」
二人は墓を前にそう言うと、ウトさんは座り込む。
「可愛い子だったんだがな…」
そして徐に懐かしむ様に呟く。
「まさか、殺されるとはな…」
「えぇ…」
スフェーンも頷くと、彼は言う。
「お前さんも気をつけろよ」
「分かっています」
スフェーンは再び頷くと、立ったままハヤブサ達の入った墓石を見る。
「俺はまだ、アイツらが生きているんじゃ無いかって思っちまうよ…」
「…それほど愛していたんですね」
「当然さ、今でもあいつと出会った時を思い出す」
そう言い彼はハヤブサとの出会いを懐かしむ様に語る。
「街中で泣いている子どもがいて、苦労している様子のガキンチョが居たんだ…どうしたかと思って聞いたら孤児の面倒を見ていたと言った」
「…」
「まだ子育てに慣れていなかったみてぇで、俺が知り合いを呼んで手伝ったんだ…」
彼の言う人物が誰なのか理解しながらスフェーンは墓石を見る。
「次第にアイツも慣れて、たまに店に来てくれる様になったんだ…。それが俺は嬉しくてたまらなかった…。俺はアイツらを家族にする為に真面目に話した事もあったんだ…。生憎と断られちまったがな…」
そこで一息吐き、ウトさんは続ける。
「俺は大人だから、一人で生きていける。俺が養子になったら皆に迷惑がかかる…ってな。生意気言いやがってよ」
彼はそう言い顔を俯ける。
「いくら中身が大人でもな、俺たちは見た目に騙されちまうんだ…」
そう言い彼は清酒を置く。
「子供ってのは迷惑が愛嬌なんだ…それが子供と大人の違いだ」
墓石の前で彼は静かに空を見上げる。
「元気でやれよ…」
そう言うと彼はゆっくりとした足取りで墓を去って行った。
そして墓にはスフェーン一人が残ると、彼女は墓の前に一本の瓶を取り出す。
「すまんね、みんな」
それは列車でハヤブサと飲んだウイスキーだった。
「勝手に仇討ちをさせてもらったよ…」
そう言うと彼女はその瓶の蓋を開けてそれを墓に掛ける。
「これからはずっと一緒だ」
そしてウイスキーが空になると、その空瓶を投げ割った。
「こんな結末、きっと望んではいなかっただろう?」
スフェーンは聞くと、少し間を置いて彼女は言う。
「…そう」
そこで軽くため息を吐くと、彼女はその場を振り返って歩く。
「じゃあ、また来ようか」
彼女はそう言うと墓場を後にしていた。
二日後、スフェーンはアタッシュケースを持ってチケットを片手にターミナルで列に並ぶ。
例えこの世界で子供五人が暗殺されようとも、人攫いグループが全滅しようとも、世間はそれをニュースで見て反応するだけで大きな流れは変わらない。
『銃火器をお持ちのお客様は事前に所持証明証をお持ちになり、全ての銃火器を出してのご乗船となります』
金属探知ゲートやX線検査を行ってスフェーンは荷物を受け取ると、目の前の船着場を見る。
『今回乗船する『はっこうだ丸』はアレですね』
「…」
そこには港で停泊している黄色とクリーム色に塗装された巨大な船舶が停泊していた。
豪華客船と見間違うかと思うほど巨大な船体だが、後部は陸地の桟橋と接岸されて固定されており、DE11が列車を押して貨物室に列車を積み込んでいた。
前日に駐車証明証を持って列車を預けたスフェーンはこれから運び屋として新天地に向かう。
『航路は水上都市アクアブルーを経由してヴェルヌ大陸の港湾都市ハンベルクに到着いたします。航行予定は三週間、うち五日間はアクアブルーに停泊します』
「了解」
スーツにトレンチコートを羽織っている彼女は着替えを詰め込んだ鞄を持ってタラップを登る列に並ぶ。
「チケットの確認を行います」
「んっ」
入り口で乗船チケットを機器にかざすと、そこで彼女は部屋の鍵も渡される。
電子機能を持たない古い鍵であるが、それを受け取った彼女はそのまま船室に向けて歩く。
船内には多くの客室や売店などがあり、まだまだ乗客の数は少ないので静かなものだった。
「…ほぉ〜」
客室は狭く、ベッドと小さな机やトイレ、窓があるだけでシャワー室はなかった。
「こじんまり〜」
『豪華客船の様な部屋はここにはありませんよ』
「分かってるけどもね〜」
彼女はそう返すと、彼女の瞳の色が虹色に変化する。
「どうしたのですか?」
『偶には潮風を肌で感じて見なさいよ』
ルシエルはスフェーンに聞くと、彼女は少し不思議そうに言う。
「あなたと私は感覚を共有しているではありませんか」
『本物に比べちゃうとどうしてもね〜、それに私はやりたい事あるし』
「…なるほど、そう言う事ですか」
ルシエルは納得すると、少し頷いた。
『じゃあ、あとはごゆっくり〜』
スフェーンはそう言うとルシエルは部屋に荷物を置いた後にサングラスと帽子を付けるとオートロックの部屋を出る。
「…」
廊下にはあまり人がおらず、ルシエルはエレベーターを登る。
屋上にはプールや売店が存在し、航行中の娯楽の一つとして機能する。
「?」
すると船全体が揺れており、それが貨物室で積載した鉄道をスライドさせたのだと直ぐに把握した。二階建てで計十二本の線路があり、一本十三両の列車を積載可能なこの船は出航準備を着々と進めていた。
スフェーンに任され、その潮風と海特有の潮の香りと呼ばれる匂いを感じながら曇天の空を見上げた時、
「あっ…」
そこでルシエルはポケットに手を当てて声を漏らした。
「鍵…インキーしちゃった…」
彼女は部屋の中に鍵を置いたまま部屋を出てしまっていた。
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