ノーチラス海を航行しているはっこうだ丸はハンベルクを水上都市アクアブルーを経由してメイコーと接続している定期航路の鉄道連絡線である。
同型のようてい丸と共に二隻で運行を行っており、つがる丸型車載車両渡船を使用している。
月一運行なのは同じ時間に二隻が出航する為であり、航路のちょうど中間地点であるアクアブルーで二隻は会合する事になる。
「きゃーっ!」
「おらおらおらおらっ!!」
背中に二本の巨大水タンクを背負ってスフェーンは電動水鉄砲の引き金を引く。
実銃と比べると笑っちゃうくらい反動が無い上に傷付かないので遠慮無く子供達に当てていた。
「うわっ!」
「ずるいぞっ!」
プールでは子供達や乗船客が水鉄砲を撃ち合って遊んでおり、プールサイドの物陰に隠れてスフェーンは飛び出して水鉄砲を撃っていた。
スフェーンは水着の上から白シャツを羽織っており、ほぼ濡れていなかった。
「すみませんね。うちの子が」
「いえ、こっちも運動不足なんで」
一戦やり終え、軽く肩から息をしながらマウンテンデューを飲むスフェーン。
一週間近くほぼ同じメンツで顔を合わせるのでこの父親とも顔見知りになっていた。
「スフェーンさ〜ん!」
「やるぞ〜」
「はいはい、ちょっと待ってな」
スフェーンはそう言うとルシエルに体を預ける。
『ほい、次君ね』
「全く…」
呆れる様に彼女は水タンクに水を入れると、セレクターを変更して水鉄砲の引き金を引くと、
ドドドドドドッ!
短く水が発射されると、発射された水はプールで遊んでいた子供達に命中する。
「このーっ!!」
「当たんないよ〜」
プールサイドを走りながら水を避ける回避軌道を取りながらルシエルはビーチチェアの影に隠れると、子供達は圧力水鉄砲を発射していた。
「…」
そしてルシエルはセレクターを変更するとビーチチェアから飛び出して引き方を引くと、
ビューーッ!
一本の水の線がプールに向かって飛んでいき、プールにいた子供達に派手に命中する。
「うわっ!!」
「きゃっ!」
そして一頻り遊び終えると、スフェーンは備え付けの水鉄砲を片付けるとプールを後にしていた。
「流石に疲れた〜」
船内のカフェレストランで机に突っ伏しているスフェーンは言うと、そこでアイスティーを注文する。
『明日にはアクアブルーに到着しますよ』
「分かってるよ〜」
彼女はそう言いアイスティーを吸う。
「…睡眠薬は入っていないよね?」
『何バカなこと言っているんですか』
ルシエルは真顔で返すと、スフェーンはケタケタと笑っていた。
その日、とある都市では戦車やオートマトン、歩兵が銃を片手に荒野に待機していた。
『最終勧告を行う!』
その背後、全ての兵器を凌駕する巨大な三連装砲砲塔を装備した巨大な兵器から巨大なスピーカーを通して声が轟く。
視線の先には一つの都市があり、外郭には塹壕が掘られていた。
『直ちに武装解除を行い、我々の捜査権行使の妨害を中止せよ!』
その兵器の名はノギ・マレスケ級陸上巡洋艦と呼ぶ。
高雄型巡洋艦と同じエーテル・カノン砲塔を二基持ち、多数のVLSとCIWSで固めた前線移動基地としての役割を持った軍警の保有する陸軍最大の兵器である。
そして二番艦アキヤマ・ヨシフルは出動命令を受けて都市郊外に展開していた。
『三時間以内に返答の無い場合は捜査協力妨害と見做し、直ちに攻撃をーーー』
直後、街から砲撃音とロケット弾が発射され、対空ミサイルやCIWS、フレアが発射されてほぼ全て迎撃される。
『…了解した』
先制攻撃を確認した少将の階級章を下げる指揮官は控えていた他の乗員に目をやると、彼らは指示を出して主砲に仰角が付く。
『ではこれより、捜査規則により軍警察による強制捜査を実行する』
スピーカーを切り、彼は展開していた部隊に指示を出すと戦車は前進を始めながら砲撃を開始し、砲塔上部に展開していたオートマトンがロケット弾発射機を構えて発射する。
視線の先では懸命に抵抗を行う今回の捜査対象となる企業のPMC兵が砲撃を行っていた。
ッーー!!
そんな彼らに前方を向いていた主砲が発射されると、巨大な爆発とともに都市の大通り含めてビルが倒壊する。
「突撃ぃぃっ!!」
背後から砲兵による砲撃が行われ、同時にロケット弾が発射されて都市に降り注ぐ。
「最近は増えましたね。こう言った件が…」
「相手は企業連合に参画していた。この際、助けてくれると思ったんだろう」
そして容赦なく塹壕を乗り越えて進軍を進める軍警部隊。
塹壕に隠れていた兵士達は鎮圧されており、頭上を戦車やオートマトンが通過して市街地に進軍していく。
「強制捜査に応じない企業の出現か…」
「その点、緑化連合に所属する都市は協力的でありがたいです」
「身内斬りの容赦ない対応の間違いだろう?」
副官に彼はそう話していると、陸上巡洋艦は都市の前で停車する。
「近々、カレル島で傭兵達による会議が行われる。そうすると、野盗やPMC含め色々と緊張が走るだろうな」
「ですね…会場には二個大隊が警備に派遣されていると聞いています」
「はっ…よほど警戒されているな…」
テレビ画面を見ながら指揮官達は言う。
その画面には記者達がこぞってとくダネを取ろうとして治安官から銃を突きつけられて追い返されてる映像だった。
「赤砂の今のリーダーはここまで考えていたと思うと、恐ろしいな…」
「えぇ、企業連合は半分詐欺まがいな事をされていますからね。それは怒って当然かと…」
赤砂がアイリーンの資金援助を受けてその勢力を拡大させた。彼が代理人を務めた後、傭兵団は多くの事務員やスタッフを雇い、徹底した管理を行っていた。
「まぁこちらとしても、傭兵業の産業化はありがたい」
今回の会議では、集まった傭兵達による新たな傭兵支援組織創設に関わる議論が行われると言われている。
「何故です?」
副官が聞くと、指揮官はわかっている様子で席に座る。
「傭兵と犯罪者の見分けが付くからな」
「…」
「傭兵と凶悪犯罪者に線引きがされるとなると、我々の捜査も楽になると言うものだ」
「ですな…」
だからこそ、今回の会議はただの重要会議と比べるとピリついた空気となっていた。
「わざわざこちらに来るとは思いませんでしたよ」
そう言い、ホテルで最も豪華な部屋の巨大なソファに座って虎の獣人の女がブルーナイトを見る。
「あぁ、私も招待に応えてくれて非常に助かったよ。チェン・リエ」
ブルーナイトは彼女の名を言いながら感謝する。
彼の周りには数名の男達が警戒した目で監視していた。
「いえ、私は会議の内容に応じただけですので」
彼女はそう言って自分で淹れた中国茶を飲む。
彼女は五獣傭兵団団長を務めており、それはブルーナイトが赤砂傭兵団の代理人を務めてから、彼の意向に反発して独立した傭兵団であった。
言ってしまうと、レッドサンの強さに憧れて勝手に付いて行って傭兵団と名乗った元凶達である。
「ご心配なく」
「そうか…」
ブルーナイトは差し出された茶を警戒する事なく飲む。
「さて、今日貴方がここにいらしたのは会議内容の打ち合わせの為でしょうか?」
チェンは聞くと、ブルーナイトは頷いた。
「あぁ、そうだ。それもある」
そして彼女に紙の書類を卓上に置いて差し出す。
その全ての動きに彼女の護衛達の傭兵は警戒していつでも銃を抜けるようにしていた。
「…」
そしてブルーナイトから差し出された会議内容の書類を読んでチェンはそれを卓に置いた。
「相変わらず無駄のない書類ですね」
「…」
「貴方の相棒もこうして謀略に貶めたのですか?」
チェンは少し鋭い視線を混ぜながら聞く。
五獣傭兵団はブルーナイトがレッドサンを殺したのではないかと直感的に疑っていた。
無論、確実な証拠がないのであくまでもそう言っているだけに過ぎないのだが…。
「我々はいつまでも貴方のことを疑っている事をお忘れなく」
「分かっているとも」
彼はそう言って頷くと、チェンは聞いた。
「それで、もう一つの要件は?」
「あぁ、」
そこでブルーナイトは会議の資料とは別にもう一つの封筒を取り出す。
「?」
「ある人からの、手紙だ」
そう言って彼の差し出した手紙にチェンは訝しみながらそれを広げて読む。
「これは…」
手紙を読み始めるチェンの手は震えているようにも見えた。
「嘘だ…」
手紙を前にチェンは一瞬脳が否定しそうになった。
「だが、君ならよく分かるだろう…その字体は」
「えぇ…そうですよ…この字体は…」
彼特有の慣れていないと読めないような読みにくい字、これ故に書類仕事を全てブルーナイトに任せたほどの字。
「原本は君に渡した。一応、今回参加した他の傭兵団達にもコピーしたものを渡している」
また後で来ると言い彼は部屋を後にすると、手紙を前に呆然としていたチェンに近づいた。
「大丈夫ですか?」
聞くと、彼女は一旦大きく息を吸った後に言う。
「五年…」
「え?」
「五年近く待ったのよ…」
尻尾がソファに落ち、彼女はテーブルに肘を付けた。
「…団長?」
彼女が呆然となったその手紙を一人が見ると、彼等はブルーナイトの置いて行った手紙を見た。
「これは…」
そしてその字体を見てその手紙が誰が書いたのかすぐに彼等は理解した。
「レッドサンから…だと?!」
それは自分達が尊敬して止まない人物からの直筆の手紙であった。
「なんで…」
「いや、生きていたと言うのか?」
「あり得ん…」
「しかしこの字は…」
護衛の傭兵達は口々にその手紙を見て言い合う。
「どうして…」
そんな中、チェンは手紙を前に呟く。
「一報もくれなかったんですか…この五年間」
手紙には持病の糖尿病による合併症で後が無い事や、静かに最期を迎えたいからと言う理由で姿をくらました旨や、自分の財産を傭兵の為に使って欲しいと言った遺言書のような内容が記されていた。
「レッドサン…」
彼女は既に何処かで死亡していると言う事実に大きくため息を吐いた。
「じゃあ、私たちはブルーナイトに向けた疑いは全部嘘だったんですか…」
タルタロス鉱山の崩落事故以降、姿を消していたレッドサン、殺害されたと言う噂が広まり、その疑いは同じ仕事をしていた全てブルーナイトに向けられていた。
何せブルーナイトが団長代理を勤めて以降、組織は大改革をした。レッドサンの忌み嫌う企業の援助を受けて…。
「嘘だったんですか…」
全てが崩壊していくような感覚を受けながらチェンはその手紙を一瞥していた。
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