TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#132

水色の201系は坂を下ってアクアブルーの港湾地区に入る。

海面が近づき、コンテナを山積みしたコンテナヤードや貨物船が接岸して積荷の上げ下ろしが行われていた。

 

「…」

 

ラッシュだったとはいえ、都市外縁を走っている環状線なので人の乗らない区間ではスフェーンも椅子に座れるほど列車は空いており、線路のジョイント音が車内に響いていた。

 

『間も無く、朝霜桟橋前。朝霜桟橋前。鉄道連絡船へ乗船の方は次でお降りください』

 

自動放送が入り、スフェーンは足元に置いていた鞄を取ってドアの近くに立つ。

徐々に速度を落として列車はそのまま複線の島式ホームに進入するとゆっくりと速度を落とす。

 

キキーッ

 

そして巨大な影が常にさす港湾地区の一角の小さな駅に列車は停車する。

 

『朝霜桟橋前〜、朝霜桟橋前〜』

 

薄暗い港湾地区で下車して自動改札を通ると、そこで停泊していたはっこうだ丸を見上げる。

横にはクリーム色と臙脂色に塗装されたようてい丸が反対に停泊していた。

 

同じつがる丸型の鉄道連絡船は誤乗船を防ぐためにくっきりと色分けされており、スフェーンも間違える事なくはっこうだ丸の乗船チケットを見せた。

 

「帰ってきた〜」

 

既に出航準備は済ませており、後は期日に出航するのみと言った様子で停泊するはっこうだ丸。

その船内は降りた時と対して変わっておらず、強いて言えば売店に陳列された商品の在庫が初日のように戻っている事だろう。

 

『ここから八日間は再び船上生活ですね』

「ここまで海水シャワーじゃないからヨシ」

 

スフェーンは言うと自分の船室を見る。散らかっていたベッドは新しいシーツに変えられ、ピンと張った白いシーツが部屋のライトに反射して答えた。

下船した際に部屋の金庫に銃火器を収納していたので、スフェーンはまずはそのロックを解除する。

 

「よしっ」

 

金庫の中の銃火器は下船当時のまま残されており、盗難された様子もなかった。

 

『そもそも銃火器を持ち込む必要はありましたか?』

「変質者がいるかもしれないでしょ」

『一応治安官も乗り込んでいたじゃありませんか』

 

ルシエルは言うと、

 

「だって、治安官が乗るなんて聞いてなかったし…」

『船内に治安官出張所があるのを見ていませんでした?』

「船内地図見ただけでわかる訳ないじゃん!」

 

思わずスフェーンは反論すると、片手に持っていた鞄をテーブルの上に置いた後に中の洗濯した衣装を取り出す。

 

『私服も増えましたね…』

「でもほぼ夏服だから、どこかで冬服も注文しないとなぁ…」

 

そう言いながら12系客車がプリントされたシャツとカーゴパンツをハンガーに掛ける。

 

『ヴェルヌ大陸は北極大陸とも接続する広大な大地を有しています。北部全域にかけて降雪地域も存在しているので暖かい装備品を注文する必要がありますね』

「はぁ、Hamazonで何か注文しないとなぁ…」

『しかし到着先のハンベルクは比較的温暖な気候ですので、半袖にカーゴパンツで十分作業可能です』

「うい」

 

ベッドの上に座り込むと、そこでネット通販サイトを見る。

 

「…」

 

視線を動かしてアパレル商品を見ていると、ルシエルが言う。

 

『ちなみに言いますが、全部同じ服はダメですからね?』

「じゃあルシエルが選んでよ…」

 

やや投げやりに言うと、彼女は少し考える仕草をとった。

 

『…分かりました。予算はいくらほどでしょうか?』

「一着、冬用セット買って」

『了解っ』

 

そこでルシエルが自分の冬用の服を選んでいる間、スフェーンは鞄を片付けて持ち込んだ散弾銃を両手に取る。

 

「…」

 

そして安全装置を解除して中の弾薬をレバーを落として全て外に出すと、再び中に安全装置をかける。

出した弾薬は全て上着のポケットに仕舞うと、弾薬を抜いた散弾銃を金庫に入れる。

 

「今頃どうしているかなぁ…」

 

そう呟きながらスフェーンは備え付けのテレビの電源を入れると、ちょうどニュースが行われており、スフェーンは買ってきたペットボトルのそば茶を飲みながら眺めていた。

 

『さて次は、現在カレル島で行われています傭兵達による会議についてです』

 

テロップが映り、映像には空港で実況をしている記者の映像が伝えられた。

 

『先ほどの会見で傭兵ギルドと呼ばれる傭兵支援組織設立が可決され、代表者による会議では新たに創設に必要な規則の設定や資金や施設提供の話し合いが行われており…』

 

ニュースはブルーナイトが発起人となったあの会議の話であった。

傭兵を営む人間や、傭兵を必要としている業界からは固唾を呑んで見守っていたであろうその結果にスフェーンも少し安堵した。

 

「決まったか…」

 

傭兵の産業化、ブルーナイトが目指していたであろう目標に少し微笑んでいると、

 

『なお今回の傭兵ギルド創設にあたり、会議の発起人であるブルーナイト氏は、相棒であった傭兵の約束を果たそうとしていると言う噂も流れており…』

『えぇ、この話は信憑性が高いでしょう。何せ複数の人物から同じような発言があったと言うことから…」

「ブッ」

 

それを聞いてスフェーンは思わず呑んでいたそば茶を吹き出しかけた。

 

「おいおい…」

 

これには思わずスフェーンもツッコミかけてしまった。何を言うかこのマスゴミどもは。

 

『現在も会議が行われていますカレル島のホテルでは、傭兵ギルド創設に向けた動きはさらに加速しているものと思われます』

 

すると長い汽笛が三回鳴り響く。

 

「あっ、出航だ」

 

スフェーンはそこで軽い現実逃避をしながら岸壁を離れる様を見ていた。

 

「誰があんな噂流したんだ…」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「くしゅんっ」

 

その時、部屋に一つのくしゃみ声が響く。

 

「おや風邪ですか?」

「いえ、誰かが噂でもしたのでは?」

 

そんな事を言いながらサクラはチェンと小さな会議室で話し合う。

 

「とりあえず五獣傭兵団と桜花武士団、並びに赤砂傭兵団との契約はこれで構いませんか?」

「うむ、ご苦労だ」

 

サクラも満足げな様子で軽く頷く。

 

「しかし…」

 

チェンは狸の獣人であるサクラを見ながら一言、

 

「存外、貴方は見た目通りの人間ですね」

「ほぅ?それはどう言う意味だね?」

 

サクラは聞くと、チェンは虎の獣人らしく思った事を口にしてしまう。

 

「いやぁ、狸みたいに目敏いなって…あっ」

 

失言をした事に思わず口に手を当ててしまうと、サクラはそんな彼女に笑う。

 

「ふふふっ、外での発言には気をつけなければならぬな。若娘」

 

そう言うと、彼女は自分用の契約書に目を通す。

 

「まぁ今回は許してやろう。私も噂を嗅ぎつけて寄ってたかった人間なのでな」

 

そう言い契約書に間違いがないことを確認すると、彼女はペンを握ってサインをする。

 

「後はこれを彼奴に持って行くだけだ」

「ですね…」

 

その時、チェンの表情が一瞬曇ったのでサクラは少し首を傾げて聞いた。

 

「どうした?」

「いえ…本当にあの人はやる気なのか気になってしまって…」

 

ここに来て疑って居る様子の彼女にサクラは今更何をと思いつつも、そこでハッとなった。

 

「あの男の目は本気だ。そもそも、レッドサンがいた頃は傭兵団を名乗っておらんかったからな」

「え?」

 

それにチェンは驚いていると、彼女は頷いた。

 

「彼奴の方から一度も赤砂傭兵団の名が出てくる事はなかった。半ば既成事実と化していたかの集団が、一気に本格的な傭兵団として動き出したのは、ブルーナイトが音頭を取り始めてからだ」

「…」

 

それは遠回しに、チェン達のような傭兵は本当の意味でのレッドサン隷下の傭兵ではないということを如実に突きつけるものであった。

それをチェンは薄々ではあるが分かっていたが、改めて言われたことで少し動揺してしまった。

 

「だが、そんな方針転換に反対して離脱してできたのがお主らであろう」

 

サクラは言うと、チェンもそれには頷いていた。

 

「一説では彼奴がレッドサンを殺したと言う話もあったが、例の手紙からもその可能性は低いのであろうな」

「それは…」

 

彼の少し汚い字の手紙は既にブルーナイトに疑いの目を向けていた各傭兵団に配られており、この傭兵ギルド創設は彼の遺言であるという風潮となっていた。

 

「最も、死んだ人間に話を聞く事はできんが…」

 

彼女はそう言うと部屋を出る。

 

「この五年間、私達が抱いていた殺意は空虚なものだったのでしょうか…」

 

団長としては日の浅い彼女は、ふと自らの憧れであったレッドサンの行動を振り返ると、確かに傭兵団をして居るとは思えないほど自分達に適当であったと思った。

 

「少なくとも、企業に寄り添おうとした赤砂の動きに反発したのは、彼の意思に沿ったことになろうぞ」

 

フォローするように言われるが、チェンとしてはレッドサンに腕前を認められただけで思い上がっていたのかもしれないと五獣傭兵団を結成した時のあの情熱を思い返す。

 

「だと良いのですが…」

 

彼女は肌身離さず持って居るブルーナイトから渡されたレッドさん直筆のあの手紙をしまう胸ポケットを一瞥する。

 

「ブルーナイト氏と面会をしに来ました」

 

エレベーターを上がり、ホールで待っていた治安官に言うとその治安官はブルーナイトが待って居る部屋までついて来た。

 

「此方となります」

 

そして通された部屋はホテルの一般客室であり、自分達が使うようなあんな豪快なものではなかった。

 

「意見はまとまったようだな」

 

部屋に入ると、そこではこのホテルで何度も顔を合わせた仇敵だった男が立って出迎えた。

 

「これが書類です」

 

チェンはそう言って少々ぎこちなく彼に書類を渡すと、目を通りた後に頷いて彼はペンを取って二枚にサインをしようとした時、

 

「本当に良かったのですか?」

 

思わずチェンが聞いた。

 

「何がかね?」

 

それに分かってはいたがブルーナイトは聞くと、彼女は言う。

 

「赤砂の解体だなんて…他の傭兵団達が驚きますよ」

「既に代表者会議でも伝えた事だ。事情を知らない他の人物が驚くだけさ」

 

彼はそう言い二枚の書類にサインを済ませた。

 

「これを公表すれば…」

「あぁ、晴れて私は初代傭兵ギルド会長と、本部を置くマーセナル・タウン市長の席に付くことになる」

 

会議で決まった各傭兵団のポストにサクラも頷く。

彼女は桜花武士団の団長を優先すると言う理由で傭兵ギルド審問委員会委員長の座を降りていた。

 

「いつ公表する?」

「会議終了直後のつもりだ」

「了解…これで企業連合は怒り心頭になるでしょうね」

「なに、金だけむしり取って離脱した時点でいつ殺されてもおかしくはない」

 

彼は言うと、聞いていたチェンは溢す。

 

「…レッドさんは、戻って来ると思いますか?」

 

彼女の問いにブルーナイトは答えた。

 

「もし生きていたとしても、あいつは二度と傭兵には帰ってこないだろうな」

 

その返答を聞き、チェンは静かに頷いた後にサクラと共に部屋を後にした。




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