運び屋としては初めて訪れるヴェルヌ大陸。大陸全体の気候は比較的寒帯であり、北部に行けば豪雪地帯が我々を待っている。
資料に残る中ではトラオムに最初に開拓事業団が着陸した地も現在のヴェルヌ大陸であるとされている。
「オーラーイ…」
コンテナを積んだトレーラーを一人が誘導灯を照らしながらバック運転をしてコンテナヤードの列車の前で停車する。
その周囲には多くの作業服に身を包んだ人々が走り回っており、厳重な警備で複数のコンテナを列車に積載していた。
「厳重な荷物だ…」
そんな光景を前にスフェーンは煙草に火を付ける。
今回は指名依頼を受けてコンテナヤードから荷物を積み込んでいた。
『今回の依頼主はマツハ・スピードモターズ。依頼内容は大型コンテナ六つ、いずれも今度のル・メン24時間レース参加チームですね』
「て事は、中身はスポーツカーかな…?」
マツハと言えば、最近勢い付いているモータースポーツチームである。
一ヶ月後にレースカーの街、鈴藤で行われる世界三大カーレースの一つ。ル・メン24時間耐久レースに参加するはずだ。
「今回は、よろしくお願いします」
「了解です」
チームリーダーを務めている一人のアンドロイド。名をテリアと名乗ったその人はスフェーンに少々疑いの目を向けていた。
「リーダー、積み込み完了しました」
「分かった」
今回、マツハがル・メンに送り出した怪物。マツハ・878Bは鳴物入りで改造が行われたスポーツカーであり、参加する他企業も注目をしていた。
「くれぐれも中の荷物には触れるなよ」
「分かっていますよ」
今回、マツハはダミーを含めた貨物を大量に用意して複数の運び屋に依頼をしていた。
理由は他企業からの妨害工作を防ぐためである。
「こんな子供が運ぶ何て聞いていないぞ…」
そんな囁きを耳にしたが、これでも運輸ギルドで指名依頼の達成率は100%なんだぞ。
ほれほれ、優秀な運び屋にひれ伏しなさいな。え?背が小さいからキツい?喧しい!
「では、私はそろそろ出発しなければなりませんので」
「あっ、あぁ…」
少々不安を隠しきれていない様子で依頼主はスフェーンを見ると、スフェーンは運転台に乗り込んでマスコンを動かす。
「出発進行」
前照灯を点灯し、汽笛軽く鳴らしてゆっくりと速度を上げていく。
「大丈夫なのか?」
そんな通過していく列車を見ながらアンドロイドは呟くと、
「一応、凄腕の運び屋だそうですよ。運輸ギルドのお墨付きです」
「あれは何だ?完全サイボーグか?」
リーダーは思わず聞いてしまうと、チームメンバーは言う。
「さぁ、私は何とも…そもそもあんな完全サイボーグ。値段も高くつくでしょうから、運び屋なんてやりますかね?」
「内臓売って金にしているかもしれんぞ?」
そんな野暮な話をしながら彼等は出ていく列車を見送る。
コンテナヤードを離れ、本線に進入したスフェーンはそこで前と変わらない仕事をこなす。
「なかなか失礼な事を言う奴やったなぁ…」
『まぁこちらの大陸ではまだ本格的に動き始めたばかりですし』
ルシエルはそう言いスフェーンを軽く宥めながら展開中の偵察ドローンの映像を見る。
『今回の依頼はスポーツカーの運搬ですか…』
「いやはや、ル・メンに出る車を運ぶ仕事を得られるなんて幸せ者だよ〜」
そう言いながら依頼が飛んで来て二つ返事で答えていたスフェーンを思い返す。
『スフェーンはストックカーレースの方が好きなのでは?』
「う〜ん…かと言って四輪耐久レースも好きよ。うん」
前者は市販車の改造、後者はガチガチのサーキット用に開発された車が参戦する。
「これから行く鈴藤は街の郊外にサーキット場が並ぶ場所なんだぁ…」
前に何度か訪れた事のある彼女は言うと、本線を巡航速度で走る。
『今回行われるル・メン24時間耐久レースは現時点で四〇台がエントリーしていますね』
「どうせマシントラブルで数台抜けるだろうけど」
そんな事を話していると、スフェーンは列車を自動運転に切り替えるとそのまま列車後部のガレージに移動すると、そこで彼女は積まれていた段ボールの紐を切っていた。
「よいしょっと…」
封を切って中身のパーツを取り出した彼女はそこで赤色に塗装されたボディーを触る。
「やりますか…」
段ボールの中身は多くのパーツが入っており、車輪やパイプ、ナットなどが入っていた。
『練習も兼ねて少しだけ体を成長してみましょうか』
「うい」
スフェーンは頷くと、少し大きめに息を吸い込んで息を少し止めるとそこで彼女の体は変化し、身長は一六〇前半まで成長する。
その姿は前のカチコミマシンガンをした時の一七〇半ばの姿と、いつもの姿の一五〇前半の身長のちょうど中間といった具合で、ぱっと見で背の少し高めな高校生に見える様相であった。
着ているナッパ服も体に合わせて変化しており、身につけている衣装全てが体に沿うように変化していた。
「あっつ」
そして体全体が放熱を始め、それに思わずスフェーンはナッパ服のボタンを開けると、着ていた白いタンクトップが汗を吸い込んで中に着ているスポーツブラが少し透けていた。
「なんか…どんどん人を捨てているような…」
成長した体で指を握ったり開いたりしながら溢すスフェーンにルシエルはキッパリ言う。
『そもそも無機物まで食事できる時点で人外ですよ』
「いやぁ、そりゃそうだけどね?」
『体内に保有している臨界エーテルが少ないから少女の見た目なだけですし』
「流石に永遠婆さんの見た目はねぇ…」
工具箱からレンチを手に取って床に座ってパイプを握るスフェーンはナットとネジを手に取るとパイプを結合する。
彼女が今作っているのは取り外し可能なサイドカーであった。
旅の目的を決めた彼女は自分のバイクに荷物を積めるようにとサイドカーの改造キットを購入していた。
『よくそんな大きなものを一人で作ろうとしますね』
「時間かけて作れば一人でも行けるかなって」
改造キットには車輪やボディーを固定するためのパイプなどが入っており、ボディー自体は既に一つの金属プリンターで製造されていた。
『運輸ギルドのディーラーで売っていたのは奇跡ですね』
「いやぁ、やっぱりバイクで移動する人が多いんでしょ」
そう言いながらスフェーンは黙々と説明書通りにサイドカーを作っていると、
『スフェーン、敵襲です』
「来たか…」
ため息混じりに軽く頷くと、列車の武装区画からCIWSが迫り出し、ミサイルと銃弾で攻撃を加える。
『敵数。オートマトン六、装甲車二』
「んじゃ、」
彼女はタブレットに目をやると、そこでは列車全体のエーテル残量を記したデータが一括表示されていた。
彼女は視界をエーテル・カノンの照準器に合わせると、レーザー照準を行った後に発射可能な状態にまで持って行ってタブレットを触ってエーテル・カノンを発射する。
ッーーー!!
自分の運び屋としての実績の理由の一つから、レーザー砲と勘違いされるその兵器から発射される熱線は土煙を上げる襲撃者の近くに命中する。
地面を抉るように着弾したそれは襲撃者達を蒸発させ、周囲のエーテル空間濃度を上げながら余波熱で周囲を高温に持っていく。
「チッ、一つ外したか…」
そこで半壊しながらも生き残っていたオートマトンを視認すると、ルシエルが言う。
『あとはお任せを』
言うと生き残ったオートマトンに止めでCIWSのガトリング砲が発射されると、オートマトンをズタズタに破壊した。
「ひゅ〜」
『軍警に座標を乗せた匿名通報を送りました。じきに現場に到着します。エーテルも風で流されるでしょう』
「手早くて助かるねぇ」
そう言いながら残骸と化したあの場所を見る。
幸いにもここら辺は防砂林が無いのでありがたくエーテル・カノンを発射できるが、防砂林があると奇襲を仕掛けてくるので大変である。
「襲撃は大きくなかったから…」
『突発的な接敵と見てよろしいでしょう。所詮は雑魚です』
「手厳しいねぇ」
強火な意見にスフェーンは言うと、骨組みを組み終えてそこで彼女はドッと疲れを感じる。
「ふぅ…とりあえず今日はこれくらいにしよっかなぁ…」
『そうですね。明日の事も考えますと、そろそろ休息したほうが良いでしょう』
「んじゃ、ちと休憩しますか…」
そこで彼女はガレージから個室に戻ると、ガラス製の急須に緑茶パックと共に削った透明な氷から取った氷だし緑茶をグラスに入れる。
「ふぅ…」
そして少し待った後によく冷えた緑茶を一口飲み、お茶自体の苦味や氷出し特有の引き締められた風味。
相変わらず冷蔵庫の中には缶ジュースなどを突っ込んだままの彼女ではあるが、茶を飲む良さを改めて感じていた。
「どうして老人達が茶を好むのかわかる気がするわ〜」
『日本茶は和菓子との相性が良いですよ?』
「何?今度白玉粉でも買って作ってみる?」
『それも良いと思います』
台所上の棚に置いてある小麦粉や米といった食料を思い返しながらスフェーンは呟く。
「あぁ〜、とっくの昔に乾物も無くなっちゃったしなぁ…」
『通販でもしてくれると大助かりですがね…』
そう言いかつて寄り道をしたあの街を思い出す。
今日のノルマ達成をして彼女はナッパ服を脱いで下着一丁でベッドに横になる。
『明日は都市に寄り道してシャワーを浴びるべきでは?』
「そうね〜」
白と黒のスポーツブラを着る彼女はベッドの上でゴロゴロとくつろぎ始める。
特に最近は見た目相応の行動を示す事が多い彼女、ルシエルも毎日の付き合いの中で体のデータを取っているが、どれも今までの知識から少々外れる部分があった。
「ZZZ…」
『スフェーン…』
そしてそのまま寝入った彼女に呆れるようにルシエルは話しかけるも、起きる気配はなかった。
『…仕方ありませんね』
ルシエルは軽くため息を吐いて彼女の体を動かすと、ドッと何か値の知れないものが降りかかる。
「中々な疲労ですね…」
ルシエルは過去に経験したそれをすぐに認知すると、布団を身体に掛ける。
「新しい身体ですか…」
そこでルシエルは呟く。
前にスフェーンの提案で決めた新しい旅の目的。
今までそのような目的も無く、資産を中心に自堕落な生活を送っていた自分達には良い刺激になるかもしれない。
ルシエルはそう思いながら、感じる疲労感から逃れるためにそそくさとスフェーンに身体を移していた。
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