モータースポーツの街、鈴藤。
郊外に巨大なカーレース場を備えるその都市は、毎年この時期になれば多くの人々が訪れていた。
街中を広告が駆け巡り、歩道には人々が闊歩し、ホテルは全部屋が満員である。
『レース場参加チケットを入手できました』
「お疲れ〜」
現在八両編成の列車は荷物を下ろし終えた後の台車検査を行っており、安く行ってくれるギルド併設の車両工場でそれを聞く。
『大変ですね』
「でしょ?」
数多の人海戦術で台車点検や車両点検を終える。
「こちらが今回の料金です」
「お疲れ様です」
明細表を受け取りながらスフェーンは金額を確認する。
「…」
しっかりボラれていないかなどを確認した後に頷くと、彼女は運転台に乗り込む。
この車両工場には他にも多くの車両が整備を受けており、台車点検や車両点検を行なっていた。
今回は襲撃者と数戦やり合ったのでかなり武装を消費していた。
その為弾薬やミサイルを補給する必要があった。
「よいしょっと…」
列車側面の点検口を開け、中の格納された複合CIWSを確認して中の機器を外に停めていたトラックと連結してボタンを押すと
ガラガラガラガラガラ
けたたましい音とモーターを回転させながら、レールの上を無数の30mmケースレス弾が走り出す。
その横ではトラックのクレーンから地対空ミサイルのセットが吊り下げられて装填される。
「補給はどうされますか?」
「満タンで」
「了解しました」
そしてトラックの運転台から武器屋のアンドロイドが聞いてきて頷くと、トラックの荷台に積まれた弾薬数を計測している。
CIWSを搭載しているのは三基。搭載弾薬の30mmケースレス弾は現時点で最も普及している弾薬であり、オートマトンでもよく使用される比較的強力な弾薬であった。
エーテルスタンドの要領で注文を受け、トラックに積み込んだ弾薬・ミサイルが列車に吸われていく。
「いやぁ、最近は注文が多くて大変ですよ」
「最近は特に治安悪くなってきていますからね〜…」
補給途中、スフェーンは販売員のアンドロイドとそんな話をする。
「大陸の向こうの飛び火ですよ」
「まぁ向こうも暗雲立ち込めていますからね〜」
そう言い緑化連合と企業連合の睨み合いを直で見たスフェーンは少し顔を引き攣らせる。
「だからこっちに来たんですけどね〜」
「あぁ〜、最近そう言うお客さん増えていますよ。やっぱり危ないんだなぁ」
ミサイルを格納庫に入れ、弾薬補給を終えたアンドロイドはスフェーンに支払い機器を出す。
「こちらが補給代金となります」
「えっ?ちょっと高くない?」
スフェーンは示された弾薬費を見て思わず溢すと、販売員は言う。
「すみません、最近は弾薬の値段が高くなってしまっていて…」
「えぇ〜、買ったんだからちょっとマケてよ〜」
「そう言われましても…」
そう言いアンドロイドとスフェーンの割引交渉は平行線を辿ったが、結局は店員側は負けてしまった。
「どうも、ありがとうございました〜」
そう言い、やや疲れた様子でトラックに乗り込んで行った武器屋はそのまま走り出していくと、武装区画のハッチを閉めたスフェーンは軽くため息を漏らした。
「はぁ…値上がりかぁ…」
『交渉でこれほど時間が掛かるとは予想外でした』
ルシエルもこれには疲れた様子を見せていた。
「まぁ明後日にはレースがあるし、その時までこの疲れは癒しましょうや」
『そうですね』
武器の補給を終え、スフェーンは列車からバイク降ろすとそのままエンジンをかけて走り出す。
『結局サイドカーは間に合いませんでしたか…』
「まぁ良いでしょ。基本的に予定は遅れるものだし」
そう言いながら留置線のホームを降りると、そのまま操車場を出る橋に登って街にでる。
「うほ〜」
そこで広告一色に包まれた都市を見上げる。
「流石だねぇ〜」
此度行われるレースを前に人々は闊歩し、明日から行われるレースを前に街を闊歩していた。
『レース開催中の会場の出入りは自由ですが、例年出入り口はすごい人だかりになるようですね』
「まあ実質的に出るのはほぼ無理でしょうな」
そう言っていると横を赤色灯とサイレンを鳴らしながら12.7mm機関銃の無人砲塔装備の軽装甲機動車が走る。
水色に白色の機動隊所属で、黒文字で側面に軍警察と印刷されていた。
「軍警も流石に重装備だ」
『特にテロを警戒しているようですね』
普段のパトカーでは無くIMVを持ち出しているあたり、かなり警戒しているのだろう。
海の向こうの睨み合いは既に世界中に飛び火しており、この都市は緑化連合に属していた。
「治安悪いなぁ…」
そんなことを呟きながらスフェーンは角を曲がった時、
「ん?」
道端の生垣に座り込んでいる一人の男。アレなんかデジャブの予感…。
「おーい」
試しに声をかけてみるも返事無し。試しに降りて近づいてみると、彼の手元には鬼ころし。そして側には吸い殻の入れられたワンカップ大関。
「あーあー」
見て分かる、調子に乗って道で呑んだ奴やん。
「おっ始めちゃってまぁ…」
身なりはヨレたスーツでネクタイも緩めた猫科の獣人の男。人気の少ない通りで隠れて酔っ払ったのだろう。
『通報しますか?』
「モノ取られる前に保護して貰った方がいいでしょ」
と言う事でスフェーンは通報すると、すぐにサイレン音が聞こえて道路から軽装甲機動車が現れた。
「通報を受けてきました」
そして降りてきた治安官はスフェーンを見ながら言うと、彼女は横で眠りこける一人の男を見る。
「大丈夫ですか?」
早速治安官が声をかけるも、返事は無い。
「あーあー」
「完全にデキてるわね…」
やや呆れながら二人は酒を見ながら呆れると、男を介抱する。
「んぁっ、なにをする〜」
「ほらほら、暴れなさんなって」
「貴方を保護するんです」
「ほごぉ?やめろぉ〜」
「コラコラ」
顔が真っ赤かの状態で車に乗せられるその男を見送ると、治安官はスフェーンを見て聞いた。
「じゃあ、通報者の情報を見ても良いかしら?」
軍警の規則でテロ防止の為に通報者の個人情報の確認を行う必要があった。
「ほい」
「ありがとう」
スフェーンは後ろを振り向くと、治安官は読み取り機を使ってインプラントチップの確認を終えると犯罪歴の有無を確認した後に軽く頷いた。
「…ありがとうございます。後でもしかしたら連絡があるかもしれないので、その時はよろしくお願いします」
「分かりました」
「通報に感謝します」
インプラントチップを確認して治安官は態度を大人のものに変えると、そのまま車に乗って去って行った。
「やれやれ、また呑んだくれの通報とは…」
スフェーンは見送りながら呟くと、酒の残骸の残った生垣から離れてバイクに跨る。
『少し懐かしいですね』
「もう一年くらい経つかねぇ…」
そんな事を呟きながらスフェーンはバイクを走らせていた。
ッーーー!!
汽笛を鳴らし、0-6-0の小型タンク機関車が煙を上げて線路を走る。
大きさはとても小さく、俗に軽便鉄道と呼ばれる大きさの機関車は後ろに無蓋貨車とマッチ箱の様な客車を混結していた。
周囲には無数の緑の山々や水面の張る水田が広がっており、空は青とも紫とも取れる色合いで星の輝きを見せつつも昼のような明るさを持っていた。
その空では航空機や鉄道車両などがゆっくりと回転しながら浮いており、その周囲をオーロラのような光が包んでいた。
パチン
そんな汽笛を耳にしながら、典型的な茅葺き屋根の日本家屋の縁側で将棋を打つ音が静かに響く。
「王手」
縁側に腰をかけて一手を打った青年は言うと、反対に座っていたスフェーンはしばし考えた後に軽く頭を下げた。
「参りました」
言うとその青年は軽くため息を吐いた。
「ここでもお前の姿は変わらないとはな…」
「あら、驚いた?」
スフェーンは聞くと、その青年は少し笑って首を横に振る。
「もう慣れるしか無いだろう。こんな摩訶不思議な所に来てはな」
そう言い緑で溢れる田舎町を見下ろす。
田んぼの畦道を走る軽便鉄道はここから少し下った場所にある街の停車場に停まっていた。
そんな景色を一瞥した後に視線を戻したスフェーンは言う。
「しかし、此処に来てこんな好青年になるとはねぇ、ハヤブサくん?」
「君付けで呼ぶな。不思議娘」
そう言うと、庭先で聞き覚えのある声がする。
「兄ちゃーん」
灰色のつなぎ服を見に纏う彼はそこで軽く手を挙げると、庭先で遊んでいたショウキ達を見た。
「あぁ、後で行く」
「分かった〜」
そう返すと、ショウキは門から出て行くと石階段を降りて行った。
そんな子供達を見ながらスフェーンは呟く。
「でもこれで、この空間では精神年齢に由来されると言う良いデータが取れたわ」
「目を覚ました時にこの姿になった俺の気持ちも考えて欲しいものだがな…」
そう言いハヤブサはため息混じりに一気に急成長した事で初めは怪しまれた事を思い返す。
そしてそのまま流れるように此処にいきなり現れたスフェーンに聞いた。
「んで、ここはどう言う場所で、お前は何者なんだ?」
「そうね…」
聞かれたスフェーンは少し考えた後に答える。
「じゃあコレをしながら答えよう」
そう言いハヤブサの前に先程とは違うマス目の四つ足の盤が置かれ、ハヤブサは瞬きせずとも変わった事実にもはや何も言う事無く再び縁側に腰掛ける。
「今度は囲碁か?」
「えぇ、やりながらお話ししましょ?」
すると彼女の姿は女性と呼ぶにふさわしい姿にいつの間にか変貌しており、サングラスをかけていた。
「やれやれ…」
どうなっているのやらと呟きながら彼は手元にあった黒い碁石を囲碁盤に置き始めた。
「お前は何者なんだ?」
「『何者でもあり、何者でも無い』と答えるのが世界でしょうね」
「哲学かよ…」
ハヤブサは苦笑気味に返すと、スフェーンは言う。
「それで此処は…まぁ言うなら『宇宙』かしらね?」
「…それはUniverseの意味か?」
ハヤブサは聞くと、彼女は軽く首を横に振った。
「でも此処ははっきり言うと、私でもよくわからない世界よ」
「は?」
碁石を置いてスフェーンが答えた事実にハヤブサは軽く困惑する。
「此処がどんな世界で、誰がいるのか。私達も調べた結果…過去のとある資料に最も近い事から、私はここを『色界』と名づけた」
「色界?」
ハヤブサはスフェーンの言葉に首を傾げていた。
お気に入り登録、高評価をよろしくお願いします。
新たな依頼をピックアップ致しました。
-
軍警のクーデター
-
雪の田舎町
-
抵抗する者達
-
労働者にやさしい街
-
水と緑の廃墟