TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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SFが『すこし・ふしぎ』になっている気がしてきた。


#136

首を傾げるハヤブサにスフェーンは言う。

 

「色界は仏教用語の一つ。淫欲や食欲などから脱した衆生が集う世界。欲や煩悩は無いが、物質や肉体の束縛からは脱却していない世界を指している…」

「ちょっと待て、だとすると…」

「えぇ、だからあくまでも仮称の話よ」

 

スフェーンは言い、新しく碁石を置く。

 

「すでに貴方達の肉体は消失し、完全に貴方達はあの世界の肉体の束縛を離れている」

「あぁ…」

 

ハヤブサはそこで明らかに異常な様相の自分や、目の前に座る女性の異常性を前に頷く。

 

「かと言って、無色界と呼ばれる空間は精神的な場所で、もののかたちそのものが失われた世界と仮定されているわ」

 

そう言い今の碁盤を見る彼女。

 

「こんな景色を見れば明らかにトラオムでは無い事は把握できるが…」

 

そう言い彼は緑で溢れる家の外の景色を見下ろす。

少なくとも、トラオムでコレほど自然的で生い茂った緑がある場所を、彼は知らなかった。

 

「この空間には私と言う存在が誕生する以前から生物が暮らしている」

「はぁ…?」

 

よく分からないと言った表情でハヤブサはスフェーンを見ると、彼女は煙草を取り出す。

 

「此処では死ぬことも生きることも自由なのよ?」

「…果てはあるのか?」

「さぁ、私もこの世界にはあまり来ないし」

 

彼女は言うと、ハヤブサは聞く。

 

「お前はこの世界の神か何かなのか?」

 

その問いに彼女は答える。

 

「それは違うと断言できます」

「え?」

 

ハヤブサはそこで聞き覚えがあるが、違和感を覚えると、スフェーンの背後から一人の少女が現れた。

 

「は?」

 

その少女は白いワンピースを纏い、見た目は自分が見慣れたスフェーンの姿なのだが、瞳は虹色であった。

するとスフェーンは彼女を見て慣れた表情で返す。

 

「おー、帰って来たのね」

「どう言うことだ?」

 

困惑する彼にその少女は縁側に座ると名乗った。

 

「この際初めましてと言いましょうか。ハヤブサさん、私はルシエルと申します」

「は、はぁ…」

 

理解が追いついていない様子で返す彼にスフェーンはルシエルと同じ姿になる。

年老いたり若返ったりと色々と忙しいスフェーンであるが、彼女達は双子の様に縁側に座っていつの間にかあった湯呑みを両手に抱えていた。

 

「双子だと?聞いたことないぞ?」

 

ようやく理解が追いついたハヤブサは思わず言うと、二人は頷く。

 

「まぁそうでしょうね」

「ですが私は貴方がたを知っているんです」

「は?なんで…」

 

するとルシエルは言う。

 

「私とスフェーンは一つの体を共有する関係…まぁ二重人格と言えば貴方にも理解できるでしょうか?」

「あっ、あぁ…?」

 

ハヤブサは目の前の人外達になんとか納得させた。

 

「まぁ、それは兎も角として…」

 

そこでルシエルはハヤブサを見る。

 

「お客様をお連れしました」

 

すると家の門の前に子供達が群がって一人の女性を見上げていた。

 

「やれやれ、こんな子供の相手とはね…」

 

呆れるように入ってきた一人の女性はスフェーン達を見る。

 

「スフェノス〜、ルシエル〜!」

「はいはい」

「何でしょうか?」

 

縁側から降りて近づく。

 

「お久しぶりです」

「ははっ、相変わらずよく分からない娘達だよ。君達は」

 

そう言いアリズ・キテラはスフェーン達を見ていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「…んぁ」

 

タイマーの音と差し込む陽の光でスフェーンは目を開けると、体を起こす。

 

「朝か…」

 

そこでは空はエーテルのオーロラで覆われ、相変わらずの荒野が広がる景色であった。

 

『おはようございます』

「ん、んはよぅ」

 

スフェーンは軽く目を擦りながらベッドから降りると、スフェーンは言う。

 

「本当、不思議な体だなぁ」

『そうですね。少なくとも一般的な科学的知見からは外れた肉体だと思います』

 

私服に着替えながら彼女は言う。

 

「この体はあの世界とこの世界を繋ぐ門みたいなものなのかなぁ」

 

ガレージに移動しながらスフェーンは呟くと、ルシエルが言う。

 

『言える事としては、この体の奥底には一つの別世界が見えることくらいでしょう』

「ははっ、変な話だよ」

 

そう言いながら停めてあるバイクのエンジンをかけると、ガレージの扉が開いてホームに出ると、再び扉は自動で閉まってロックがかかる。

 

「さて、行きますか」

『はい』

 

そこでアクセルを回すとクラッチを動かして走り出して行った。

 

 

 

 

 

ル・メン24時間耐久レースは鈴藤郊外の巨大サーキットレース場の鈴藤サーキットで毎年開催されている。

巨大な観客席には大勢のチケットを持った人々がレース開始を前に席に座っており、間も無く始まるレースを前に今回の勝利予想をしていた。

 

オッズの配当盤が表示され、今年の優勝車や着順を賭けていた。

 

「すげぇ人だ事で」

 

片手にケバブを握ってスフェーンは言うと、ルシエルが聞いてくる。

 

『現在もオッズの変動はしていますが…』

「賭けはしないよ。どうせ外れら」

『そうですか』

 

すんなりとルシエルは引くと、スフェーンはケバブを一口噛む。

中からトマトと牛肉の肉汁が混ざりあい、タレと合わさって美味い。

そして挟まれたキャベツのシャキッとした食感と冷たさが程よく暖かいケバブを引き締める。

 

『今回参加する車両は三八台そうですね。過去一番少ない数での出走予定です』

「二台脱落したか…」

 

グリッドを見ながらスフェーンは呟くと、今回出場するレースカー達を見る。

 

「…あれ?」

 

そして自分が依頼を受けて運んだマツハ・878Bの停車するピットを見た時に違和感を覚えた。

するとルシエルも同じ事を思ったのだろう。

 

『ピットにいるレーサー、見覚えがありますね』

「いや、昨日飲んだくれてた人に似てね?」

 

そう、ピットで最終確認をしながら車のドアを開けていたその人物は、昨晩通報した御仁にとても似ていた。

 

『映像照合…一致率100%…』

「嘘ーん…大当たりかよ〜」

 

スフェーンは飛んだ偶然に出会したと思いながらピットを眺めていた。

 

『とことんスフェーンは当てますね』

「うっさいわ、だいたい君も厄引きつけるでしょうに」

 

そんな軽い言い争いをしながらレースが始まるのを待っていた。

 

 

 

『さぁ、間も無く始まりますル・メン24時間耐久レース。今回の参加台数は三八台!』

『二台落ちただけですので、今年は全体的に調子がいいのでしょうね』

『しかし数は大会史上最小です。激しい接戦が予想できるでしょう』

 

実況が始まり、スタンドには溢れんばかりの観客が映像に釘付けとなっていた。

 

『今年の有力候補としてはミッシェル、ハイスタンダード、日丸と言った所でしょうか?』

『マツハも見逃せませんよ。何せ今年の成績は例年よりも圧倒的ですからね!』

 

実況役の二人はやや興奮気味に話すと、下ではピットからレースカーが準備を終えて扉が閉められる。

 

『さぁ間も無くレーススタートとなります』

『各車グリットに入りました』

 

視線の先ではけたたましいエンジン音を奏でながらシグナルランプを見上げる。

 

「…」

 

そんな中、878Bの車内で一人のレーサーのホセ・シラキは少し息を呑んで目を閉じる。

 

「ふぅ〜…」

 

するとチームリーダーが無線で話しかけてくる。

 

『昨日飲んだくれた気分はどうだ?』

 

彼は昨晩、飲んだくれていたところを軍警に保護をされてそのままホテルに連れて帰られた。

今までのストレスを吹き飛ばしたいのと自棄酒をして見事に潰れていた彼は答える。

 

「あぁ、気分は最高に良い」

『そうか…』

 

キッカケは昨晩に通報したのだろう、とある女性に声をかけられた時だ。

妙に透き通った声色で頭にぼんやりと残っており、まるで魔法にかけられたかのように今の自分は感覚が冴えていた。少なくともこれを言っても真に受けてもらえるわけでは無いが…。

個人情報の観点から通報者を教えてもらうことはなかったのが悔やまれたが、彼はハンドルを強く握る。

 

ッ…ッ…ッ…

 

赤色のシグナルランプが次々と点灯し、車内でホセはアクセルを踏んでエンジンを吹かす。

 

ッーー!!

 

そしてランプが緑一色になった時、一斉に前車が速度を上げる。

 

『さぁ今年も熱く長い戦いが始まりました!!』

 

目の前を高速で通過していく車両を見ながら実況はそう叫んだ。

けたたましい轟音と共に走り出す三八台は観客席の前を通過すると荒野に敷かれたアスファルトの上を疾走していく。

 

『凄い轟音ですね…』

「この音が堪らなく良いんだよ」

 

そんな走り出して行ったレースカー達を見ながらスフェーンは言うと、片手にフライドポテトを持っていた。

 

ストレートやコーナーの入り乱れるこのサーキット場は加減速が大変忙しい。

 

「ルールは比較的簡単。24時間でどれだけ走る事ができるのか」

『そしてどれだけ長い時間残るか、と言う事ですね』

「そゆこと」

 

会場の巨大スクリーンにはカーブを曲がるレースカーの姿があり、植林された森の中をレースカーが走っていた。

 

「あっ、マツハだ」

 

その中には自分が運んだ…のかは分からないが、少なくともこの前の依頼主のチームの車が集団に混ざって走っていた。

同型車は三台がエントリーをしており、同じ塗装の車両がサーキットを走っていた。

 

『凄い勢いですね』

「まぁストレートに入ったら平気で三〇〇キロ出すからね〜」

『ゼロヒャクが市販車とは比べ物になりませんね…』

 

ルシエルは言うと、スフェーンも頷く。

 

「まぁ元々このレース自体企業が持ってる技術力を見せるための側面もあるから」

 

故にこう言ったレースでは最新技術が惜しみなく投入される。

特に今行っているカテゴリーCは大会の車両規制が緩いのでレースカーの新技術の実験台としても使われていた。

 

「そろそろ見えてくるよ〜」

 

遠くから聞こえてくる音を耳にしながら彼女は言うと、カーブを曲がって無数のレースカーが一週目を終えて観客席の前のストレートを通過していく。

 

ッーーーー!!

 

高速で通過していくレースカーが巻き上げる風は観客席でも感じるほどで、流石と言う他ない。

 

『ここから24時間のレースですか…』

「途中で観客も飽きて帰って行っちゃう場合が多いけどね」

 

そう言い長期のレースを前に既に観客席から外の会場に移動し始めている客を見る。

 

『どのくらいここに滞在する予定ですか?』

「うーん…あと五周くらいしたらここを出ようかな」

 

そう言い画面でレースカーが走り、実況の興奮した声を耳にする。

 

『さぁ現在三周目に入りました』

『先頭はーーー』




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  • 雪の田舎町
  • 抵抗する者達
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