今でもアメリカにはその文化が残っているとか。
Q:TS作品で元カノとかを出すのって御法度か何かなんですか?
車載型のエーテル機関の爆音を奏でながらサーキットを回し車の如く駆け巡る数多のレースカー。
『現在の先頭はカーナンバー18のメルセベス』
『その後続いて26のハイスタンダード、8番タイガーとなっております』
レース開始から約六時間、既に何十周もしている中で決勝という事で大勢の観客がその勇姿を眼に刻むために訪れていた。
「マツハは…」
『カーナンバー55、現在は五位ですね』
会場外の巨大ディスプレイの前で映像を見ながら購入した醤油団子を食べるスフェーンは定点カメラ映像と順位表を見る。
「おぉ、結構追い上げてる」
『しかも運転しているのはホセ・シラキですね』
「おぉ、縁があるねぇ」
ヘルメットを被っていて一切の表情が窺えない彼だが、腕は確かなのだろう。
「凄い刺していくなぁ…」
カーブで着実に前の車との距離を近づけて順位を上げようとしている様にハンドルを切っており、ストレートでは加速をする。
『かなりの攻めの姿勢ですね』
「えぇ、ほぼエンジン全開に近いでしょ、あれ」
そんな事を言いながら彼女は聞こえてくるエンジン音を耳に感じる。
ッーーーー!!
まるで天使の絶叫の様な音に思わずスフェーンも苦笑する。
「はははっ、今年もすげぇ音…」
『会場の外まで聞こえるこの爆音ですか…』
今スフェーンがいる場所は観客席から離れた大型ディスプレイが設置されている臨時の観客席。今も電波に乗って世界中に伝えられている映像と同じものを見ていた。
「あっ六号車が…」
するとピットにプジュー・905の一台が入ると、そこでトランスミッション破壊による棄権が報告された。
「あちゃー、壊れたか…」
『これで同型でリタイアは二台目ですね』
そんな光景を前にそんな事を言い、一部で悲鳴が上がっていた。
多分、賭けていた車がリタイアしたに違いない。
「あーあー、言わんこっちゃない」
『ル・メンの配当率は低いんですね』
ルシエルは今の賭け状況と配当率を見ながら言うと、スフェーンは頷く。
「えぇ、だからそれを知ってる人間は買わない」
『賭博時に与えられるチケットは人気の様ですね』
「ほぼそれ目当てだよね」
そう言うとコースを周回し続けるレースカーを見ながら会場を去る。
「さて、そろそろ行きますか」
『そうですね、そろそろ良い時間かと』
『8番がリタイアした』
無線で聞いたその話にホセは小さく頷く。
「(やはりプジューは落ちるか…)」
元々車体性能に不安があると噂だった車両だ。できれば全車リタイアして欲しいものだ。
既に二時間運転しており、そろそろ交代する必要があった。
「チーフ、そろそろ交代したい」
『あぁ、この周でピット入りしろ』
許可が降り、彼は目の前のタイガーの車両を抜けてストレートに入る。
ッーーー!!
加速を再開し、そのままピットインをする。
「立てるか?」
「問題無い」
少々ふらつきながらも地面に降りた彼はそこですぐに交代のドライバーと入れ替わると、給油と点検を済ませた55号車はそのまま扉を閉めて走り去っていった。
「ほれ」
肩を貸してもらって休憩所に着いた彼はそのまま経口補水液を口につける。
「ふぅ…」
休憩所ではテレビ画面で実況中継が映し出されており、自陣営の車両が走るのを見る。
今年からピットが大改築を施されたおかげで快適性が非常に上昇し、休憩中でも簡単に状況把握ができるようになっていた。
18、55、56で車両登録を行なった三台は今も周回を行なっており、他陣営が警戒をしていた。
「先頭は四位だ」
「俺たちの車か…」
テリアが話しかけてきてホセは軽く息を吐く。
「おかげで今年は総合優勝も視野に入れている」
「今日は車の調子が良いな」
彼は聞くと、エリアは頷きながら椅子に座る。
「あぁ、55号車はエンジニアがビビるくらいに調子が良い」
「マジか…」
「お前さんの言う、女神の囁きのおかげかもな」
そう言い最初は鼻で笑って流していたホセの話を冗談混じりで言う。
「俺は本気なんだぞ?」
「気持ちの問題だろ」
そう言いテリアはホセの言う絶好調の源を気にする様子はなかった。そもそも自分はアンドロイドなのでそういった冴え渡る感覚が深くわからないが故にホセの言葉を深く受け止めていなかった。
「まぁ何にせよ、おかげで今年は優勝できそうだ」
「そりゃよかった…」
そこでホセはペットボトルを一気飲みすると、そのままゴミ箱に放り捨てる。
「分別しろよ…」
「全部同じプラスチックじゃ無いのか?」
返したホセにテリアは彼の体調がやや心配になった。
「大丈夫か?」
「あぁ、予定通りなら万全に走れる」
彼はそう答えると、ちょうどピットを878Bが通過していた。
「56号車が通過したか…」
「気をつけなきゃならんな。他陣営がそろそろ気付き始める」
テリアはそう言うと席を外してチームリーダーとして陣頭指揮に向かう。
今年のマツハはこれで失敗すれば、レース事業から撤退する腹積りで今大会への参加を決定していた。
故に現場ではこれでもかと優勝をするための技術を惜しみなく導入していた。
「…」
そんな中休憩所ではホセは一人、想いにふけていた。
彼の脳裏には薄ぼんやりとした声と、その時にぼんやりと覚えている白い肌の女性に話しかけられた記憶。
彼は飲んだくれた自分を通報した女性に一声惚れをしていた。
これが男の性とも呼ぶべきか、彼の中で幻影の女神が誕生しており。その影響は後に残した本や言動にも残されていた。
また会えるだろうかなどと淡い期待をしながら彼はレースを一時的に他所に追いやっていた。
「エブシッ」
その時、ふとスフェーンはくしゃみをする。
するとルシエルが変にくしゃみをしたスフェーンに話しかけた。
『どうしましたか?』
「いやぁ、誰か噂でもしたかね?」
そんな事を返しながら彼女は鈴藤の高速に乗る。
市内の移動に特化した高速道路をバイクで走るのはなかなかに爽快だが、彼女は視界の角でレースの実況を見ていた。
『よく事故りませんね』
「慣れよ慣れ」
『そのまま事故れば良いのに…』
「あらなんて酷い事言うの」
毒舌なルシエルにスフェーンは返すと、そのまま三十分ほど高速を乗った後に下道に降りると、そこで自分の列車を置いた貨物ターミナルに到着する。
『レースはまだまだ長いですね…』
「あと十八時間くらいはありますからなぁ」
ゲートを潜り、バイクはそのまま留置線を抜けると自分の列車を止めている場所まで移動する。
「さて、探しますか?」
そしてそのままレースの映像を見ながら別のサイトを開く。
「うほ〜、予想通り」
そこにはセール中の貨車の情報があった。それは鈴藤にあるカーディーラーのサイトであり、各種コンテナ貨車が破格の値段で取引されていた。
『大きいイベントの開催直後は余剰となったコンテナ車が格安で手に入れられるんですね』
「しかもほぼ新品同然よこれ」
そう言い彼女はサイトで写真付きで売られている査定基準の使用年数を見て軽く歓喜する。
レースカーを運送する為に企業が大量の貨物をコンテナ毎都市に運び込み、試合後には予備パーツの使用などで荷物が減ることとなるので、コンテナと共に貨車も売られる場合があった。
「購入しに行きましょ〜」
運び屋としての戦いに向かうために彼女はそのままホームをまっすぐ進んでこの街の車両工場に向かう。
カーディーラーでは無数の貨車を吟味している運び屋がすでに集まっており、セールをしているコンテナ貨車を見ていた。
『でも新たに貨車を購入するとは…』
「まぁできれば十三両くらいになるまで買おうかなって。あの列車下手に増解結出来ないし…」
そう言い彼女はエレベーターで上げられているコンテナ貨車の山を見上げながら呟く。
基本的にこういった貨車売買は現物取引が基本。理由は通販で買って新品のくせに旧車を寄越す詐欺が横行するからだ。
…まぁ大前提としてこんなトラックで運べないような荷物を通販で買えるわけないだろうと言うのがあるが…。
「セール品も結構出回ってるなぁ…」
そう言ってセール品のシールが貼られているコンテナ貨車を見る。
「見ても良いですか?」
「どうぞ」
販売員に確認をとって彼女は台車にライトを当てて状態を見る。
大体こう言うのは古い貨車を新しいものを押し出すために割引している。
ただ世の中のは安物買いの銭失いという言葉があるように、状態によってはすぐにスクラップ場行きとなるのでそこら辺は確認をする必要があった。
「…」
ライトを点けて台車の軸を確認すると、他に数両の車両を見る。
『この車両の台車はかなり傷んでいますね。金属疲労が激しいです』
「じゃあ無しね…」
自分の知識とルシエルの報告を合わせて車両を評価しながら次々の車両を見る。
「おっ、これ良さげじゃない?」
そう言い台車にライトを当てると、そこでは軸も金属も良さげな車両があった。割引率は低いが、長く使う事を考えるとまぁ妥当な値段と言えるだろう。
『中々良い状態の車両ですね…新品ではありませんが、今の中では一番の候補ですね』
ルシエルもそう評価を下すと、実況映像のレースも状況は変わっていた。
「あっ、順位変わった」
そこではマツハがメルセベスを一台抜いて三位に浮上した景色があった。
『あっ、本当ですね』
「あだっ」
ルシエルもそれに反応すると、スフェーンは車両を出た時に軽く頭をぶつけてしまった。
「ヘルメットがなかったら悶絶していた…」
そう溢すと、彼女は候補に入れてキープしてもらうと他の車両をしばらく眺めた後にこの車両を購入するように手続きを取る。
そして列車の移動やら貨車との連結で時間はどんどん過ぎ去っていき…
「オーラーイ」
旗を振って分割された列車の間に挟まれたコンテナ貨車を連結する作業を行い、
ガシャン
稍重い金属音を奏でて列車が連結されると、そこでスフェーンは気づいた。
「あれっ?!もうレース終盤!?」
そこではいつの間にか一位に順位が変わっていたマツハ・878Bの姿やそれを前に稍興奮する実況を見て驚いていた。
残り時間は十分、最終周回に入ったレースカーたちを見ようと人だかりができており、スフェーンは取り残された気分になった。
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