#138
タタンタタン
二本の鋼鉄の線の上を貨車に二台の対空戦車2K4 ツングースカⅡとS-1100地対空ミサイルシステムを載せた軍用列車が新しく敷設された線路の上にブレーキ音を奏でて停車する。
キーッ
そして停車した列車に待機していた人員が乗り込むとホームに無数の車両が列を成す。
貨物ターミナルを中心に周辺では無数のクレーンや工事用車両が行き交って道路整備や高層ビル建設が急ピッチで進められており、区画整備も行われていた。
多くの工事関係者や職員達が行き交って立ち退きの為の令状を携えて雑に建築されたビルからの退去を申し出る。
かつて羽布張りの露天市であった銃火器市場は真新しいショッピングモール風の公設市場へ代わり、中古の車両を扱っていた業者は新たに整備された区画に移動して店を構える。
ぬかるんでいた道路は整えられ、ある場所では上からアスファルトが流し込まれて固められ、ある場所では石材が敷き詰められる。
線路は増設され、貨物ターミナルには無数の建設機械や資材が搬入されていた。
「市長になったは良いが…」
そんな中、新たに建設された市庁舎の市長室で軽くため息を漏らすブルーナイト。
傭兵ギルド会長を行い、それと同時にマーセナル・タウンから黒鉄市へと改名するその都市の市長に就任した彼はこの半年、激務に追われていた。
「市政発足したらすぐに辞めてやる…」
今は初代市長という肩書きを持ち、区画整備や市民権発行で大忙しの現状、傭兵ギルドの本部を置いたこの都市の開発も合わさってグロッキーも良い具合に酷い有様であった。
秘書も新しく雇い直し、彼は部屋を出てエレベーターを降りる。
『傭兵の傭兵による傭兵のための街』
これをコンセプトに開発が行われている黒鉄市。建設ラッシュは飛ぶように行われており、街の郊外には武器の試し撃ちをするための公営屋外施設も整備しており。今までの市街地、俗に旧市街地と呼ばれる場所からの立ち退きもほぼ順調に行われている。
新たに設置した公設市場には旧市街地の雑多な露店から多くの人々が移動しており、中古車屋は与えられた区画で新たに店を構えていた。
この開発事業は銀行の融資や傭兵ギルド創設に贈られた企業からの寄付金を用いて行われており、都市の川沿いに建設された巨大ビルディングの傭兵ギルド本部は今の所、都市の中で最も高い摩天楼となっていた。
「変わったな…」
この際、自分が変えたというのが正しいのだが…。
傭兵ギルドの会長と黒鉄市の市長を兼任している自分だが、おそらく二度と行われないだろうと断言できる。
都市を名乗るため軍警との取引を行い、治安税納付の為の治安税徴収のための設備整備や駐屯地の用地提供などを行う必要があった。
「今日は自警団の車両が到着するはずだったな…」
軍用列車に乗せられた防空車両たちは都市外殻に配備され、軍警が到着するまで都市防衛の中核を担う。
軍警配備後は市議会の意思で動かすことのできる都市防衛部隊として存続する事が決定している。
「あと一ヶ月で市政もギルドも動き出すか…」
市長専用車に乗り込んでブルーナイトは着々と準備が進む新都市を見ていた。
科学技術発展のために必要なものとして広大な土地と潤沢な資金がある。
近頃の研究というものは大抵が大勢の人や広大な場所、潤沢な資金が必要となる。
『スフェーン、もう直ぐ到着しますよ』
「りょーかい」
運転台に登ってスフェーンは窓の外の景色を眺める。
「うほーっ」
視界の先には飛行船が周回飛行し、数本の突き抜けた高層ビルが建築された巨大な都市が見えた。
今回のお届け先は学園都市カルティエ・ラタン。世界有数の頭脳が集まる最先端の研究と実験が行われる未来都市である。
「すげぇ緑だこって」
線路沿いに植林された防砂林を見てそう溢すと、列車は本線から貨物ターミナルに到着する貨物線へと分岐点を通過する。
「しかし変な注文だ…」
スフェーンはそう言い依頼のコンテナと共に列車の最後尾に連結されたそれを見る。
『今回の指名依頼は356mm列車砲とその部品ですね』
「何を実験するんだろうね」
そう言いながら最後尾に巨大な列車砲を連結した編成表を見る。
牽引する356mm列車砲は一般的な列車砲型の電磁加速砲であり、高雄級の主砲と同口径の砲を備えた車両である。
『学者様のやる方はよく分かりませんね』
「新しい砲弾の試射でもするんじゃないのか?」
そんな事を言いながら操車場に入って列車の速度を落とし始めた時、
ドゴーンッ!!
閃光が見え、次に音と衝撃波が列車を襲った。
「は…?」
突然の爆発に困惑していると、その爆発の衝撃なのか線路上に残骸が降り注いだ。
「っ!?!?」
その瓦礫に慌てて緊急ブレーキをかけて停車を試みる。
急ブレーキをかけているので慣性力で前に突き飛ばされる様な力を受けていたのだが、
ドゴンッ!!
速度を殺しきれずに列車は正面から瓦礫にぶつかった。
「いっ、痛たたたたっ…」
運転台に顔をぶつけ、デコが赤くなったスフェーンは体を起こすと騒ぎを聞きつけていた周囲から人が集まってきた。
『大丈夫か!?』
一人の運送業者の運転士から声をかけられると、窓を開けて彼女は答えた。
「だっ、大丈夫…多分」
そう言ってドアを開けて列車を降りた彼女は直後に悲鳴をあげる。
「あぁーーーっ!!」
線路に着弾した瓦礫はスフェーンの列車の顔面に衝突して凹んでおり、窓ガラスもバッチリ割れていた。
「私の列車があぁ…!!」
頭を抱えて地面に項垂れると、集まった他の人たちも列車を見てあーあーとなっていた。
「またかよ」
「今日はどこで爆発した!?」
「イレーヌ・サイエンスの実験棟だったはずだ」
「あーあー、こりゃひでぇ」
軽く凹んだ列車を見てそんな事を言っていると、運転士がスフェーンに話しかける。
「こりゃどう見ても向こうが悪い。よかったなぁ嬢ちゃん」
「どこがよ!!」
思わず突っ込むが、運転士達はいう。
「修理代、向こうが全額出してくれらぁ」
「…」
スフェーンは言われ、分かっていたがなんとも言えなかった。
この事故の原因は突如爆発した学園都市のビルであり、今回の場合は100%向こうの過失なので、自分が修理費を出す必要はなかった。
「おまけに今回はイレーヌだぁ。新品同然に仕上げてくれる」
「あそこは金払いを渋らんしな」
「運が良かったでぇ」
訛った言い方で作業員達がスフェーンを見る。
「そもそも常日頃から爆発する方がおかしいでしょ」
そう言い、これだけの爆発事故だというのに周囲の状況が慣れている様子に思わず突っ込みをしてしまった。
「今回はご迷惑をおかけして、誠に申し訳ありませんでした」
アンドロイドの謝罪から始まった話にスフェーンは言う。
「まあ修理代全額出してくれるなら良いですよ」
今回破損した車両前面と一部運転台。それらの修理を行う為に彼女の列車は車両工場に送られる。軽く脱線もしていたので台車点検も必要だ。
線路を破壊した建物の残骸は操車場のあちこちに隕石の如く降り注いでおり、その撤去作業だけで一日を費やしていた。
「あと依頼料も」
「勿論でございます」
色をつけて払うと、書類と共にアンドロイドは言った。
そう、今回の依頼主はイレーヌ・サイエンスのエーテル研究部門。
エーテル機関の改良やエーテルの研究を行う場所であり、あのアイリーン傘下の研究所兼学園である。
ここにある学園の殆どは、企業が研究機関や優秀な人材を集約・育成する為に莫大な資金を投じて作られた学園都市である。
都市の至る所には実験場があり、走る車も鉄道も施設の何もかもが企業の金で賄われている。
ここではあらゆる分野において最先端の研究が行われており、軍警の研究施設である科学先進技術捜査研究所もここにある。
そして今回、実験の被害を被ったスフェーンは全額負担で列車の修理をしてもらう事で合意した。
ここでは企業連合も緑化連合も関係ないのでスフェーンも割り切ってその話に応じていた。
まぁ向こうも下手に騒ぎ立ててこないので司法局に赴く必要が無いので色々とありがたく思うに違いない。
基本的に企業の法務部がガチって工作を仕掛けるのは対企業との司法局での争いであり、それ以外で法務部が鬼の如く仕事をすることはまずない。
過失が明らか自分が悪い場合は賠償金に多少の色をつけて払えば大抵は黙り込むのでそれで終わらせる事が多い。
そして今回は司法局に出る必要も無いので対応したアンドロイドは安堵していた。
こう言うわきまえられる人間はどこに行っても有り難られる。将来有望な人材になりそうだと勝手に妄想を膨らませながらアンドロイドは手続きを始める。
「では、こちらにサインを」
「んっ」
タブレットに軽くサインをすると、アンドロイドは軽く頭を下げてスフェーンと共に事務所を出る。
「全く…またやりやがったよ」
学園の会計課は爆発事故の損害を集計して軽く頭を抱えていた。
「工学部の連中に言っとけ!今度吹き飛ばしたら部費で補填してもらうぞ!?」
「ふざけるな!そもそも実験棟の管理は学校側だろうが!!」
そんな醜い論争を横目にスフェーンはそのまま事務所を出ると、そこでサイドカーを取り付けたバイクに跨った。
そう、時間はかかったが昨日完成したのだ。これで荷物を多めに積む事ができる。
「さーて、修理期間は一ヶ月。修理費は全額負担してくれるってさ」
『この際、運転台周りの改装をしてみますか?』
「いやぁ、アレはそのままでいいよ」
そう言い修理工場に列車の設計図を送って再生して貰っている彼女はエンジンをかけて道路を走る。
「下手に改造して時間がかかるなら、設計図通りに直して貰ってとっとと仕事復帰したいね」
『それはそうですね…』
ただでさえローン返済に明け暮れる日々、今回の依頼だって収入の半分がローンに消える。
ちまちまと返済を繰り返しているが、千里の道も一歩からという具合で返済には時間がかかりそうだ。
「ん?」
そして最新鋭の自動運転タクシーなどの間に挟まって道路を走っていた時、
『どうかしましたか?』
「いや、見間違いかな…?」
スフェーンは慌てて後ろを見て確認すると、そこでは数名の治安官がある人物を囲う様にホテルに案内しており、その人物を見たスフェーンは思わず二度見してしまった。
『なっ…!?』
その男を見たルシエルも思わず驚いてしまう。
「なっ、なんでアイツがこんなとこいるねん!?」
彼女の視線の先には見知った
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