TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#139

「どういう事だってばよ…」

『私に聞かれても…』

 

スフェーンは困惑気味に路肩にサイドカーを止めて困惑していた。

学園都市で足止めをくらい、一ヶ月は過ごさなければならない状況。

そんな場所でなぜかネクィラムの姿を確認する。可笑しい、奴は海向こうの大陸に居るはずだぞ。

 

「なんでこっちに居るんだよ!!」

 

途端にあの恐ろしい顔が思い出され、思わず震える。

 

「何されるかたまったもんじゃないぞ…」

『スフェーン』

「ん?」

 

顔を上げると、そこでは遠目でこちらを見ているネクィラムの姿が。

 

「博士、何か?」

「…いや、何でもない」

 

白い杖を片手に平然と歩く彼は感じ取った強い、見覚えあるエーテル波を感じながら彼は案内される。

 

「(なんと言う幸運であろうか…)」

 

いきなり家にかつての忘れていた部下から呼び出しを受け、海を渡る事となった彼は捜査協力の名の下で軍警の研究施設へと訪れていた。

 

「ふむ…」

「どうかされましたか?」

 

ホテルに入って早々、ネクィラムは立ち止まるとそばに居た治安官が声をかけた。

 

「空気が綺麗すぎるな…」

「はぁ?」

 

彼はすると片手に白い杖を地面に強く当てた。

 

「すまんが、部屋まで案内してくれるかね?」

「はっ」

 

言われた治安官は事前に聞いていた情報を鵜呑みにしていなかったので、彼の特異性にそれが本当なのだと改めて実感させられる。

今のネクィラムの視界は見えず、エーテルの光をわずかにしか感じ取れなかった。

 

盲目である彼はエーテルの光を感じ取って視界としているという異常者とも取れる発言をしており。故に彼はエーテルに恋をしていると言う話だ。

しかし本当に目が見えていないのかと思わせるほどホテルの外では平然と歩き、自分達と話していた。

 

「(本当に目は見えていないのか…)」

 

思わず聴きたくなってしまうが、かなりの変人であると言うのは見ての通り。普通、盲目であればサイボーグ化手術を施して視界を手に入れるはずだ。

それなのに目の前の御仁はそれをする事なくここまで生きていた。

 

「こちらが部屋となります」

「あぁ、すまないね」

 

部屋に入り、盲目介護者と同じように介抱を行う対応するアンドロイドはネクィラムに言う。

 

「これからネクィラム博士は事前に申し上げた捜査協力の為、科学先進技術捜査研究所にお越しいただきます」

「うむ、了解している」

 

ネクィラムはそう言い、事前に口頭で伝えられた話に頷いて返す。

 

「つきっきりで介護をしてくれるそうだな?」

「はい、そのように伺っております」

 

アンドロイドは頷くと、ネクィラムは言った。

 

「では早速ですまないが、私を外に連れ出してくれないか?」

「はっ!」

 

 

 

 

 

その時、スフェーンの視界に通知が入った。

 

「げっ」

 

都市のスーパーで買い物をしていた彼女はその電話相手に若干顔を顰めてしまう。

 

『ネクィラムさんからですか…』

「で、出たくねぇ…」

 

今もベルトに引っ掛けて腰から降ろしている計測器は彼から受け取った品物で、事実使えるのがなんとも悩ましい一品だ。

 

『とっとと電話に出んか』

「ヒェッ?!」

 

すると突然、その計測器からネクィラムの声が聞こえて思わず変な声が飛び出る。

 

「ちょ、な、何で?!」

『無線だ。言ってなかったか?』

「知らねぇよ。初めて聞いたし」

 

慌ててスーパーを出てスフェーンは駐車場の縁石に座り込む。

 

『ふむ、言っていなかったか。その計測器は近距離であればトランシーバーとして機能するのだよ』

「いっ、いらん機能でしょ。それ…」

 

スフェーンはやや怯えながら返すと、そこで言う。

 

「そもそも何でお前がここに居るんだよ」

『あぁ、軍警に捜査協力を要請されてな』

「マジか…」

 

予想外の返答に軽くスフェーンは絶句していた。

 

『部屋にあった研究資料も全て運送する…まあ事実上の雇用に近い』

「あんた軍警にスカウトされたのかよ」

 

スフェーンの問いに彼は頷いた。

 

『安心せい。君の事は言うつもりはない』

「アタリマエダ!!」

 

少々強めに返すと、ネクィラムは言う。

 

『しかし、君がここにいた事には驚いたよ』

「私は迷惑だよ」

 

そう言いホテルの庭園の一角のベンチで座る彼は周囲に監視カメラら盗聴機器が無いのを把握してスフェーンと話す。

 

「まぁ、これも何かの縁だ。久しぶりの再会を…」

『勘弁。会わなくて結構』

「釣れんなぁ…」

 

ネクィラムは残念そうにしているが、スフェーンにとっては一大事であった。

 

「軍警にスカウトされた以上、気軽に君に会うことすらできんから君を助手として雇おうかと思っていたのだが…」

『あぁ結構結構。私は旅したいんで』

「ふむ…」

 

ネクィラムは無線越しでもひしひしと伝わってくるその嫌悪感に相変わらずだと思いながらエーテルで埋め尽くされた景色を眺める。

 

「まぁだが、実際問題一度会いに来て欲しい。直接渡したいものがある」

『嫌だよ』

「そう言わずに。君にとっても有用な代物となるだろう」

『…』

 

ネクィラムのその言葉にスフェーンは悩んでいる様子で聞いた。

 

『治安官に囲まれているのに会えるのか?』

「無論だとも。会うのならば、今日の深夜。私が入ったホテルのカフェで落ち合おう」

『…分かった』

 

渋々と言った様子ではあったが、彼の渡すものに危険なものは実際渡した事はなかった。

そして無線が切れると、ネクィラムは空を見上げる。

 

「エーテルが騒いでおる…か」

 

少しだけ彼は警戒した表情を見せる。

 

実家のカール・ポートにかつての研究所の助手であったアンドロイドが来た時は驚いたものだが、捜査協力と言う事実上のスカウトを受けた彼は部屋にあった研究資料を全て運ぶ選択をした。

なにせ個別の研究施設を貸し与えると言う破格の待遇だ。何でもエーテルに関連した特殊な死体の解明をして欲しいと言う。

 

ちなみになぜ自分の居場所を発見できたのか聞くと、ある企業に製造権を売ったあの空間エーテル濃度検測装置だと言った。そこまでして自分を探したのかと言う軽い驚きがあった。

 

「(本物を見た訳ではないが…)」

 

しかし軍警がわざわざ自分を探すほどの疑問。とりあえず見てみるだけはしてみるかと彼は思いながらベンチを立ち上がる。

 

戦術E兵器(自分の負の遺産)を渡した手前、私も責任を取らねばな…」

 

彼はそう呟くとそのまま庭園前で待っていたアンドロイドに声をかけた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その日の夜、ホテル一階の併設されたカフェにネクィラムは注文したコーヒーに大量の砂糖を投入してかき混ぜて傾ける。

テラス席故に彼の視界ははっきりと見えており、手元のコーヒーカップには僅かに降り注ぐエーテルが付着しているだけであった。

 

「わざわざお呼び出しとはね」

「…来てくれたか」

 

そしてそこで眩く、それでいてほのかに温かみのある特徴的なエーテル光で形作られた人型が現れて話しかけてきた。

 

「君も変わっているな。スフェーン君」

「そりゃどうも。生憎、人としての身姿は色々と持っているんでね」

「ふむ、まぁ理論上は可能ではあるだろうが…」

 

そこで彼は身長が昔よりも成長した様子の彼女に話しかけると、反対にかけるように言った。

 

「できれば手短に済ませてくれ」

「無論だ」

 

スフェーンは席に座ると、ネクィラムは早速テーブルに一枚のカードを置いた。

 

「取り敢えず、君用に作った代物だ」

「何だこれ?」

 

スフェーンはカードを手に取ると、それを見て一瞬吹き出しそうになった。

 

「何で先技研の職員カードを…?」

 

事実上の科学先進技術捜査研究所の学生証であるそのカードを発行した事実にスフェーンは首を傾げていると、ネクィラムは言う。

 

「その理由は、察しの良い君であれば分かるだろう?」

「…」

 

彼の問いかけにスフェーンは黙った後に軽くため息を吐いた。

 

「周囲のエーテルの事?」

「そうだ、騒いでいる声がよく聞こえているだろう」

 

そう言い彼は見えているエーテルの空気を見る。

 

「おそらくこの都市で誰かがエーテルを酷使している。その余波が感じ取れる」

「んで、その正体を調べろと?」

「そうだな…本当は違うのだが…」

 

ネクィラムはどうしたものかと少し考える。

 

「本当の目的は?」

「あぁ、前にメイコーで見つかったと言う植物と人が混ざったと言う死体の解析に協力を…」

 

そこでスフェーンはネクィラムに言った。

 

「あぁっ、それやったの私。メイコーなら」

「…なるほど、君が元凶か」

 

その一言で全てを察したネクィラムはスフェーンに少し苦笑する。

 

「であるなら、私は引っ越しをして正解だったようだな」

「まさかあんたの手で解剖されるとはね」

 

スフェーンも御愁傷様と言って軽く苦笑すると、ネクィラムは目を輝かせた。

 

「本望だ。それなら、君が私に授けた問題と捉えることができる」

「…相変わらずね」

 

そんな彼にスフェーンは笑うと、彼女は聞く。

 

「通信はメールのほうが良いかしら?」

「そうだな…この際仕方あるまい」

 

目が見えない彼は今まで音とエーテルの景色で知覚を得ていたが、メールであれば自動読み上げ機能を使って聞けば良いかと考えていると、スフェーンはそんな彼を見ながら呟いた。

 

「不便なら目を作って貰えばいいのに」

「それは困る」

「どうして?」

 

聞くと彼は答えた。

 

「目を作ったら、この美しいエーテルで埋め尽くされた景色が視界によって大きく揺らいでしまうからだ」

「…」

「それに、この状態でも私は助けをほぼ借りずに生きられている」

 

ネクィラムはそう言うと平然とスフェーンの眼を見つめてくる。

そんな彼にスフェーンは少し笑みを見せる。

 

「じゃあ、私が余計な手を加えないほうが良さそうね」

「何をするつもりだった?」

 

すると彼女は答えた。

 

「単純に貴方の目を少し弄るだけの話。目が見えるようにするためのね」

「…君は医学にも精通しているのか?」

「別の人がね」

 

スフェーンの返答に首を傾げると、彼女は言った。

 

「?」

「二重人格の別の子」

「なるほど、君の中にはゴーストが棲んでいるのか」

 

理解してくれたようで何よりと彼女は返すと、ネクィラムは言った。

 

「あら、知らなかった?」

「あぁ、初めて聞いた」

 

ネクィラムは言うと、スフェーンは軽く鼻で笑った後にカフェを後にして消えていった。




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