TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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#140

一ヶ月の間、学園都市で過ごすことが確定しているスフェーンは、そこでサイドカーを駆ってカルティエ・ラタンの最新技術で輝く未来都市を走る。

 

「うほ〜、さすが最新鋭の学園都市」

 

そう言い彼女は横を走るノンステップのゴムタイヤトラムを眺める。白と紫の二色で塗装された真新しいトラムはマイクロ波給電を受けながら街中を走行していく。

 

信号で停車していた彼女はそこで歩道橋に架かる看板を見ながらサイドカーを動かす。

 

『運転には慣れましたか?』

「まだ完成して三日目ぞ?」

 

そう言いながらもカーブで片輪が浮き上がっておらず、順調に交差点を通過した。

 

『しかしエーテルの波は北北西から感じ取ることが出来ます』

「北北西…ね」

 

視界に地図を確認しながらスフェーンはスロットルを捻ると速度を上げてサイドカーを走らせた。

 

「確か北北西には…」

『はい、イレーヌ・サイエンス・スクールの学習棟と実験棟があります』

 

ナビで示された目的地にスフェーンは苦笑してしまうと、そこで少し変な光景を目にした。

 

「ん?」

 

そこでは道行く車相手に腕を突き出してヒッチハイクをする白衣を着た男が歩道で立っていた。

 

「あいつ、何してんだ?」

『さぁ…』

 

しかし通過している車は全て自動運転の自動車やトラックであり、止まるはずが無かった。

 

「…乗せる?」

『行き先によれば…』

 

スフェーンはそんなヒッチハイクをする男の前を少し通り過ぎてブレーキをかけた。

すると男が近づくとスフェーンは聞いた。

 

「行き先は?」

 

スフェーンは聞くと、その若い青年は答えた。

 

「イレーネ・サイエンス・スクールだ」

「…(おっと?)」

「場所は分かるか?」

 

目的地を聞いてスフェーンは軽く頷いた。

 

「えぇ、場所は分かるわ」

「すまん、乗せてくれ」

「オケ」

 

そう言いスフェーンはその男を完成したばかりのサイドカーに乗せると、予備のヘルメットを渡した。

 

「どうも…」

 

その男は少し他所他所しくヘルメットを被るとスフェーンはそのまま走り出した。

 

「学校まで送ってってあげる」

「すまない」

 

その見るからに研究員を醸し出す青年は感謝すると、そのままサイドカーのバーを握っていた。

 

 

 

イレーヌ・サイエンス・スクールにはスラム街から引っ張ってきた孤児や貧民層の子供も多く含まれている。

基本的にスラム街に住まう市民権を持たない子供は企業の良き投資先である。

 

あらゆる分野において能力試験が行われ、子供の頃から企業による教育を施される。

ギフテッドと呼ばれる、ある分野において目覚ましい才能を見出された孤児や貧民層の子供は、企業にとって見れば掘り出した金よりも価値ある人材となる。

 

それ故に企業による子供へのインプラントチップ手術は習慣としてどこでも根付いていた。

極めて保守的思想になりやすいアンドロイドと、突発的な発想で発展させることが可能な人と、ある意味で棲み分けができていた。

 

「ほぉ〜…」

 

そしてそんな才能を見出された子供達が受験を経て入学するのが企業や軍警が設立した学園である。

 

「あれがイレーヌ・サイエンス・スクールかぁ…」

 

見えてきた工学的な建築物の並ぶ施設を見てスフェーンは呟くと、同乗していた青年は細かく指示を出す。

 

「門の前で下ろしてくれ」

「了解」

「今日はすまなかったな」

「良いさ、こっちもまだ時間はある」

 

そう言い、学園の正門前でサイドカーを停車させて青年が降りると、

 

「ジョンッ!!」

 

学園の正門から飛び出すように出てきた女性にその青年は開口一番怒鳴られた。

 

「やぁ、ユウナ」

「何処行ってたんですか!?」

「散歩」

 

ジョンと言われた青年はその女性に返すと、その人はヘルメットを被ったスフェーンを見てジョンに言う。

 

「また人様に迷惑かけて…!!」

 

何処ぞのオカンのような怒り方をする彼女はスフェーンに頭を下げた。

 

「ウチの者が大変ご迷惑をおかけしました」

「あぁ、気にしていませんよ。それにこちらの方に用事がありましたので」

 

気にしていない様子でスフェーンは返すと、その青年は溶けた餅のような顔で浮いた表情で空を見ていた。

 

「ほら、貴方も頭下げる」

「ん?あ、あぁ…」

 

ジョンは言われ、スフェーンを見るとポケットから一枚の厚紙…名刺を渡した。

 

「今日はありがとう」

「は、はぁ…」

 

いきなり名刺を半ば無理やり渡され、困惑するスフェーン。

 

「だ・か・ら!頭下げるんです!!」

 

そんな彼に呆れた彼女はジョンの首根っこを軽く掴むとそのままスフェーンに頭を下げた。

そして頭を上げたジョンはそんな女性に聞いた。

 

「ユウナ、そうカッカする必要もないだろう」

「貴方は礼儀というものを学ぶべきです!!」

 

そう言うとその女性もまたスフェーンに名刺を渡すとこう言った。

 

「すみません。本当は御礼をしたいのですが、その前にこの人を研究室に送らなければならないので…」

「あぁ…はい」

 

ネクィラムもそうだが、この人もかなりの偏屈人に違い無い。

周りを振り回すような性格なのだろう、こう言う人は野に放ったら一生帰ってこないタイプだ。

 

「では、今日はこれで…」

 

そう言い、学園に消えていった二人を見送った後、スフェーンは改めて学園を見た後にそのままサイドカーを走らせていった。

 

 

 

「ジョン・ルートヴィヒ・オッペンハイマーと…」

『ユウナ・キュリーですか…』

 

受け取った名刺を見ながらスフェーンは都市郊外の丘でサイドカーを停めてベンチに座る。

眼下には学園都市の特有的な灯りの灯る煌びやかな景色が広がる。

都市のビルの赤く点滅する航空灯は立方体の角を示し、事故を事前に防ぐ。

 

「凄いな、あの若さでエーテル研究部門の研究室持ちか」

『調べましたところ、彼等は開校以来指折りの天才だそうです』

「ふーん…」

 

スフェーンはルシエルの調べた結果に軽く頷きながらエーテルで覆われた空を見上げた。

 

「天才ね…」

『不審なエーテルの感覚は確実にあの学園から発生しています』

「そうね」

 

スフェーンもそれは分かっており、あそこで何か不審な実験を行なっていると言うのは可能性が高かった。

すると、

 

ガサガサッ

 

「?」

 

丘に植えられた低木が揺れてその奥からある人影が見え、スフェーンは反射的に懐にしまっている拳銃を握ると、

 

「ん?おぉ!」

 

現れたのは昼にヒッチハイクをしていたジョンであった。その姿を確認してスフェーンは銃から手を離して手を軽く振った。

 

「久しいな!」

「…昼以来ですね。ジョン…博士って言えば良いのか?」

「ジョンで良いさ」

 

彼は言うとスフェーンの隣にやって来て座った。

 

「何でここにいるんです?」

「自主的な休養だ。君は?」

「ツーリングの休憩」

 

そう言って駐車場に停めてある自分のサイドカーに目をやった。

 

「ツーリングか…普段は何をしているのかな?」

「運び屋」

 

煙草に火をつけてスフェーンは言うと、少々愚痴混じりに呟く。

 

「お宅の実験棟が吹き飛んで列車は事故ったもんで、一ヶ月ほどこっちに滞在予定さ」

「ふむ、それは工学部の新型超音速ミサイルの機関部爆発によるものだろうな」

「お宅に依頼された列車砲を運んだ先でこの仕打ち…全く、涙が出るね」

 

スフェーンはそう言った時、ジョンはやや驚いた表情で彼女を見た。

 

「驚いた…私の注文品を運送したのは君だったのか」

「え?」

 

それにスフェーンもやや驚いた顔でジョンを見てしまうと、彼は軽く笑った。

 

「はははっ、こんな縁があるとはな」

「…全くだ」

 

スフェーンも呆れてしまうと、ジョンはスフェーンに手を伸ばす。

 

「これも何かの縁だ。宜しく」

「どうも、学者様」

 

そう言って軽く握手を交わすスフェーンは目の前の研究者に少し頷いた。

 

「(やっぱり…)」

 

そこで彼女の中にはある仮説が立った。

 

「どうかしたかね?」

「ん?いや、何でもないわ」

 

ジョンに聞きかれた彼女は軽く首を振って返すと、彼女はジョンを見て聞いた。

 

「でも良いの?せっかく開校以来の天才がこんなところでサボって」

 

するとジョンはスフェーンを見て聞いた。

 

「私を知ってるのか?」

「名前で調べた」

 

そう答えると、彼はエーテルで覆われた空を見上げながら答えた。

 

「なら、これも立派な実地観察さ」

「程の良いサボり理由じゃないの?」

 

スフェーンが聞くと、ジョンは真剣な顔で返した。

 

「いや、私にとっては重要な観察なんだ…」

 

彼はそう言うと空を眺めながら聞いた。

 

「スフェーン、君にはこの空がどの様に見える?」

 

そんなジョンの問いにスフェーンは、

 

「何?エーテルそのものの未知に魅了された?」

 

そう返すと、ジョンはそんな彼女の返答に肩を若干振るわせた。

 

「フッ、フフフッ…」

 

そして大笑いする。

 

「ふははははっ!」

 

何が面白いかと思っていると、彼はスフェーンの顔を見ながら聞いて来た。

 

「私に似た様な人を見たことがあるのか?それとも君と私は気が合うのか?」

「多分前者」

 

スフェーンは直感的に返すと、ジョンは

 

「そうかそうか…その人とは仲良くなれそうだ」

 

実に楽しげに彼はそう言っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「これが…」

 

ネクィラムは保管用のホルマリン漬けされたそれを見る。

 

「はい、例の植物化された死体の右腕部です」

 

そこで控えていたアンドロイドが説明を挟む。

メイコーで発見された植物化した死体は、この科学先進技術捜査研究所にて五臓六腑細かく分解されて全てホルマリン漬けで保管されており、それを見たネクィラム自身はそこから感じるエーテル波を存分に感じ取っていた。

 

「感じる、このエーテルの強い波動が…」

「は、はい…」

 

ネクィラムはその保管された植物化した腕部を見ると、そのまま意気揚々とアンドロイドに言う。

 

「解析結果の資料はあるかね?」

「はい…」

 

研究所の資料を持つアンドロイドは返すと、目の前の男は言った。

 

「読み上げてくれないか?」

「分かりました」

 

目が見えない彼は目の前から感じ取れる強力な光を前に強烈な興奮を感じていた。

 

目の前の体の解析をしたい。

エーテルの可能性を見たい。

エーテルとは何なのか。

 

エーテルに取り憑かれた彼の脳内はそれだけを考える。

 

「…」

 

そして読み上げられる資料を聞きながら彼は細かく分解されたその遺体…聞くところによると、人と植物が融合し、尚且つその遺体から植物の種が発生し、栽培を試みていると言う話だ。

 

「(案外、ここにきて正解だったかもしれんな…)」

 

正直、世俗との関係をほぼ絶っていた彼にとっては濡れ手で粟をつかんだ様な気分だった。




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